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96話

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すると突然、目の前に大きな火球が出現し俺達に襲ってきた。俺は咄嵯に反応したが、間に合わずそのまま火だるまになってしまった。
俺はすぐに回復しようとしたが上手くいかない。何故か魔力が使えないからだ。
(まさか……!)
「おいシルフィード!」
俺に抱き着いている竜を強引に引き剥がすと、シルフィードに押し付けようとした瞬間再び炎が襲いかかってくる。それをシルフィードはギリギリ避けたが体勢が崩れてしまう。
まずい!この子だけでも! そう思った俺は、もう一度竜をシルフィードに押しつけようとするが、シルフィードは竜を守ろうと必死に抵抗した。しかし……結局押し切られてしまった。
そして、竜をシルフィードが抱えて倒れ込んでしまう。
俺は何とか立ち上がることに成功した。そしてすぐさま回復しようとしたその時だった。
「グルルルル」
後ろから何かの声が聞こえたので俺は振り向いた。そこには……俺が倒した筈のドラゴンの姿があった。俺は動揺を隠しきれず、その場で固まってしまっていた。
すると、突如大きな地震が発生した。それにより、シルフィードと、シルフィードが抱いていた子供が転倒してしまう。
「きゃあああ」
「うわぁあ」
まずい!助けなければ……しかしどうやって……そうだ、まだ『ソールソーマ』が残っていた。
『ソールソーマ』
俺はすかさずシルフィードと子供を回復する。
「ありがとうございます。零さん」
「気にすんなよ」
とりあえずこれで一安心だな。さてと、こいつをどうしたものか。
俺の持っている剣では斬ることはもちろんのこと、ダメージを与えることすらできないだろう。
それに俺の攻撃は当たらなさそうだ。
となると後は……これしかないか。
「シルフィード、ちょっとだけ離れててくれないか?」
「はい。わかりました。ですが無理はしないでくださいね?」
「わかってる。大丈夫だ」
シルフィードは言われた通り離れてくれたので、俺は『魔眼』を使用することにした。しかし、『魔眼』を使っても特に変わった様子は見られない。つまり、今の俺にはあのドラゴニアンのステータスを見ることが出来ないということだ。
ただ、このダンジョンに入ってからのモンスターや罠は全て鑑定できたことから、モンスターの時と同じ様に見ることが出来ているとは思うんだが……
でも、今はそんなことを考えている場合ではない。
この危機的状況を切り抜ける為に、全力で行くぞ!
『神速』『加速』
「オラァ!」
俺は思い切りジャンプをして、空中へと躍り出た。
「グァア!?」
驚いたのか、悲鳴を上げながらも、ブレスを放ってくる。
しかし俺はそれを全て回避して、奴の真上にまでやってきた。そして、そこから重力に任せて、思い切り剣を振り下ろしたのだ! グシャッ!!
「やった!」
俺の攻撃は見事に直撃し、ドラゴンはそのまま落下した。しかし、まだ生きてはいそうな感じだった。なので俺は追撃すべく近づこうとした。
すると、 ピカーーーン!!!! 俺の体が急に光り輝いた。
それと同時に力が湧いてくるような感覚に陥った。
(なんだこれ……でも凄い力だ!今ならあいつにも勝てる気がする!)
俺は勢いよく駆け出し、一気に間合いを詰めると奴に向かって攻撃した。
「オラ!オラッ!オラアッ!!」
ズババッ!!ザシュッ!!!ブシュー! ザシュウウウッッ!!!!
何度も何度も斬りつけて、遂にとどめを刺そうとした時だった。
突然奴は消えてしまい、同時に体力や傷までもが回復し始めたのだ。
(どういう事だ?なんで倒れていたはずの竜が起き上がってるんだよ?)
すると、今度は先程倒したはずのドラゴンが再び現れたのである。しかもその体はさらに大きくなっていた。
(もしかしてこれってもしかしなくても……無限ループみたいなやつじゃ……)
その後、何度か同じ様なことを繰り返した後、俺は完全に理解してしまった。
(なるほど。このダンジョンをクリアしないと終わらない系イベントか)
これは流石に骨が折れそうだな。
だが、俺はこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。絶対に皆の元に帰るんだ。その為には、何が何でもここを突破する!
