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131話
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真一はどこか嬉しそうな表情をして話す。だが、真一に話しかけられた少年は無表情のまま答えた。
「ああ、確かに僕はそう名乗っていますが……。あなたとは面識はないはずですけど……?」
真一は怪しげな笑みを浮かべて言う。
「覚えていないのか?俺は一度会っているはずだぞ?」
「…………はい?」
真一の言葉を全く理解できていない様子のカイムだったが、ふと優斗は思い出す。真一に初めて会った時のことを……。
(そうだ……あの時に真一さんは確か魔王の幹部みたいな奴と戦って……。そいつの名前は確か……カイムって言っていた気がする!ってことは、こいつが……!?)
優斗は慌てて武器を構えようとしたが、真一が先に動いた。
「ちょっと、何してるんですか!」
真一は大声で叫びながら駆け出す。だが、その動きは止まらない。
カイムに向かって走る中、真一は右手で銃の形を作り、左手をその人差し指の指先の方に向けると魔法弾を発射しようとする。
しかし、次の瞬間、真一の前に突如として巨大な影が現れる。
そして、真一に向かって思い切り拳を叩きつける。真一はそれを避けることができず、直撃してしまった。真一はそのまま吹っ飛ばされると、建物の壁に叩きつけられる。
すると、壁は崩壊して瓦礫の山が出来上がってしまった。それを見て優斗と女性は唖然とする。優斗がゆっくりと目を開けると、真一がいた場所に一人の男が立っていた。
男は優斗達の存在に気づくと、こちらに向かって歩いてくる。その男には優斗も見覚えがあった。
「えっと……たしか……」
「アルナ……」
そう言うと女性は震えながら後ずさりを始めた。優斗は咄嵯に女性の手を掴む。
「落ち着いてください。ここは僕に任せてください」
そう言うと優斗はアルナを見つめながら言う。
「なんで……ここに?」
「…………」
すると、突然優斗達の周りに多くの魔物達が集まってきた。優斗はその光景を見ると小さく息を呑む。
優斗は改めて気づかされる。今自分が置かれている状況を……。この世界に来てまだ数時間だというにも関わらず、様々な事件に巻き込まれてきた。だが、優斗が気づいていなかっただけで今までにも数多くの悲劇が起こっていたかもしれない。優斗は自分の考えを改めながら言う。
「あの……」
すると、優斗は急に黙ってしまったアルナに対してあることを聞きたかった。それは自分の大切な人がもし危険な状況になった時、あなたならどうするかということだった。
しかし、いざ聞いてみるとなかなか口にすることができないでいた。すると、突然後ろから大きな足音が聞こえたかと思うと背後にアルナがいて優斗の肩に手を回す。その力はとても強かったため、優斗は身動きを取ることができなかった。
そして、そのまま耳元で言う。
「私が戦う」
「え……?」
予想外の言葉を聞いた優斗は驚いた表情をする。その反応を見てアルナはクスッと笑う。
それからアルナは優斗から離れると、目の前にいる大勢のモンスター達の方を向く。そして、目を閉じて深呼吸をしたと思ったら、一気にモンスター達の方へと駆け出した。
モンスター達は雄叫びを上げながら襲いかかってくる。すると、次の瞬間……優斗達の目に映ったのはこの世のものとは思えない程の美しい剣舞だった。
アルナはまるで蝶のように華麗に飛び跳ねるとモンスター達の身体を次々と斬り裂く。モンスター達の鮮血が辺り一面に飛び散る。優斗はその美しさに見惚れていると、今度は空高く飛び上がった。
そして、両手を広げて回転し始める。それと同時にモンスター達の頭上からは大量の斬撃が降ってきた。
(な、なんて強さだ……!こんなに圧倒的な力を持つ人間がいるだなんて……。これが本当の強者……なのか……)
優斗がそう思っているとアルナは地面の方を見ながら叫ぶ。
「こっちだ!早く!」
「は、はい……!」
優斗はそう言うとすぐに女性を連れてその場から離れた。
アルナと魔物達が戦っている場所から離れながら優斗は思う。
(それにしても……あんなに強いんだったら最初から戦ってくれても良かったんじゃないのか?)
