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93話

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「大丈夫だって言ってるだろ?僕を信じてくれ」
「わかった……お前に任せるぞ!」
シルエルティが突っ込んで行くと、そのすぐ後にクシャラドが現れた。
「おいっ!クソ野郎!邪魔すんじゃねぇ!」
「お前らこそ……俺様達の楽しみの邪魔をするなんて……死に値する罪だ!」
そして戦闘が再開された。しかし先程とは打って変わって、今度はシルエルティの動きが変わった。先程までは魔王の動きに合わせて戦っていたのに対して、今では魔王よりも速く動いて、攻撃を繰り出すようになった。
「どうなってやがんだ……俺より速くなるなんて……」
魔王が驚いているとそこにシルエルティが攻撃を仕掛けた。
「なっ!いつの間に!ちぃ!」
魔王はすぐに回避したが僅かにかすってしまった。
「お前……何をした?」
「別に?……ただ君の体に傷をつけただけだよ?」
「そんなことで!」
魔王は更に強くなっていく。
するとそこに勇者の小此木優斗が乱入してきた。
「俺の事を忘れてもらっちゃ困るな!」
「お前は……勇者か……だがお前は弱い!お前に用はない!」
魔王が剣を振るうとそこには何も無かったかのように勇者の姿は消えてしまった。そして勇者がいたはずの空間に向かって魔王は剣を振り下ろしたがそこには誰もいなかった。
魔王が勇者を探そうと振り返るとそこに勇者がいた。そしてそのまま攻撃を仕掛けてきた。魔王は勇者の攻撃を避けようとしたが避けきれずに攻撃を受けてしまう。
(何故奴はあの一瞬で移動できる!?)
「ぐはっ!」
勇者はそのまま剣を振りかざすと、また勇者の姿が消える。
「ここかな?」
魔王の背後に勇者が現れる。
魔王は背後を取られる前に勇者の方向へ剣を薙ぎ払ったがそこに勇者はいなかった。
「どこに消えた!?まさか時間差攻撃か!」
「どこ見てるのかな?」
「後ろか!!」
だがそこにも勇者はおらず、今度は真上から勇者が現れ剣を突き刺そうとする。
「終わりだ……!これで!……なにっ!?」
しかし、シルエルティがそれを阻む。
「ありがとう。助かったよ。流石はもう一人の僕ってとこだね!」
「まあ、いいさ。とりあえず今のうちに終わらせるといいよ。」
「そうだね。……そろそろ決めるとしようか……!」
シルエルティと勇者が同時に動いた。
「喰らえぇぇ!!!」
「はぁぁあああ!!……くたばれ!」
2人の一撃が魔王の心臓を貫くと魔王の体は黒い霧となって空へと散っていった。
魔王を倒したあとシルエルティと優斗(?)はお互いのことを話し合った。シルエルティの話を聞いて優斗は驚いた。
「え?それってつまり僕の中にもう1人別の人格があるってことなのかい?……しかもその別人格っていうのが僕の前世の記憶を持った人間だったとは……」
「そう言うことだ。それで?……シルエルティはこれからどうするつもりだ?」
「僕はこの世界でやることがある。それが終わるまではこの世界に残るつもりだ。」
「そうか……なら俺たちも一緒に行かせてもらうよ。」
「いいのか?」
「ああ、もちろんだ」
「それはありがたい!ではよろしく頼む!」
こうして3人は異世界で生活する事になった。
「なぁシルエルティ。」
「なんだ?」
「俺にはその口調どうにかならないのか?なんだかくすぐったくて仕方がないんだよ……」
「あ~……じゃあ普通に話すね。それで?なんで呼んだんだ?」
「いや、お前の名前について聞きたくてさ」
「名前?どうして?」
「だって俺はこの世界の人間じゃないしお前と同一人物だから名前は被るだろう?」
「確かに……」
「だからさ……俺のいた国では名前を複数持っててさ、そのうちの1つを名乗って欲しいんだ」
「そうなのか……じゃあ何にするかな……」
シルエルティは腕を組みながら考えていた。
(んー。僕の好きなものか……それだと……)
シルエルティが悩んでいる中クシャラドが口を開いた。
「俺が付けてもいいか?」
「まあ別にいいけど……どういう感じのものを付けるつもりだ?」
クシャラドはニヤリと笑うと答えた。
「シルエルティ=ルミナスなんてどうだ?」
「それでいくか」
シルエルティはその名前を聞くと同時に納得したように答えた。
「それじゃあ改めて自己紹介をするね。僕は神族の末裔であり元勇者である『シルエルティ』だ。これから宜しくお願いします」
「僕は優斗。小此木優斗。勇者です
シルエルティでもあるけど今まで通りの優斗と呼んでよ」
「おう。了解した。俺の名前は『クシャラド=エルドニア』。魔王をやっていた者だが、今は2人の旅に同行させてもらっている。」
「うん、わかったよ。僕も呼び捨てで呼んでくれればいいから。」
「最後に俺は、零、神崎零。異世界の勇者だ。小此木優斗とは、恋人同士だ」
「は、恥ずかしいよぅ!零くん!?」
ばしっ
「痛い!なにも殴ることないだろ!?本当の事なのに!」
「ごめんなさい。でもちょっと言い過ぎじゃないかなって……」
「大丈夫だって!それよりこれから何処に向かうんだ?」
「次はエルフの国に行ってみようと思うんだ。もしかしたら何かわかるかもしれないからね」
「よしっ!じゃあいくぞ!」
「おぉー!」
「元気があって良いね。いこうか」
4人はエルフの王国を目指して歩いて行った。
第6話
新魔王との決着←新魔王ってなんやねん!?
