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31話
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彼女はアルフレッドを部屋のソファーに寝かせると、その隙に窓から抜け出した。
その後、急いで屋敷を出ると、そのまま近くの物陰に隠れる。そして、しばらく時間が経つと、アルフレッドが出てきたところで鉢合わせるように姿を現した。
「大丈夫ですか?」
彼女は心配そうな顔で尋ねる。
「えぇ、なんとかね……」
アルフレッドはお腹を押さえながら弱々しく笑みを作った。
「それにしても酷い目にあったよ。あいつ僕のことを暗殺者に仕立て上げて……本当に危なかったな。危うく殺されるところだった」
「本当ですね。でも、助かって良かったです。もしものことがあっては大変ですから……」
「いやいや、君のおかげで助かったんだよ?」
(まぁ、そういう風に演技をして貰ったんだけどね)
アルフレッドはアリシアに感謝していた。というのも、彼がアリシアに話したことは全て嘘だったからだ。
彼はティナから話を聞いてなどいなかったし、アリシアに銃を突き付けたこともなければ、アリシアのことを警戒すらしていなかった。
全てはアルフレッドの演技だったのである。だが、そんなことを知る由もないアリシアは彼の言葉を真に受けてしまった。だからこそ、先程のように慌てて逃げ出したという訳なのだ。
(それにしても良いことを聞いたな……)
アルフレッドはほくそ笑むと、「ありがとう」と一言口にした。
すると、彼女も安心した様子を見せると、「いいえ」と言って笑みを作る。
それからしばらくの間雑談を交わしていたが、ふいに話題が途切れてしまう。すると、アルフレッドはある疑問を覚えたため口を開いた。
「そうだ、一つ聞いてもいいかな?」
彼の問いかけにアリシアは首を傾げる。
「はい、何でしょうか?」
「君の彼氏さんについてだけど、どんな人物なんだい? 僕に話せる範囲で教えてくれないか?」
アリシアは困惑したような顔をする。
「えっと……私も詳しいことは知らないんです。ごめんなさい、役に立てなくて」
彼女は残念そうに頭を下げた。
すると、アルフレッドは何とも言えない複雑な表情を浮かべる。
(やっぱり……恋人のフリをしているだけだもんね)
アリシアの気持ちは沈む一方であった。しかし、次の瞬間、アルフレッドは意外な言葉を口にする。
「なるほど、じゃあ君は騙されている可能性が高いということだな」
「…………えっ?」
アリシアは思わず耳を疑った。
「実は僕は君を試させて貰っていたんだ。僕が信頼出来る男かどうかをね」
アルフレッドは真剣な眼差しを向ける。
(何を言っているの……?)
アリシアには状況を理解することが出来なかった。だが、一方で頭の片隅ではある答えに行き着いていた。
(そうか……つまり、私は彼に試されていたんだわ)
アルフレッドはティナの兄という立場から考えると、アリシアの恋人に接触する可能性は高い。しかし、それが真実だとは断言出来ない。だから、実際に付き合っている姿を見せることで、彼女の反応を窺おうと考えたのだろう。
アリシアは胸の奥底が締め付けられるのを感じた。だが、それでも冷静さを保ち続ける。ここで取り乱せば相手の思う壺になると思ったのだ。そのため彼女は動揺を悟られないように努めると、「そうだったんですか」と答えた。
「うん、君がどれだけ信頼できる相手なのか見極めたくて……迷惑をかけて申し訳ないと思っている。だけど、もう大丈夫だ」
アルフレッドは爽やかな笑みを浮かべると右手を差し出した。
「改めて自己紹介させてもらうよ。僕の名前はアルフレッド・アルフォード。気軽に呼んでくれて構わない。ちなみに年は君と同じ17歳だ」
(この人も同じ年だったんだ……)
彼女は驚きを覚えると共に少し嬉しく感じた。自分と同年代の知り合いがいないこともあり、同年代の友人が出来るかもと思ったからである。だが、すぐに思い直した。何故ならアルフレッドの目的はまだ終わっていないはずだと気付いたからだ。
(でも一体どうするつもりなのだろう?)
