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45話

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そう……まるで地獄絵図のようなその光景を見て察してしまう。何が起きたのか、誰が死んだのか、何をされたのかを。そんなことを考えながら立ち尽くしていると、男は突然崩れ落ちる様に倒れた。その姿を見た時に俺はやっと意識が戻ったような感覚を覚えたのだ。こいつがこんなに簡単に倒れる訳が無いのだから。そしてその死体を見て確信した、こいつは確実に殺したと。そこで思い出したのは、この死体が身に付けている装飾品が見覚えのある物だということに気付く。
こいつは確か劉岱とか言ったと思うがこの首飾り、間違い無く曹操から渡されたものだった筈だ。
やはり何かあったのだ、それもただの事件という訳ではないだろう。おそらく曹操は裏切ろうとしているのだ。この洛陽を攻めようとしている時点でそれは確定だ、呂布軍を裏切って董卓軍に付き、董卓軍の侵攻に加担して、呂布軍を滅ぼし、曹操が政権を取る、という計画なのだろう。それは理解出来るのだが何故今、このタイミングなのかが問題だ。今曹操がここで手に入れなければいけないメリットとはいったい何だろうか。それを考えなければ俺も下手に動くことは出来ない。もしかしたら曹操は既に動いていたのかもしれない、それで今が丁度いい時だと判断したのかもしれないし、呂布軍が動けなくなっているのは把握していて尚且つ今の呂布軍では袁紹と董卓の軍に勝てないと踏んでるから、ならばこちらに付いたほうが利口だと思っているのかも知れない。
確かに現状を見る限り俺に勝ち目はない。だけど曹操がこっちに寝返ってくれれば戦況は大きく変わる。それはこっちにもかなり都合が良かったのだがどうにもうまく行かない。だが今は俺のところに暗殺者がこないということはそれだけ余裕がない状況だとわかる、こっちも早く動きたいところだが……。と、その時再び袁紹からの伝令が入る、その内容は予想通りのもので、これ以上待たせるなら呂布軍の兵を殺すとのこと、更に呂布の妻と子供には人質としての効力があるとも書いてある。正直ふざけるなと言いたかった、こっちはまだこっち側の陣営を掴めていないと言うのにいきなり攻撃してくるとか意味が分からない。だがこれに従う以外道がないことはわかっているので俺は従うことにするが、一つ確認しておくことがある。もしも本当に殺すつもりで言っているのであればそれは交渉ではない。よって話し合いの余地はなく戦いしか選択肢は無いということになる。それに向こうの態度的にも本気で言ってる可能性の方が高いと思ったのである程度覚悟を決めて、戦場に向かった。すると、すでに戦闘が始まっていたのだ。これはさすがに手強いと思いつつも、このまま戦っても無意味な殺し合いが続くだけで時間の無駄なので、一旦俺の元に呂布軍を纏めてもらい、一度引かせることにした。その時にふと、劉備の方を見てしまう。
劉備は今俺のところに来てもいいくらいの気持ちでいるはずだ。しかしそれは俺にとっては大きな隙になる可能性もある、だから今はまだ劉備に頼ることはしなかった。それからは呂布と共に袁紹と張楊を相手に戦うことになってしまった。劉備も袁紹が裏切ったということを知らないまま、戦うことになったみたいだ。
とりあえず袁紹軍との戦いを呂布に任せることにした。
と言っても、こちらは俺が総大将だし、こちらの軍の数は多くない上に、敵の数も少なくない、はっきり言うと圧倒的に不利だった。呂布が一人で敵を引き受けてくれているが、それでも厳しい状態に変わりはなかった。
そんなことを思っていたら、徐栄将軍率いる董卓軍の援軍が来たのだ。援軍が来るのはありがたいけど、なんというか嫌な予感しかしない援軍でもあった。援軍が来てくれることはとても嬉しいんだけど、その援軍を率いてきた人物が、あの王允だったからである。
これは間違いなく何かあると確信したが……この状況であの人を止めるなんて無理に近いし、ここは任せておこう。
