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95話
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「待ってくれシルフィード!落ち着くんだ!」
零はシルフィードの腕を掴んで抑えた。だがそれでもシルフィードはアビスに向かって叫んだ。
「離して!!こいつは絶対に私が倒す!!」
「ダメだシルフィード!君の気持ちはわかるけど落ち着いて!」
「うぐぅ……で、でもぉ……」
シルフィードは目に涙を浮かべた。その表情を見たアビスは微笑んだ。
「どうやら私に勝つことは不可能だとわかったようだな。それではお前達を殺させてもらうぞ」
アビスは腕を振ると黒い渦を発生させた。そしてそこから巨大なモンスターが出てきた。
「な、なんでいきなり……」
「君が私の邪魔をしたせいであの空間で生み出した魔獣達が外に出られないからね。その恨みをぶつけようと思ったんだ」
アビスはそう言って笑みを見せた。するとシルフィードは涙を流して剣を構えた。
「アビス……絶対に倒します……」
「無駄だよ。今の君に私を倒せるはずがない」
「そんなのやってみないとわからないでしょ!」
シルフィードは勢いよく飛び出した。そしてアビスに斬りかかろうとするが簡単に避けられてしまう。
「ほら!やっぱり君は弱い!」
アビスはシルフィードに足蹴りを入れた。シルフィードは吹き飛ばされるが空中で体制を整えて地面に着地した。
「くそ……」
「これでわかっただろ?君に私は倒せない」
「そんなのやって見なければわかりません!」
そう言うとシルフィードは再びアビスに向かって行ったがまた攻撃は簡単にかわされた。その後もシルフィードは剣を振ったり魔法を使ったがアビスには全然通用しなかった。
「はぁ……はぁ……どうして当たらないの……」
「言っただろう?今の君に私は倒せないって」
「くそ……」
シルフィードは肩膝を立てて座り込んだ。それを見ていた零は我慢の限界だった。
「おいアビス!いい加減にしとけよ!」
「おや?やっと本性を表したかな?」
「黙れ!」
「怖いな~。だが無意味だ。君が何をしても私に勝てない」
アビスは余裕そうな顔をしていた。するとシルフィードが零に近づいてきた。
「ねえ零くん……一つ提案があるんだけどいい?」
「え?」
「私と零くん、2人で戦うっていうのはどうかな?」
「い、いやいや無理だろ?流石に……」
「そんなことないよ。私があいつの動きを止めるからその間に一撃入れてくれればいいんだよ」
シルフィードの提案に戸惑った零だったが迷っている暇はなかった。
「わ、わかった。頼むよ」
「うん。任せて」
シルフィードは零に笑顔を見せて立ち上がった。
「話は終わったか?ならばさっさと死ね」
アビスが指を鳴らすと無数の闇弾が放たれた。シルフィードは走って回避したが闇弾は追尾してきた。シルフィードはそれを見ると魔法を唱えた。
「ホーリーフィールド」
シルフィードがそう唱えると白いドーム状のバリアが出現した。闇弾はそのバリアに触れると全て消滅してしまった。
「な、なんだと!?」
アビスが驚いている隙にシルフィードはアビスの元へ走りだした。
「はあああああ!!」
シルフィードは勢い良くジャンプしてアビスの首を狙って斬りかかったがそれも簡単に受け止められてしまった。
「だから言っているじゃないか?君じゃ私には勝てないとね」
シルフィードは力を入れて押し返そうとしたがビクともしない。それどころか逆にアビスに押し負けている。そしてアビスが少し力を加えるとシルフィードの体は地面に叩きつけられた。
「ぐふぅ……ゲホッ……ゲホ……」
シルフィードは苦しそうな声を出して倒れた。
「シルフィード!クソッ……」