「グルル……」
するとドラゴンは俺の方をジロリと見つめたあと、俺に向けて突進してきた。しかし俺は冷静に対処すると、ドラゴンの攻撃を難なく避けてカウンター気味に斬りつけた。すると……
ボフッ ドラゴンの身体に火がついた。
「グルゥウウ……」
「へぇ~やっぱりそう言う感じなのか。面白いじゃん」
俺はニヤリと笑うと、そのまま剣に炎を付与して攻撃し続けた。
「グルラララ!」
しかし相手はドラゴン。
中々手強くてダメージが思うように与えられない。
ただ俺にだってまだ策は残っている。俺の持つ固有技能に、相手のスキルを奪うことが出来るものがあるのだ。
『スティール』
「これでどうだ!」
すると、奴はいきなり苦しみ出したので、俺は好機だと思い更に追い打ちをかけようとしたが、そこで変化が起きた。それは、体中に巻き付いている鎖のような物が、徐々に無くなっていったのだ。どうやらこれが、あのモンスターの固有技能なのだろう。
俺はチャンスと思いもう一度攻撃を仕掛けようとしたのだが、ここで予想外なことが起こった。突然、今まで動かなかった子供のドラゴンが動き始めたのだ。
「グルルル」
そしてそのまま親の元へと近づいていった。一体何をするつもりだと思っていると
「ガオオォオン」
「グギャァオ」
2匹の竜がお互いに鳴き始めると、お互いの体に光の粒子が纏わりついていくのが見えた。そして、光が弾けると同時に姿が変貌したのであった。
片方は白銀の竜。もう片方は漆黒の竜になっていたのだ。
どうやら進化が完了したらしい。
(やばいなこれ……もう勝てる気が全くしないんだが……)
すると俺の考えが伝わったのか、2匹は俺を見据えた後すぐに襲ってきた。俺はそれをなんとか回避するが、あまりのスピードについていけず直撃を食らいそうになる。
『魔壁』
ギリギリ防御に成功したが、今のでだいぶ魔力を持って行かれてしまった。
このままじゃじり貧だしどうにかしないとまずいな。ただ、『魔壁』を解除すると恐らく即死してしまうと思う。かと言って『神速』を発動しながら戦えるかと言うと正直無理だと思う。なので俺に残された手段は一つだけだ。
俺は『神眼』を使用し、全ての情報を把握すると奴らに悟られないように行動を開始した。
そして数分経った頃、俺は既に準備を整え終えて、奴らの背後へと回り込んでいた。俺は静かに息を吐き出し、心を落ち着かせる。
(大丈夫……集中しろ。俺はあいつを斬れる。いや……斬るしかない!)
覚悟を決めた俺は剣を構え、全速力で駆け出すと『瞬足』も合わせて、一気に間合いを詰めた。
(よし!今だ!)
「ハアアッ!!」
俺は奴の首めがけて剣を振り下ろした。しかしその瞬間、奴の尻尾が襲いかかってきていた。
「っ!?」
何とかガードを間に合わせることは出来たものの、吹き飛ばされてしまい、地面を転がりながら着地した。
(くそ!これだからトカゲってのは厄介なんだ)
俺は再び奴を見ると、奴の頭上には大きな火の玉が出現していた。それを見た時、俺は全てを悟った。
「まさかお前ら連携プレイまで使えるのかよ!」
俺はすぐさまその場から逃げ出そうとしたが、一瞬遅かったようだ。その火の玉はこちらに向かって勢いよく放たれてきたのだ。
『炎槍・五月雨!』
俺は咄嵯の判断で、自分の目の前に無数の炎槍を放つことで奴の攻撃を相殺した。しかし全てを防ぐことはできなかったようで、俺も大きなダメージを受けてしまう。
「ぐううッッ!」
それでも致命傷は避けた俺は急いで態勢を立て直すと、またも距離を詰めて攻撃を加えようとする。
だがまたしても尻尾による攻撃が俺を襲う。
俺はその攻撃を喰らう前にバックステップを踏んで回避すると、そのまま一気に跳躍し奴の頭の上まで移動すると、そこから急降下して攻撃した。
しかし……
ズバッ!ザシュッ!ブシュー!
奴の体を深く斬り裂いたが、やはり奴は倒せなかった。しかもさっきより傷口が大きいにも関わらずだ。
(こいつマジか!どんだけしぶといんだよ!もうちょっと手応えがあると思ってたんだが……これならいっそこのまま全部の力を使ってやる!『オーバーリミット』!『限界突破』!)
