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綺麗な男
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大学生の優は、大学から自転車で自宅へ帰る途中で事故を起こしてしまった。
自転車が異物を踏んだはずみでスリップしてしまい、運悪く信号待ちの歩行者にぶつかってしまったのだ。
ぶつかった相手は古い鉄製の立て看板で腕を切る怪我をした。
優が怪我をさせたのはネクタイ姿の若い男性だった。
「ま、まずは警察に連絡しないといけないんだっけ?そ、それよりも救急車呼ばなきゃ」
思わぬ事故を起こしてしまい冷静さを失い真っ青になりながら大慌てで携帯で救急車を呼ぼうとする優。
それに対して被害者の男の方が冷静だった。
白いワイシャツが破れ血が流れているのにかかわらず
「救急車は呼ばなくてけっこうです。タクシーで病院に行きます」
顔を上げ優を見てそう言った。
彼は美しすぎた…。
眉目秀麗という言葉がぴったりはまるあまりにも美しい男。
腕からは血を流しているというのに優は映画のワンシーンの中にいる様な錯覚に陥り一瞬状況を忘れそうになる。
目が合うと優は我にかえり冷や汗が止まらなくなった、と同時におかしいくらいにドキドキして胸が痛い。
優はすぐにタクシーをつかまえて一緒に最寄りの大学病院へと向かった。
やっとのことで持っていたリュックに入れておいたタオルで傷を押さえてみたが、何をどうしていいか分からない。
相手の男性は携帯電話で会社に連絡を入れ、そのあとの電話でどこかの誰かと流暢な英語で会話していた。
隣で聞いていてあまりのかっこよさに加害者である事を忘れつい見惚れてしまった。
優は病院に到着するまで謝罪し続けた。
「大丈夫です」そう言って静かに目をふせた横顔が美し過ぎる。
病院に到着し救急センターで治療を受けてもらった。
相手は、この国でも有数の大企業「トヨカ」に勤めるビジネスマンだった。
洗練されていてどう見てもエリートにしか見えない。学生の自分とは何もかも違う。
手当が終わり、優は改めて謝罪した。
事故の処理と補償手続きは保険会社に連絡し全て委託したから事故処理は滞りなく終わりそうだ。
そして病院には事故の知らせを聞いた被害者の恋人が血相を変えて駆けつけてきた。
人目を惹く背がスラリと高いモデルの様なかっこ良さと品格を持ち合わせた男性だった。
しかも秘書まで連れていてセレブ感が半端ない。
事故を起こした優に向かって隠すことなく怒りを露わにし、優は身が縮む思いがした。
相手は堂々と恋人だと名乗り、優にずっと高圧的で優は小さくなるしかなかった。
反して恋人の彼にはずっと寄り添いあれこれ世話を焼こうとして少々迷惑がられていた。
二人はとにかく美し過ぎる同性のカップルだった。
事故から数日が経過しても優の頭の中は怪我をさせた相手の事でいっぱいだった。
早く忘れてしまいたいのにあの人の事が気になってどうしても忘れられない。
美しい顔が頭から離れてくれない。
激怒していたのは恋人の方で、当事者の彼は言葉数も少なくこの事故は不慮なことだと言って責められることはなかった。
でも怪我をさせられてどんなに迷惑だった事か。優の事など一刻も早く忘れてしまいたいと思っているに決まっている。何の非もない人を傷つけ痛い思いをさせてしまったのだから。
あれからどうだろうか?痛くて眠れなかったりしたらどうしよう。
優は保険会社に全て任せたのにどうしても気になって、彼の抜糸の日にわざわざ病院へ行ってみた。
抜糸の日はちゃんと病院に付き添った時に確認して把握していたから。そして抜糸を終え治療が終わった彼を待ち伏せて、改めて謝罪した。
もしも傷痕が残ってしまったらと思うと胸が痛くて仕方なくて自分が責任を取ってなんでもしたい気持ちになる。
相手は病院にいきなり現れた優を見て驚きが隠せない様子だった。
「傷跡が残るのでしょうか?」
優は心配で聞いてみた。
「わざわざ来ていただかなくても…」と困惑した様な顔をした。
心底心配して青い顔をした優に
「もう気に病まないでください。大丈夫ですから」そう言ってくれた。
腕を見た時、白く陶磁器の様な美しい肌に目が覚めるようだった。
この綺麗な肌に傷跡が残ってしまったらどうしようとすっかり落ち込んでしまった優に向かって