零は拳を握りしめて駆け出した。そして勢いに任せてアビスの顔を思いっきり殴ろうとしたその時、零の手は空を切った。そしていつの間にか零の背後にアビスが移動しており、そのまま零に殴りつけた。零は咄嵯に防御をして直撃は避けたが衝撃を抑えることができず吹き飛んでしまった。
「うぐぅ……ゴハッ……」
零はそのまま倒れ込んで吐血した。それを見たアビスは満足げな表情を浮かべていた。
「君にはガッカリしたよ。君には失望した。やっぱり勇者の力は私だけの物にした方が良さそうだね」
アビスが零の元に歩いていく。そして剣を振り上げた。
「じゃあね、零。永遠にさよなら」
アビスは零にとどめを刺そうと剣を振り下ろした。すると突然シルフィードが立ち上がって剣で防いだ。
「まだ立ち上がる元気があったのか」
「ハァハァ……零には手を出させない!」
「もう君は用済みだよ」
アビスはシルフィードを押し返した。するとアビスはシルフィードの腹部に蹴りを入れた。
「ガフゥ……!!」
シルフィードはその場にうずくまった。アビスはそんなシルフィードの頭を掴みあげて剣を突き立てた。
「ぐあぁ!!」
シルフィードは悲鳴を上げた。アビスは剣を引き抜くとシルフィードを放り投げた。シルフィードは仰向けで倒れ込むと口から大量に血を流した。アビスが近づこうとすると零が体を起こしながら立ち上がった。
「待て……よ……シルフィードに手を出すな……」
「ほう……あれを受けて立ち上がれるとは驚いたな」
「うるせぇ……」
零はフラつきながらもなんとか立った状態でアビスを睨みつけている。その姿を見てアビスは不敵な笑みを見せた。
「そのボロボロの状態でどうするんだい?私の足元にも及ばない君に何ができる?」
「それはやってみなきゃわからないだろ……」
そう言って零は再びアビスに向かって行った。そしてアビスはそんな状態の零を見て嘲笑っていた。
「馬鹿だね~本当に君は愚かだ。今すぐ殺してあげるよ!」
アビスが腕を振るうとその手から黒い渦を発生させた。そこから先程と同じ様な巨大なモンスターが出てきた。
「なっ……」
「君の攻撃パターンは全て把握しているから対処できるんだよ」
アビスはそう言って高笑いした。
零は現れた魔物に向かって剣を構えた。
「こんなもんさっきのやつと比べたら全然大したことねぇ!オラア!」
零は向かってくる魔物を真っ二つに切り裂いた。するとその瞬間、魔物は破裂するように粉々になって消えた。
「は?」
「なんだ、もう終わりか?まぁ俺も本気を出したからな。当たり前か!」
そう言いつつも零は内心驚いていた。
(なんか体が軽くなった感じがする……それに今までにないくらい力が湧き上がってる……)
零はそんなことを考えつつ次の敵に狙いを定めようとした時、零の頭にノイズのような物が発生した。
「ぐっ……また頭痛が……なんだよこれ……頭が痛くて仕方がない……」
『零……零!』
「誰だ!?」
零は周りを見渡した。しかし誰もいない、というより目の前の光景がぼやけてよく見えない。
『私です……零……』
「え?シルフィード?」
なぜか目の前に立っているシルフィードがはっきりと見える。
「シルフィード!大丈夫なのか?」
『はい……心配かけてすみません……』
「い、いや……謝るのはこっちだ。守れなくてごめんな……」
零は自分が情けなかった。シルフィードを守りたいと思っていたはずなのに守ることができなかったのだ。だが、シルフィードは首を横に振った。
『いえ……そんなことはありません……あなたは私を守ってくれました。ありがとうございます……それと一つだけ言わせて下さい……あなたには才能があるんです。だから自分を責めたりしないでください……お願いします……私はどんな事があってもあなたの味方ですよ……では、お別れですね……さようなら……』
シルフィードはそう言うと姿を消した。それと同時に零を襲っていた謎の症状は治った。