こうして俺の所にあの男が現れなかった理由を知ると同時に、いよいよ始まるのかと思っていた。ついに始まった反董卓連合との争い、これがどれほどのものかわからないけれど、負ければ当然終わりというこの戦い、最後までやり通すことが出来るように俺は願うばかりだった。
第十五話
英雄集結
時は少し遡り。呂布奉先と董卓軍の衝突とほぼ同時刻の事である。その頃長安にある都では不穏な動きがあったのだ。その動きの正体こそが黄巾党の残党を中心とした新たな勢力『天公党』である。そしてその中心人物とされている人物は李宝順、この人物こそ実は曹操の師であり、曹操の才覚と能力をいち早く見抜いていた人物であり、この世界では知る人は殆どいないものの正史の中では曹操にとって数少ない信用のおける人物であったはずなのだが、この世界線での彼は、曹操が皇帝になる事を諦めさせる為に様々な策略を用いて妨害してきた。そんな彼にとっては邪魔な存在の曹操に変わって新たに帝位に就き国を治めんと企てたのである。
もちろん曹操はそれを許す筈もなく何度も追い払った。その為この世界の曹操にとってもこの男は最大の障壁と言えるのだが、この世界ではこの男、自ら兵を率いて董卓討伐に乗り出すのであるが、そんな彼にはある秘密があり、それを曹操や賈駆、董卓らに知られることなく今まで隠してきたのであった。彼の本当の実力、いや本来の力と言うべきかもしれないが、それについては彼自身まだ完璧に引き出すことが出来ていないというのが事実であって、実状を言えばそこまで脅威でも無ければ恐ろしい程の戦闘能力を持っている訳でもない。あくまで普通の人間の領域に立っているだけに過ぎないのだが彼が恐るべきはその頭脳でこれまで多くの計略を駆使して来た。それによって幾度も曹操と互角の戦いを繰り広げていたのだったが、今回の作戦においては完全に優位に立つことが出来たと踏んでいたので自信に満ち溢れている様子だが……。そう思っている間に曹操が兵を率い城を出たことを確認すると自身も出て行く準備を始めたのである。
しかし、その行動は既に呂布軍によって知られていた為すぐに捕まってしまうことになる。そうして連れていかれた場所は牢獄の中でも特に頑丈に作られているところだったので逃げ出そうとも簡単に出来ないような造りになっていて万全に対策をしていることがわかる。そこに放り込まれたことでようやく自分の策が全て潰されたことを理解するのだが、それでも諦めず、この危機を脱する方法を考えるのである。この牢に見張りはいないようだが、いずれ他の者がここを訪ねてくるだろうし下手に動くことは出来ないのだが。しばらく考えた末に閃く、自分が直接曹操に勝負を申し込むというものを思いつくのだが。それで上手く行くとは限らず寧ろ曹操に一蹴されて終わってしまう可能性のが高いとわかっていてもその方法が最も手っ取り早い方法であると判断し実行するのであった。
こうなってしまってはもはやどうしようもない、自分ひとりでなんとか出来る問題ではないことは理解していた。それでも足掻いてはみた、もしこれが成功する確率が一番高い手段だという事に気づいたからだ。それにこの策なら失敗しても自分が死ぬことは無い。むしろここで死んだほうが都合の良いのではないかとも思える程だったのだ。そこで彼は自らの力を過信してしまった。呂布軍が自分をあっさりと捕らえたことで完全に調子に乗ったとも言えるかもしれない。そもそもこんなことを企んだこと自体が自業自得と言っても良かったのだ。確かに自分は優れた軍略家であることは間違いないし、天才軍師といっても良いほどの人間でもあると自覚はしているつもりではあるが、やはり所詮はまだ十代の若造にすぎないということを思い知らされる羽目になってしまったのだった。
こうして捕らえられて何日か過ぎていくうちに李典という曹操の軍師がやってきた、この男は自分の軍について語ることはあまりないのだが非常に頭が良くどんな情報にも精通していることを知っているためその言葉に聞き入っていた。そんな男が自分に何を話してくるのか楽しみでもあったが、同時に怖さもあるのだと感じるようになっていったのだ。
話の内容としては簡単なことだった。このままではあなただけでなく自分も助からない可能性があることとこれから先の展開などを説明しに来たのだった。