「私は男ですよ。それに若くもありません。傷跡なんて気にしませんから」と言ってふっと笑った。
笑った顔が可憐で温かい雰囲気もあって優の心臓にハートの矢がズバズバ撃ち抜かれた。
胸の高鳴りが治らなかった。
その人の名は「マリス」さんといった。
有名な一流企業であるトヨカ社の海外戦略室というところで室長を務めるエリート。
何よりも驚いたのは、彼の年齢。
なんと自分よりもひとまわりも年上の32歳だというのだから全く信じられない。決して幼く見えるとか童顔ではない。むしろ高貴な雰囲気すら感じる。年齢不詳な独自の可憐な美しさがあり、何よりも肌がピカピカで綺麗なのだ。優の周りには絶対にいない、見た事のない美しすぎる存在感。
この胸のときめきは大人の男への憧れかもしれない。
優は加害者の立場で、今後会う事など無い現実に苦しくて複雑な気持ちになった。
日が経てば経つほど会いたくて切なくてあの横顔が忘れられなくて精神が落ち着かない。
そんな優はついに心に決めた。
「僕は「トヨカ」へ入る。何が何でもマリスさんのいる会社に入社してみせる!」
本来就職活動は数社入社試験を受けるものだが、優はトヨカ社しか考えられなくなった。
優の父親はトヨカ社を目指し懸命に努力する優の姿を見て複雑そうだった。
入ってから、もしも同じ社内の上層部の人に事故を起こした事を知られれば心象が悪い。噂の的になるかもしれないし、相手の方だって嫌な思いをするに違いない、気味が悪いと思われるのでは?と心配した。でも優の揺るがない強い意志に反対も出来なくなった。
優はたとえトヨカに入る事が出来たとしても大企業ゆえにマリスさんに簡単に会えるとは限らないと重々承知していた。
ただあんなに美しく魅力的な人が働く会社で自分も働いてみたいと強く思い、同じ会社で働くというだけで興奮して嬉しいのだ。
優は短期で語学留学をしたり、内定に有利と言われるボランティア活動に精を出したりしてとにかくトヨカ社に入社するための努力を惜しまなかった。
友人達が皆驚くほど「トヨカに入る」という目標に向かって脇目も振らず一生懸命になった。
そして一年間の努力が実を結び優は難関の就職先であるトヨカに内定し無事就職が決まった。
内定通知を受け取った時は心から感動し、嬉しくて涙が滲んだほどだ。
春から晴れてトヨカの一員だと思うと心が躍った優なのであった。
自転車が異物を踏んだはずみでスリップしてしまい、運悪く信号待ちの歩行者にぶつかってしまったのだ。
ぶつかった相手は古い鉄製の立て看板で腕を切る怪我をした。
優が怪我をさせたのはネクタイ姿の若い男性だった。
「ま、まずは警察に連絡しないといけないんだっけ?そ、それよりも救急車呼ばなきゃ」
思わぬ事故を起こしてしまい冷静さを失い真っ青になりながら大慌てで携帯で救急車を呼ぼうとする優。
それに対して被害者の男の方が冷静だった。
白いワイシャツが破れ血が流れているのにかかわらず
「救急車は呼ばなくてけっこうです。タクシーで病院に行きます」
顔を上げ優を見てそう言った。
彼は美しすぎた…。
眉目秀麗という言葉がぴったりはまるあまりにも美しい男。
腕からは血を流しているというのに優は映画のワンシーンの中にいる様な錯覚に陥り一瞬状況を忘れそうになる。
目が合うと優は我にかえり冷や汗が止まらなくなった、と同時におかしいくらいにドキドキして胸が痛い。
優はすぐにタクシーをつかまえて一緒に最寄りの大学病院へと向かった。
やっとのことで持っていたリュックに入れておいたタオルで傷を押さえてみたが、何をどうしていいか分からない。
相手の男性は携帯電話で会社に連絡を入れ、そのあとの電話でどこかの誰かと流暢な英語で会話していた。
隣で聞いていてあまりのかっこよさに加害者である事を忘れつい見惚れてしまった。
優は病院に到着するまで謝罪し続けた。
「大丈夫です」そう言って静かに目をふせた横顔が美し過ぎる。
病院に到着し救急センターで治療を受けてもらった。
相手は、この国でも有数の大企業「トヨカ」に勤めるビジネスマンだった。
洗練されていてどう見てもエリートにしか見えない。学生の自分とは何もかも違う。
手当が終わり、優は改めて謝罪した。
事故の処理と補償手続きは保険会社に連絡し全て委託したから事故処理は滞りなく終わりそうだ。
そして病院には事故の知らせを聞いた被害者の恋人が血相を変えて駆けつけてきた。
