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第十四話:調律される産室
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私たちの役割は、兄・ソウイチの手によって完全に再定義された。
私は「経済的な大黒柱」として外で稼ぎ、家を維持する。 兄は「ミサキの心身のケア、および家庭運営の責任者」。 そしてミサキは、この家を存続させるための「神聖な共有物」となった。
「ケイスケは仕事に集中してくれ。余計なストレスは『気』を乱す。家のことやミサキちゃんのケアは、僕がすべて責任を持つから」
その言葉通り、兄は我が物顔で私たちの家に入り浸り、家事から育児、果てはミサキの精神的なカウンセリングまでを一手に引き受けた。
奇妙なことに、その歪なトライアングルが回り始めてから、家庭内の摩擦は消えた。 ミサキの顔からは育児の疲れや不安が消え失せ、常に満たされたような、どこか夢見心地な輝きを放つようになった。
やがて、元気な男の子が生まれた。
産声が上がった瞬間、高村家の全員が手放しで喜んだ。 その子が、遺伝学的に私と兄のどちらに似ているかなど、誰も口にしなかった。 そんな瑣末な「事実」よりも、兄が演出し、私が受け入れた「幸福な家族」という体裁こそが、この家における唯一の正解だったからだ。
*
出産から一ヶ月が経った頃。 兄は、静まり返ったリビングで私とミサキを前に座らせた。 その手には、自作と思われる緻密なグラフや医学用語の並んだ資料が握られていた。
「ケイスケ、よく聞きなさい。女性は産後、ホルモンバランスが急激に崩れる。放っておけば産後うつや育児ノイローゼになり、最終的には深刻な夫婦問題、家庭崩壊へと発展してしまうんだ」
兄の口調は、まるで難解な手術を前にした名医のように淡々としていた。
「じゃあ、どうすればいいんだ……?」
「解決策はひとつだ。定期的にミサキさんの身体を直接『施術』し、ホルモン分泌を人工的に、かつ完璧に調節してあげなければならない」
兄は、私の瞳の奥を覗き込むようにして言葉を継いだ。
「医学的な事実として、女性のホルモンバランスと子宮は密接に関わっている。子宮口への適切な刺激こそが、脳下垂体を刺激し、幸福ホルモンの分泌を最大化させるんだ。つまり、性行為こそが、彼女を救う最高の『施術』になる」
私の思考は停止した。 目の前で、実の兄が自分の妻との情事を「医療」として定義している。 だが、兄の論理には一分の隙もなかった。
「特に、夜寝る前が一番効果的だ。今日から僕が、君たちの寝室に入って彼女の様子を見る。……ただ、ひとつ問題がある」
ソウイチは、憐れむような目で私を見た。
「ケイスケ、君の気は『陰』の性質が強すぎる。産後の過敏なミサキちゃんにとって、陰の気が隣にいると、せっかくの施術の効果が放出されずに体内に滞ってしまう。反対に、僕の気は強い『陽』だ。陽の僕が直接触れることで、彼女の生命力は何倍にも跳ね上がる」
「それは……つまり……」
「お前には悪いが、今日から別な部屋で寝てくれ。これは、ミサキちゃんの健康と、高村家の未来を守るための『隔離治療』なんだ」
私は言葉を失い、隣に座るミサキに視線を送った。
彼女は、羞恥に頬を染めながらも、その瞳には抗いがたい期待の色を浮かべていた。 彼女の肉体は、すでに二ヶ月目、三ヶ月目の施術を通して、ソウイチの指先ひとつで悦びの深淵へと落ちるように作り変えられているのだ。
「ミサキは……それでいいのか?」
震える私の問いに、ミサキはうっとりと、どこか陶酔した表情でうなずいた。
「はい……お義兄さんにお願いしたいです。今の私は、お義兄さんに『整えて』いただかないと、自分が壊れてしまいそうで……。ケイスケさんのためにも、私、正しい身体になりたいの」
その瞬間、私という夫の存在意義は、寝室という聖域から完全に追放された。
*
その夜から、私たちの主寝室からは、毎晩のように甘く、濃厚な空気が漏れ出すようになった。 私はリビングのソファに横たわり、壁越しに聞こえてくる音に耳を塞いだ。