すると、女性が不安そうな顔をしていることに気づき、急いで声をかける。
「大丈夫ですか……!?すみません……少し無理させてしまったかもしれなくて……」
「い、いえ……気にしないでください。私のせいであなたまで巻き込んでしまって申し訳ございませんでした。私のことは置いておいて……あなただけでも街の中心部へ行ってください」
その言葉を聞いて優斗はすぐに首を横に振る。
「そんな……!一緒に行きましょう!」
優斗の言葉を聞くと女性は微笑んだ。だが、その直後……女性の顔色が悪くなる。そして、苦しそうな表情を浮かべた。その様子を見つめていた優斗はすぐに声をかけた。
「どうしたんですか?どこか具合でも悪いんですか?」
「……実はさっきの爆発に巻き込まれた時に足を挫いてしまって……。今はどうにか我慢してここまで来れたのですけど……もう歩けなくなってしまっているようです……。だから……お願いします……。あなた一人で先に進んでください……。私はここであなたを待ちます……。あなたに迷惑かけたくないんです……」
その話を聞いた優斗は何も言えなくなってしまう。そんな時、真一のことが脳裏に浮かぶ。
(真一さんがあそこで倒れたままだと……俺もアルナさんも危なかった……。真一さんだってあの怪我でまだ意識があるのも奇跡に近い状態……。きっとこのままじゃこの人も……)
すると、真一が話していたことを思い出す。真一は言っていたはずだ。どんな困難にも立ち向かう覚悟はあると……。優斗は大きく息を吸い込むと女性に言う。
「分かりました……。必ずまたここに戻ってきます。その時にまだここに留まると言うのであれば……」
優斗はそう言うとその女性の手を取り、お姫様抱っこをして持ち上げた。突然の出来事に驚いた様子のその女だったがすぐに恥ずかしそうにしながら優斗に声をかけた。
「あ、ありがとうございます……」
優斗は笑顔で言う。
「僕の名前は佐藤 優斗って言います。あなたのお名前は?」
「わ、私の名は……ミレアナと言います」
優斗はもう一度微笑むと、ゆっくりと歩き始めた。
(待っていてくれよ……真一さん……。絶対に死なせないからな……!約束は必ず守る……!だからもう少しだけ頑張ってくれ……!)
優斗は決意を固めると、街の中心部へと向かった。
真紅郎たちのライブが始まってしばらくすると会場の外には大勢の観客が集まっていた。それに加えて街中の人々も続々と集まってくる。その中には街の外にいた冒険者達の姿もあった。彼らは今の状況について話し合っている。
「おい、見ろ!魔族たちが逃げてくぞ!」
一人の男性が興奮気味に大きな声でそう言った。その言葉を合図にして人々は歓声を上げた。その様子を見て僕たちは思わず笑みをこぼす。
「みんな盛り上がってるね!」
「はい……。なんだか、緊張してきました……。ちゃんと歌えるでしょうか?」
僕はタツヤとメイに言うと二人はニッと笑いながら僕の背中を叩く。
「大丈夫だよ、タケル。サクヤの歌を聴いて自信持って!オレたちもついてるからさ!」
「そうだよ、やろうぜ!せっかく集まったんだし!」
二人の言葉を聞いて少し気が楽になった。その時、ステージの裏方の方からも大きな歓声が上がる。そちらを見ると準備を終えたレイジが楽器を手に持っていた。そして、ドラムスティックを持った手で僕たちに手招きする。
「早くこい!そろそろ始まるみたいだ!」
その姿を見て、僕たち三人は顔を見合わせると静かに笑う。そして、大きく息を吸うとステージに向かって走り出した。
舞台に上がるとすでに多くの観客が押し寄せていた。僕たちを歓迎してくれる人もいたけど……中には僕のことを知らない人たちもいる。
その人たちは僕を見て眉間にシワを寄せたり怪しんでいる表情を浮かべている人もいる。おそらく、僕の噂を聞いたり聞いた人から聞いてここに来たのだろう。だけど、その噂を信じない人がいることに少しホッとした。やっぱり、人は信じたいものしか信じることが出来ない生き物だ。そして、自分の思い通りになると信じて疑わない……。