人目を惹く背がスラリと高いモデルの様なかっこ良さと品格を持ち合わせた男性だった。
しかも秘書まで連れていてセレブ感が半端ない。
事故を起こした優に向かって隠すことなく怒りを露わにし、優は身が縮む思いがした。
相手は堂々と恋人だと名乗り、優にずっと高圧的で優は小さくなるしかなかった。
反して恋人の彼にはずっと寄り添いあれこれ世話を焼こうとして少々迷惑がられていた。
二人はとにかく美し過ぎる同性のカップルだった。
事故から数日が経過しても優の頭の中は怪我をさせた相手の事でいっぱいだった。
早く忘れてしまいたいのにあの人の事が気になってどうしても忘れられない。
美しい顔が頭から離れてくれない。
激怒していたのは恋人の方で、当事者の彼は言葉数も少なくこの事故は不慮なことだと言って責められることはなかった。
でも怪我をさせられてどんなに迷惑だった事か。優の事など一刻も早く忘れてしまいたいと思っているに決まっている。何の非もない人を傷つけ痛い思いをさせてしまったのだから。
あれからどうだろうか?痛くて眠れなかったりしたらどうしよう。
優は保険会社に全て任せたのにどうしても気になって、彼の抜糸の日にわざわざ病院へ行ってみた。
抜糸の日はちゃんと病院に付き添った時に確認して把握していたから。そして抜糸を終え治療が終わった彼を待ち伏せて、改めて謝罪した。
もしも傷痕が残ってしまったらと思うと胸が痛くて仕方なくて自分が責任を取ってなんでもしたい気持ちになる。
相手は病院にいきなり現れた優を見て驚きが隠せない様子だった。
「傷跡が残るのでしょうか?」
優は心配で聞いてみた。
「わざわざ来ていただかなくても…」と困惑した様な顔をした。
心底心配して青い顔をした優に
「もう気に病まないでください。大丈夫ですから」そう言ってくれた。
腕を見た時、白く陶磁器の様な美しい肌に目が覚めるようだった。
この綺麗な肌に傷跡が残ってしまったらどうしようとすっかり落ち込んでしまった優に向かって
「私は男ですよ。それに若くもありません。傷跡なんて気にしませんから」と言ってふっと笑った。
笑った顔が可憐で温かい雰囲気もあって優の心臓にハートの矢がズバズバ撃ち抜かれた。
胸の高鳴りが治らなかった。
その人の名は「マリス」さんといった。
有名な一流企業であるトヨカ社の海外戦略室というところで室長を務めるエリート。
何よりも驚いたのは、彼の年齢。
なんと自分よりもひとまわりも年上の32歳だというのだから全く信じられない。決して幼く見えるとか童顔ではない。むしろ高貴な雰囲気すら感じる。年齢不詳な独自の可憐な美しさがあり、何よりも肌がピカピカで綺麗なのだ。優の周りには絶対にいない、見た事のない美しすぎる存在感。
この胸のときめきは大人の男への憧れかもしれない。
優は加害者の立場で、今後会う事など無い現実に苦しくて複雑な気持ちになった。
日が経てば経つほど会いたくて切なくてあの横顔が忘れられなくて精神が落ち着かない。
そんな優はついに心に決めた。
「僕は「トヨカ」へ入る。何が何でもマリスさんのいる会社に入社してみせる!」
本来就職活動は数社入社試験を受けるものだが、優はトヨカ社しか考えられなくなった。
優の父親はトヨカ社を目指し懸命に努力する優の姿を見て複雑そうだった。
入ってから、もしも同じ社内の上層部の人に事故を起こした事を知られれば心象が悪い。噂の的になるかもしれないし、相手の方だって嫌な思いをするに違いない、気味が悪いと思われるのでは?と心配した。でも優の揺るがない強い意志に反対も出来なくなった。
優はたとえトヨカに入る事が出来たとしても大企業ゆえにマリスさんに簡単に会えるとは限らないと重々承知していた。
ただあんなに美しく魅力的な人が働く会社で自分も働いてみたいと強く思い、同じ会社で働くというだけで興奮して嬉しいのだ。
優は短期で語学留学をしたり、内定に有利と言われるボランティア活動に精を出したりしてとにかくトヨカ社に入社するための努力を惜しまなかった。
友人達が皆驚くほど「トヨカに入る」という目標に向かって脇目も振らず一生懸命になった。
そして一年間の努力が実を結び優は難関の就職先であるトヨカに内定し無事就職が決まった。
内定通知を受け取った時は心から感動し、嬉しくて涙が滲んだほどだ。
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