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86話

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俺がもし優斗と同じ立場になったとしてもこんな風に話せるだろうか。
いや……無理だ、絶対に。
(やはり俺と優斗では違うんだよ……きっと優斗は誰といてもこうやって仲良く話すことが出来るだろう……俺は……ダメだ……優斗以外の奴と仲良くするイメージができない……)
「ん、どうしたの?」
「なんでもないよ……」
「うん、とりあえず街に向かって歩こう」
「はいよ」
こうして俺たちの新たな冒険が始まった。
俺達の目の前に広がるのは広大な草原だった。
草木が風によってゆらめき心地よい音を奏でている。
(綺麗……)
思わず見とれてしまう程美しかった。
「おーい!行くぞ~」
遠くの方で手を振っている。
俺は急いでそちらへ向かう。
~~数分後~~
「ふぅ~ようやく追いついた。歩くの早すぎだって!」
そう、あの2人の移動速度が異常なくらい早いのだ。そのせいもあって、ここまでくるのに相当な時間がかかってしまった。
(この世界に電車とかあったらよかったんだけど……)
「あぁ~悪い悪い。それよりも零、ステータスの確認をしてくれないか?」
「ああ、わかった」
~~ステータス確認中~~
名前:『レイ(零)』職業『剣豪』Lv100 HP『2000』MP『1000』ATK『4000』DF『3000』
AGI『500』
MAG『1500』
SKILL『火属性魔法』『水属性魔法』
~~ステータス確認終了~~
レベルは優斗達と会った時より10上がっていた。
おそらくこれは優斗たちのレベルが上がった分だろう。しかしそれでもまだ差が大きい。
「まあ、そんなに落ち込むなって!僕たちはこれから強くなるんだから」
「そ、そうだよね」
「ほら元気だして、一緒に頑張ろう?」
そう言って俺に抱きついてきた。その豊満な胸に顔がうずまり息が出来なくなった。
そしてなんとか抜け出した。
「ちょっとやめて下さいよ!」
「あら、残念」
「もう……」
2人のやり取りを横目にアリアはこちらをじっと見つめていた。
(なんか気まずいな……)
「アリアさん?どうかしましたか?」
「いや、なんだか君を見ていると不思議に思うことが沢山あるんだよ」
アリア曰く、まずはなぜ俺だけがこの世界の言葉を理解しているのかということ、そしてなぜか俺だけスキルが使えるようになっているらしい。この二つについては優斗も同じだ。
優斗に関しては言語理解というスキルを持っているようだ。
この世界の人間ではない俺たちにとってはかなりありがたいスキルだ。ちなみに、俺が持っている剣術と魔法の知識についても、この世界には存在しているが習得するのは不可能とのこと、それなのになぜか俺は使えてしまっている。
このことから俺だけは特別な存在なのではと思っているらしい。
(まあそりゃ俺にはチートが付いてるからな……)
「まあそういうことだから気にしないでくれ。じゃあさっそく修行を始めようか!」
「「おう!」」
「はい!」
~~数時間後~~
「よし、今日の修行は終わりだ!」
俺たちが行っていた修行とは基礎的なこと、つまり身体能力の向上と魔法、剣術、体術などだ。修行の内容は俺に合うものを選んでくれたみたいだが正直どれもついていけていない。
(やっぱり俺って弱かったんだ……もっと強くならないと)
すると突然大きな地響きがした。
それと同時に地面が大きく揺れ始める。
「おい!あれ見ろよ!」
そう言って指をさした方向には大きな山があった。そこからは大量の黒い煙が立ち上っていた。
「あれって火山じゃないか!?」
「ああ!まさか噴火が起こるんじゃ……」
「大変だ!早くみんなを避難させないと!」
しかしアリアの顔色はあまり優れなかった。それもそのはず、この国は他国との交易もないため食料はほとんど輸入に頼っているのだ。当然備蓄も少ないはずだ。
(くっ!どうすれば……ん?)
ふと俺は視界に1つの村を捉えた。
(もしかすると……)
俺はすぐに駆け出した。それに優斗も着いてくる。
「おい!待てよ!」
「ごめん!少し寄り道する!」
「どういうこと!?ねぇ!」
しかし俺は足を止めずに走った。
やがて目的地に到着した。
「おーい!大丈夫ですか!」
「ん?君は?」
「私は零と言います!あなたたちを助けに来ました!」
「助けに?それは嬉しいけどどうやって……」
「詳しい話はあとでします。それよりも早くここを離れましょう!」
俺は村人を誘導しながら安全な場所まで連れていった。
幸いにも全員無事だった。
しかし次の瞬間、さらに大きな爆発音とともに火山は大炎上していた。
(これだと俺の魔法でも消火するのは不可能だ……どうしたら……)
俺は辺りを見渡してあるものを探した。
(あった!)
「優斗、頼みがあるんだけどいいかな?」
「どうしたの?」
「俺をあそこまで投げ飛ばして欲しい」
優斗はその意図を読み取ったのか笑顔を見せた。
「任せて!」
~~数十分後~~
ようやく目的の場所に到着することが出来た。
そこには小さな洞窟があった。
「ここに隠れていれば……」
しかし突如、洞窟の中から謎の声が聞こえてきた。
「誰かいるの?」
俺たちは慌てて身を隠したが遅かった。
(やばい……)
「あら……可愛いお客さんね」
そこに立っていたのは赤い瞳をした女性だった。髪の色は金色で肌は白く、とても美しかった。しかしその額からは2本の角が生えていた。
(鬼……なのか……?いや、違う!)