すると、突然後ろの方で大きな音が鳴り響いた。驚いて振り返ると、そこにはギターを抱えた金髪の少女が立っていた。少女は僕を見るなりニコッと笑うと軽く会釈をする。
「初めまして、皆さん。アタシの名はキュイ。一応、吟遊詩人をしている者だよん♪よろしくねぇ~」
その独特な雰囲気に僕だけではなく、その場にいる全員が唖然としていた。そんな僕らに気付いていないのか、キュイは口笛を吹きながら前奏を演奏し始める。
「さぁさ、今日も始まったよん。我らのバンド<Realize>のライブ。今宵は楽しんでいくがよい……。では早速……」
そこで一旦演奏を止め、深呼吸すると再び歌い出す。彼女の声に合わせて僕たちも歌い出し、同時に曲が始まった。
初めて聞くはずの彼女の歌声はとても心地よく……透き通っていた。まるで空高く昇った陽の光のように暖かい……そんな気持ちで満たされていく。そして、彼女と一緒に演奏する仲間たちの奏でる音楽も合わさっていく。それはとても楽しくて……心が踊って仕方がなかった。
彼女はその身一つだけでこの場を、この世界を彩っている。彼女がいる場所は……こんなにも明るい。
これが……ライブなのか……。凄いな……。本当に楽しいよ……。
僕は自然と笑顔になっていた。周りを見れば同じように笑顔になっている観客がいる。隣にいるタツヤと目が合うと彼も嬉しそうに笑っていた。
僕が見たかった景色はこれだったんだ。僕が目指した世界……。僕の願い……夢……。
それをようやく叶えることが出来たんだ……。この世界のどこかで戦ってくれている英雄のために、そして……これからの未来を作る子供たちのために捧げる最高の舞台……。
ありがとう、みんな……。ありがとう、父さん……。ありがとう、真紅郎……。ありがとう……ヴァべナロスト王国……。そして、この世界に生きる全ての人々……。
僕たちは……歌う。届け、世界中に……!! ライブが終わると同時に街を覆う黒い霧が晴れ、モンスター達が次々と倒れていった。
ライブが終わった後、僕たちは疲れ果てて地面に座り込む。初めてのライブで、ライブ自体慣れていなかったせいか全身汗だらけで息も絶え絶えだ。それでも達成感に満たされた僕たちはお互いに顔を合わせて笑い合った。すると、ステージの裏方から出てきた一人の女性が駆け寄ってくる。
「みんな!すごいじゃない!!」
女性……このライブを企画したミレアナさんはそう言って興奮気味に話し始めた。その様子を見ながら僕たちは思わず苦笑する。そして、タツヤが彼女に頭を下げた。
「今回はありがとうございました!あなたのお陰でこうして無事に成功することが出来ました!」
すると、ミレアナさんは慌てた様子で手を振る。
「あー!いいって!別にお礼なんて!私はただみんなの演奏に魅せられただけだし!それに……」
そこまで言うと、ミレアナさんは目を輝かせて言う。
「君たちみたいな素敵な音楽を聞けたからそれで十分!また、一緒に演奏したいわ!」
「えぇ、もちろん!是非ともお願いします!」
タツヤは笑顔で言うと、それを見た僕は思わず笑ってしまった。だってさっきまで僕たちに敵意を抱いていた人が今ではすっかり仲良しなんだ。そのことにおかしさを感じてしまった。
すると、ミレアナさんが僕たちの方を見る。
「ああ、確かに僕はそう名乗っていますが……。あなたとは面識はないはずですけど……?」
真一は怪しげな笑みを浮かべて言う。
「覚えていないのか?俺は一度会っているはずだぞ?」
「…………はい?」
真一の言葉を全く理解できていない様子のカイムだったが、ふと優斗は思い出す。真一に初めて会った時のことを……。
(そうだ……あの時に真一さんは確か魔王の幹部みたいな奴と戦って……。そいつの名前は確か……カイムって言っていた気がする!ってことは、こいつが……!?)
