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vol.6
愛は暗示を破れるか《1》
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●●●●●
「おっと、逃げ出されちゃ困るな」
「あっ!」
闇雲に走っていた私の腕を誰かが勢いよく掴んだ。
肩が外れそうな衝撃に驚いて振り仰ぐと、緑の瞳がキラリと光った。
翠狼……どうして!?
翠狼の後ろに車を見つけて、私はゾクッとして首を振った。
「来い」
「やだ、離して、離してっ」
翠狼の力に抗えるわけもなく、私は荒々しく車に押し込まれた。
「やめてよ翠狼、降ろして、んんんっ!」
口の中に丸めた布のようなものを詰め込まれ、その上から紐で縛られ、頬に痛みが走った。
これって、猿ぐつわとかいうヤツ!?
「煩く叫ばれちゃ耳が痛いからな」
翠狼は隣で私を見て、ニヤリと笑った。
前回と同じく車は滑るように発進したけど、私は思いきり暴れた。
「ん、んんんー!」
「諦めろ!ジタバタするな。これ以上騒ぐと怪我する事になるぞ」
背中に冷や汗が伝ったけれど、私はどうする事もできなかった。
●●●●●
連れてこられた場所は、前回の空き家とは違っていた。
大きな鉄製の門を車で通過すると立派な玄関が見えてきて、その前で滑らかに車が止まる。
「いいか。今から猿ぐつわを外してやるが、バカな真似はするなよ」
「ん、ん、んー!」
「……降りたら黙って歩け」
私は車から降ろされると翠狼に肩をがっしりと掴まれ、室内に連れていかれた。
玄関に入るや否や、左側の扉を開けた翠狼が私を冷たく見下ろして短く言葉をかける。
「降りろ」
扉のすぐ向こうの足元には階段があり、私は思わず息を飲んだ。
この下ってもしかして、地下室なんじゃ……。
昔見たサスペンス映画を思い出し、血が引き潮のように身体から出ていってしまう感覚に襲われる。
絶対、ロクな目にあわない。
だってあの映画のヒロインは、地下室に連れ込まれてデブでイカれた男に監禁されてたもの。
「やだ、行かない」
涙声なのが気になったのか、翠狼は僅かに眉を上げると隣から私を覗き込んで嬉しそうにニタリと笑った。
「なんだ、怖いのか。さっきまでの暴れっぷりはどうした。……それとも恋人と……白狼と喧嘩でもしたのか。まあどちらにせよお前は《満月の儀式》の生け贄にすぎん」
満月の儀式の生け贄?
それに喧嘩?喧嘩する程親しくないわっ。
そーいやあんた、私が先輩の本当の婚約者だと思ってるんだよね?!
こんな端正な顔立ちのイケメンが至近距離から見ているのに、私はドキドキするどころかイライラしてきた。
確かにこの状況は怖い。
でも、もう知るかっ。
訳の分かんない暗示なんかかけやがって、バカヤロウ!!
「翠狼って、ただ単に妬んでるんしょ!!」
みるみる翠狼の顔に怒りの色が浮かび上がった。
「なんだと?!」
「あんた、人狼王になりたかったのに、天狼神の石が雪野先輩を選んだからって拗ねてるのよね!?きゃあぁっ!」
眼にも止まらぬ早さで、翠狼が私の喉を掴みあげた。
片腕で持ち上げられて天井付近まで頭が上がった途端、翠狼は私の身体を階段の下へと投げ捨てた。
「きゃあっ!痛ぅ……!」
もんどり打って硬い床に転がり、私はギュッと顔をしかめた。
翠狼は一気に階段をかけ降り、倒れた私の前まで歩を進めると、苛立たしげにその瞳を光らせた。
「お前、殺されたいのか」
そんなわけ、ない。凄く、怖い。怖いし痛い。だけど負けたくなかった。
今思うとこのときの私は、勇気を奮い立たせたのが半分で、もう半分はヤケだったのかもしれない。
今まで私は地味で目立たなくて、いつも誰かの影に隠れていた。
学校生活の中でそれが楽だったし、先頭にたって皆を引っ張っていくとか、あり得なかった。
皆に注目されて地味でダサい容姿を指摘されるのが怖かったし、こんな私が誰かの役に立てる訳がないと思っていた。
でも。でも。
何かしたい、雪野先輩の為に。
だって、先輩が好きなんだもの。
好きな人のために何かをしたいとか思うのは初めてで自分でも以外だったけど、私は必死だった。
床に倒れたまま睨み付けた私が気に入らないのか、翠狼は私をガツンと蹴った。
「うっ!」
鋭い痛みが脇腹を襲い、たちまち息が苦しくなる。
怖さからか痛さからかは定かでなかったけど、涙がボロボロ出てきた。
翠狼は私を見つめて一瞬唇を引き結んけど、やがて低い声で呟くように行った。
「いつまで待たせるんだ。……石はどうした?天狼神の石を持ってこいと言っただろう?」
天狼神の石を……!?
あっ……!!
その時、頭の先から爪先へと、何かに貫かれたような感覚がした。
電気が走ったような、熱いような痛いような鋭い感覚。
本能的に理解した。
これが暗示だったんだ。いや、これだけじゃない。
私はあの時の記憶を死に物狂いで呼び起こそうとして、歯を食い縛った。
じゃないと、暗示に負けてしまうかも知れないと思ったから。
そうだ……確か翠狼は。
『殺意が頂点に達した時、お前は油断しているヤツの耳を切り、ピアスを俺に渡すんだ。俺の花嫁になると誓った証しとして。それを見せつけた後、 お前は白狼を殺す』
思い出した……!!