ミサキの、これまで私には一度も見せたことのないような、獣じみた激しい嬌声。 ソウイチの、低く、支配的で、それでいて慈愛に満ちた「指導」の声。
「いいぞ、ミサキ。陽の気を受け入れろ。それが君の血を、ホルモンを、正解へと導く……」 「あああぁっ……ぁっ!」
肉体がぶつかり合う湿った音が、私の理性を削り取っていく。 だが、翌朝リビングに現れるミサキは、驚くほど肌が艶めき、赤ん坊を抱く姿は慈愛に満ちた聖母そのものだった。
兄は、賢者のような澄んだ顔でコーヒーを飲み、「今日も家庭は安泰だ」と微笑む。
私は、経済を支えるだけの歯車として。 兄は、妻を開発し、管理する主宰者として。 ミサキは、二人の男によって調律される、美しい人形として。
高村家という名の地獄は、今、完成された幸福の絶頂を迎えていた。
*
ある時、リビングのソファで、壁越しに漏れ聞こえる微かな振動と吐息に耳を塞いでいた私は、その叫び声に弾かれたように身を起こした。
隣の寝室……かつては私とミサキの安らぎの場であったはずのそこからは、今、この家の「新しい秩序」を象徴する、濃密で悍ましい気配が漂っている。
泣き声は次第に激しさを増し、赤ん坊が喉をかき毟っているのが手に取るようにわかる。 あやすべき母親は、今、兄の手によって「再定義」の最中にあった。
「……ケイスケ, 悪いがちょっと入ってきてくれ。この子が泣き止まないんだ」
不意に、寝室の中から兄・ソウスケの、どこまでも冷静で平板な声が響いた。 私は戸惑い、一瞬躊躇したが、兄の声には逆らえない絶対的な強制力があった。 私は震える手で、重い扉を押し開けた。
扉の向こう側は、熱を帯びた香油の匂いと、人間の生々しい熱気が充満する異界だった。 月明かりが差し込むベッドの上で、私は最悪の、そして残酷なまでに完成された光景を目撃した。
兄は、四つん這いになり屈服したミサキの背後から、容赦なく彼女の最深部を貫いていた。
私が部屋に入っても、兄はその腰の動きを止めることはなかった。 後背位という、相手の顔すら見ない無機質な体位。 ソウスケの強靭な腕がミサキの腰をがっしりと掴み、肉と肉がぶつかる湿った重低音が、赤ん坊の泣き声を塗り潰していく。
「見ての通り、今は手が離せない。神経の伝達を整えている最中でね。今中断すると、ミサキの体内の『気』が乱れてしまうんだ。……その子をあやしてやってくれ」
ソウスケは肩越しに私を一瞥しただけで、事務的な口調で命じた。 その瞳には情欲など微塵もなく、ただ「正しい処置」を行っているという確信だけが宿っている。
「……っ、ん, あああぁっ……!」
ミサキは激しく揺さぶられながら、シーツを握りしめ、快楽に顔をゆがめ、涙に濡れた顔を私に向けた。
彼女の瞳は虚空を見つめ、焦点は合っていない。だが、彼女は震える声で、私に追い打ちをかけるような言葉を放った。
「ケイスケくん……おねがい, この子を見てて……。今、お義兄様に……大切なところを、直してもらってるの……。今やめたら、せっかくの『治療』が、台無しになっちゃうから……っ!」
ミサキの中には、もはや夫に情事を見られる羞恥心も、配慮も存在しなかった。あるのは、兄の指先と肉体がもたらす快楽への絶対的な服従と、それを「家族の幸せのための儀式」と信じ込む、無垢で残酷な狂気だけだ。
「わかった……僕が見ているよ」
私は、もはや声にもならない声で答え、泣き叫ぶ子供をベビーベッドから抱き上げた。腕の中の子供は驚くほど熱い。私はその熱を、背後で繰り返される「正解の音」から守るように抱きしめた。
「いい子だ、ミサキ。ケイスケが助けてくれるから、君は僕のことだけを考えていればいい」
ソウスケの声が、再び加速する肉の打撃音に混ざる。私は、妻が兄によって暴かれ、内部を掻き回される様子を、網膜に焼き付けることしかできなかった。
ミサキの腰が弓なりに弾け、彼女は私の名前を呼びながら、兄の与える快楽の深淵へと堕ちていく。
私は、泣き止まない子供を揺らしながら、その場に立ち尽くした。
これが、兄の用意した幸福。 これが、私たちの選んだ「正解」。
