ひだまりのFランク冒険者

みなと劉

文字の大きさ
90 / 356

91話

翌朝、ギルドの扉を開けると、昨日のあの「きわどい鎧服」を巡る狂騒劇が嘘だったかのように、いつも通りの快活な空気が流れていた。
「見てくれよ、この新しく新調した盾! 奮発したんだぜ!」
「うお! すっげーじゃん! それなら次の遠征も安心だな」
そんなやり取りを横目に、掲示板の前では「毒消しを多めに持っていくべきか」「こっちの調査依頼の方が実入りがいいか」と真剣に悩む冒険者たちの姿がある。リルドはそんな彼らの間をすり抜け、いつものように端っこの依頼札を二枚、そっと剥がした。
「おはよう、受付さん。今日はこれに行ってくるよ」
「おはようございます、リルドさん。はい、『薬草採取』と『ウルフの調査』ですね。薬草の方はいつも通りですが、ウルフについては、最近なんだか群れ全体がそわそわしているという報告が相次いでいるんです。気性が荒くなっているわけではないようですが、念のため気をつけてくださいね」
「そわそわしている? ……(ふふ、そろそろ産期が到来する時期だものね、きっとそれじゃないのかな?)」
リルドは心の中で見当をつけながら、軽やかな足取りでギルドを出た。
森での採取と再会
まずはいつものように、森の入り口で薬草を摘んでいく。リルドが指先を動かすたび、籠の中には瑞々しい緑が積み重なっていく。
採取を終えた彼は、さらに森の奥、ハイウルフたちの縄張りへと足を進めた。
かつてあらゆるスキルツリーを埋め尽くしたリルドにとって、魔獣と心を通わせることは造作もない。彼は「魔獣言語」を使い、森の奥に向かって優しく呼びかけた。
「やあ、みんな。少しお話を聞かせてくれるかな?」
すると、茂みの奥から銀色に輝く毛並みのウルフたちが姿を現した。彼らはリルドの姿を認めると、警戒を解くどころか、親愛の情を込めて鼻先を擦り寄せてきた。
「(……やっぱりね。新しい命が生まれる準備をしているんだね)」
ウルフたちはリルドに、もうすぐ群れに新しい家族が増えること、そしてそのために少し神経質になっていたことを教えてくれた。リルドは「おめでとう」と伝え、彼らの体調を「鑑定」で確認してあげると、持っていた保存食の干し肉を少しだけお祝いに分けてあげた。
夕刻、リルドは満足げな表情でギルドに戻り、受付へ報告書を出した。
「ただいま、受付さん。調査の結果だけど、ウルフたちがそわそわしていたのは、もうすぐ新しい命が生まれるからだよ。特に危険な兆候はなかったから、安心していいと思うな」
「おかえりなさい! ……えっ、産期ですか!? そんなことまで分かったんですか? 確かに、時期を考えれば合点がいきますけど……」
「うん、みんなとっても幸せそうだったよ。だから、しばらくは彼らの縄張りに近づきすぎないように、ギルドからも伝えてあげてね」
受付嬢が「リルドさんは本当に魔獣と仲良しなんですね」と感心して記録をつける中、リルドは報酬を受け取った。
「さて、僕も今夜は、新しい命の誕生を祝って、美味しいミルク粥でも作ってゆっくりしようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、森の家族の喜びを自分のことのように感じながら、穏やかに更けていく。
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏スキルで最強異世界攻略~異世界召喚されたのだが、勇者じゃないと追い出されたので新しい国を造りました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
いつものようにヤンキーに絡まれて逃げていたら、いつの間にか異世界召喚されてました。でも、スキルが『農民』しかなかったから、いらないと追放されました。 エブリスタ、カクヨム、ノベリズム、ノベルアップ、小説家になろうにも掲載しています。

『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。 そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた! 畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり
ファンタジー
 異世界に突然迷い込んだ主人公は、目の前にいた人物に何故かぶぶ漬け(お茶漬け)を勧められる。  そして、自身を神の補佐である天使というその人物(一応美少女)に、異世界について教わることに。  それから始まった異世界での生活は、様々な種族や立場の(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。  そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。  異世界に迷い込んだ主人公が、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。  山も谷も大きくなく、話の内容も比較的のんびり進行です。 現在は火曜日と土曜日の朝7時半に投稿予定です。 感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです! ※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様にも投稿しています

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。 ※71話を少し修正しました。3/16