Brave To Hurt

Lapp

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第一章 解決者という仕事

一話 | 依頼

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 ザッ…ッ、ザッ…ッ、

 足音がこの人気のない開けた路地に反響する。両端に目を向ければ崩れ落ちたコンクリートが散らばり、不注意になればデコボコになった道路に足を取られかけるだろう。

 :私の名前はベッスーン・エルドール。雇われの術士、もしくは「傭兵」ともいうのだろうか。どんな厄介事でもあらゆる手段を使って片づける。こういう勤めをこなす人間は「どんな問題でも『解決』してくれる」という意味で、【解決者】と呼ばれる。現金輸送車や、時には政府の武器輸送車だって護衛したり。そんな仕事もあるにはあるが極稀だ。誰も彼もが対象を拉致したりあるいは「処理」する、他の誰にもさせられないような任務を依頼する。まあ結論、血で染められた汚れ仕事ってところだ。

 :そんな仕事につく私は色んな奴を殺してきた。マフィアの幹部を4、5人殺したり、とある政党のトップを毒殺したり。でもいつだったか、組織のメンバーを殺す任務と偽って罠にはめられかけたこともあった。そんなわけで厄介な私は命を狙われる対象でもあるってことだ。

 :犯罪じゃないか、だって?当たり前だ。だがこの国【マガフ王国】では政府ではなく、その都市ごとの地元武装組織が統治してる。同じ国でも隣同士の地域じゃよく喧嘩しているからな。命が一つ無くなったって隠蔽・買収。あるいは誰にも気づかれない。ここでは賢く、狡く、そして悲しまない強いやつが生き残る。お前らにはわからないだろうが、これも立派な生き方なんだよ。

 :そんな私にまた一つ、依頼だ。依頼主は匿名だ。

 ーーーーー

 エルドールは自身の相棒と共に、会合場所と記された場所へ向かっていく。
 場所はとあるバー。前に着くも、見てくれは輝きもなく、開店しているかもわからない。その寂れたドアを開けて入れば、中からは外観からは似つかない眩しい光が溢れ出した。店主らしき人に
 「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ?」
 と言われる。周囲を見渡せばそれなりには男がいるようで、隠れた集い場のようだが、エルドールは事前に渡された小さな招待状を隠しつつスッと見せる。
「なるほど…事情は聞いています…。あちらへ…。」
 ヒソヒソとこちらを伺うと店主はそっと腕をカウンターの奥へ向けた。
「感謝する」
 そう進もうとしたその時、後ろで相棒が止められたようだ。
「おっと…後ろの方は…?」
 外套を深く着込んだ相棒はさも不審者のなりで、止められてもおかしくはない。エルドールはすかさず説明をいれる。
「相棒だ。」
 相棒もコクコクと頭を縦に振る。
「失礼しました。」
 するとすぐにその店主は手を引き、その相棒も招き入れた。