優斗は慌てて武器を構えようとしたが、真一が先に動いた。
「ちょっと、何してるんですか!」
真一は大声で叫びながら駆け出す。だが、その動きは止まらない。
カイムに向かって走る中、真一は右手で銃の形を作り、左手をその人差し指の指先の方に向けると魔法弾を発射しようとする。
しかし、次の瞬間、真一の前に突如として巨大な影が現れる。
そして、真一に向かって思い切り拳を叩きつける。真一はそれを避けることができず、直撃してしまった。真一はそのまま吹っ飛ばされると、建物の壁に叩きつけられる。
すると、壁は崩壊して瓦礫の山が出来上がってしまった。それを見て優斗と女性は唖然とする。優斗がゆっくりと目を開けると、真一がいた場所に一人の男が立っていた。
男は優斗達の存在に気づくと、こちらに向かって歩いてくる。その男には優斗も見覚えがあった。
「えっと……たしか……」
「アルナ……」
そう言うと女性は震えながら後ずさりを始めた。優斗は咄嵯に女性の手を掴む。
「落ち着いてください。ここは僕に任せてください」
そう言うと優斗はアルナを見つめながら言う。
「なんで……ここに?」
「…………」
すると、突然優斗達の周りに多くの魔物達が集まってきた。優斗はその光景を見ると小さく息を呑む。
優斗は改めて気づかされる。今自分が置かれている状況を……。この世界に来てまだ数時間だというにも関わらず、様々な事件に巻き込まれてきた。だが、優斗が気づいていなかっただけで今までにも数多くの悲劇が起こっていたかもしれない。優斗は自分の考えを改めながら言う。
「あの……」
すると、優斗は急に黙ってしまったアルナに対してあることを聞きたかった。それは自分の大切な人がもし危険な状況になった時、あなたならどうするかということだった。
しかし、いざ聞いてみるとなかなか口にすることができないでいた。すると、突然後ろから大きな足音が聞こえたかと思うと背後にアルナがいて優斗の肩に手を回す。その力はとても強かったため、優斗は身動きを取ることができなかった。
そして、そのまま耳元で言う。
「私が戦う」
「え……?」
予想外の言葉を聞いた優斗は驚いた表情をする。その反応を見てアルナはクスッと笑う。
それからアルナは優斗から離れると、目の前にいる大勢のモンスター達の方を向く。そして、目を閉じて深呼吸をしたと思ったら、一気にモンスター達の方へと駆け出した。
モンスター達は雄叫びを上げながら襲いかかってくる。すると、次の瞬間……優斗達の目に映ったのはこの世のものとは思えない程の美しい剣舞だった。
アルナはまるで蝶のように華麗に飛び跳ねるとモンスター達の身体を次々と斬り裂く。モンスター達の鮮血が辺り一面に飛び散る。優斗はその美しさに見惚れていると、今度は空高く飛び上がった。
そして、両手を広げて回転し始める。それと同時にモンスター達の頭上からは大量の斬撃が降ってきた。
(な、なんて強さだ……!こんなに圧倒的な力を持つ人間がいるだなんて……。これが本当の強者……なのか……)
優斗がそう思っているとアルナは地面の方を見ながら叫ぶ。
「こっちだ!早く!」
「は、はい……!」
優斗はそう言うとすぐに女性を連れてその場から離れた。
アルナと魔物達が戦っている場所から離れながら優斗は思う。
(それにしても……あんなに強いんだったら最初から戦ってくれても良かったんじゃないのか?)
