義父と嫁の関係、血の円環。~今日も私を愛してください~

武蔵

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第五話:決壊

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あのネクタイの一件以来、屋敷を流れる空気は目に見えて澱(よど)み始めた。

ソウイチロウとアヤカの間に生まれたのは、刺すような緊張感。 そして、それとは裏腹に磁石のように引き寄せ合う、不吉な引力だった。

廊下ですれ違う瞬間の、肌を焼くような視線。 遠くから互いの存在を確認し合う、共犯者めいた沈黙。

二人の距離は、離れようとあがくほどに、心の中枢で深く結びついていった。

そして、運命は最悪の形でその扉を開いた。

八月の末。 ケンジは二日間の出張で不在、ヨウコも実母の介護で三日間家を空けることになった。

広い屋敷に残されたのは、義父と嫁。

外は、天を割ったかのような記録的な大雨が叩きつけていた。 ニュースは河川の氾濫を報じ、不吉な雷鳴が、屋敷の静寂を暴力的にかき乱している。

不意に、地響きのような雷鳴と共に、世界が漆黒に塗りつぶされた。

停電だった。

ソウイチロウはスマホの光で足元を照らし、廊下へ出た。 遠くで、アヤカの短い悲鳴が響いた。キッチンの方だ。

「アヤカさん? 大丈夫か」

ソウイチロウが駆けつけると、アヤカが床に座り込んでいた。 停電の中、天袋にある懐中電灯を取ろうとして、椅子から足を踏いら外したのだという。

「……痛むか?」

「お義父さん……大丈夫です、でも、少し……」

苦痛に歪む彼女の顔を、稲光が白く照らし出す。 ソウイチロウは躊躇うことなく、彼女の細い身体を腕の中に抱き上げた。

いわゆる、お姫様抱っこの形だった。

その瞬間、ソウイチロウの五官のすべてが、アヤカという奔流に飲み込まれた。

腕の中に伝わる、羽毛のような柔らかさと、微かな震え。 首筋から立ち上る、石鹸とミルクの甘い匂い。

それらの情報は、彼の脳内で瞬時に「エリ」という名の亡霊へと変換された。 同居後、必死に築き上げてきた理性の堰(せき)が、音を立てて決壊した。

アヤカもまた、自分を包み込む義父の圧倒的な体温と感じていた。 高級な煙草の残り香に、意識が遠のいていく。

ケンジにはない、頼もしい「男」の存在。

ソファに彼女を横たわらせた瞬間、どちらからともなく唇が重なった。

最初は、震えるような微かな接触。 それが、堰を切った水のようにお互いの唾液を交換し合い、激しい渇望へと変わる。

「……離さない。もう、二度と……」

ソウイチロウが掠れた声で漏らす。 その腕の中で、アヤカは熱い吐息を漏らしながら彼を見つめた。


ソウイチロウの手と舌が、アヤカの白い肌を一つずつ解きほぐしていく。 アヤカの甘い声がリビングに響く。 ケンジの単調な愛し方とは、何もかもが違った。

大胆に乳房を揉みしだきながら、一方で、内側の情動を抉り出すような秘所の突起への繊細な愛撫。 アヤカの意識は快楽の白波にさらわれ、上書きされるたびに、彼女は何度も果てた。

そしてアヤカのその小さな口が彼自身を包み込む。ソウイチロウから漏れる声が、アヤカの女としての本能を呼び覚ます。

二人ははまるで最初から一つの生き物だったかのように蠢く。それは空気の入る隙間もないほどに。

やがてソウイチロウは彼女の中の深い部分に触れた。そして彼女の首筋に顔を埋め、絶望的な優しさで彼女を蹂躙した 。 彼は六十代という年齢を感じさせないほど力強く、それでいて絶望的に優しかった。

激しい雨の音さえも遠のくほどの、密やかな、しかし激しい肉の饗宴。 

アヤカもまた、自分を貫く圧倒的な力に身を委ね、悦びという名の暗い泥濘(ぬかるみ)の中へ、深く、どこまでも深く堕ちていった。

暗闇の中、獣のように愛し合う二人を、時折差し込む稲光が、無機質に照らし出していた。

     *

AM 4:00。

二人は、恋人のように抱き合ったまま眠りについていた。

遠くで、赤ん坊のレンの泣き声が聞こえる。

アヤカは意識を浮上させ、レンを抱き上げると、再びソファへ戻った。

眠るソウイチロウの穏やかな顔。その寝息。

彼女は、自分を突き動かした情動の正体を見つめる。

(もう、戻れない)

その自覚が、彼女の中で何吹っ切れたような、冷たい覚悟へと変わっていた。

     *

AM 7:00。

目覚めたソウイチロウを襲ったのは、鉛のような罪悪感だった。

エリに似ているとはいえ、息子が愛し、信じている嫁に手を出した。 その事実は、彼の喉元を締め上げた。

キッチンからは、朝食を作る軽快な音が聞こえてくる。

食卓に向かうと、そこにはいつもと変わらぬ、清楚なアヤカがいた。

「おはようございます」

微笑む彼女は、昨夜の情事などなかったかのように平然としていた。

「昨日は……その、すまなかった」

ソウイチロウが耐えかねて切り出すと、アヤカはそれを遮るように、澄んだ声で言った。

「コーヒーは、先にお出ししますか?」

(何もなかったことにしたいのか? それとも……)

ソウイチロウが混乱に立ち尽くす中、アヤカは完璧な所作でコーヒーを運んでくる。 アヤカの気持ちが分からない。

しかし、その答え合わせは、彼が出かける時に示された。

いつもはヨウコがやる、ネクタイの選定。 そしてカバンを持っての玄関までの見送り。 それをアヤカが自然と行う。

「早く、帰ってきてくださいね」

ヨウコなら「お気をつけて」と言う場面だ。

三十年前、エリが彼を送り出す時に言っていた、あの甘い催促の言葉。

「……ああ。行ってくるよ」

ソウイチロウは、玄関を出ながらアヤカの思いは自分と同じであることを確信する。

車に乗り込み、スマホを確認すると、アヤカからのLINEが入っていた。

『明日は議会がないと聞いていますから。今夜はゆっくりできるように、お酒も準備しておきますね』

画面をなぞるソウイチロウの指先が、微かに震えていた。
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