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38話

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何かに押し倒されたような感覚と共にシルビアの体に激痛が走った。
そして、その衝撃で彼女は地面に倒れてしまう。その痛みに耐えながらシルビアが上を見るとそこには先程の犬の姿がある。
その犬の口元からは唾液が流れ落ちていて、明らかに興奮しているのが分かる。
(しまった……油断して……)
シルビアが後悔してももう遅い。
すると、そんなシルビアの視界を巨大な白い腕が覆った。
ペロペロ……
何故かその犬はシルビアの首筋を舐め始めた。
しかも執拗に何度も舌先で撫でるように舐める。
「ちょっ……あはははっ!やめて……くすぐったいわ」
そのせいで、くすぐったがって笑みを浮かべるとシルビアは身悶えた。すると、その様子を見ていた少年が呆れた表情で言う。
「はぁ、何やってんだよ……さっさとそいつから離れろよ」
すると、少年はため息交じりに言った。その言葉でシルビアは自分の置かれている状況を思い出す。慌てて犬の腹の下から抜け出すと少年の方へ走っていく。その途中も、チラッとシルビアは彼の方を見る。すると、彼は特に変わった様子もなく普通に立っていた。そのことにシルビアは思わず目を丸くしてしまう。
(うっそ!?あれだけの数がいたのに、あの人一人で倒しちゃったの?)
そう思ってシルビアは驚愕の表情を浮かべた。
「おい、なんだよその目は……なんか文句あるのかよ?」
その視線に気づいたのか少年は不満げな表情を浮かべる。
「い、いえ……何もないです」
「そうか?なら、いいんだけど……」
すると、そのタイミングで後ろから声が聞こえてきた。
「二人とも無事ですか!」
その言葉に反応してシルビアとアリスはすぐに振り返った。すると、そこにいたのはこの村の村長である男だった。そして、そんな彼を見てシルビアはすぐにお辞儀をする。
「アルフレッドさん! よかった……助けに来てくれたんですね」
だが、それに対して男は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すいません。もっと早く駆け付けるつもりだったのですが、まさかこんなことになっていようとは……」
「そんな! アルフレッドさんが悪いんじゃありません! 全ては私のせいで……」
「いえ、違います。元はと言えば、私がシルビア様を呼び出さなければこのような事態は避けられたのでしょう……私の不注意が原因なんです」
「そんな! それこそアルフレッドさんは悪くありません!それに……私はアルフレッドさんのおかげで助かったんですから……」
「シルビア……あなたはどうして私の為にそこまで……」
その言葉にシルビアは少しだけ恥ずかしそうにする。だが、そのおかげで彼女の気持ちが固まっていた。
(そうだ。やっぱり私は皆を見捨てることなんてできない。例えそれで命を落とすことになったとしても……私は最後まで足掻いてみせる。そうじゃないと、天国にいるお父さんとお母さんにも怒られてしまいそうね)
シルビアは改めて覚悟を決めると真剣な眼差しで男の方に向き直る。
「それよりも、まずは村に戻りましょう。話はそれから……」
だが、その時のことだった。シルビア達の背後で物音が聞こえた。
反射的に彼女が振り向くとそこには魔獣が迫ってきていた。その姿を見て彼女は顔を青ざめた。
(嘘……この距離からあんなスピードで移動できるわけが……)
だが、そんなことを考えても仕方がない。今は目の前の状況をどうにかしなければならない。そう判断すると彼女はアリスと少年の手を掴んだ。
「走ってください!!」
その言葉と同時に三人は走り出した。しかし、それを遮るように再び魔物が立ちふさがる。
それは、とてもではないが今の三人の手に負える相手ではなかった。だから、少年とアリスもすぐにシルビアの考えを察した。そして、三人が同時に武器を構える。
「私が奴の気を引き付けます!その間に二人は安全なところまで逃げてください! 絶対に死なないで下さい!!」
シルビアがそう言うと同時に彼女は飛び出した。そして、魔物に槍を突き立てる。だが、その攻撃が当たる前に彼女は吹き飛ばされてしまった。だが、それでもシルビアは立ち上がる。
すると、今度は少年が動いた。だが、その時には既に魔物の姿はなかった。だが、その代わりにシルビアの前に巨大な岩が落ちてくる。その光景を見た少年は思わず目を大きく見開いた。だが、その瞬間に少年は横へと大きく飛んだ。その直後に巨大な魔物が現れて彼の体を押しつぶす。その勢いに耐えきれず、シルビアの体は地面を転がっていく。
そして、ようやく止まる頃にはシルビアの体に激痛が走った。
だが、そこで終わりではない。間髪入れずにまた別の魔獣の攻撃が彼女を襲う。
「くっ……」
シルビアは必死で体を捻らせて何とか攻撃をかわそうとする。だが、間に合わない。すると、その瞬間に目の前で何かが動く気配を感じた。そして、その正体がわかった。なんと少年が庇うようにしてシルビアの前に立ったのだ。その行動を見てシルビアは驚く。
(な、何をして……)
そして、シルビアの体が少年によって押し倒されたことで何とか敵の攻撃を回避することができた。そのまま少年の体は巨大な犬に押しつぶされるように倒れ込む。
だが、それと同時にシルビアの目にその衝撃的な場面が見えてしまう。
なんと少年の背中には深々と爪の跡がついてしまっていた。
(嘘……そんな……こんなことが……こんなひどいことって……)
そのあまりにも残酷な現実を目の当たりにしたシルビアの瞳からは涙が溢れ出す。
(私のせいで……私の身勝手なわがままのせいでこの人を殺させちゃったの? 私がもっと強かったら守れたはずなのに……それなのに、何が守るよ!!私は何の力もない小娘じゃない!それどころか大切な仲間を危険な目に遭わせて、しかも一番大事な人に大怪我までさせた挙句に自分勝手に暴走するなんて……最低だ)
そう思うだけでシルビアの心はズタボロだった。すると、そんな彼女の様子の変化を感じ取ったのか少年が話しかけてきた。
「お前さ……もしかしなくても、俺が死んだと思ってんだろ?」
「えっ……」
突然のことにシルビアは思わず言葉を失った。だが、少年の方は気にせずに続ける。
「でもな……俺はこうしてピンピンしているぜ」
「うっそ!?だって、あんな傷……」
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