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vol.5
修羅場
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●●●●
翌日。
私が目覚めると先輩は既にいなかった。
代わりにテープで修復された私の画と、朝食がダイニングテーブルに置いてあった。
完全に元通りになるわけないのに、地道に画を貼り合わせてくれるなんて。
『ぶっ殺すぞ』
なんて悪い言葉を使う割には、優しい。
それに、この朝食。
グラスに注がれたオレンジジュース、カリカリベーコンとフワフワしたスクランブルエッグ、それにグリーンサラダとコンソメスープ。
なになに、この綺麗な朝食は!ホテルか!しかもそのスクランブルエッグを一口食べて、私は硬直した。
……私が作るヤツと全然違うじゃないの。絶対、生クリームとか入ってる。
なんなの、何者?!裏番で暴走族で人狼で料理好き?!
おまけに、
『パンを焼け』
無愛想な書き置きまでして。
……なんか先輩……最初のイメージとだいぶ違うんだけど。
私はクスッと笑いながら、書き置きを見つめた。
その時何故か再び胸がムカムカしてきたけど、私は先輩が作ってくれた朝食を完食してから学校へと向かった。
●●●●●
「瀬里、里緒菜先輩が呼んでるよ」
志帆ちゃんが、瞳を不満げに光らせて私を見据えた。
「えっ……」
私の驚きを無視して、志帆ちゃんはツンとそっぽを向いた。
里緒菜先輩って、確か雪野先輩と同じようなピアスをした……。
理科室に向かおうと二階の渡り廊下を歩いていた私は、前方を見て凍り付いた。
だって渡り廊下の先の二校舎の入り口に、里緒菜先輩が立っていたんだもの。それも足を肩幅ほどに開き、腕組みをして。
次第にバクバクと、心拍が上がる。
志帆ちゃんの言葉を聞いたクラスメイトや、通りすがりの生徒達がただならぬ雰囲気を察知して、私や里緒菜先輩をチラチラと見始めた。
……怖い。絶対雪野先輩の事に決まってる。どうしよう……。
明日香ちゃんは日直で先に行っちゃったし……。
渡り廊下のど真ん中で立ちすくむ私を見て、二校舎の入り口で腕組みをして待っていた里緒菜先輩が、イラついたように扉を開けた。
うわっ、来るっ!
「ちょっとアンタ!」
きゃーっ、き、きたーっ!!
「は、い」
里緒菜先輩が声を荒げ、その声に皆が足を止める。
硬直する私に里緒菜先輩はヅカヅカと歩み寄り、やがて真正面で立ち止まると私を上から下まで侮蔑の表情で睨んだ。
「アンタ、翔にどうやって取り入ったのよ!?」
どうしよう、どうしよう!!
「なんとか言えってば!」
言い終えると同時に、里緒菜先輩が私の持っていた教科書を叩き落とした。
渡り廊下に落ちた教科書がパンッと乾いた音をたてる。
「教科書まで破られたいわけ?!」
教科書まで……?
それって……!
冷水をかけられたように全身がヒヤリとしたのに、頭はカッと血が登ったように熱い。
やっぱり、私の画を破ったのは里緒菜先輩だったんだ。
たとえ何をされたとしても、あの画を破るのだけはやっぱり許せなかった。
「……先輩。私の画を破ったのは先輩ですか」
「はあっ!?……なによ!?証拠でもあんの?!」
里緒菜先輩が更に私に一歩近付いた。
顎を上げて、彼女は私を睨み据える。
「アンタ、喧嘩売ってんの?!アンタみたいな地味でブスのどこがいいのよっ!」
里緒菜先輩が我慢ならないと言ったように、私の肩を右手でドン!と押した。
その時、
「三田」
里緒菜先輩の後方、二校舎の廊下から、低い声が響いた。
呼ばれた里緒菜先輩が弾かれたように振り返る。
「翔……!」
私達を心配気に見ていたギャラリー達が、雪野先輩の登場で更にざわめいた。
そんな中、雪野先輩が里緒菜先輩を見据える。
「三田。いい加減にしろ」
「だって……!」
雪野先輩は渡り廊下へと出てきて私に歩み寄ると、コンクリートの床に膝をつけて足元に散らばった教科書を拾い集めた。
「大丈夫か?」
まとめた教科書を差し出して、先輩は私を見つめた。
その瞳に、たちまちドキンと鼓動が跳ねる。
「……はい」
次の瞬間、
「なんでよっ!どうしてよっ!」
里緒菜先輩の悲鳴のような声がコンクリートの渡り廊下に反響した。
眼を見張る私の前で、里緒菜先輩の眼からみるみる涙が溢れる。
「知らなかったなんて言わせない!ずっとずっと翔を好きだったのよ!なのに、どうして私じゃないのっ!?」
雪野先輩が振り返って里緒菜先輩を見た。
「三田」
「ずっとずっと好きだったのにっ」
「俺はお前の気持ちには答えられない」
泣きじゃくる里緒菜先輩を前に、雪野先輩は冷たく言い放った。
それからグルリと周りに視線を向けると、雪野先輩は続けた。
「いいか、よく聞け。誰であろうが今後、瀬里に手出ししたら許さねぇからな」
切れ長の眼をキラリと光らせ、グッと唇を引き結んだ先輩の迫力に、周りにいた生徒達が息を飲んだ。
次の瞬間、
「翔っ!ホントに付き合ってんの?!こんな女がマジで好きなのっ!?」
里緒菜先輩が、私と雪野先輩を交互に見つめながら涙声で叫んだ。
翌日。
私が目覚めると先輩は既にいなかった。
代わりにテープで修復された私の画と、朝食がダイニングテーブルに置いてあった。
完全に元通りになるわけないのに、地道に画を貼り合わせてくれるなんて。
『ぶっ殺すぞ』
なんて悪い言葉を使う割には、優しい。
それに、この朝食。
グラスに注がれたオレンジジュース、カリカリベーコンとフワフワしたスクランブルエッグ、それにグリーンサラダとコンソメスープ。
なになに、この綺麗な朝食は!ホテルか!しかもそのスクランブルエッグを一口食べて、私は硬直した。
……私が作るヤツと全然違うじゃないの。絶対、生クリームとか入ってる。
なんなの、何者?!裏番で暴走族で人狼で料理好き?!
