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第6話:新しい約束
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珈琲ショップ「タイムス」の空気は、先ほどまでの緊張が嘘のように柔らかくなっていた。リリスの涙を見て、兄と名乗った魔族の男は静かに席を立った。
「リリス、俺は一旦戻る。だが、これだけは覚えておけ。お前がどこにいようと、俺は必ず助けに来る。それが家族だ」
リリスは小さく頷きながら、絞り出すように答えた。
「ありがとう……兄さん」
その言葉を聞いた男は、短く頷くと店のドアを開けて外へと消えていった。冷たい風が一瞬吹き込んだが、それすらもどこか温かさを含んでいるように感じられた。
---
「家族か……」
ユアンがぽつりと呟く。リリスは涙を拭いながら、そっと彼を見上げた。
「ごめんね、ユアン。巻き込んでしまって」
「いや、気にするな。お前が本当に逃げたいなら、俺はそれを手伝うつもりだ。でも、兄貴が言ったこと……悪くないと思う」
リリスは少し考え込むように俯いた。彼女の中で、長い間消えることのなかった恐怖や不安が少しずつ薄れていくのを感じていた。
そんな二人に、リクが新しい珈琲を運んできた。今度は淡いキャラメルの香りが漂うラテだった。
「甘みを少し強くしてみました。この一杯は、新しい一歩を踏み出す時にぴったりですよ」
リリスはその香りに誘われるようにカップを手に取り、一口飲む。甘さとほのかな苦味が口の中に広がり、彼女の表情が少しだけほころんだ。
「……おいしい。優しい味」
「ありがとうございます。新しい味わいを楽しむ心があれば、未来は少しずつ変わっていきますよ」
リクの言葉に、リリスとユアンは顔を見合わせ、微笑み合った。
---
その日の夕方、リリスとユアンはタイムスを後にすることを決めた。旅を続けるのか、それともどこかに留まるのか、まだ答えは出ていない。だが、二人の心には新たな決意が芽生えていた。
「また来てもいい?」
リリスが店を出る前にリクに尋ねると、彼はいつもの穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「もちろんです。この店はいつでもお二人をお待ちしていますから」
ドアベルの音が鳴り、二人の姿が町の喧騒に溶け込んでいく。
リクはその背中を見送りながら、静かにカウンターを拭く。ふと棚を見上げると、使い慣れた珈琲豆の瓶が並んでいる。
「さて、次のお客様はどんな物語を持っているのかな」
タイムスの一日は、こうして静かに続いていく。そしてまた、新たな出会いがこの店を訪れるのだった。
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