それは当然予想出来た内容でもあったので驚きはない。そして彼はついに呂布軍に降伏する事を決めた。しかし彼は最後まで抵抗を見せる為にこの場からは立ち去らないことを宣言するのである。しかしそれは逆に言うとこれ以上の無駄な血が流れずに済む、ということになるのだ。呂布はそれを承諾した。
その後李宝順は投獄されることとなる。しかしただ投獄されるのではなく、そこには監視役として李粛がつく事になった。
呂布はこの機会を利用し洛陽にいる帝を連れて長安に逃げようと考えていたが賈駆は反対していた。
「あんたはあの男の強さを知らないからそんなこと言えるんだよ!今のままじゃとてもじゃないけど勝てる相手じゃないわよ!」
呂布はいつもより強く言われるのを感じつつも反論せず、黙って聞くことに徹していたが、彼女はこう言いたいことも分かっていた。李粛は決して馬鹿ではないが、決して優れているわけでもなく李儒と比べると遥かに劣るという事も分かっている、しかも彼個人の能力ではなく、あくまでも黄巾党の中でも上位の能力を持っている、という事だけであるので董卓軍全体の中では下の下に位置する人物であるということはよく知っていたので呂布は何も言わなかった。
李粛と董卓との会話で今後の方針を話し合っていた。しかし董卓は皇帝である李氏を呼び寄せる為に都に向かおうと考える。その為呂布達には兵の準備をして貰う為に董卓達は都へと向かった。しかし都に向かうと、そこにいた人物を見て愕然とすることとなる。
董卓が見据えている視線に先には皇帝の姿があったのだ。呂布達がこの場に到着する少し前のこと。この日の都は非常に騒々しい雰囲気となっていた。理由は一つしかない、突如長安の方角へと向かい走り出した騎馬兵が現れたからだ。この兵は張遼であり、彼の率いる軍は凄まじい勢いと速さを持ってこの国の皇帝がおわす場所を目指して進んでいった。その数はわずか数百の兵であったがそれでもこの国最強の兵士であることは疑いの余地がない、それほどの力の差があったはずなのだが……突然現れた人物により一瞬にして壊滅させられてしまう事になる。それこそが皇帝の乗っている馬車の前にいる人物であった。そう、天公党の首謀者とされている人物であり李姓を名乗っているが実際には違うのだがその名前も既に広く知られている。何故ならばこの人物が曹操や劉備が知っている世界線においては、正史にて語られているように『天下の英傑』、『当代無双の大器』と呼ばれ、曹操よりも優れた能力を持つ人物であり曹操を圧倒していたはずなのだが……。それが何故かこの世界では全く違った評価を受ける事になってしまう。
本来であればこの時代でも屈指の猛将として名を轟かせていてもおかしく無いはずの実力を持った漢の武将だとしても曹操はその力を軽んじたり侮ったりすることは無かった。呂布であっても警戒心を強く持ったほどなのに李典はそれすらしなかったのだが、目の前にいるのは呂布とは比べ物にならないほどの力を有していることが一目でわかるほどだった。
曹操にとっての誤算はその男の外見があまりにも異質であるということにあるだろう。その男が見た目が若いという点については曹操も納得が行く部分があるのだが。その男が曹操に向かって襲いかかってきた時はさすがに焦りを覚えたのだが、それは完全なる油断だったと曹操はすぐに理解することになった。男はいきなり剣を振り下ろすようなことはせずにまるで曹操に問いかけるかのように言葉をかけてきたのだから。この時すでに曹操は自分の過ちを理解していたが、それを修正出来るほどの時間は残されていなかった為、すぐに次の策に移行するべく頭の中で思考をまとめ上げることだけに集中していたのだが、その答えが出終わる前に自分の身体に強い衝撃を受けてしまい、地面に膝をつけざるを得なかったのだ。その時の曹操はまだこの男が何者で自分が何をされたのかが把握出来なかったが、視界の端で見た時にようやく自分が斬られたことを知る。そうしてようやく自分が罠にかけられたのだという事に気付くものの遅かった。李粛も呂布と同じように馬を走らせて来たはずだったが間に合う訳もなかったのだ。