「やっとついた~」
「流石に遠いねぇ……僕疲れちゃったよ……」
「全く情けないな……そんな事でこれからやっていけるか心配だよ……」
「うるさいなぁ……」
「はいは~い、喧嘩しないでくださ~い!」
「悪い悪い。ついね。」
「そうだね。ごめんね。……ところで君は誰だい?」
「私は精霊王の娘でシルフと言います。皆さんが着ている装備は私の父が作り出した物なのです。」
「そうなんですか!?凄いなぁ……」
「はい。父はいつも寝ていますがね……」
「へぇ~……お父さんに会ってみたいなぁ!」
「わかりました。こちらにどうぞ。」
「ありがとうございます!」
しばらく歩いているとそこには家というよりは、城があった。
「ここが私達の家で、父がいる場所です。……では、入りましょう。」
シルエルティ達は城の中に入ると玉座の間に案内された。
「おお!君達が新しい客か!?よくきたな!」
「初めまして。零と申します。今回はシルエルティと共にあなたに会うためにきました。」
「うむ、知ってるよ。さっきシルちゃんが来て教えてくれたからね。私はシルフィードだ!この国の長を務めている。以後、見知り置きを。」
「よろしくお願いします!あの……いきなりこんなことを尋ねるのは失礼かもしれませんが……なぜこの世界に転生させたのですか?」
「ふむ。まず1つ目の質問だがそれは単純に暇つぶしというのもあるが……一番は世界を救うためさ。魔王によって苦しめられた人達のために少しでも助けになれればと思ってのことだ。そしてもう1つの理由。それは君の体の中にいるもう一人の人物のためさ。」
「もう1人の俺?」
「ああ、もう1人はシルエルティ。神族の1人だ。シルエルティはこの世界の創造主である神の子だ。だからその力を引き継ぐ必要がある。そこで私は君を選んだ。」
「選ばれた理由はわかった。それで俺はこれからどうすればいいんだ?」
「とりあえず今はまだ眠っていてくれればいい。目覚めたら連絡をする。それまでは好きにしていいよ。」
「了解した。それじゃあそろそろ帰らせてもらおうかな。行くぞ、優斗」
「うん!また会いに来るね!」
そう言って二人はその場を離れた。すると、クシャラドがシルフィードに声をかけた。
「おいシルフィード。あいつらはいつ頃起きるんだ?」
「う~ん、わからないなぁ。まあ1年くらいで起きてくるんじゃないかな?それにこの世界が気に入ってくれるかどうかわからないしね。」
「そうなのか?……まあ大丈夫だろう。それより早くシルエルティを目覚めさせるぞ。」
「わかっている。だが今はもう少し待ってくれ。この世界をもっと豊かにする必要がありそうだ。そのためにもお前の協力が必要だ」
「もちろんだ。任せてくれ。」
そうして2人はこの国を発展させていく事に決めた。
シルエルティ達はクシャラド達と出会ったあとシルエルティの家に戻り休んでいた。
シルエルティはベットでゴロゴロしている時突然あることに気づいた。
(そういえばまだ魔王について詳しく知らないや。零くんは知っているみたいだしちょっと聞いてみるか……)
「ねえ零くん?ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「ん?なんだ?」
「魔王の事についてだけど……魔王は魔族の中でも最強クラスの実力を持っているんでしょ?どうやってそこまで強くなったの?」
「……俺も詳しいことはわからないけど……俺がいた世界での話をしてもいいか?」
「うん。大丈夫だよ。聞かせてくれないかい?」
「俺の前世は人間だったけど……前世の時の話は覚えていないんだよ。でも……断片的に残っている部分があってさ……それで気づいた事がある。」
「……もしかして、僕と同じように記憶を失ったんじゃないのか?」
「ああ。俺は前世の記憶を全て失った。その代わりに……魔王として生きてきた頃の記憶が残ってしまったんだ。」
「そんな事が……ごめんね……僕の不注意のせいで辛い思いさせちゃって……」