彼女が不安げな視線を送るとアルフレッドは再び笑顔を見せた。
そして――
「僕の婚約者になってくれないか?」
「……えっ?」
唐突すぎる告白に、アリシアは戸惑いの声を上げた。
アルフレッドからの突然の申し出に、アリシアは戸惑いの色を浮かべた。だが、それは一瞬のことだった。すぐに表情を引きしめさせると毅然とした態度をとる。
彼女の視線の先にいるアルフレッドの顔が徐々に青ざめていくのが見てとれた。
「まさかとは思ったけど……ここまで上手くいくなんてね」
アリシアの言葉を聞くと、アルフレッドの顔からさらに血の気が引いていく。だが、彼は必死に強がってみせると、アリシアに対して反論を試みた。
「ま、待ってくれ! 君は騙されてるんだよ。きっとその男の嘘に決まっている!」
彼は声を荒らげると、アリシアが握りしめていた銃を取り上げようとする。
だが、アリシアが身を翻す方が速かった。彼はそのまま地面に倒れ込む。
その隙に彼女は走り出そうとしたが、ふいに足を止めるとアルフレッドへ振り返る。そして、優しい口調で語りかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
彼は恨めしそうな顔で睨みつけてきた。
「なんだよ、その憐れむような目は……」
アルフレッドは不機嫌さを露わにする。
(そんなつもりはなかったんだけど……)
「いや、その、そういうわけじゃないですよ?」
「じゃあ、どういう訳なんだよ?」
アルフレッドはさらに強い語調で問い詰める。
アリシアは苦笑いをするしかない。だが、すぐに真面目な顔に戻ると言葉を紡いだ。
「えっと、アルフレッドさんはどうしてそこまでして私のことを信じたいと思うんですか?」
「……えっ?」
「アルフレッドさんにとってメリットがないような気がしたんです」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「だってそうでしょう? 仮に私があなたの婚約者として振舞っていたとしても、あなたに利益はないはずです。それに私達が本当の恋人ではないことを知っていたにも関わらず、敢えてそう振る舞っているということは、何か理由があるんじゃないですか?」
(うーん、我ながら名推理だなぁ)
彼女は内心自画自賛すると、「教えてくれませんか?」と問いかけた。
すると、アルフレッドは押し黙りながらも口を開く。
「君がティナの大切な友人であることは間違いないからね。僕が君を助けなかったら彼女は悲しむ。それに、君には僕の妹であるティナのことを頼みたいと思っていたんだ」
彼の言葉に嘘がないことはすぐに分かった。だからこそアリシアは戸惑った。何故ならティナのことに関しては、彼女自身にも解決しなければならない問題があり、彼に構っている余裕がなかったからである。
(どうしよう……正直に話すべきかしら? いや、話したところで信じてくれるとは限らない……)
アリシアは悩んだ。
その後、急いで屋敷を出ると、そのまま近くの物陰に隠れる。そして、しばらく時間が経つと、アルフレッドが出てきたところで鉢合わせるように姿を現した。
「大丈夫ですか?」
彼女は心配そうな顔で尋ねる。
「えぇ、なんとかね……」
アルフレッドはお腹を押さえながら弱々しく笑みを作った。
「それにしても酷い目にあったよ。あいつ僕のことを暗殺者に仕立て上げて……本当に危なかったな。危うく殺されるところだった」
「本当ですね。でも、助かって良かったです。もしものことがあっては大変ですから……」
「いやいや、君のおかげで助かったんだよ?」
(まぁ、そういう風に演技をして貰ったんだけどね)
アルフレッドはアリシアに感謝していた。というのも、彼がアリシアに話したことは全て嘘だったからだ。
彼はティナから話を聞いてなどいなかったし、アリシアに銃を突き付けたこともなければ、アリシアのことを警戒すらしていなかった。
全てはアルフレッドの演技だったのである。だが、そんなことを知る由もないアリシアは彼の言葉を真に受けてしまった。だからこそ、先程のように慌てて逃げ出したという訳なのだ。
(それにしても良いことを聞いたな……)
アルフレッドはほくそ笑むと、「ありがとう」と一言口にした。
すると、彼女も安心した様子を見せると、「いいえ」と言って笑みを作る。
それからしばらくの間雑談を交わしていたが、ふいに話題が途切れてしまう。すると、アルフレッドはある疑問を覚えたため口を開いた。
「そうだ、一つ聞いてもいいかな?」
彼の問いかけにアリシアは首を傾げる。
「はい、何でしょうか?」
「君の彼氏さんについてだけど、どんな人物なんだい? 僕に話せる範囲で教えてくれないか?」
アリシアは困惑したような顔をする。
「えっと……私も詳しいことは知らないんです。ごめんなさい、役に立てなくて」
彼女は残念そうに頭を下げた。
すると、アルフレッドは何とも言えない複雑な表情を浮かべる。
(やっぱり……恋人のフリをしているだけだもんね)
アリシアの気持ちは沈む一方であった。しかし、次の瞬間、アルフレッドは意外な言葉を口にする。
「なるほど、じゃあ君は騙されている可能性が高いということだな」
「…………えっ?」
アリシアは思わず耳を疑った。
「実は僕は君を試させて貰っていたんだ。僕が信頼出来る男かどうかをね」
アルフレッドは真剣な眼差しを向ける。
(何を言っているの……?)
