納品される妻 ー管理番号373番ー

武蔵

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第三話:資産価値の品評会

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私は一生、孤独なままなのだろう。

誰からも愛されず、ただの「便利な社長」「金払いのいいATM」として、誰の記憶にも残らずコンクリートの底に沈むように一生を終える。

そう諦めかけていた四十五歳の夏、私は駅裏の古びた居酒屋で、大学時代からの悪友・ケンジと向かい合っていた。

「いいか、ユウジ。お前の人生は、このままじゃ耐用年数を過ぎた廃墟と同じだ」

ケンジは、焼き鳥の串を振り回しながら、容赦ない言葉を私に投げつけた。 ジョッキの中で温くなったビールが、私の煮え切らない決断を象徴しているようだった。

「……廃墟なんて、ひどい言い草だな」

「事実だろうが。お前、最後に女の手を握ったのはいつだ? いや、握ったことなんてあるのか? 現場の職人と握手してる回数の方が、一生分を優に超えてるだろ」

私は何も言い返せず、枝豆の皮を不格好な指先で弄んだ。 ケンジは大きくため息をつき、身を乗り出してきた。

「お前は経営者限定の婚活パーティーに行け。今すぐだ」

「……そんな華やかな場所、俺には向いていない。俺の話は退屈だし、何より、この手が……」

私は無意識に、右手をテーブルの下へ隠した。 あの婚約破棄の際に投げつけられた「爬虫類」という言葉が、幻聴のように耳元で鳴った。

「馬鹿言え。いいか、ハッキリ言うぞ。お前の長所は金だけだ。性格は暗いし、見た目も地味だ。なら、その『金』という唯一の武器を最大限に生かせる狩場に行け。あそこは恋愛の戦場じゃない、資産価値の品評会だ」

ケンジの言葉は冗談めかしていたが、残酷なほど的を射ていた。 私の内面を見てくれる人間などいない。 なら、外側の皮である「金」を餌にするしかないのだ。

「三回だ。三回だけ行く。それで駄目なら、もう俺の人生に『女』という変数は入れない。一生独りで、水槽の魚だけを相手にする」

私は自分に言い聞かせように、ケンジの目をまっすぐ見て宣言した。 それが、地獄の門を叩く最初の一歩になるとも知らずに。

一回目、二回目のパーティーは、まさにケンジの言った通り「資産のオークション」だった。

会場は都内の一流ホテル。 シャンデリアの光が、磨き抜かれた大理石の床に反射し、空調の効いた室内には、高価な香水と微かな獣の匂いが混じり合っていた。

私は、サイズの合わないブランドのスーツに身を包み、借りてきた猫のように壁際に立っていた。 だが、胸ポケットから覗く「建設会社代表・安藤ユウジ」という名刺が、強力な磁石となって女性たちを引き寄せた。

「安藤社長、お若く見えるのに、二代目でいらっしゃるなんて素敵ですね」 「どんな建物を建てていらっしゃるんですか? 今度、案内していただきたいわ」

彼女たちは、私を見てはいなかった。 私の背後にそびえ立つ会社ビルと、銀行の残高を見ていた。 私はその夜だけの、仮初めの王様だった。

だが、会話が進むにつれて、魔法は解けていく。

「……基礎工事というのは、地面の下にどれだけ深く杭を打つかが勝負でして。コンクリートの配合比率を一分(いちぶ)間違えるだけで、数十年後の強度が……」

私が、自分の唯一知っている「誠実な」話を始めると、彼女たちの瞳から急速に光が消えていった。

さっきまで熱心に頷いていた首筋が、退屈そうに別の「金持ち」を探して泳ぎ始める。

「へえ、大変そうですね。……あ、あちらに知り合いが。失礼します」

一人、また一人と、彼女たちは去っていく。

最後に残るのは、空になったグラスと、私という人間の「中身の無さ」を証明する冷ややかな静寂だけだった。

王様扱いされればされるほど、私の胸には、構造欠陥のような巨大な空洞が広がっていった。

そして迎えた、三回目。最後の夜。

外のアスファルトからは陽炎が立ち上り、肌にまとわりつくような湿気が街を覆っていた。 不吉な予感さえ抱かせるような、重苦しい真夏の夜だった。

会場は相変わらず、欲望と品定めの視線で淀んでいる。

私は開始から一時間で、完全に摩耗していた。 愛想笑いのせいで頬の筋肉が痙攣し、喉は砂漠のように乾いている。

「もう、いい。帰ろう」

私はこの茶番に幕を引くことを決めた。

残りの時間をやり過ごすため、私は人混みを避け、冷房の効きが悪い会場の最果て、西日が差し込む窓際へと移動した。
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