「お前……何者だ?」
「フッ、バレてしまったのなら仕方がないわ。私の名は『リリア』魔王軍幹部の一人、炎の魔女とも呼ばれている」
「なっ!?そんな大物がどうしてこんなところに?」
「別に理由なんてなんでもいいわ。ただ強い奴と戦いたかったから、それだけよ」
その言葉を聞いた途端、全身が震え上がった。この女と戦うことになると思うだけで逃げ出したくなるほどの恐怖に襲われる。
(こいつ……強すぎる……優斗はともかく、今の俺じゃ絶対に勝てない)
すると俺の前に優斗が立った。
そして刀を抜き、構えを取る。
その目つきはとても鋭く、殺気を感じた。優斗の表情は真剣そのもので今まで一度も見たことがないほどだ。
優斗は剣豪の中でもトップクラスに強い、だからこの世界でも通用すると思った。
しかし目の前にいるこの女はレベルが違いすぎた。優斗では歯が立たない。
そんなことは俺が一番わかっている。だけど俺が戦うわけにはいかない。優斗が死ぬくらいなら俺が犠牲になったほうがましだ。
「ここは俺に任せて逃げてくれ」
「バカ言うなよ。ここで逃げたら俺が許さない。俺が守れなかった分まで生きてくれないと」
優斗はこちらを振り返らず言った。
(優斗……)
~~数分後~~
戦いは一方的だった。
俺の目から見ても分かる、優斗は明らかに手を抜いて戦っていた。おそらくこの鬼の強さを見抜いてのことだろう。
それでもやはり相手にはならないらしく、徐々に追い込まれていっている。
俺はその様子を黙って見ているしかなかった。
~~さらに数分後~~
ついに優斗の動きが完全に止まった。肩に一撃を受け、腕にヒビが入っている。
その隙を突かれ首筋に蹴りを叩き込まれた。
その勢いで壁に激突する。
俺は思わず飛び出していた。
この女の狙いは俺のようだし俺が囮になって時間を稼げば……
(あれ?なんで俺、飛び出してるんだ?)
俺は自分で自分の行動に疑問を感じていた。なぜ体が勝手に動く、自分から死ににいくようなことを……
俺は優斗の元へ駆け寄る、その前に俺が割って入った。
そして鬼の視線がこちらへ向く。
「キュアヒール!」
優斗にキュアヒールを、掛けた。
これで多少はマシになるはずだ。
「零!危ない!」
突然優斗に突き飛ばされた。
それと同時に背中に熱を感じ、そのまま地面に倒れた。
起き上がると、そこには腹部に穴を開けられた優斗がいた。
「うそ……だろ……」
すると背後から笑い声が聞こえてくる。
俺は後ろを振り向き、その人物を見た。
「アハハッ!残念!もう少しだったのに」
「お前!よくも!」
俺は咄嵯に飛びかかる。しかし呆気なく避けられてしまう。
「邪魔よ!」
俺は腹を思い切り殴られた。
(か…………め、ん)
「ごめんなさい!本当に……優斗……」
薄れゆく意識の中で俺は涙を流した。
~~???視点~~
私は零と名乗った少年を連れて火山の外にいた。この子の怪我を治さなければ……。
(それにしても可愛かったなぁ)
私の名前はリリア、元の世界で言うところの魔王軍の四天王の1人という存在だった。まあ、過去形なのは今はいないということ、他の仲間はみんな死んでしまったからだ。理由はわからない、ただいきなり襲われて私は殺された。しかしなぜか私は生き返った、あの時確かに死んだはずなのにだ。そこで私は気付いたのだ、『私は不老不死』なのだと。それに気付いた時の嬉しさといったらなかった。それから私は強くなるために努力した、どんな敵にでも負けないように強くなっていつか元の世界に戻ろうと。そして私はある男に出会った。その男は私を殺すように依頼された暗殺者だったが私を殺しきれず返り討ちにした。その後、私の力に興味を持ったのか弟子入りを志願してきた。私は最初断ろうと思った、でも私はこの男の目に宿る光を見て興味を持った。この男は強いのにそれを自覚していない。まるで自分を弱いと思っているかのように振る舞っていた。だから私の弟子にして鍛え上げた。その結果、この子は世界で一番強くなりました。私の想像以上にね……。
そういえばあの子に名前を聞かれたんだったわ、名前か……どうしようかな?
(そうだ!リリアとユウトって似てるよね?なら私の本名をもじれば……よし、決まりね)
私はその子の頭に手を当ててこう言った。
(君の名は『リリア』だよ。これからよろしくね♪』
「ねぇ、君はもう十分強いんだよ?」
~~現在~~
『……きろ!』
「……?」
『起きろ!起きるんじゃ!零!』
「ん……ここは?」
目を開けるとそこは真っ白な空間だった。そこに2人の人物が立っていた。
「誰だ?お前たちは?」
『ふむ、ワシはお前さんをここに連れてきた張本人じゃ』
「なっ!?」
『僕はリリアだよ。君の師匠』
「なっ!?リリアって……え?……優斗じゃない?……だってお前……男じゃん……リリアって女の名前だろ?」
『あはは……実は僕がこの世界の神様なんだ』
「……は?」
意味が分からなかった。こいつが神……?そんなわけがない。そもそもこいつにはオーラが全く感じられない。とても強者とは思えない、見た目は普通の人間にしか見えない。
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