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4.一日目
第7話
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味わうより、腹を膨らませるだけの食事が終わると、寝る準備だといって、マティアスが持っていた赤土と、焚き火の周りにできた灰と、謎の草の汁とを混ぜて作った泥で、俺の顔にパックを施す。
「ねえ、この泥、マティアスと同じ? ハーブの爽やかな匂いだ。ほんとにコレで虫も獣もこないの?」
「今のところ成功している。全身に塗った方が効果はあるだろうが……」
だからマティアスはそんな姿だったのか。
なんと腰蓑姿は、理に適った最終形態だった。
「虫刺されはイヤだな……。俺も腰蓑になったほうがいいんじゃない?」
「お前は肌を出すな――じゃなくて、いや、服を脱いで風邪をひくほうが厄介だ。ここに慣れるまで、とりあえず出ている肌だけでも塗っておけばマシだろう。日中に川で水浴びをしたときに、草の汁だけでも全身につけるようにしてみてくれ」
「うん、わかった」
俺のことを気遣って色々教えてくれるマティアスの配慮に、ますます信頼度が増していく。
泥を塗り終わると、寝床となる木に上手く登ることもできない俺を、先に登ったマティアスが引っ張り上げてくれて、寝床から落ちないように「今夜は横で支えてやる」と、腕枕の申し出までしてくれる。
「木の上で寝るのは初めてだけど、落ちないように頑張るよ。俺も男だし、そんなに気を遣うと、マティアスが疲れちゃう」
泣いてしまったからか、役立たずの俺に至れり尽くせりである。
あまりに大事にしてくれるので、出された腕をやんわり断ると、髪と髭の奥から悲しい目をされた。
「人がいることが、夢でないと実感したいんだ。今夜だけでいいから、側で寝てくれないか?」
もうね、こんなに優しくしてくれる人の頼みなんて断れないよ。髭面のおっさん上等だよ。近い将来、俺も同じ姿じゃん!
「そっか、マティアスも寂しかったもんね! もちろんだよ! 俺も落ちたくないし、添い寝が俺なんかでいいなら、喜んで!」
――そう思っていた時が、俺にもありました。
まさか熟睡してるマティアスに、朝まで胸を揉まれ続けるなんて、誰が想像するんだよ!
背後から抱き込まれる体勢で二人が並んで横になり、目を閉じ、毛布代わりに掛けたスーツの上着の下で、止まることなく幸せそうに動く男の手に、俺はこれから始まる男だけの遭難生活に、やるせない気持ちで朝を迎えたのだ。
翌日、案の定マティアスは何も覚えていない。
それどころか、寝不足で疲れ果てた俺を見て、朝から一生懸命に世話を焼いてくれるから、お前のせいだよっ、と寝相の文句も言い出せないし。
だから二日目の今夜は、最初から「一人で寝る!」と毅然と自立を宣言した。
木登りのコツも分かって、寝床の真下から心配顔で見上げてくるマティアスに親指を立て、無事に登れた事を報告する……ところまでは上手くいったのだが、寝床で肩の位置を変えようと、コロンと動いた寝返り一回で、ツルっと木から落ちてしまって、まだ真下にいてくれたマティアスに軽々受けとめられて助けられると、結局今夜も一緒に寝る事になっている。
太い腕に身体をガッチリ捉えられ、俺の耳の直ぐ側でスヤスヤと寝息を立てているマティアスの両手が、今夜も身体の柔らかい部分を探してシャツの上から上半身をまさぐってくる。
そして、無事に胸を見つけると、楽しそうにモミモミが始まった。
「ねえっ、ほんとに寝てるんだよね!?」
二年間の人への飢えが、彼をこうさせてしまうのか。
近々俺もこうなってしまうのか……。
地面からそんなに高く感じていなかったけど、寝床から落ちるのは、想像以上に速度があって怖かった。
アレとコレを天秤に掛けた俺は、マティアスの哀しき男の性を受け入れる。
「あっ……、イヤ、ちょっと……、あの、なんか……変な気分になっちゃうから……、あんまり中心をしつこく、しないで……っ、アッ」
自分の口から出る変な声に困り果て、これ以上追い込まれる前にモゾモゾと身体を反転させると、泥の付いた逞しい半裸の胸に、同じ泥を塗った顔を埋めるような体勢に向きを変える。
マティアスの温かい体温と、ハーブの爽やかな香りに癒されるが、しっかりしろ、海斗。これはマッチョの胸だぞ。
余計なことを考えないように目を瞑り、今日こそは睡眠を取りたくて、無心になる。
暫くすると、揉んでいた胸がなくなって所在なげになったマティアスの手が、代わりに見つけた尻を揉んできたのだが、能天気な俺も、さすがに慣れない生活に疲れていた。