おまけに、
『パンを焼け』
無愛想な書き置きまでして。
……なんか先輩……最初のイメージとだいぶ違うんだけど。
私はクスッと笑いながら、書き置きを見つめた。
その時何故か再び胸がムカムカしてきたけど、私は先輩が作ってくれた朝食を完食してから学校へと向かった。
●●●●●
「瀬里、里緒菜先輩が呼んでるよ」
志帆ちゃんが、瞳を不満げに光らせて私を見据えた。
「えっ……」
私の驚きを無視して、志帆ちゃんはツンとそっぽを向いた。
里緒菜先輩って、確か雪野先輩と同じようなピアスをした……。
理科室に向かおうと二階の渡り廊下を歩いていた私は、前方を見て凍り付いた。
だって渡り廊下の先の二校舎の入り口に、里緒菜先輩が立っていたんだもの。それも足を肩幅ほどに開き、腕組みをして。
次第にバクバクと、心拍が上がる。
志帆ちゃんの言葉を聞いたクラスメイトや、通りすがりの生徒達がただならぬ雰囲気を察知して、私や里緒菜先輩をチラチラと見始めた。
……怖い。絶対雪野先輩の事に決まってる。どうしよう……。
明日香ちゃんは日直で先に行っちゃったし……。
渡り廊下のど真ん中で立ちすくむ私を見て、二校舎の入り口で腕組みをして待っていた里緒菜先輩が、イラついたように扉を開けた。
うわっ、来るっ!
「ちょっとアンタ!」
きゃーっ、き、きたーっ!!
「は、い」
里緒菜先輩が声を荒げ、その声に皆が足を止める。
硬直する私に里緒菜先輩はヅカヅカと歩み寄り、やがて真正面で立ち止まると私を上から下まで侮蔑の表情で睨んだ。
「アンタ、翔にどうやって取り入ったのよ!?」
どうしよう、どうしよう!!
「なんとか言えってば!」
言い終えると同時に、里緒菜先輩が私の持っていた教科書を叩き落とした。
渡り廊下に落ちた教科書がパンッと乾いた音をたてる。
「教科書まで破られたいわけ?!」
教科書まで……?
それって……!
冷水をかけられたように全身がヒヤリとしたのに、頭はカッと血が登ったように熱い。
やっぱり、私の画を破ったのは里緒菜先輩だったんだ。
たとえ何をされたとしても、あの画を破るのだけはやっぱり許せなかった。
「……先輩。私の画を破ったのは先輩ですか」
「はあっ!?……なによ!?証拠でもあんの?!」
里緒菜先輩が更に私に一歩近付いた。
顎を上げて、彼女は私を睨み据える。
「アンタ、喧嘩売ってんの?!アンタみたいな地味でブスのどこがいいのよっ!」
里緒菜先輩が我慢ならないと言ったように、私の肩を右手でドン!と押した。
その時、
「三田」
里緒菜先輩の後方、二校舎の廊下から、低い声が響いた。
呼ばれた里緒菜先輩が弾かれたように振り返る。
「翔……!」
私達を心配気に見ていたギャラリー達が、雪野先輩の登場で更にざわめいた。
そんな中、雪野先輩が里緒菜先輩を見据える。
「三田。いい加減にしろ」
「だって……!」
雪野先輩は渡り廊下へと出てきて私に歩み寄ると、コンクリートの床に膝をつけて足元に散らばった教科書を拾い集めた。
「大丈夫か?」
まとめた教科書を差し出して、先輩は私を見つめた。
その瞳に、たちまちドキンと鼓動が跳ねる。
「……はい」
次の瞬間、
「なんでよっ!どうしてよっ!」
里緒菜先輩の悲鳴のような声がコンクリートの渡り廊下に反響した。
眼を見張る私の前で、里緒菜先輩の眼からみるみる涙が溢れる。
「知らなかったなんて言わせない!ずっとずっと翔を好きだったのよ!なのに、どうして私じゃないのっ!?」
雪野先輩が振り返って里緒菜先輩を見た。
「三田」
「ずっとずっと好きだったのにっ」
「俺はお前の気持ちには答えられない」
泣きじゃくる里緒菜先輩を前に、雪野先輩は冷たく言い放った。
それからグルリと周りに視線を向けると、雪野先輩は続けた。
「いいか、よく聞け。誰であろうが今後、瀬里に手出ししたら許さねぇからな」
切れ長の眼をキラリと光らせ、グッと唇を引き結んだ先輩の迫力に、周りにいた生徒達が息を飲んだ。
次の瞬間、
「翔っ!ホントに付き合ってんの?!こんな女がマジで好きなのっ!?」
里緒菜先輩が、私と雪野先輩を交互に見つめながら涙声で叫んだ。
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