転生したらとんでもないトコロをイケメンにされた

餅月ぺたこ

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5.二十日目

第8話

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 5 二十日目 

  

 マティアスの朝は早い。 

 ここでの暮らしは、基本的に食料確保が最優先で行われる。 

 朝日が昇る気配とともに、寝ている俺を置いてマティアスは狩りに出掛け、運良く鹿などの大きな収穫があった日は、その後の時間をまったりと過ごし、成果がない日は、陽が暮れるまで、彼は何度も森の奥へ入っていく。 

昨日と一昨日は残念ながらお肉の収穫がなく、キノコ・アンド・キノコという淡白なディナーが続いていたのだが、今日は早々に兎を三匹も収穫して帰ってきた。 

俺がマティアスと暮らし始めて、二十日目になっていた。 

この二十日の間に俺は、虫除けの泥を塗らなくても何故か俺には虫が寄ってこないことが分かって、今はハーブの汁だけ、清涼剤の代わりとして塗るだけになっている。 

 さて、気温が上がりきる昼前だったが、今日は兎のお肉を確保したので、俺たちはウキウキで、川で水浴びをすることにした。 

「うー……冷たいぃ……」 

 トランクス一丁になって、足のつま先で水温を確認しては、ぴゃっと右足を引っ込める……を何度も繰り返す俺の姿に、マティアスが呆れて後ろから背中を押す。 

「うわっ……わっ、わっ」 

 両手をジタバタしてバランスを取っても、重力はこの世界にもあるわけで。 

「冷たぁあっ。……酷いっ! 死んだらどーすんの!」 

「昨日も一昨日も大丈夫だったんだ。今日も死なない」 

 今日は死ぬかもしれないだろ! 

 川で尻餅をつかされて本気で怒ってるのに、いたずらが成功したみたいに楽しそうに笑っているマティアスに、俺は手のひらで掬った水をぶっ掛ける。ちなみに昨日も一昨日もぶっ掛けた。 

 俺が懲りずに今日も反撃に出た途端、待ってましたとばかりにマティアスの、右側の髭がクッと上がる。 

 最初は髭のせいで表情が読めなかったけど、だんだん分かってきた。 

 まずい、これは好戦的に笑っているのだ。 

「わっ、わっ、待って待って! マティアスが本気になったら敵わないんだからっ……ぅ、うわあぁぁ! 冷たい! 冷たいって!」 

 両手で水を掬うだけなのに、マティアスがすると、バケツで被るくらいの勢いで水が降ってくるのは何故なのか。 

 あっという間に溺れるほどの水圧で、ずぶ濡れにされてしまった。 

 一方、俺の反撃くらいではマティアスの泥はまだ全然落ちてなくて、マティアスは深くなる川の中程まで泳いでいくと、ザブッと潜って身体を擦っている。 

 うーん、ワイルドだ。 

 俺は泳ぎも得意ではなかったので、川辺の浅い場所から奥には行かない。 

 履いていたパンツが濡れた重みでずり下がってくるので、そのまま脱いで、タオル代わりにパンツで身体を擦る上品な水浴びをする。 

 腕や足をパンツでゴシゴシして、顔も洗って、俺は首を傾げた。 

「ストレスかな……髭が伸びない。……でも、髪と肌はハリとかツヤが前より段違いでいい気がするんだよなぁ」 

 この世界に来てから、水が身体に合ったのか、空気が美味いからなのか。俺はすこぶる体調が良い。 

 簡素な食事と水風呂生活なのに、今日も元気いっぱいだ。 

 石鹸もシャンプーもない風呂で、気が済むまで身体を擦ると、寒くなる前に川から上がる。 

 いくら元気でも、風邪を引いたら大変だからね。 

 河原でパンツを絞って、そのパンツで髪と身体を拭う。 

 あらかじめマティアスが用意してくれていた焚き火のそばへ行くと、物干しのように立てた棒にパンツを引っ掛けてから、まだ川で潜って遊んでいるマティアスを見て、俺は今日も目を擦った。 

「何回見ても、慣れないなぁ。金色のライオンみたいだ」 

 水浴びによって、赤土の泥が落ちたマティアスは、彼が本来持つ、輝くようなブロンドの髪と髭へと色が変化している。 

 あの豪華なブロンドヘアーごと全身に泥を塗り、腰蓑を巻き、赤褐色の大猿姿で暮らしているのだから、色んな意味で彼はすごい。 

 マティアスが戻って来るまで、焚き火の中に追加で枝を入れたり、ハーブの汁を身体に塗ったりして時間を潰していると、不意に視線を感じて顔を上げる。 

 泥が落ち、陽に焼けた逞しい身体を露わにした、川で仁王立ちしているマティアスと目が合った。 

「何? 呼んだ?」 

「…………」 

 黙ってこっちを見ていたマティアスに、首を傾げる俺。 

 ほんの一瞬の間があって、ハッとしたようにマティアスが川から上がってきて、濡れた前髪を掻き上げると、謝罪の言葉を口にした。 

「すまない。その……、やっぱり慣れなくて」 

「……何が?」 

 自分以外の人間が存在することがかな? 

 よく分からなくて、更に首を傾げると、マティアスの視線が、全裸の俺の股間に向けられているような気がした。 

「え? 何? 小さいとでも?」 

 笑顔で不愉快を体現する俺に、マティアスは慌てて首を横に振る。 

「ち、違うっ。確かに毛に隠れて全然見えないけれど違うっ」 

 それ、小さいのは肯定してるんだけど!

「じゃあ、何見てたの」 

「その……髪と同じで黒いなぁ……とか、幼く見えても割と毛深いな……って」 

「大きなお世話すぎるんだけど! 人の股間勝手に見ないで! これくらい普通だし、そもそもマティアスだって、髪も髭もふさふさで毛深いじゃ……」 

 そこまで言って、マティアスに陰毛がない事に初めて気づく。 

「……なんで股だけ毛がないの?」 

「なんでって……、大事な場所を衛生的に保つのは、普通じゃないか……?」 

 えっ、えっ、どういうこと!? 自分の髭は気にならないのに、人の股間の毛は気になるとか意味分んない。まさか、むしり取ってやるとか言わないよね? 

「髭を剃らないくせに、ソコはお手入れするの? なんで? どーやって?」 

「髭は剃るのに、肝心な部分を手付かずにする方が理解できない。どーやるも何も、肉を切っているの見てただろ。石をナイフのように研ぐんだ」 

「肉切ってた石で股間も剃ってるの!?」 

「別の石に決まってるだろ!」 

 フルチンの男二人が、焚き火を囲んで陰毛について声を張り合う。 

 俺がまだ質問しようと開けた口を、マティアスが一旦落ち着けと宥めるように、片手で俺の顔を挟んで頬を潰した。 

「さっき俺が見ていたのは、カイトの童顔とボーボーの股間のギャップが見慣れないというのと、そこは剃った方がいいと、いつ言うべきかを悩んでいたからだ」 

「ボーボーとか言わないでよっ。急に恥ずかしくなるじゃん!」 

「この状態を他に何と言えと? ジャングルか? とにかく、ここでそんな状態にしていると、痒みで腐り落ちるぞ」 

「ヒッ!? く、腐り落ち……!?」 

「痒くてたまらなくなって、そのあとは……分かるな?」 

 言葉を溜めた分、マジで怖いよ! 

 
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