義父と嫁の関係、血の円環。~今日も私を愛してください~

武蔵

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第三話:産声

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結婚式は、身寄りのない私への配慮か、海外の教会で身内だけで静かに行われた。

それからの同居生活は、私が恐れていたような嫁姑といった冷たいものではなかった。

義父母は、「娘ができた」と言って私を溺愛してくれた。 特に、息子のレンが生まれた時の喜びようは、形容できないほどだった。

レンは生まれつき免疫機能が弱く、少しの風邪も命取りになりかねなかった。

「アヤカさんは子育てに集中しなさい。家のことは私たちがやるから」

義父は、議会のない休日には率先して動いてくれた。 おむつ替え、ミルク作り、買い物。

その手つきは驚くほど慣れていて、そして優しかった。

「好きでやっているのだから、気にするな」

そう言って笑う義父の目尻の皺に、私は実の父を知らない人生の穴を埋めてもらっているような、温かな安らぎを感じていた。

しかし、その安らぎの色が変わり始めたのは、ある雨の朝のことだった。

「……くそっ、うまくいかないな」

リビングで、出勤前の義父が舌打ちをした。 先日、庭木の手入れ中に怪我をした指の包帯が邪魔をして、ネクタイが結べずにいるのだ。

お義母さんはすでに外出している。

私は、嫁としての使命感で、自然と義父に歩み寄った。

「お義父さん、私がやります。ちょっとじっとしていてください」

私は義父の前に立ち、その首に手を回した。

ネクタイの生地を操り、結び目を作る。 慣れない私の指が、義父の喉仏に軽く触れた。

ゴクリ、と喉が動く感触が、指先から直接脳に伝わり、私の体温が一度上がる。

「……これで、よろしいですか?」

結び目を整え、顔を上げた瞬間だった。

ふわりと、鼻腔をくすぐる匂い。

タバコの苦味と、使い込まれた革。 そして高級な男性用香水が混じり合った、濃厚な「男性」の香り。

ケンジの持つ、陽だまりのような洗剤の匂いとは違う。 もっと深く、それでいて抗いがたい引力を持つ匂い。

ケンジよりも高い身長。 私を見下ろすその瞳には、政治家としての冷徹な意志力と、大人の男だけが持つ余裕が湛えられていた。

その瞬間、私はお父様の発する空気に抱かれていた。

「……ありがとう。助かったよ」

義父は短くそう言うと、鏡で結び目を確認し、急ぎ足で家を出て行った。

バタン、と扉が閉まる音を聞きながら、私は自分の胸が痛いほど高鳴っていることに気づいてしまった。

それは、義理の父への敬愛ではない。

もっと生々しく、熱を持った感情が、私の中で産声を上げていた。
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