恋した彼は白金狼~プラチナウルフ~

友崎沙咲

文字の大きさ
17 / 28
vol.5

好きがはじまる

しおりを挟む
どう答えるのかが心配で、私は食い入るように先輩を見つめた。
背中に汗が伝う。胸がドクンドクンと脈打ち、息が苦しい。
その時こっちを見た雪野先輩と眼が合い、思わずビクッと身体が震えた。お互いの視線が絡む。
精悍な頬。通った鼻筋。綺麗な眼に男らしい口元。
……そんな、わけない。私みたいな地味子を先輩が好きになるはずない。だってカッコいい先輩と地味な私じゃ違いすぎるもの。
やだ、こんなの。惨めで恥ずかしくて。
苦しすぎて見ていられなくなって、私は先輩から顔を背けた。
その時フワリと風が動いて、先輩の大きな手が私の頬を優しく撫でた。

「俺が愛してるのは瀬里だけだ」

キャアッと控えめな女子の悲鳴とウオッという男子の嬉しそうな声が混ざり合ったとき、予鈴が鳴った。

「こらー、何してるんだ?さっさと行けー」

理科の高橋先生が足早に渡り廊下を進んできて皆が追い立てられるように各教室へと散らばっていく。
たった一つの予鈴でさっきまでの出来事がまるで無かったみたいだった。里緒菜先輩も身を翻して去っていき、後には私と雪野先輩だけが残った。

「瀬里、放課後迎えにいく。教室で待ってろ」
「はい……」

渡り廊下を吹き抜ける風が髪を乱して視線を遮ぎり、そう言った先輩の表情を見ることができなかったけど私の胸のドキドキは激しくなるばかりだった。だって先輩の声が、凄く凄く柔らかくて優しかったから。

●●●●●

ホームルームが終わりに近づくにつれて、私の心臓はバクバクと煩くなっていった。
そんな私を、斜め前の席の明日香ちゃんが時折振り返ってニタニタと笑った。絶対、渡り廊下での雪野先輩と私の件だ。
……けどまさか、『あれは雪野先輩の演技です』とは言えない。そう……あれは先輩の演技だ。私を、愛華先輩や里緒菜先輩から守る為の。
そう思った時、胸がチクンと痛んだ。
なに、今の……。
何だか苦しくて、私は大きく息を吸い込んだ。

●●●●●

放課後。

「瀬里、雪野先輩が来てるよ」

帰り支度を始めていた私は、志帆ちゃんの声に顔をあげた。
見上げた志帆ちゃんの顔は僅かに眉が寄っていて、まるで小さな女の子が拗ねたみたいだった。

「……志帆ちゃん?」

私が声をかけると彼女は、

「ごめんっ!私、ヤな奴だったよね」
「志帆ちゃん……」
「里緒菜先輩が瀬里の画を破ったの、知らなくてっ。そんな人の味方なんて無理だし。ホントは分かってた、瀬里は悪くないって。ホントにごめん!」

志帆ちゃんはガバッと頭を下げると私の返事も聞かずに去っていってしまい、明日香ちゃんが同情したように呟いた。

「志帆って、愛華先輩や里緒菜先輩に憧れてたんだよね。ほら、性格はどうであれ、二人とも凄くお洒落じゃん?」
「うん……」

私だって、愛華先輩や里緒菜先輩の女子力の高さは、正直羨ましい。

「ほら、雪野先輩が待ってるよ。行ってきな」
「うん」

●●●●●

「遅せぇ」

帰り支度を慌てて済ませ、教室を飛び出した私に、雪野先輩はムッとしたように一言呟いた。

「ご、めん」
「行くぞ」
「うん。……うわっ!」

小さく叫んだ私を、先輩は嫌そうに睨んだ。

「何だよ」
「だ、だ、だ、だって」

私は信じられない思いで、張り付いたように先輩を見つめた。
だって先輩が、私の荷物を奪い取って自分の肩にまとめて担いだんだもの。
しかも何故か、私の手をギュッと掴んだしっ。

「せ、先輩、それは私の荷物で」
「わかってる」
「そ、そ、それにっ!」

先輩が舌打ちして私を振り返った。

「なんだよ?!」

なんだよって、それはこっちの台詞だっつーの。
き、気でも狂ったんじゃないの?!なんで手ぇ握ってるの?!

「あの、あの、それは荷物じゃなくて私の手でしてっ」
「アホか」
「へっ!?」
「……分かって握ってるに決まってんだろーが」

な、な、な……!
まだ廊下だよ?!校内だよ!?皆が見てるじゃん!!
こんな、人前でっ……。
全身の血液が全て顔に集まってくるような感覚がして、死ぬほど熱い。

「何だよ、その顔」
「だ、だってっ」

咄嗟に振り払おうとした指先に先輩が指を絡めて、更に力強く握り締めた。

「ダメだ」

斜めに私を見た先輩の瞳が甘く光った気がして、私はクラリとよろけた。

「おい」

ヘロヘロと倒れそうになって、先輩はそんな私に焦って手を伸ばした。逞しい腕が腰に回って、そこから全身が痺れる感じがする。
ああ、もう確定だ。
分かってしまった。
胸が痛む訳も、こんなにもドキドキする理由も。

「大丈夫かよ」

大丈夫じゃないよ、先輩。
クスッと笑う先輩を見て、私は思わず眉を寄せた。
ああ、どうしよう。 胸が苦しい。
私、好きになっちゃったんだ、先輩のことを。

「さあ、帰るぞ」

言いながら私の手を引く先輩に私は頷くのが精一杯だった。
甘くて切なくて、怖くて幸せで、私はただただ先輩の背中を見つめていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...