アリシアには状況を理解することが出来なかった。だが、一方で頭の片隅ではある答えに行き着いていた。
(そうか……つまり、私は彼に試されていたんだわ)
アルフレッドはティナの兄という立場から考えると、アリシアの恋人に接触する可能性は高い。しかし、それが真実だとは断言出来ない。だから、実際に付き合っている姿を見せることで、彼女の反応を窺おうと考えたのだろう。
アリシアは胸の奥底が締め付けられるのを感じた。だが、それでも冷静さを保ち続ける。ここで取り乱せば相手の思う壺になると思ったのだ。そのため彼女は動揺を悟られないように努めると、「そうだったんですか」と答えた。
「うん、君がどれだけ信頼できる相手なのか見極めたくて……迷惑をかけて申し訳ないと思っている。だけど、もう大丈夫だ」
アルフレッドは爽やかな笑みを浮かべると右手を差し出した。
「改めて自己紹介させてもらうよ。僕の名前はアルフレッド・アルフォード。気軽に呼んでくれて構わない。ちなみに年は君と同じ17歳だ」
(この人も同じ年だったんだ……)
彼女は驚きを覚えると共に少し嬉しく感じた。自分と同年代の知り合いがいないこともあり、同年代の友人が出来るかもと思ったからである。だが、すぐに思い直した。何故ならアルフレッドの目的はまだ終わっていないはずだと気付いたからだ。
(でも一体どうするつもりなのだろう?)
彼女が不安げな視線を送るとアルフレッドは再び笑顔を見せた。
そして――
「僕の婚約者になってくれないか?」
「……えっ?」
唐突すぎる告白に、アリシアは戸惑いの声を上げた。
アルフレッドからの突然の申し出に、アリシアは戸惑いの色を浮かべた。だが、それは一瞬のことだった。すぐに表情を引きしめさせると毅然とした態度をとる。
彼女の視線の先にいるアルフレッドの顔が徐々に青ざめていくのが見てとれた。
「まさかとは思ったけど……ここまで上手くいくなんてね」
アリシアの言葉を聞くと、アルフレッドの顔からさらに血の気が引いていく。だが、彼は必死に強がってみせると、アリシアに対して反論を試みた。
「ま、待ってくれ! 君は騙されてるんだよ。きっとその男の嘘に決まっている!」
彼は声を荒らげると、アリシアが握りしめていた銃を取り上げようとする。
だが、アリシアが身を翻す方が速かった。彼はそのまま地面に倒れ込む。
その隙に彼女は走り出そうとしたが、ふいに足を止めるとアルフレッドへ振り返る。そして、優しい口調で語りかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
彼は恨めしそうな顔で睨みつけてきた。
「なんだよ、その憐れむような目は……」
アルフレッドは不機嫌さを露わにする。
(そんなつもりはなかったんだけど……)
「いや、その、そういうわけじゃないですよ?」
「じゃあ、どういう訳なんだよ?」
アルフレッドはさらに強い語調で問い詰める。
アリシアは苦笑いをするしかない。だが、すぐに真面目な顔に戻ると言葉を紡いだ。
「えっと、アルフレッドさんはどうしてそこまでして私のことを信じたいと思うんですか?」
「……えっ?」
「アルフレッドさんにとってメリットがないような気がしたんです」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「だってそうでしょう? 仮に私があなたの婚約者として振舞っていたとしても、あなたに利益はないはずです。それに私達が本当の恋人ではないことを知っていたにも関わらず、敢えてそう振る舞っているということは、何か理由があるんじゃないですか?」
(うーん、我ながら名推理だなぁ)
彼女は内心自画自賛すると、「教えてくれませんか?」と問いかけた。
すると、アルフレッドは押し黙りながらも口を開く。
「君がティナの大切な友人であることは間違いないからね。僕が君を助けなかったら彼女は悲しむ。それに、君には僕の妹であるティナのことを頼みたいと思っていたんだ」
彼の言葉に嘘がないことはすぐに分かった。だからこそアリシアは戸惑った。何故ならティナのことに関しては、彼女自身にも解決しなければならない問題があり、彼に構っている余裕がなかったからである。
(どうしよう……正直に話すべきかしら? いや、話したところで信じてくれるとは限らない……)
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