「シルフィード……一体なんだったんだ……」
すると再び激しい痛みが頭を襲った。
「うぐぅ……ああああ!!!」
「なんだ?今度は何をしようとしている?」
アビスが不思議そうな顔をしていると突然、零の周りに複数の魔法陣が現れた。そしてその中から出てきたのは、シルフィード達四人だった。
「な……お前らは……うわああ!!」
零の叫びと共に召喚された4人の精霊達は一斉に零に向けて攻撃を始めた。そしてそれに合わせてシルフィードは詠唱を始める。
「闇に染まりし光の使者よ。汝の魂を代償として我の前に姿を現せ。契約に従い我が呼びかけに応え顕現せよ。来たれ!ホーリーロード!」
詠唱が終わると白い輝きを放つ天使が出現した。
「なんだと……」
アビスは驚いた様子だったが、すぐさま行動に移った。アビスは指を鳴らすとアビスの後ろに大きな穴が出現し、その中にアビスが入り込もうとしていた。
「クッ……逃げるつもりですか!」
シルフィードが声を上げるがアビスはニヤリと笑って答えた。
「戦略的撤退だよ。君達に勝てる気がしなくなったんでね。今回はこの辺にしておいてあげるよ」
「くそ!待ちなさい!」
シルフィードが追おうとするが零が立ち塞がってそれを止めようとする。
「待てシルフィード……」
「でも……」
「今はあいつを追いかけることよりも大事なことがあるはずだ」
零にそう言われシルフィードはその通りだと思い冷静になった。そしてシルフィードが振り返るとそこにはボロボロのシルフィードの姿があった。
「シルフィード!……優斗は」
「それが……」
シルフィードの様子がおかしかったので、シルフィードの後ろを見ると零の目に衝撃的な光景が入った。
「嘘……だろう……?なぁ!起きてくれよ!」
「……零……くん」
「優斗……『ラクトヒール』」
俺は、優斗に回復術『ラクトヒール』を掛ける。
それと、『ソールソーマ』も掛けた。これで、なんとかなる筈だ……
「ん……」
「おい!大丈夫か?」
「零……くん?」
「あぁそうだぞ」
良かった。
どうやら助かったみたいだな。
しかし、優斗に一体何が起きたのだろうか。
とりあえず、俺達の置かれている状況を整理する必要があるな。
ーーー まず、俺達が何故こんなところにいるのか。
確か、俺とシルフィードと優斗の三人でダンジョンの探索をしていたんだよな。
そこでモンスターに襲われ、俺とシルフィードは何とか退けたが、その時に魔力を消費しすぎて動けなくなっていたんだ。
そこを、たまたま近くにいたらしい冒険者に助けられたんだったか。
「あれ?零さんはどうしてここに?」
「実はな……」
俺はシルフィードと俺が出会った経緯を簡潔に説明した。
「そうだったんですか。それはすみませんでした。僕のせいなのに……」
「いや、別に良いんだよ。それよりもシルフィード、体調の方はもう大丈夫なのか?」
「はい、もうすっかり元どおりです!」
本当に良かった。シルフィードが無事で。
まぁでも、さっきまでのシルフィードの辛そうな顔を見たときは凄い焦ったけどな。
それにしてもさっきの現象は何だったんだ? 俺の記憶は曖昧だが、何かあったことは覚えてるんだよな。
あの時の頭痛といい、まるで自分の中に別の自分がいるような感じがするんだよな。……気になるな。
後で、シルフィードに詳しく聞いてみよう。
そういえば、ここってどこなんだろうな。
まぁいいか。とにかく今はまず出口を探すことが先決だな。
「優斗立てるか?」
「あぁ、もう大丈夫だ。ありがとう」
「なら早速移動したいと思うんだけど……」
「どうかしたの?」
「いやさっきまであんなに沢山いたモンスターがいないからさ」
おかしい。
絶対に。もしかしたら誰かが倒してくれたのかもしれない。だとしたら、このダンジョンに潜っている他の冒険者の可能性が高いな。
ただ、モンスターを倒して回っていたら流石に疲れる筈だ。