すると、女性が不安そうな顔をしていることに気づき、急いで声をかける。
「大丈夫ですか……!?すみません……少し無理させてしまったかもしれなくて……」
「い、いえ……気にしないでください。私のせいであなたまで巻き込んでしまって申し訳ございませんでした。私のことは置いておいて……あなただけでも街の中心部へ行ってください」
その言葉を聞いて優斗はすぐに首を横に振る。
「そんな……!一緒に行きましょう!」
優斗の言葉を聞くと女性は微笑んだ。だが、その直後……女性の顔色が悪くなる。そして、苦しそうな表情を浮かべた。その様子を見つめていた優斗はすぐに声をかけた。
「どうしたんですか?どこか具合でも悪いんですか?」
「……実はさっきの爆発に巻き込まれた時に足を挫いてしまって……。今はどうにか我慢してここまで来れたのですけど……もう歩けなくなってしまっているようです……。だから……お願いします……。あなた一人で先に進んでください……。私はここであなたを待ちます……。あなたに迷惑かけたくないんです……」
その話を聞いた優斗は何も言えなくなってしまう。そんな時、真一のことが脳裏に浮かぶ。
(真一さんがあそこで倒れたままだと……俺もアルナさんも危なかった……。真一さんだってあの怪我でまだ意識があるのも奇跡に近い状態……。きっとこのままじゃこの人も……)
すると、真一が話していたことを思い出す。真一は言っていたはずだ。どんな困難にも立ち向かう覚悟はあると……。優斗は大きく息を吸い込むと女性に言う。
「分かりました……。必ずまたここに戻ってきます。その時にまだここに留まると言うのであれば……」
優斗はそう言うとその女性の手を取り、お姫様抱っこをして持ち上げた。突然の出来事に驚いた様子のその女だったがすぐに恥ずかしそうにしながら優斗に声をかけた。
「あ、ありがとうございます……」
優斗は笑顔で言う。
「僕の名前は佐藤 優斗って言います。あなたのお名前は?」
「わ、私の名は……ミレアナと言います」
優斗はもう一度微笑むと、ゆっくりと歩き始めた。
(待っていてくれよ……真一さん……。絶対に死なせないからな……!約束は必ず守る……!だからもう少しだけ頑張ってくれ……!)
優斗は決意を固めると、街の中心部へと向かった。
真紅郎たちのライブが始まってしばらくすると会場の外には大勢の観客が集まっていた。それに加えて街中の人々も続々と集まってくる。その中には街の外にいた冒険者達の姿もあった。彼らは今の状況について話し合っている。
「おい、見ろ!魔族たちが逃げてくぞ!」
一人の男性が興奮気味に大きな声でそう言った。その言葉を合図にして人々は歓声を上げた。その様子を見て僕たちは思わず笑みをこぼす。
「みんな盛り上がってるね!」
「はい……。なんだか、緊張してきました……。ちゃんと歌えるでしょうか?」
僕はタツヤとメイに言うと二人はニッと笑いながら僕の背中を叩く。
「大丈夫だよ、タケル。サクヤの歌を聴いて自信持って!オレたちもついてるからさ!」
「そうだよ、やろうぜ!せっかく集まったんだし!」
二人の言葉を聞いて少し気が楽になった。その時、ステージの裏方の方からも大きな歓声が上がる。そちらを見ると準備を終えたレイジが楽器を手に持っていた。そして、ドラムスティックを持った手で僕たちに手招きする。
「早くこい!そろそろ始まるみたいだ!」
その姿を見て、僕たち三人は顔を見合わせると静かに笑う。そして、大きく息を吸うとステージに向かって走り出した。
舞台に上がるとすでに多くの観客が押し寄せていた。僕たちを歓迎してくれる人もいたけど……中には僕のことを知らない人たちもいる。