私は、壊れた機械のように、背後で続く「施術の儀式」を、ただ静かに見守り続けていた。
私は「経済的な大黒柱」として外で稼ぎ、家を維持する。 兄は「ミサキの心身のケア、および家庭運営の責任者」。 そしてミサキは、この家を存続させるための「神聖な共有物」となった。
「ケイスケは仕事に集中してくれ。余計なストレスは『気』を乱す。家のことやミサキちゃんのケアは、僕がすべて責任を持つから」
その言葉通り、兄は我が物顔で私たちの家に入り浸り、家事から育児、果てはミサキの精神的なカウンセリングまでを一手に引き受けた。
奇妙なことに、その歪なトライアングルが回り始めてから、家庭内の摩擦は消えた。 ミサキの顔からは育児の疲れや不安が消え失せ、常に満たされたような、どこか夢見心地な輝きを放つようになった。
やがて、元気な男の子が生まれた。
産声が上がった瞬間、高村家の全員が手放しで喜んだ。 その子が、遺伝学的に私と兄のどちらに似ているかなど、誰も口にしなかった。 そんな瑣末な「事実」よりも、兄が演出し、私が受け入れた「幸福な家族」という体裁こそが、この家における唯一の正解だったからだ。
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出産から一ヶ月が経った頃。 兄は、静まり返ったリビングで私とミサキを前に座らせた。 その手には、自作と思われる緻密なグラフや医学用語の並んだ資料が握られていた。
「ケイスケ、よく聞きなさい。女性は産後、ホルモンバランスが急激に崩れる。放っておけば産後うつや育児ノイローゼになり、最終的には深刻な夫婦問題、家庭崩壊へと発展してしまうんだ」
兄の口調は、まるで難解な手術を前にした名医のように淡々としていた。
「じゃあ、どうすればいいんだ……?」
「解決策はひとつだ。定期的にミサキさんの身体を直接『施術』し、ホルモン分泌を人工的に、かつ完璧に調節してあげなければならない」
兄は、私の瞳の奥を覗き込むようにして言葉を継いだ。
「医学的な事実として、女性のホルモンバランスと子宮は密接に関わっている。子宮口への適切な刺激こそが、脳下垂体を刺激し、幸福ホルモンの分泌を最大化させるんだ。つまり、性行為こそが、彼女を救う最高の『施術』になる」
私の思考は停止した。 目の前で、実の兄が自分の妻との情事を「医療」として定義している。 だが、兄の論理には一分の隙もなかった。
「特に、夜寝る前が一番効果的だ。今日から僕が、君たちの寝室に入って彼女の様子を見る。……ただ、ひとつ問題がある」
ソウイチは、憐れむような目で私を見た。
「ケイスケ、君の気は『陰』の性質が強すぎる。産後の過敏なミサキちゃんにとって、陰の気が隣にいると、せっかくの施術の効果が放出されずに体内に滞ってしまう。反対に、僕の気は強い『陽』だ。陽の僕が直接触れることで、彼女の生命力は何倍にも跳ね上がる」
「それは……つまり……」
「お前には悪いが、今日から別な部屋で寝てくれ。これは、ミサキちゃんの健康と、高村家の未来を守るための『隔離治療』なんだ」
私は言葉を失い、隣に座るミサキに視線を送った。
彼女は、羞恥に頬を染めながらも、その瞳には抗いがたい期待の色を浮かべていた。 彼女の肉体は、すでに二ヶ月目、三ヶ月目の施術を通して、ソウイチの指先ひとつで悦びの深淵へと落ちるように作り変えられているのだ。
「ミサキは……それでいいのか?」
震える私の問いに、ミサキはうっとりと、どこか陶酔した表情でうなずいた。
「はい……お義兄さんにお願いしたいです。今の私は、お義兄さんに『整えて』いただかないと、自分が壊れてしまいそうで……。ケイスケさんのためにも、私、正しい身体になりたいの」
その瞬間、私という夫の存在意義は、寝室という聖域から完全に追放された。
*
その夜から、私たちの主寝室からは、毎晩のように甘く、濃厚な空気が漏れ出すようになった。 私はリビングのソファに横たわり、壁越しに聞こえてくる音に耳を塞いだ。
ミサキの、これまで私には一度も見せたことのないような、獣じみた激しい嬌声。 ソウイチの、低く、支配的で、それでいて慈愛に満ちた「指導」の声。
