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36話

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そんな彼をよそにシルビアはニコニコと笑っていた。
それからアルフレッドは苦笑いを浮かべてからため息を吐き出すとシルビアのことを睨みつけた。だが、シルビアは笑顔のままでアルフレッドを見つめ返す。
(な、なんだ、こいつは……まったく反省してねぇぞ? てか、こいつのせいで俺は死にかけたんだけど? マジか? マジなのか? 俺のことを殺すつもりなのか??)
アルフレッドはそう思うと怒りで震え始めていた。そこでシルビアが急に抱きついてきた。その行動は予想外だったらしくアルフレッドの口からは思わず驚きの声が出る。
それから慌てて離れようとするがシルビアが離さない。
「おい、なんだよ、これ」
「怖かったわ~私もうダメかと思った。でも、アルフレッドさんが無事で良かった……ほんとよ? これは私の本音だから……お願いだから疑わないでちょうだいね?」
シルビアがそう言うとアルフレッドは何も言えなかった。そして、ただ黙っていることしかできないでいる。だが、しばらくしてからアルフレッドはあることを思いついた。
それは自分を油断させる為の演技ではないかという考えだ。そうでなければ、わざわざ自分の危険を冒してまで人を助ける理由がない。アルフレッドはそう思い込むと試すことにした。
そうすることで少しでも罪悪感を無くそうとしたからだ。だから、わざと彼女の言葉に乗ってあげることにする。アルフレッドはニヤリと微笑むと彼女を抱き締め返してから耳元で囁いた。その顔には先ほどまでの恐怖など微塵も感じられない。それどころか自信に満ち溢れているようだった。
「大丈夫だ……お前だけは絶対に守ってやるからな……」
「アルフレッドさーん! 愛しています!!」
「ああ、知ってるよ。シルビア……愛してる……」
アルフレッドがそう言い終わると同時にアリスの魔法が飛んできた。
二人は同時に気付くと慌てて避ける。すると、地面が大きく揺れ始めた。アルフレッドとシルビアが辺りを見ると巨大な岩が迫ってきていた。だが、すぐに攻撃だと気付いたアルフレッドは慌てることなく魔法を唱える。
すると、その身体からは魔力があふれ出し始めた。その手に持つ剣にも炎を纏わせていく。すると、その剣を勢いよく振った。すると、その衝撃波と共に燃え盛る斬撃が一直線に飛び大きな岩を切り裂く。
アルフレッドはその様子を見ながらニヤッと笑みをこぼした。それからシルビアに向かって親指を立ててみせる。すると、彼女はニッコリと笑って同じように返した。
(これでよし……後はシルビアとイチャイチャしながら適当に戦うだけだな)
アルフレッドは内心そう思いながら気を引き締めた。
一方、シルビアとアリスの二人組みのパーティでは戦闘が開始されていた。シルビアの攻撃が敵に向かって襲い掛かる。だが、それを敵は軽々と回避すると鋭い鉤爪のある腕を振るってきた。しかし、それはアルフレッドが防いでくれた。アルフレッドは自分の背中に回り込んできたシルビアに目配せをして見せると小さく合図をする。それから再び敵に向き直ると走り出した。
だが、その時である。敵の口元が怪しく光り輝いていることにアルフレッドは気が付いた。そして、嫌な予感を覚える。
(まずい! 何か来る!!)
そう思った瞬間、敵は大きく息を吸い込み吐き出した。それと同時に口から真っ赤なブレスを吐き出したのだ。その熱量は凄まじくアルフレッドとシルビアが立っている地面には大きな亀裂が走るほどだった。そして、その光景を見て二人は息を飲んだ。そして、慌てて距離を取る。その行動によってなんとか事なきを得た。
ところがその隙を狙って敵は一気に間合いを詰めてきた。そのままのスピードを生かして強烈な蹴りを放つとアルフレッドを吹き飛ばす。
「ぐはっ……」
アルフレッドはそう言って吐血すると宙を舞って壁に叩きつけられた。そして、崩れるようにその場に倒れる。そんなアルフレッドにとどめを刺そうと敵は歩み寄っていく。
(ま、まずいわ……)
その様子を見てシルビアは顔を青ざめさせた。
(ど、どうすれば……アルフレッド君……)
シルビアがそう思って見ていると敵はアルフレッドの前に立つとその身体を踏みつけようと足を上げた。
その様子にシルビアが絶望的な表情を浮かべた次の瞬間だった―――。
◆ アリスは突然目の前に現れた人物に驚いて動けなかった。
そこに立っていたのはボロボロになった服を着た一人の少年だ。歳は自分と同じぐらいに見える。彼は手に持っていたナイフを敵に投げつけると腰からもう一本のナイフを抜き取り身構えた。その動きはとても素早いものだった。しかも、ただ早いだけではなくその一つ一つの動きに無駄がなかった。
「誰よ、あんた」
アリスはそう言うと杖を構えて睨みつけた。
「あぁん? お前こそ誰だよ?」
「は? 私を知らないわけ?」
「知るわけねぇだろうがよ」
「ふーん、じゃあ教えてあげる。私は天才魔法使いのアリ……」
「そういうの要らないから」
そう言うと少年は呆れたようにため息を吐き出していた。
「うわっムカつくんですけど!」
その言葉に思わずアリスはキレてしまう。
「おいおい……俺は別に喧嘩をしに来たんじゃないぞ。それにこんなところで戦っても俺にメリットなんてないしな。それよりも早くここから逃げようぜ。ここにいると危険だ。あのおっさんもそろそろ起きる頃だしな」
その言葉を聞いてシルビアとアリスの二人はハッとした。そして辺りを見渡す。いつの間にかアルフレッドがいないことに気付いたのだ。
まさかと思ってアリスはアルフレッドが倒れている場所に駆け寄る。だが、すでにその姿はない。シルビアの方も同様に慌てて探し始める。だが、二人がいくら探してもアルフレッドの姿はなかった。すると、その様子にアリスが苛立ちを見せる。
「ちょっと! あんたが邪魔しなければアルさんと一緒に逃げられたかもしれないのに!! なんで邪魔するわけ!?」
「おいおい、何言っているんだよ……あいつが簡単にやられるはずないだろうが……きっと俺達が来る前に倒しちゃったんだよ……な、そうだろう? シルビア?」
「え、あっはい。確かに私達がここに着いた時にはもう既に戦いは終わっていましたね……だから、きっと倒したと思います」
その言葉にアリスは悔しそうに歯ぎしりをしていた。
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