もう尻を守るのも逃げるのも億劫で、されるがままに放置して、今夜は俺も眠りにつくのだった。
「ねえ、この泥、マティアスと同じ? ハーブの爽やかな匂いだ。ほんとにコレで虫も獣もこないの?」
「今のところ成功している。全身に塗った方が効果はあるだろうが……」
だからマティアスはそんな姿だったのか。
なんと腰蓑姿は、理に適った最終形態だった。
「虫刺されはイヤだな……。俺も腰蓑になったほうがいいんじゃない?」
「お前は肌を出すな――じゃなくて、いや、服を脱いで風邪をひくほうが厄介だ。ここに慣れるまで、とりあえず出ている肌だけでも塗っておけばマシだろう。日中に川で水浴びをしたときに、草の汁だけでも全身につけるようにしてみてくれ」
「うん、わかった」
俺のことを気遣って色々教えてくれるマティアスの配慮に、ますます信頼度が増していく。
泥を塗り終わると、寝床となる木に上手く登ることもできない俺を、先に登ったマティアスが引っ張り上げてくれて、寝床から落ちないように「今夜は横で支えてやる」と、腕枕の申し出までしてくれる。
「木の上で寝るのは初めてだけど、落ちないように頑張るよ。俺も男だし、そんなに気を遣うと、マティアスが疲れちゃう」
泣いてしまったからか、役立たずの俺に至れり尽くせりである。
あまりに大事にしてくれるので、出された腕をやんわり断ると、髪と髭の奥から悲しい目をされた。
「人がいることが、夢でないと実感したいんだ。今夜だけでいいから、側で寝てくれないか?」
もうね、こんなに優しくしてくれる人の頼みなんて断れないよ。髭面のおっさん上等だよ。近い将来、俺も同じ姿じゃん!
「そっか、マティアスも寂しかったもんね! もちろんだよ! 俺も落ちたくないし、添い寝が俺なんかでいいなら、喜んで!」
――そう思っていた時が、俺にもありました。
まさか熟睡してるマティアスに、朝まで胸を揉まれ続けるなんて、誰が想像するんだよ!
背後から抱き込まれる体勢で二人が並んで横になり、目を閉じ、毛布代わりに掛けたスーツの上着の下で、止まることなく幸せそうに動く男の手に、俺はこれから始まる男だけの遭難生活に、やるせない気持ちで朝を迎えたのだ。
翌日、案の定マティアスは何も覚えていない。
それどころか、寝不足で疲れ果てた俺を見て、朝から一生懸命に世話を焼いてくれるから、お前のせいだよっ、と寝相の文句も言い出せないし。
だから二日目の今夜は、最初から「一人で寝る!」と毅然と自立を宣言した。
木登りのコツも分かって、寝床の真下から心配顔で見上げてくるマティアスに親指を立て、無事に登れた事を報告する……ところまでは上手くいったのだが、寝床で肩の位置を変えようと、コロンと動いた寝返り一回で、ツルっと木から落ちてしまって、まだ真下にいてくれたマティアスに軽々受けとめられて助けられると、結局今夜も一緒に寝る事になっている。
太い腕に身体をガッチリ捉えられ、俺の耳の直ぐ側でスヤスヤと寝息を立てているマティアスの両手が、今夜も身体の柔らかい部分を探してシャツの上から上半身をまさぐってくる。
そして、無事に胸を見つけると、楽しそうにモミモミが始まった。
「ねえっ、ほんとに寝てるんだよね!?」
二年間の人への飢えが、彼をこうさせてしまうのか。
近々俺もこうなってしまうのか……。
地面からそんなに高く感じていなかったけど、寝床から落ちるのは、想像以上に速度があって怖かった。
アレとコレを天秤に掛けた俺は、マティアスの哀しき男の性を受け入れる。
「あっ……、イヤ、ちょっと……、あの、なんか……変な気分になっちゃうから……、あんまり中心をしつこく、しないで……っ、アッ」
自分の口から出る変な声に困り果て、これ以上追い込まれる前にモゾモゾと身体を反転させると、泥の付いた逞しい半裸の胸に、同じ泥を塗った顔を埋めるような体勢に向きを変える。
マティアスの温かい体温と、ハーブの爽やかな香りに癒されるが、しっかりしろ、海斗。これはマッチョの胸だぞ。
余計なことを考えないように目を瞑り、今日こそは睡眠を取りたくて、無心になる。
暫くすると、揉んでいた胸がなくなって所在なげになったマティアスの手が、代わりに見つけた尻を揉んできたのだが、能天気な俺も、さすがに慣れない生活に疲れていた。
もう尻を守るのも逃げるのも億劫で、されるがままに放置して、今夜は俺も眠りにつくのだった。
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