こうして戦いが始まった、いやその直前とも言える段階で李蒙は殺されてしまっておりこの時点でもうこの戦いは負け戦であることが決まったようなものである。しかし、ここで敗北を認めるのが呂布ではない。ここで負けを認めてしまった時点で呂布は終わりである。たとえこの場で殺されたとしてもそれは運命なのである、受け入れなければならないものなのだ。しかし、今の呂布はそういう考え方は持ち合わせていない、だからこそここまで勝ち続けてきたのだと言えるのだが、その反面こういった事態になった場合にどう対処すれば良いのかが分からないと言う弱さを抱えているのだった。
呂布は自分の強さを知っている、だがそれと同時に相手の戦力を全く分かっていないことも自覚しているつもりである。今、正面から戦った場合果たしてどれだけの時間耐える事が出来るだろうか?もし戦うのであれば確実に先手を打つことが必須条件となる。それも相手が動き出してからでは遅すぎる、初動の時点でどうにかしなければならない、と呂布は自らが置かれている立場をよく考える様にした時、一つの疑問が生じる事になった。そもそもあの男はどうやってここにやって来たのかという事についてである。確かにあの男の馬術はかなりのものだという事は認めるにしても、長安までたどり着く事がどれほど至難なことなのかということを知らない者は居ないと言っても良い。実際に張遼自身もかなりの強行軍を行って来ていたので疲労の色は隠せてはいないし、何よりも馬の扱いに長けている賈駆も険しい表情を見せているのを見ても分かることである。しかも、あれだけの騎馬兵で移動していたにもかかわらず、李粛の兵と接触する事もなく一気にここまで到達出来ているという事を考えると、やはり何らかの方法で先回りをしていたとしか考えられない。だとするとあの男一人でやってきたとでも言うのであろうか。まさか、そんなことがあるはずが無いではないか。李粛の言葉を疑った訳ではないが、流石の李粛もこの規模の兵を都にまで送り込む程の力は持っていないだろうと思っていたのであるから当然の判断と言えよう。呂布軍だけで二万人近い兵が現在長安には滞在しているが李粛にはそこまで大量の兵は集められないという判断を呂布軍の中でも董卓軍と親しい者達は行っていた。ただ単にこの国の人間であればそれ程苦労することなく集められる程度の兵数に過ぎないというのも事実だったがそれだけの事を理由に呂布軍に勝てると考えているという理由にはならないはずだろうというのもあるのだ。特に袁紹などはこの事を聞いて怒り狂う可能性の方が高いぐらいだと思われるのだが……それが現実になってしまったということになるらしい。
とにかく、今は目の前にいる謎の敵兵に対して対応しなければならないのだ。おそらくあちらの目的は自分なのだから逃げる必要は無いのだが、この都の治安は悪いとは言えないが万全とも言えない状態にある、つまり街の中にいるよりは外で戦闘を行った方が多少なりに被害が少なくて済むはずだ。その為呂布も李粛達もすぐに迎撃に移る。呂布達はすぐに隊列を組み直したが相手はそれをあざ笑うかのように突っ込んでくることは無かった。その代わりに槍の柄を使い、地面を強く打ち付けた音と共に、呂布達の足を止めてしまうのである。
それはたった一度の攻撃によって生まれた衝撃波であり単純な腕力だけの力で作り出した一撃でしかなかったが、その威力の高さだけは凄まじいものがあることを嫌でも理解させられるほど強力なものであった。
それはこの男が自分の部下や仲間である李粛や賈駆を守る為に行動に出た結果でもあるのだが。呂布はその隙を逃さず戟を振るおうとするが、この男は見た目通りの年齢ではなく相当な歳だと思われるにも関わらず、見た目以上の速さを持って呂布の行動に対応するのである。
それでも呂布は遅れをとることはなく、一瞬にして間合いへと飛び込むことに成功しその勢いのまま渾身の力を込めて斬りかかるものの、その剣を素手で掴み取ることで受け止められてしまい、そのまま振り回されるような形で飛ばされる。その時に生じた余波だけでも呂布の軍馬は大きく吹き飛ぶことになるのだが、幸い落馬するような者はいなかったがそれはあくまでも幸いだと言い切ることが出来る。その程度で済んだのはこの攻撃が呂布に向けられて放たれていたものだったからだ。もしそうでなかった場合呂布の部下も、そして呂布自身でさえどうなっていたのか分かったものでは無かった。