という事は……
俺たちと同じ目的で入ってきた奴らが他にも居るということか。
もしそうなら仲間にすることが出来るかもしれない。
よし!そうと決まったらとっとと行こう! それから少し歩いたところで、俺達はあるものを発見した。
「これは……血か?」
床に落ちていた血痕を見て、優斗が呟く。
「いや違う。よく見ろよこれ。人間の物じゃないぞ。それに、人間以外の生物のものとも言えない。というより……」
そもそも、モンスターのものかもわからない。
だが、明らかにこの先にモンスターではない生き物がいることはわかる。
俺達は意を決して進んだ。
進むにつれ、血の跡は増えていった。そして、とうとうその場所についた。
「……え?」
そこには、人の死体が無数にあった。そして、そこにいたものは……
「嘘……だよね?なんでこんなところにドラゴンが……」
そう。そこには、赤い鱗で覆われた体を持つ巨大な竜がいたのだ。そして、そこにはもう一つおかしなことがあった。
「……子供?」
そこには、小さな子供のドラゴンがいたのである。
俺達はその子の元へ駆け寄った。
すると、その子の目は虚で何も見えていないように思えた。そして、その体は震えており、傷だらけになっていたのであった。
俺達は慌てて回復魔法を掛けたのだが全く効かないようだ。
それどころか衰弱が激しくなっていくばかりだ。
このままじゃヤバイ!一体どうすれば
「こういう時は……『ソールソーマ』!」
シルフィードは回復魔法を発動させるべく詠唱をした。そしてその効果はてきめんに表れてすぐに回復することができた。
すっかり体調が良くなった竜は
俺に擦り寄ると甘えるようにして鳴き始めた。……可愛い。この子は親とかいないのかな。なんか寂しそうだしな。
零はシルフィードの腕を掴んで抑えた。だがそれでもシルフィードはアビスに向かって叫んだ。
「離して!!こいつは絶対に私が倒す!!」
「ダメだシルフィード!君の気持ちはわかるけど落ち着いて!」
「うぐぅ……で、でもぉ……」
シルフィードは目に涙を浮かべた。その表情を見たアビスは微笑んだ。
「どうやら私に勝つことは不可能だとわかったようだな。それではお前達を殺させてもらうぞ」
アビスは腕を振ると黒い渦を発生させた。そしてそこから巨大なモンスターが出てきた。
「な、なんでいきなり……」
「君が私の邪魔をしたせいであの空間で生み出した魔獣達が外に出られないからね。その恨みをぶつけようと思ったんだ」
アビスはそう言って笑みを見せた。するとシルフィードは涙を流して剣を構えた。
「アビス……絶対に倒します……」
「無駄だよ。今の君に私を倒せるはずがない」
「そんなのやってみないとわからないでしょ!」
シルフィードは勢いよく飛び出した。そしてアビスに斬りかかろうとするが簡単に避けられてしまう。
「ほら!やっぱり君は弱い!」
アビスはシルフィードに足蹴りを入れた。シルフィードは吹き飛ばされるが空中で体制を整えて地面に着地した。
「くそ……」
「これでわかっただろ?君に私は倒せない」
「そんなのやって見なければわかりません!」
そう言うとシルフィードは再びアビスに向かって行ったがまた攻撃は簡単にかわされた。その後もシルフィードは剣を振ったり魔法を使ったがアビスには全然通用しなかった。
「はぁ……はぁ……どうして当たらないの……」
「言っただろう?今の君に私は倒せないって」
「くそ……」
シルフィードは肩膝を立てて座り込んだ。それを見ていた零は我慢の限界だった。
「おいアビス!いい加減にしとけよ!」
「おや?やっと本性を表したかな?」
「黙れ!」
「怖いな~。だが無意味だ。君が何をしても私に勝てない」
アビスは余裕そうな顔をしていた。するとシルフィードが零に近づいてきた。
「ねえ零くん……一つ提案があるんだけどいい?」
「え?」
