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百八十話

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どうやらサタンは昔は別の世界で暮らしていたらしい。だけどある日を境にここに現れた。そして自分と同じようにこの地に召喚されてきた人物に会い、仲間になったという。そしてその後、そいつと二人で色々な場所を旅して回っている途中でその人物に裏切られ殺された。そして気が付けばこの地にいたんだという。それを聞いて疑問を覚えたので尋ねてみた。
「じゃあその人物を恨んではいないんですか?」
それを聞くとサタンは笑って答えた。
「ああ、確かにそいつは許せない。だがそれよりも、その人物の境遇の方が可哀想だからね。」
その言葉を聞き、少し考えた後で今度はこう尋ねた。
「サタンさんから見てそいつはどんな奴でした?」と尋ねるとサタンは
「そうさねぇ……」
と言って暫く悩んだ後、こう答えた。
「……簡単に言うと、誰よりも孤独だったんじゃないかい?ただの同情かもしれないけれど、そんな風に思えたんだよ。」
とだけ語ったのであった。……そして一時間ほどかけて色々聞き終わったところでサタンとの別れが訪れた。
「さて、もう話すことは大体話してしまったかな。これで私の知っている事は全て教えたと思う。あとはこれを読んでみて欲しい。そうすれば何かしらのヒントくらいは掴めるはずだろう。」とだけ言って黒い本を渡してきたのでそれを受け取ると礼を言う。
「助かりました。有難く読ませてもらいます。」
そして最後に
「それではまたいつか会いましょう」
と告げるとサタンは消えていった。
それを見送った後で魔王城を出て帰宅している途中にふと気が付いた事が合ったので調べてみることにした。
「あれ、これってあの時貰ったやつだよな?」
サタンと話している時に渡してきたもの、それはこの世界にきた初日に魔王城に呼び出された原因となった謎の紙切れであり、その時は読めなかったが今は何故か読めるようになっていることに気が付く。
【この文字は貴方にしか読むことが出来ないようにしています】
そこにはそう書かれていた。……どういうことだろうか。
試しに弟にも見せてみてはどうかと聞いてみると首を横に振られたので無理だということが分かる。……仕方ない、家に帰った後にでもゆっくり考えてみるとするか。
そう思いながらも足早に帰っていった。
◆ 自宅に着いてすぐ、自室に入ると机の上に例の手紙を置いてじっと見つめながら考える。
「そういえば前に読んだ時は気付かなかったけど、よく見ると俺の名前っぽいものが書かれてるよな?確か……ジャックだっけ?なんでジャックなんて名乗ってたんだろうか?」
手紙を見て思い出そうとするがどうしても出て来ないので諦めると次に内容を見ていく。
まず最初に書いてあった文章がこれだ 【ジャックへ お前はこの世界の真実を知る必要がある。これはその一歩となるものだ。今から記す事をしっかりと読むと良い。そうでないと恐らく理解出来ないであろうからな。……まず初めに、ここは別次元に存在するとある世界であるということを念頭に置いてもらいたい。
ここが我々の住んでいた地球とは違う世界であることは分かっているとは思うが、その理由としては先程説明した負の力……つまりは殺意や悪意と言ったようなものが関係してくる。これらが様々な形で蓄積された場合、ある一つの結果を生むことがある。それが所謂"魔物が生まれるきっかけとなり、そして同時に魔王が誕生する要因にもなるのだ。ここまでの説明で何となく察しがつくかと思うが、そう、魔王というのは元を辿れば負の力によって生まれた生命体ということになるのだよ。そして魔王を倒すためにはそれらを生み出す源……即ち魔王の核を破壊することで倒すことが可能となるが、それが何なのかという事は今の時点では教えることは出来ない。しかし、もしこの世界を救うつもりがあるならば覚悟を決めることだ。……さてここからが重要な点になる。負の力はどこの世界であっても存在するもので、負の力をエネルギーとして存在している生き物がいるということを既に伝えてはいたが、ここで改めて伝えておくことにする。……それは悪魔と呼ばれる生物だ。彼らは負の力が具現化したものであり、基本的に人間以外の動物であれば全て殺すことが出来るとされている。しかもそれだけでは飽き足らず人間ですらも殺し尽くしてエネルギーにしてしまうとんでもない連中なのだ。故に、彼らと戦う際は注意が必要だぞ。
さて、ここから先は貴様自身が知る必要があるだろうから追記しておくが、実は奴らは非常に高度な魔法を使ってくるのだが、奴らはそれを自分の身体の一部を犠牲にすることで使う事が出来るようになるのだ。そしてそれを魔族や人間などに対して使ってくることになるだろう。もしもそういう場面に出くわしたら躊躇わずに破壊する事を勧めるぞ。】……読み終わった瞬間に嫌なことを思い出してしまった。あいつらが使っていたあの攻撃は間違いなくあの悪魔のものだったのかと思い出したからだ。というかそもそもこんなことを普通に書いていたりするということは、俺の目の前に現れた魔王を名乗るあの謎の存在はやはり奴らの仕業だったと考えて間違いないだろう。だとすると、一体何の目的があってあんな事をしていたのかという疑問が出てくるわけだけど……。
そしてその疑問について考えている内に、つい最近起きた出来事をいくつか思い返す。……そしてまさかと思ったところで、一つの可能性に気付く。
百八十話完
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