 樽やモップが脇に置いてある通路、そして階段を下り地下に進めばドアが一つ。
 コンコンコンコンと礼節に基づきドアにノックをする。
「どうぞ。」
 ドアを開けると、部屋の中にはスーツ姿で帽子をかぶった人が立ち上がっている。
「ようこそ、お越しくださってありがとうございます。」
「…」
 2つの椅子が少し大きめのテーブルを挟み、向かい合って配置されている。それだけの地下室。何の変哲もない交渉空間のようにも思えるが、エルドールには気に障ることが一つあった。
 (やっぱ怪しまれてるのか?)
 交渉人と思われる人間の後ろには4人もの護衛兵のような人間。じっと前を向きながら、視界の焦点をずらし、その相手の武器、そして外観から装備を推測して、もしも襲撃されたときにどう対処するかを考える。
 そんなことをエルドールが考えていると交渉人が話し出した。
「あなたが『グレイリース』様で、間違いありませんか?」
「ん…ああ、そうだ。」
 グレイリースというのは裏社会で通じる彼女のコードネームである。本名を出すわけにもいかないし、偽名代わりに使っている。彼女の偽名はこれだけではないが。
「後ろの方は?」
 またか。後ろの相棒がチョンチョンと私の肩をつつく。
「私の連れだ。荷物持ちとかだ、気にするな。仕事仲間だからこいつにも話を聞かせてやってくれ…。」
 相棒はブンブンと頭を縦に振る。
 交渉人は深く礼をした。
「失礼しました。では早速ですが話を始めさせていただこうと思います。どうぞかけてください。」
 一通り確認をとるとその交渉人はアタッシュケースから複数枚の書類を取り出し、トントンと揃えた。
「話を簡潔にいたしましょう。これが対象のリストと契約書です。単刀直入に申し上げますと、ここに書かれている人物を全員『始末』してもらいたいのです。〈ユールズ〉という国際的反社会勢力の幹部と重要構成員の一部です。」
「ほう。」
 ヒットリスト2枚と契約書。差し出された書類を受け取る。ヒットリストをさらっと確認した後、契約書を眺める。
「全員始末すればさらに上乗せして報酬を与える契約となっております。もし始末できなければ…中途までの報酬を差し上げます。」
 ―――それは契約書の中程に位置して書かれている。
「なるほどな。これ、当然すべてのターゲットが同じ場所にいるとは限らないよな?」
「はい、その通りでございます。最悪の場合、国をいくつも跨ぐことになりますね。」
 ―――国だと?それは契約書には書かれていない。
「おい、その旅費ってどうなるんだ。」
 ほぼ間髪入れずに交渉人が説明する。
「それに関してはこちらでご用意いたします。宿の代金もこちらで立て替えますし、任務に関わる経費であれば例外以外の事であれば申請次第ですべてお支払いいたします。」
 ―――恐らく『任務に関わる経費は全額を依頼主が負担する。(例外有)』のことを指すようだ。ご丁寧にその例外も、当然だが不正利用は許されないとも、しっかり書かれている。
「ずいぶんお金があるんだな…。」
「ええ、それについては全く気に掛ける必要はございませんのでご安心を。」
 あまりにも割がよすぎる。依頼主に怪しさを感じるエルドール。
「もう少し契約書を見てもいいか?」
「どうぞ。」
 隅々と読み込む。しかし周囲に警戒を怠らない。後ろの相棒も常に音に気を掛けている。万が一は自身を助けてくれると信用できる相棒だ。
 ―――『前金20万』、これは参考例を出すなら、先進国での社員、それも大手企業の役員レベルの手取り2ヶ月分はある。底辺の人間からすれば十分な大金だ。
 ―――『対象は殺害もしくは拘束して証明してもよい。一人確認毎に100万』、さっきの例を出せばこれの多さが分かるはずだ。
 ―――『基本期限は一年』、単純計算でも一か月ごとに一人か二人殺さなければいけないが、報酬には相応しい難易度かもしれない。
 どこまでも読み込む。小さくこっちに不利なことを書かれていることもしばしばだ。粗を探すように、重箱の隅をつつきたい。しかし矛盾やこちらに損な事柄が書かれていないように見える。それに依頼主は全く動じず構えて堂々としている。嘘をついているようには全く見えない―――

 ―――少し考えた末にエルドールは結論を出した。結論など最初に決まっていたが。
「分かった。この任務、受けよう。」
「ありがとうございます。」
 そういうと交渉人は深く一礼した。そしてその付き添いの護衛兵も…礼をしていた。
(すごく教育されているな…)
「何か他に質問はございませんか?」
「これ以外に情報はないのか?」
「今のところ提供できる情報はございません。」
「随分と少ないように見えるが。」
「はっきりと申し上げますと、今はまだ信頼には値しません故、ターゲットを殺し、その力量と信用を証明してくださればより多くの情報を提供いたします。」
 だがこれだけでは任務は進まない。なんとしても一人殺せる情報は欲しい。
「ならば手っ取り早く始めよう。現状で場所的に最も殺しやすいターゲットはわかるか?」
「…それについてはお答えしましょう。情報によれば『ウォルホール・セルマティカ』、この付近の地域を取り締まっている人間ですが、この時期は各事務所を訪問して回っているようです。正確な位置は分かり兼ねますが、少なくともこの付近に駐在しているのは確かです。」
「ふむ…わかった。貴重な情報、感謝する。」
「質問は以上ですか?」
「ああ。あとはどうにでもなるだろう。」

 次に交渉人は任務に使う機器の説明をし始めた。
「こちらが我々の『掃除屋』に連絡を取るため無線コードと、無線機です。掃除屋は対象の確認をするのにも使いますので、必ずお控えください。壊した場合も交換となりますので絶対に無くさないでください。」
「これが無線機?…あ、ああ…了解した。」
 エルドールの手には小さく収まる機械。無線機というよりはポケベルのような機械。単純な機能しかついてなく、とても使いやすそうだ。
「こちらは前金の20万です」
 渡された札束を1枚2枚3枚4枚5枚と手速にめくっていき、ほんの僅かで確認し終えるとそのままコートのポケットに入れ込む。
「確かに。」
 エルドールが次の言葉を喋ろうとしたその時だった。部屋の外、おそらくはバーの所だろうか。銃声が1発、それに続いて複数発。今度は拳銃ではない、サイレンサーをつけたサブマシンガンのような軽い、そして高速で連射しているような銃声が聞こえてきた。
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