「私と零くん、2人で戦うっていうのはどうかな?」
「い、いやいや無理だろ?流石に……」
「そんなことないよ。私があいつの動きを止めるからその間に一撃入れてくれればいいんだよ」
シルフィードの提案に戸惑った零だったが迷っている暇はなかった。
「わ、わかった。頼むよ」
「うん。任せて」
シルフィードは零に笑顔を見せて立ち上がった。
「話は終わったか?ならばさっさと死ね」
アビスが指を鳴らすと無数の闇弾が放たれた。シルフィードは走って回避したが闇弾は追尾してきた。シルフィードはそれを見ると魔法を唱えた。
「ホーリーフィールド」
シルフィードがそう唱えると白いドーム状のバリアが出現した。闇弾はそのバリアに触れると全て消滅してしまった。
「な、なんだと!?」
アビスが驚いている隙にシルフィードはアビスの元へ走りだした。
「はあああああ!!」
シルフィードは勢い良くジャンプしてアビスの首を狙って斬りかかったがそれも簡単に受け止められてしまった。
「だから言っているじゃないか?君じゃ私には勝てないとね」
シルフィードは力を入れて押し返そうとしたがビクともしない。それどころか逆にアビスに押し負けている。そしてアビスが少し力を加えるとシルフィードの体は地面に叩きつけられた。
「ぐふぅ……ゲホッ……ゲホ……」
シルフィードは苦しそうな声を出して倒れた。
「シルフィード!クソッ……」
零は拳を握りしめて駆け出した。そして勢いに任せてアビスの顔を思いっきり殴ろうとしたその時、零の手は空を切った。そしていつの間にか零の背後にアビスが移動しており、そのまま零に殴りつけた。零は咄嵯に防御をして直撃は避けたが衝撃を抑えることができず吹き飛んでしまった。
「うぐぅ……ゴハッ……」
零はそのまま倒れ込んで吐血した。それを見たアビスは満足げな表情を浮かべていた。
「君にはガッカリしたよ。君には失望した。やっぱり勇者の力は私だけの物にした方が良さそうだね」
アビスが零の元に歩いていく。そして剣を振り上げた。
「じゃあね、零。永遠にさよなら」
アビスは零にとどめを刺そうと剣を振り下ろした。すると突然シルフィードが立ち上がって剣で防いだ。
「まだ立ち上がる元気があったのか」
「ハァハァ……零には手を出させない!」
「もう君は用済みだよ」
アビスはシルフィードを押し返した。するとアビスはシルフィードの腹部に蹴りを入れた。
「ガフゥ……!!」
シルフィードはその場にうずくまった。アビスはそんなシルフィードの頭を掴みあげて剣を突き立てた。
「ぐあぁ!!」
シルフィードは悲鳴を上げた。アビスは剣を引き抜くとシルフィードを放り投げた。シルフィードは仰向けで倒れ込むと口から大量に血を流した。アビスが近づこうとすると零が体を起こしながら立ち上がった。
「待て……よ……シルフィードに手を出すな……」
「ほう……あれを受けて立ち上がれるとは驚いたな」
「うるせぇ……」
零はフラつきながらもなんとか立った状態でアビスを睨みつけている。その姿を見てアビスは不敵な笑みを見せた。
「そのボロボロの状態でどうするんだい?私の足元にも及ばない君に何ができる?」
「それはやってみなきゃわからないだろ……」
そう言って零は再びアビスに向かって行った。そしてアビスはそんな状態の零を見て嘲笑っていた。
「馬鹿だね~本当に君は愚かだ。今すぐ殺してあげるよ!」
アビスが腕を振るうとその手から黒い渦を発生させた。そこから先程と同じ様な巨大なモンスターが出てきた。
「なっ……」
「君の攻撃パターンは全て把握しているから対処できるんだよ」
アビスはそう言って高笑いした。
零は現れた魔物に向かって剣を構えた。
「こんなもんさっきのやつと比べたら全然大したことねぇ!オラア!」
零は向かってくる魔物を真っ二つに切り裂いた。するとその瞬間、魔物は破裂するように粉々になって消えた。
「は?」
