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16話

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それを聞いて相手の女性は驚く様子を見せなかった。
まるで知っていたかのように平然とした顔つきで聞いてくる。
「なあ、何故自分がそのような身体になったのか、分かるか?」
「いいえ、私は何も知りません……」
ミリアの言葉を聞きながら相手は続ける。
「ならば、その力のことも?」
それを聞いてミリアの鼓動が速くなっていく。その様子を察してか、相手はさらに続けた。
「どうやら、自覚しているみたいだな」
それを聞いて、ミリアは観念するように小さく呟く。
「はい……」
「なら、教えてくれるか?」
「……」
ミリアは無言のまま俯いていた。そしてしばらくの間、部屋の中には沈黙が訪れる。やがてその女性はミリアの様子を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「無理強いするつもりはないが、いつかは知ることになるだろう」
それを聞いてミリアはようやく決心がついた。そしてその重い唇を開く。
「私は……」
ミリアが言いかけた時、部屋の扉が開かれた。
「あ……」
入ってきた人物は先程の二人組の白衣の男だった。どうやらギルバート達を尾行していたらしく、彼らがここへ辿り着いたところを見ていたらしい。
「まったく、貴方は余計なことをしてくれる」
「申し訳ありません」
「もうよい、それより彼女が起きた」
そう言われると若い男はミリアの方に歩み寄り、笑顔で話しかけてくる。
「やぁ気分はどうかな?まあまあいいか」
それに対してミリアは何の反応も示さなかった。
「あれ?おーい聞こえてるかい?」
目の前で手を振る男をしばらく眺めた後、ミリアは小さな声で答える。
「……私を攫ったのは、貴方ですか」
「ん?いや、違うよ。僕じゃない」
「嘘です」
ミリアがはっきりとそう言うと男は意外そうに目を丸くする。だがすぐに笑顔で言った。
「どうしてだい?」
「だって、さっきギルバートさんと話していた人の声に似てました」
「へぇ、よく見てたね」
そう言いながら若い男は顎に手を当てる。そして何か思いついたように話し出す。
「もしかして、君は彼の知り合いなのかな?」
「いいえ」
ミリアの返答を聞くと、彼は楽しげに笑みを浮かべた。だが次の瞬間には真顔に戻る。そして少し間を置いてから尋ねてきた。
「ところで君の名前は何ていうんだい?」
「ミリア……ミリア・ワローウェルです」
それを聞いた途端、相手の男の態度が変わった。
「なるほど……君が例の娘か」
ミリアはそれを聞いて首を傾げる。
「例の……?」
すると突然、後ろから肩を掴まれた。
振り返ると、そこにはもう一人の白衣を着た男が立っていた。
すると突然、後ろから肩を掴まれた。
振り返ると、そこにはもう一人の白衣を着た男が立っていた。
「まさかとは思うがお前、我々について知っているんじゃないだろうな」
「……」
それを聞いてミリアは何も言わなかった。ただじっと見つめ返していた。その目を見た二人は少し動揺し始める。
「おい、こいつはいったい何を言っているんだ?」
「分かりません……だが妙に不気味ですね」
二人の会話が終わるのを待ってからミリアは答えた。
「……知っています。私が何者かということを」
「なっ……!?」
「……!」
ミリアの発言を聞いて相手は明らかに狼惑していた。すると、それまで無表情で見守っていた女性が口を開く。
「貴様らは、どこまで事情を知っている?」
「そこまで詳しくは知りません。だけど、貴方たちが半妖を集めているということは、分かってます」
「ふん、やはりな」
女性は少し感心したように息をつく。
それから続けて質問をした。
「なら何故、ここにいる?私達の目的を知ってなお、逃げようとしないのか?」
その言葉を聞いてミリアは俯き、顔を伏せてしまう。それを見た女性はため息をついて再び尋ねる。
「何故だ?」
だがそれでもミリアは答えない。だがしばらくすると、ぽつりと言葉をこぼす。
「それは、私がハーフエルフだからですよね」
「……それが理由だと?」
「……はい」
それを聞いた女性は眉間にシワを寄せた。そして少し苛立ったように舌打ちをする。
「そんな理由で、自分の命を捨てるのか?」
「……え?」
それを聞いたミリアの心臓の鼓動は速くなる。だがそれを気にせず、彼女はさらに続けた。
「半端者とはいえ、貴様は吸血鬼の血を引いているのだぞ?」
それを聞いたミリアの呼吸が乱れ始める。
(なんで……その事を)
ミリアはその事実を隠し通してきた。
だが彼女の言葉によって、それは無駄に終わる。
それを見た相手は確信を得たかのように呟いた。
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