「いいぞ、ミサキ。陽の気を受け入れろ。それが君の血を、ホルモンを、正解へと導く……」 「あああぁっ……ぁっ!」
肉体がぶつかり合う湿った音が、私の理性を削り取っていく。 だが、翌朝リビングに現れるミサキは、驚くほど肌が艶めき、赤ん坊を抱く姿は慈愛に満ちた聖母そのものだった。
兄は、賢者のような澄んだ顔でコーヒーを飲み、「今日も家庭は安泰だ」と微笑む。
私は、経済を支えるだけの歯車として。 兄は、妻を開発し、管理する主宰者として。 ミサキは、二人の男によって調律される、美しい人形として。
高村家という名の地獄は、今、完成された幸福の絶頂を迎えていた。
*
ある時、リビングのソファで、壁越しに漏れ聞こえる微かな振動と吐息に耳を塞いでいた私は、その叫び声に弾かれたように身を起こした。
隣の寝室……かつては私とミサキの安らぎの場であったはずのそこからは、今、この家の「新しい秩序」を象徴する、濃密で悍ましい気配が漂っている。
泣き声は次第に激しさを増し、赤ん坊が喉をかき毟っているのが手に取るようにわかる。 あやすべき母親は、今、兄の手によって「再定義」の最中にあった。
「……ケイスケ, 悪いがちょっと入ってきてくれ。この子が泣き止まないんだ」
不意に、寝室の中から兄・ソウスケの、どこまでも冷静で平板な声が響いた。 私は戸惑い、一瞬躊躇したが、兄の声には逆らえない絶対的な強制力があった。 私は震える手で、重い扉を押し開けた。
扉の向こう側は、熱を帯びた香油の匂いと、人間の生々しい熱気が充満する異界だった。 月明かりが差し込むベッドの上で、私は最悪の、そして残酷なまでに完成された光景を目撃した。
兄は、四つん這いになり屈服したミサキの背後から、容赦なく彼女の最深部を貫いていた。
私が部屋に入っても、兄はその腰の動きを止めることはなかった。 後背位という、相手の顔すら見ない無機質な体位。 ソウスケの強靭な腕がミサキの腰をがっしりと掴み、肉と肉がぶつかる湿った重低音が、赤ん坊の泣き声を塗り潰していく。
「見ての通り、今は手が離せない。神経の伝達を整えている最中でね。今中断すると、ミサキの体内の『気』が乱れてしまうんだ。……その子をあやしてやってくれ」
ソウスケは肩越しに私を一瞥しただけで、事務的な口調で命じた。 その瞳には情欲など微塵もなく、ただ「正しい処置」を行っているという確信だけが宿っている。
「……っ、ん, あああぁっ……!」
ミサキは激しく揺さぶられながら、シーツを握りしめ、快楽に顔をゆがめ、涙に濡れた顔を私に向けた。
彼女の瞳は虚空を見つめ、焦点は合っていない。だが、彼女は震える声で、私に追い打ちをかけるような言葉を放った。
「ケイスケくん……おねがい, この子を見てて……。今、お義兄様に……大切なところを、直してもらってるの……。今やめたら、せっかくの『治療』が、台無しになっちゃうから……っ!」
ミサキの中には、もはや夫に情事を見られる羞恥心も、配慮も存在しなかった。あるのは、兄の指先と肉体がもたらす快楽への絶対的な服従と、それを「家族の幸せのための儀式」と信じ込む、無垢で残酷な狂気だけだ。
「わかった……僕が見ているよ」
私は、もはや声にもならない声で答え、泣き叫ぶ子供をベビーベッドから抱き上げた。腕の中の子供は驚くほど熱い。私はその熱を、背後で繰り返される「正解の音」から守るように抱きしめた。
「いい子だ、ミサキ。ケイスケが助けてくれるから、君は僕のことだけを考えていればいい」
ソウスケの声が、再び加速する肉の打撃音に混ざる。私は、妻が兄によって暴かれ、内部を掻き回される様子を、網膜に焼き付けることしかできなかった。
ミサキの腰が弓なりに弾け、彼女は私の名前を呼びながら、兄の与える快楽の深淵へと堕ちていく。
私は、泣き止まない子供を揺らしながら、その場に立ち尽くした。
これが、兄の用意した幸福。 これが、私たちの選んだ「正解」。
私は、壊れた機械のように、背後で続く「施術の儀式」を、ただ静かに見守り続けていた。
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