「おっと、逃げ出されちゃ困るな」
「あっ!」
闇雲に走っていた私の腕を誰かが勢いよく掴んだ。
肩が外れそうな衝撃に驚いて振り仰ぐと、緑の瞳がキラリと光った。
翠狼……どうして!?
翠狼の後ろに車を見つけて、私はゾクッとして首を振った。
「来い」
「やだ、離して、離してっ」
翠狼の力に抗えるわけもなく、私は荒々しく車に押し込まれた。
「やめてよ翠狼、降ろして、んんんっ!」
口の中に丸めた布のようなものを詰め込まれ、その上から紐で縛られ、頬に痛みが走った。
これって、猿ぐつわとかいうヤツ!?
「煩く叫ばれちゃ耳が痛いからな」
翠狼は隣で私を見て、ニヤリと笑った。
前回と同じく車は滑るように発進したけど、私は思いきり暴れた。
「ん、んんんー!」
「諦めろ!ジタバタするな。これ以上騒ぐと怪我する事になるぞ」
背中に冷や汗が伝ったけれど、私はどうする事もできなかった。
●●●●●
連れてこられた場所は、前回の空き家とは違っていた。
大きな鉄製の門を車で通過すると立派な玄関が見えてきて、その前で滑らかに車が止まる。
「いいか。今から猿ぐつわを外してやるが、バカな真似はするなよ」
「ん、ん、んー!」
「……降りたら黙って歩け」
私は車から降ろされると翠狼に肩をがっしりと掴まれ、室内に連れていかれた。
玄関に入るや否や、左側の扉を開けた翠狼が私を冷たく見下ろして短く言葉をかける。
「降りろ」
扉のすぐ向こうの足元には階段があり、私は思わず息を飲んだ。
この下ってもしかして、地下室なんじゃ……。
昔見たサスペンス映画を思い出し、血が引き潮のように身体から出ていってしまう感覚に襲われる。
絶対、ロクな目にあわない。
だってあの映画のヒロインは、地下室に連れ込まれてデブでイカれた男に監禁されてたもの。
「やだ、行かない」
涙声なのが気になったのか、翠狼は僅かに眉を上げると隣から私を覗き込んで嬉しそうにニタリと笑った。
「なんだ、怖いのか。さっきまでの暴れっぷりはどうした。……それとも恋人と……白狼と喧嘩でもしたのか。まあどちらにせよお前は《満月の儀式》の生け贄にすぎん」
満月の儀式の生け贄?
それに喧嘩?喧嘩する程親しくないわっ。
そーいやあんた、私が先輩の本当の婚約者だと思ってるんだよね?!
こんな端正な顔立ちのイケメンが至近距離から見ているのに、私はドキドキするどころかイライラしてきた。
確かにこの状況は怖い。
でも、もう知るかっ。
訳の分かんない暗示なんかかけやがって、バカヤロウ!!
「翠狼って、ただ単に妬んでるんしょ!!」
みるみる翠狼の顔に怒りの色が浮かび上がった。
「なんだと?!」
「あんた、人狼王になりたかったのに、天狼神の石が雪野先輩を選んだからって拗ねてるのよね!?きゃあぁっ!」
眼にも止まらぬ早さで、翠狼が私の喉を掴みあげた。
片腕で持ち上げられて天井付近まで頭が上がった途端、翠狼は私の身体を階段の下へと投げ捨てた。
「きゃあっ!痛ぅ……!」
もんどり打って硬い床に転がり、私はギュッと顔をしかめた。
翠狼は一気に階段をかけ降り、倒れた私の前まで歩を進めると、苛立たしげにその瞳を光らせた。
「お前、殺されたいのか」
そんなわけ、ない。凄く、怖い。怖いし痛い。だけど負けたくなかった。
今思うとこのときの私は、勇気を奮い立たせたのが半分で、もう半分はヤケだったのかもしれない。
今まで私は地味で目立たなくて、いつも誰かの影に隠れていた。
学校生活の中でそれが楽だったし、先頭にたって皆を引っ張っていくとか、あり得なかった。
皆に注目されて地味でダサい容姿を指摘されるのが怖かったし、こんな私が誰かの役に立てる訳がないと思っていた。
でも。でも。
何かしたい、雪野先輩の為に。
だって、先輩が好きなんだもの。
好きな人のために何かをしたいとか思うのは初めてで自分でも以外だったけど、私は必死だった。
床に倒れたまま睨み付けた私が気に入らないのか、翠狼は私をガツンと蹴った。
「うっ!」
鋭い痛みが脇腹を襲い、たちまち息が苦しくなる。
怖さからか痛さからかは定かでなかったけど、涙がボロボロ出てきた。
翠狼は私を見つめて一瞬唇を引き結んけど、やがて低い声で呟くように行った。
「いつまで待たせるんだ。……石はどうした?天狼神の石を持ってこいと言っただろう?」
天狼神の石を……!?
あっ……!!
その時、頭の先から爪先へと、何かに貫かれたような感覚がした。
電気が走ったような、熱いような痛いような鋭い感覚。
本能的に理解した。
これが暗示だったんだ。いや、これだけじゃない。
私はあの時の記憶を死に物狂いで呼び起こそうとして、歯を食い縛った。
じゃないと、暗示に負けてしまうかも知れないと思ったから。
そうだ……確か翠狼は。
『殺意が頂点に達した時、お前は油断しているヤツの耳を切り、ピアスを俺に渡すんだ。俺の花嫁になると誓った証しとして。それを見せつけた後、 お前は白狼を殺す』
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