見た目通りの腕力でしかないとしてもこれだけの力を持っているのだ、それに馬に乗っていてすらこうやって簡単に弾かれる様な感覚になる呂布にとっての常識を覆すような怪力を、ただの兵士程度では太刀打ち出来るようなものではない。
呂布が体勢を立て直す前に男はそのまま次の行動に出るところだった。男が何かを口にするとその口の前に光が集まる。それはまるで呂布達が使っている氣に似ているように感じられたが、明らかに異なる性質を持っていたのだ。光が集まれば集まっていくごとに、呂布が使っていたものとは明らかに質が異なる気がしたのである。そしてそれが完全に集まったところで光は呂布の方に向けて撃ち出された。それは先程の技と同様に圧倒的な破壊力を発揮し呂布の軍の中を突き抜けて行った後に、大爆発を起こし、大地に大きな亀裂を生みその衝撃で周囲に存在する物をことごとくなぎ倒していくほどのものだった。
もちろんそれを見ていた李粛もその攻撃を食らう訳にはいかないため、馬を駆けさせる事で何とかその場を離れようとしていた。そのお陰で直撃を避けることは出来たが爆風に巻き込まれてしまいその身体を大きく跳ね飛ばす事になる。李粛自身も受け身が取れない状態だったために地面に身体を叩きつけられてしまうが、どうにか意識を無くすことはなかったようで立ち上がることが出来ている様だ。しかし、それがどれほど奇跡に近い事かというのは呂布もよく分かっていたので、急いで立ち上がろうとする李粛を制止し賈駆の元へと走らせると自分もまた別の方へ走ったのである。今賈駆を失うことは出来ないし、ここで李蒙を殺した相手に追撃を加えると言う事も出来ないと判断したからである。それに今賈駆を失い混乱した軍を指揮する事が出来る人間は董卓を除けばこの場では張遼しかいないと言う事を十分自覚しているからでもあった。
張遼にも軍師としての仕事はあるが張遼一人で全てを把握しきれるようなものでもないし、なにより戦場での状況を瞬時に読み取り臨機応変に状況を変化させるのも張遼の得意分野なので、張遼を手離して良いとは呂布自身も思っていない。そもそもあの男ともう一度戦う事になった場合に勝つ事を考えるならどうしても張遼が必要になる事は間違いない事なのだから。
ただ気になっている事が一つあるとすれば、なぜあのような攻撃をわざわざ繰り出してきたかという事である。単純に呂布を殺す為だけに攻撃してきたとは思えない。あれが本命ではないと考えるべきであろうが、呂布に対する攻撃であった事に意味があるのではないかとも考えられる。つまり呂布さえ殺せばあとは何人死のうが何万人殺されようが構わないと言った考え方をしているか、あるいはそこまで呂布を追い詰める必要があると考えた方が良い。だがそれだと今度はここまでやってきた目的自体が分からない。どちらにせよ呂布を狙うのであれば張遼は確実に狙ってくるはずであるのだからそちらの対処を考えなければならないのだが、問題はそれだけではない。今の一撃によって敵兵の中にはかなりの負傷者が出ているはずなのにまだ戦闘を続行するつもりのようだ。しかもそれに加えて敵兵の中からも武器を持ったままの敵兵が出てくる事があったのだ。こちらはこちらの軍を再編するために兵を割かなければいけないのであるが、そこに新たな兵が加わって来ることになるので正直なところかなり厳しい戦況になって行くものと思われる。
こうなるまで敵の狙いを予測できなかったのは呂布のミスだと言っていいのだが、それにしても相手が想定していた以上に強い存在である事は確かなことだと思われるのである。
(こんな相手、どうやって対応すれば……)
その時ふとある男の姿が頭に浮かんだ。以前呂布が戦ったことのある武将であり、今では都の一将軍でありながら一部隊を任される立場にある人物。そう考えてみればこの戦いの状況はかなり似通っている部分があるとも言える。つまり、曹操軍にこの都を守る呂布達が似ていると言うよりも、都を襲おうとしている賊徒の中にいる謎の男が曹操軍に、と言うより呂布に対して強い敵意を持っているのかもしれない。
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