俺はそのまま攻撃を続けることにした。
『神威』
(この攻撃でもダメなのか……?これだとまるで、効いてるフリをしているみたいじゃないか……)
俺は一旦間合いを取ると、今度は魔法を使う事にした。
(これを使えば確実に仕留められるはず……だけどこれ一発しか使えないのが難点なんだよなぁ……)
そう、俺はこの奥の手を使うことによって、俺自身が無防備になるのだ。だからこの一撃に全てを賭けることにした。
『聖剣創造』
俺はこのダンジョンに入ってからずっと探し求めていた武器を手に取った。そして、俺が作り出したこの最強の技。その名は……
「セイクリッドブレイド!!」
俺は渾身の力を込めて、奴に向けてこの剣を叩きつけた。すると俺の全身に衝撃が走ると共に、体中に激痛が走った。
(ぐあッッ!!流石にこれ使うとキツイな……でもこれでようやく終わったか?)
俺は剣に魔力を流し込んで、剣身に雷を宿すとその剣を振るった。
バチバチッ!ゴロゴロッ!
「ギヤャャァア!」
「グルゥゥゥ……」
そして2匹の竜の断末魔がダンジョン内に響き渡ったのだった。
**
戦闘終了後、そこには二つの影があった。
それは、元の姿に戻った白銀の竜とそれに乗り込む黒髪の少年だ。
「ふう~なんとかなったな~」
「グルルッ!」
2人はどうやら会話が出来るらしく、先程までの緊張感はどこへやら、楽しげな様子で語り合っていた。
それからしばらくして、2人が地上に戻るとそこは……なんと森の奥地にある巨大な湖の前であった。そしてそこには、一人の美しい女性がいた。彼女は透き通るような銀髪をしており、肌も雪のように白く、そしてなにより目を引くのがその耳である。それは普通の人間よりも遥かに長く尖っていたのだ。どうやらエルフ族らしい。
俺は彼女があまりにも綺麗なのでついつい見惚れてしまった。するとそんな視線を感じたのか、こちらの方へと近づいてきた。
「あのぉ~私の顔何かついてます?」
「あっ!ごめんなさい!別に貴方が美しすぎてついつい見入ってしまったなんて思ってないですよ!」
「あら、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですわ」
「いえ、本当にそう思ったので」
「フフッ。では素直なお方ですね」
「えっと、ところでここは一体……?」
「ああ申し遅れました。私はハイエルフ族のアルシアといいます。ここに住んでいましてね」
「そうなんですか。それで、何故こんなところにいらっしゃるのですかね……?それにしてもよく無事でいられましたね」
「まぁ、いろいろとありまして。それよりもそちらこそ、どうやってここまで辿り着いたのですか?」
「実は俺達もわからないんですよ。ここに転移されたと思ったら、いつの間にか森の中にいたって感じなんですよ」
俺は、自分が転移させられたこと、そしてダンジョンを攻略したことなどを説明した。
「ほう。ということはあなたも神人というわけですか。しかしよく生き残れましたねぇ。正直、この階層のボスモンスターには勝てないだろうと思っていたので驚きましたよ。それじゃあそろそろ行きましょうか。ここでは話せないこともあるでしょうし」
「はい。そうしますか。それと、一つ聞きたいことがあるのですが、もしよろしかったら街まで乗せて行って頂けませんか?俺、道が分からなくて困ってたんですよ」
「わかりました。良いでしょう」
こうして、俺たちは街へと向かったのであった。
**
道中、俺は彼女に様々なことを質問した。
「そういえば名前を聞いてませんでしたよね。よかったら教えてくれませんか?」
俺は彼女の名前をまだ知らなかったのを思い出した。すると彼女も自己紹介を忘れていたことに気付いたようで、慌ててこう言った。
「すいません。私とした事が……すっかり忘れていました。私の名前はアルセリアと申します。よろしくお願いしますね。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。俺の名前は零と申します。改めて、今日は助けてくださり、ありがとうございました。」
「いいえ、当然のことをしたまでですよ。それにしても敬語はいらないと言ったはずですが……」
「うっ!すいません癖みたいなもので、つい出てしまうのですよ……許してください」
俺は心の底から謝罪をした。だってなんか怖かったんだもん!仕方がないと思うんだよ!
「はぁ……まあいいでしょう。その代わりといってはなんですが、後ほど、あなたのことについて詳しく聞かせていただきますから覚悟しておいてください。」
「うげっ!なんだよ、いきなり。どうしてだよ。」
「さっきも言いましたが、これはお互いのことを知る為に必要な事なのですよ。ほら着きましたよ。さあ中に入りましょうか」
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