その人たちは僕を見て眉間にシワを寄せたり怪しんでいる表情を浮かべている人もいる。おそらく、僕の噂を聞いたり聞いた人から聞いてここに来たのだろう。だけど、その噂を信じない人がいることに少しホッとした。やっぱり、人は信じたいものしか信じることが出来ない生き物だ。そして、自分の思い通りになると信じて疑わない……。
すると、突然後ろの方で大きな音が鳴り響いた。驚いて振り返ると、そこにはギターを抱えた金髪の少女が立っていた。少女は僕を見るなりニコッと笑うと軽く会釈をする。
「初めまして、皆さん。アタシの名はキュイ。一応、吟遊詩人をしている者だよん♪よろしくねぇ~」
その独特な雰囲気に僕だけではなく、その場にいる全員が唖然としていた。そんな僕らに気付いていないのか、キュイは口笛を吹きながら前奏を演奏し始める。
「さぁさ、今日も始まったよん。我らのバンド<Realize>のライブ。今宵は楽しんでいくがよい……。では早速……」
そこで一旦演奏を止め、深呼吸すると再び歌い出す。彼女の声に合わせて僕たちも歌い出し、同時に曲が始まった。
初めて聞くはずの彼女の歌声はとても心地よく……透き通っていた。まるで空高く昇った陽の光のように暖かい……そんな気持ちで満たされていく。そして、彼女と一緒に演奏する仲間たちの奏でる音楽も合わさっていく。それはとても楽しくて……心が踊って仕方がなかった。
彼女はその身一つだけでこの場を、この世界を彩っている。彼女がいる場所は……こんなにも明るい。
これが……ライブなのか……。凄いな……。本当に楽しいよ……。
僕は自然と笑顔になっていた。周りを見れば同じように笑顔になっている観客がいる。隣にいるタツヤと目が合うと彼も嬉しそうに笑っていた。
僕が見たかった景色はこれだったんだ。僕が目指した世界……。僕の願い……夢……。
それをようやく叶えることが出来たんだ……。この世界のどこかで戦ってくれている英雄のために、そして……これからの未来を作る子供たちのために捧げる最高の舞台……。
ありがとう、みんな……。ありがとう、父さん……。ありがとう、真紅郎……。ありがとう……ヴァべナロスト王国……。そして、この世界に生きる全ての人々……。
僕たちは……歌う。届け、世界中に……!! ライブが終わると同時に街を覆う黒い霧が晴れ、モンスター達が次々と倒れていった。
ライブが終わった後、僕たちは疲れ果てて地面に座り込む。初めてのライブで、ライブ自体慣れていなかったせいか全身汗だらけで息も絶え絶えだ。それでも達成感に満たされた僕たちはお互いに顔を合わせて笑い合った。すると、ステージの裏方から出てきた一人の女性が駆け寄ってくる。
「みんな!すごいじゃない!!」
女性……このライブを企画したミレアナさんはそう言って興奮気味に話し始めた。その様子を見ながら僕たちは思わず苦笑する。そして、タツヤが彼女に頭を下げた。
「今回はありがとうございました!あなたのお陰でこうして無事に成功することが出来ました!」
すると、ミレアナさんは慌てた様子で手を振る。
「あー!いいって!別にお礼なんて!私はただみんなの演奏に魅せられただけだし!それに……」
そこまで言うと、ミレアナさんは目を輝かせて言う。
「君たちみたいな素敵な音楽を聞けたからそれで十分!また、一緒に演奏したいわ!」
「えぇ、もちろん!是非ともお願いします!」
タツヤは笑顔で言うと、それを見た僕は思わず笑ってしまった。だってさっきまで僕たちに敵意を抱いていた人が今ではすっかり仲良しなんだ。そのことにおかしさを感じてしまった。
すると、ミレアナさんが僕たちの方を見る。
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皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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