「大丈夫だって。今は幸せだしさ。……それともう一つ話したいことがあるんだ」
「……もしかして僕に関すること?」
「ああ……優斗……いやシルエルティの両親についてだ」
「えっ!?どういう事!?」
「シルエルティのお母さんとお父さんには会ったことがあるんだ。でも……お父さんが優斗に似ていた。見た目もそうだが中身が似ている。」
「そうなんだ……」
「そしてお母さんの方だが……性格が似すぎている。まるで本人を見ているような感覚になる。」
「じゃあ僕と同じ転生者って事!?」
「恐らく……」
その時ドアが開いた音がした。シルエルティが扉を開くとそこには精霊王の娘シルフが立っていた。「あの……すいません……ここに勇者様が来ていませんか!?私、勇者様に会ってみたくて!」
その言葉を聞いた瞬間シルエルティと零は確信した。
「君、僕に何か用があるんじゃないの?」
「はい!あなたに会うためにここまでやってきました!」
「やっぱりか……」
「なんのことでしょうか?」
「いやなんでもないよ。それよりも君は僕が元いた世界にいた人物に似てるなぁ~と思っていたんだけど、君、まさか転生者の可能性があるんじゃ……」
「いえ違います!……私は転生者とかそんなものじゃないです。……それよりあなたが異世界の神様なんですか!?」
「い、一応そういう事になるかな……?」
「わぁ~!感激だなぁ~!」
「そ、それで君の名前は?」
「私は『シルフ』といいます!」
シルフという名前を聞き零は驚きを隠せなかった。
なぜならその名はシルエルティの母親の名前でもあったからだ。
「本当に……シルフさん……?」
「そうですよ!私、シルエルティさんのことが大好きです!」
「えっとシルエルティさんっていうのが君が言っていた人物だと思うよ。」
「本当!?じゃああなたが零くんだね!よろしくお願いします!これから一緒に過ごしてくれるんですか!?」
「ああ。よろしく頼むよ」
こうしてシルエルティ達は新しい仲間が増えたのであった。
第7話 新たな敵!新魔王との初対決←このタイミングで!?
「……ん?なんか騒がしいな……なんだ?」
「どうかしたのかな?」
「見に行ってくるよ」
そう言ってシルエルティは騒ぎがあった場所まで行った。
「どうしましたか?」
「あ、シルエルティ様……それが、この国に攻め込もうとしている人達がいるらしいのです。」
「何人ぐらいいる?」
「100人ほどいます」
「ふむ……少し多めにいるな。よし。みんな、今から戦闘態勢に入ってくれ。僕は父上に事情を説明してくる。その間はみんなで持ちこたえておいてね。それじゃあまた後で~」
「了解しました!お気をつけてくださいませ!」
零は部屋に戻るとそこには優斗の姿はなくクシャラドがいただけだった。
「おいお前ら大変だぞ!」
「どうしたの?クシャラド」
「魔王軍の連中だ。シルフィードを倒しに来たらしい。俺は奴らを倒さなければならない。シルフィードを連れて逃げてくれないか?」
「クシャラドも逃げるんだ!」
「ダメなんだよ。俺はここで死ぬべき運命にあるんだ。俺が死んでも何も変わりはしないがシルフィードは違う。シルフィードにはこの世界を救ってもらわなければならない。だから……」
「わかった。シルエルティと一緒にこの世界を脱出するよ。」
「そうしてくれ。頼んだぞ」
そう言うとクシャラドは自分の体を粒子に変えていった。それと同時に大量の魔力も放出された。
「……じゃあ行ってくる」
クシャラドはシルフィードに向かって呟くようにそう言った。
シルエルティは優斗とシルフィと共に転移して外へ出た。するとシルフィードは目の前に現れた魔王軍の軍勢に驚愕した。
「こんな大軍見たことないよ……」
「大丈夫だよ。僕らならなんとかなるさ。それよりもクシャラドを助ける方が先だ」
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