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数日が経ち、農場にもすっかり夏の空気が根付いた。
畑のトマトは赤く色づき始め、キュウリは朝採りのときにパリッといい音を立てる。麦畑の穂先も黄金色に染まりつつあり、風が吹くたびにさらさらと波打った。
「今日は朝一で市場へ出すトマトの収穫な」
カイルの声で、僕たちはいつものように早朝の作業に取りかかる。シャズナは日陰から僕たちを見守り、リッキーは足早に畝を飛び越えながら追い風のように駆け回り、ルシファンはトマトの根元に潜む小虫を追い払うように忙しなく動いていた。
そして、朝露に濡れたトマトを摘みながら、ふと僕は視線を上げた。
市場への道の向こうから、見慣れぬ馬車が一台、ゆっくりとこちらへ向かってきていた。
「……客人かな?」
僕のつぶやきにカイルが顔を上げ、額の汗を拭う。
「うーん、あの馬車……どっかの貴族って感じじゃねえな。けど、悪い雰囲気でもねえ」
近づいてきた馬車は、装飾も控えめで質素な作り。けれど、荷台にはたっぷりと積まれた木箱、幌の影には人影が二つ。やがて馬車は僕たちの農地の前で止まった。
「すみません、この辺りで“トア村の農場”という場所を探しておりまして」
そう声をかけてきたのは、まだ若い女性だった。旅の服装だがどこか品がある。後ろには筋骨たくましい護衛らしき男が控えている。
「トア村なら、まさにここだよ」とカイルが答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。
「よかった……あの、もしご迷惑でなければ、少しお話をさせていただけませんか?」
僕とカイルは顔を見合わせた。まったく見知らぬ人物ではあるけれど、その瞳にはどこか、まっすぐな信頼を感じた。
「まあ、話くらいならな。座るか? ちょうどトマトもぎたてだし、冷たい井戸水で冷やしてあるぜ」
カイルがにやりと笑うと、シャズナが「にゃっ」と鳴いて、その女性をじっと見つめた。
リッキーとルシファンも、なんとなく不思議そうに馬車を見上げている。
――この出会いが、僕たちの農場にどんな変化をもたらすのか。
このときの僕には、まだ分からなかった。
畑のトマトは赤く色づき始め、キュウリは朝採りのときにパリッといい音を立てる。麦畑の穂先も黄金色に染まりつつあり、風が吹くたびにさらさらと波打った。
「今日は朝一で市場へ出すトマトの収穫な」
カイルの声で、僕たちはいつものように早朝の作業に取りかかる。シャズナは日陰から僕たちを見守り、リッキーは足早に畝を飛び越えながら追い風のように駆け回り、ルシファンはトマトの根元に潜む小虫を追い払うように忙しなく動いていた。
そして、朝露に濡れたトマトを摘みながら、ふと僕は視線を上げた。
市場への道の向こうから、見慣れぬ馬車が一台、ゆっくりとこちらへ向かってきていた。
「……客人かな?」
僕のつぶやきにカイルが顔を上げ、額の汗を拭う。
「うーん、あの馬車……どっかの貴族って感じじゃねえな。けど、悪い雰囲気でもねえ」
近づいてきた馬車は、装飾も控えめで質素な作り。けれど、荷台にはたっぷりと積まれた木箱、幌の影には人影が二つ。やがて馬車は僕たちの農地の前で止まった。
「すみません、この辺りで“トア村の農場”という場所を探しておりまして」
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「トア村なら、まさにここだよ」とカイルが答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。
「よかった……あの、もしご迷惑でなければ、少しお話をさせていただけませんか?」
僕とカイルは顔を見合わせた。まったく見知らぬ人物ではあるけれど、その瞳にはどこか、まっすぐな信頼を感じた。
「まあ、話くらいならな。座るか? ちょうどトマトもぎたてだし、冷たい井戸水で冷やしてあるぜ」
カイルがにやりと笑うと、シャズナが「にゃっ」と鳴いて、その女性をじっと見つめた。
リッキーとルシファンも、なんとなく不思議そうに馬車を見上げている。
――この出会いが、僕たちの農場にどんな変化をもたらすのか。
このときの僕には、まだ分からなかった。
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