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29話

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(あれはティナちゃんじゃないか!)
視線を向けるとティナが見知らぬ男子学生と二人で歩いていたのだ。
「……なぁ、本当に行くのかよ」
ティナの隣にいた男子が困惑気味に問いかける。
「はい。もちろん行きます」
それに対してティナは迷いのない口調で答えた。
すると、隣の男は諦めたような顔を見せる。
アルフレッドは二人に近づくと声をかけた。
「やぁ、こんにちは」
すると、驚いたような顔をしてこちらを振り向く。
「あ、アルフリード先生!?」
突然の来訪者に二人は戸惑いの色を隠せない様子だ。
そこでアルフレッドはあることを思い出す。
(そうだ、確かティナちゃんと一緒にいた男の子……どこかで見た覚えがあったんだけど……)
彼は必死になって記憶を探る。
やがて、思い出した。
そう、以前廊下で倒れそうになったところを助けた学生だ。そして、ティナが話していた人物でもあった。
(まさか、彼氏がティナちゃんの言ってた相手だったなんてね……)
偶然の出会いとはいえ、驚きである。しかし、今は考えている暇はない。
アルフレッドは気持ちを切り替えると、早速本題に入ることにした。
「ねぇ、ティナちゃん。少しいいかな?」
「えっと、何でしょうか?」
不思議そうな顔をして尋ねる彼女に対し、アルフレッドは何食わぬ態度でこう告げた。
「ちょっと君の婚約者に会いに行くから案内してくれる?」
「こ、ここがその人のいる部屋なんですか?」
ティナが恐々としながら呟いた。無理もないことだ。なにせそこは――校長室の前なのだから。
「うん、間違いないと思うよ。ティナちゃんの恋人さんの名前は知っているのかな?」
「はい、一応……」
彼女は不安げな表情を見せながら答えた。
「なら話は早いね。じゃあ、中に入ってみようか」
「えっ、ちょ……待ってください。私、その人に合わせるつもりは……」
アルフレッドは強引に腕を掴むと扉を開いた。
そのまま入ろうとするが――
「ま、待ちなさい」
突如、扉が開き誰かが現れた。どうやら先回りして待ち伏せていたようだ。彼女はティナの顔を見ると、嬉しそうに声をかける。
「ティナ、来てくれたのですね」
ティナはその言葉を聞くと申し訳なさそうに目を伏せたが、すぐに顔を上げると毅然とした表情で応じる。
「えぇ、約束だから……」
彼女の言葉を聞き、アリシアは満足そうに微笑むと、今度はアルフリードの方へと視線を移した。
「あなたは誰です? 一体ティナをどうするつもりなのですか?」
「い、いえ……私達は別に怪しい者では……」
鋭い眼光を浴び、彼は慌てふためくが、彼女は納得しないといった様子で問い詰めてくる。
「何を言っているんです! そんな嘘が通じると思っているんですか? それに私はあなたの顔を覚えています。一度しか会っていないはずなのに……」
彼女の言う通りアルフリードにはアリシアとの面識がない。
「あの時の私はまだ変装をしてませんでしたからね。仕方がないですよ。それよりも早く質問に答えてくれませんか?」
アリシアは困り果てると、ティナに向かってこう尋ねた。
「ティナ、本当のところこの人はあなたの知り合いではないんですよね?」
「えぇ、もちろんよ。彼が何者かわからない以上、答えるわけにはいかないけど」
ティナの言葉を受け、アルフレッドも同意見だとばかりに首肯する。しかし、それは裏目に出た。
彼女の言葉を聞いた途端、二人の態度が変わったのだ。特に男性の方は、敵意剥き出しの態度を露わにした。
(しまったな……これじゃ、まるで私が悪役みたいじゃないか……)
こうなっては事情を説明しない限り、話し合いに応じることはないだろう。
(仕方ないか……ここは大人しく引き下がるしかないね)
「すみません。失礼なことを聞いてしまいました。私達が勘違いしてしまっただけみたいなんです」
アリシアが素直に謝罪すると、ティナがこう続ける。
「とにかく今日は帰ってもらえるかしら。明日になればきっと彼も落ち着いてくれるはずだから」
「……わかりました。今回は出直すことにします」
アルフレッドは小さく頭を下げると、ティナと共に立ち去ろうとした。
しかし、すぐに足を止めた。
何故なら、ティナが急に倒れたからだ。慌てて受け止めようとするが、既に遅かった。床に倒れると同時に意識を失ったのである。
一方その頃――
アルフリードの研究室にて――
「ふぅー……今日は一段落ついたな」
彼は一息つくように伸びをすると、ティナ達の元へ向かおうと席から立ち上がる。
だが――
コンコンッ ノック音が響き渡った。どうやらお客さんのようだ。
(誰だろうか?)
不思議に思いながらも扉を開ける。すると、そこに立っていたのは見知らぬ女性であった。
年は自分より少し下ぐらいか――綺麗な金髪をした少女である。だが、何故かこちらを見つめたまま固まっている。
(もしかして、僕に一目惚れでもしたのかな)
などと呑気なことを考えていたが、すぐに違和感を覚えた。そう、目の前の少女に見覚えがあるような気がしたのである。
「あれ、君ってもしかしてティナちゃんと一緒にいた子じゃない?」
アルフレッドが尋ねると彼女は驚いたような顔を見せた。
「えっ、何でそれを!?」
やはりそうだ――確信した。
そこで、ようやく思い出す。
(あれ、この子は確かティナちゃんが言ってた男の子の友達だよね)
名前は確か……。
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