「なんだ、もう終わりか?まぁ俺も本気を出したからな。当たり前か!」
そう言いつつも零は内心驚いていた。
(なんか体が軽くなった感じがする……それに今までにないくらい力が湧き上がってる……)
零はそんなことを考えつつ次の敵に狙いを定めようとした時、零の頭にノイズのような物が発生した。
「ぐっ……また頭痛が……なんだよこれ……頭が痛くて仕方がない……」
『零……零!』
「誰だ!?」
零は周りを見渡した。しかし誰もいない、というより目の前の光景がぼやけてよく見えない。
『私です……零……』
「え?シルフィード?」
なぜか目の前に立っているシルフィードがはっきりと見える。
「シルフィード!大丈夫なのか?」
『はい……心配かけてすみません……』
「い、いや……謝るのはこっちだ。守れなくてごめんな……」
零は自分が情けなかった。シルフィードを守りたいと思っていたはずなのに守ることができなかったのだ。だが、シルフィードは首を横に振った。
『いえ……そんなことはありません……あなたは私を守ってくれました。ありがとうございます……それと一つだけ言わせて下さい……あなたには才能があるんです。だから自分を責めたりしないでください……お願いします……私はどんな事があってもあなたの味方ですよ……では、お別れですね……さようなら……』
シルフィードはそう言うと姿を消した。それと同時に零を襲っていた謎の症状は治った。
「シルフィード……一体なんだったんだ……」
すると再び激しい痛みが頭を襲った。
「うぐぅ……ああああ!!!」
「なんだ?今度は何をしようとしている?」
アビスが不思議そうな顔をしていると突然、零の周りに複数の魔法陣が現れた。そしてその中から出てきたのは、シルフィード達四人だった。
「な……お前らは……うわああ!!」
零の叫びと共に召喚された4人の精霊達は一斉に零に向けて攻撃を始めた。そしてそれに合わせてシルフィードは詠唱を始める。
「闇に染まりし光の使者よ。汝の魂を代償として我の前に姿を現せ。契約に従い我が呼びかけに応え顕現せよ。来たれ!ホーリーロード!」
詠唱が終わると白い輝きを放つ天使が出現した。
「なんだと……」
アビスは驚いた様子だったが、すぐさま行動に移った。アビスは指を鳴らすとアビスの後ろに大きな穴が出現し、その中にアビスが入り込もうとしていた。
「クッ……逃げるつもりですか!」
シルフィードが声を上げるがアビスはニヤリと笑って答えた。
「戦略的撤退だよ。君達に勝てる気がしなくなったんでね。今回はこの辺にしておいてあげるよ」
「くそ!待ちなさい!」
シルフィードが追おうとするが零が立ち塞がってそれを止めようとする。
「待てシルフィード……」
「でも……」
「今はあいつを追いかけることよりも大事なことがあるはずだ」
零にそう言われシルフィードはその通りだと思い冷静になった。そしてシルフィードが振り返るとそこにはボロボロのシルフィードの姿があった。
「シルフィード!……優斗は」
「それが……」
シルフィードの様子がおかしかったので、シルフィードの後ろを見ると零の目に衝撃的な光景が入った。
「嘘……だろう……?なぁ!起きてくれよ!」
「……零……くん」
「優斗……『ラクトヒール』」
俺は、優斗に回復術『ラクトヒール』を掛ける。
それと、『ソールソーマ』も掛けた。これで、なんとかなる筈だ……
「ん……」
「おい!大丈夫か?」
「零……くん?」
「あぁそうだぞ」
良かった。
どうやら助かったみたいだな。
しかし、優斗に一体何が起きたのだろうか。
とりあえず、俺達の置かれている状況を整理する必要があるな。
ーーー まず、俺達が何故こんなところにいるのか。
確か、俺とシルフィードと優斗の三人でダンジョンの探索をしていたんだよな。
そこでモンスターに襲われ、俺とシルフィードは何とか退けたが、その時に魔力を消費しすぎて動けなくなっていたんだ。
そこを、たまたま近くにいたらしい冒険者に助けられたんだったか。
「あれ?零さんはどうしてここに?」
「実はな……」
俺はシルフィードと俺が出会った経緯を簡潔に説明した。
「そうだったんですか。それはすみませんでした。僕のせいなのに……」
「いや、別に良いんだよ。それよりもシルフィード、体調の方はもう大丈夫なのか?」
「はい、もうすっかり元どおりです!」
本当に良かった。シルフィードが無事で。
まぁでも、さっきまでのシルフィードの辛そうな顔を見たときは凄い焦ったけどな。
それにしてもさっきの現象は何だったんだ? 俺の記憶は曖昧だが、何かあったことは覚えてるんだよな。
あの時の頭痛といい、まるで自分の中に別の自分がいるような感じがするんだよな。……気になるな。
後で、シルフィードに詳しく聞いてみよう。
そういえば、ここってどこなんだろうな。
まぁいいか。とにかく今はまず出口を探すことが先決だな。
「優斗立てるか?」
「あぁ、もう大丈夫だ。ありがとう」
「なら早速移動したいと思うんだけど……」
「どうかしたの?」
「いやさっきまであんなに沢山いたモンスターがいないからさ」
おかしい。
絶対に。もしかしたら誰かが倒してくれたのかもしれない。だとしたら、このダンジョンに潜っている他の冒険者の可能性が高いな。
ただ、モンスターを倒して回っていたら流石に疲れる筈だ。
という事は……
俺たちと同じ目的で入ってきた奴らが他にも居るということか。
もしそうなら仲間にすることが出来るかもしれない。
よし!そうと決まったらとっとと行こう! それから少し歩いたところで、俺達はあるものを発見した。
「これは……血か?」
床に落ちていた血痕を見て、優斗が呟く。
「いや違う。よく見ろよこれ。人間の物じゃないぞ。それに、人間以外の生物のものとも言えない。というより……」
そもそも、モンスターのものかもわからない。
だが、明らかにこの先にモンスターではない生き物がいることはわかる。
俺達は意を決して進んだ。
進むにつれ、血の跡は増えていった。そして、とうとうその場所についた。
「……え?」
そこには、人の死体が無数にあった。そして、そこにいたものは……
「嘘……だよね?なんでこんなところにドラゴンが……」
そう。そこには、赤い鱗で覆われた体を持つ巨大な竜がいたのだ。そして、そこにはもう一つおかしなことがあった。
「……子供?」
そこには、小さな子供のドラゴンがいたのである。
俺達はその子の元へ駆け寄った。
すると、その子の目は虚で何も見えていないように思えた。そして、その体は震えており、傷だらけになっていたのであった。
俺達は慌てて回復魔法を掛けたのだが全く効かないようだ。
それどころか衰弱が激しくなっていくばかりだ。
このままじゃヤバイ!一体どうすれば
「こういう時は……『ソールソーマ』!」
シルフィードは回復魔法を発動させるべく詠唱をした。そしてその効果はてきめんに表れてすぐに回復することができた。
すっかり体調が良くなった竜は
俺に擦り寄ると甘えるようにして鳴き始めた。……可愛い。この子は親とかいないのかな。なんか寂しそうだしな。
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顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
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北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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