悪役令嬢と名高い私ですが、巷で人気の『光の賢者様』の正体は私です

サトウミ

文字の大きさ
29 / 44

ユミル殿下がいる理由

しおりを挟む
「ところでユミル殿下はなぜ、ヤマタイ国の王女殿下と一緒にいらっしゃるのでしょうか?」

私は、殿下がカフェに現れた時からずっと気になっていたことを質問した。

「実はタマモ様がアスタリア王国へ遊びに来られることは、前から決まっていたんだ。予定では来週のはずだったんだけど、こちらの日程調整ミスで、タマモ様は今日ご来訪されたんだ。」

「妾達はちゃんと『猪月・猫日・双蛇の時』だと伝えたぞ!」
時刻表示が独特すぎる。これは間違えても仕方がない。日程調整された方に同情するわ。

「しかも本来タマモ様をもてなすはずだったカイルが風邪で寝込んでさ。それで急遽、僕が代わりに歓待することになったんだ。今はタマモ様の『自由に王都を散策したい』という要望に応えて、一緒にお出かけしていたんだ。」

なるほど。だからユミル殿下ウイン様は賢者同士の集まりに来れなかったのね。

「ユミル殿下は今日、他に予定はなかったのですか?」
「あったけど、外国の王女殿下タマモ様より優先される予定は無いから、仕方ないよ。」

確かに、賢者同士の集まりより王女殿下を優先するのは仕方のないことだわ。
良かった。ちゃんと来れない理由があったのね。ウイン様が理由もなくドタキャンするはずがないもの。
...って、ユミル殿下がウイン様とは限らないのに、何を勝手に納得しているのだろう?

「それより、ジュリー嬢はなぜレディーナ様とこんなところにいるの? 二人はどういう関係?」
殿下は不思議そうな顔で、私達の関係について尋ねる。

私達が一緒にいる理由はユミル殿下ウイン様がよくご存知ですよね?
と言いたくなったが、客観的に考えれば私とレディーナが一緒にいるのは不自然だし、その理由を聞くのはむしろ自然な流れだ。
殿下は正体を悟られないように、あえて理由を聞いたのだろう。

「実は以前ブーケが悪魔憑きになった際、ウイン様に会ってサインを頂きました。その時にウイン様が『キャメル・モーダンこのカフェに来たら、他の賢者様にも会えるよ』と教えてくださいました。何でも、今日賢者様達はこの店で会う約束をしていたそうです。それで私は、残りの賢者様からサインを貰うため、会いにきました。」

「そうなんだ。教えてもらえて良かったね。それで、他の賢者様達からサインを貰うことはできたの?」

「レディーナ様からは先程頂きました。ですがフィーネ様はまだです。」

「フィーネとウインはまだ来てないんだ。それにしても二人とも遅いよなぁ。」
「本当ですね。」

フィーネわたしウイン様ユミル殿下も来れない理由があるから仕方ない。
レディーナには悪いことをしたわね。

「...お二人とも、来られない事情でもあるのでしょうか?」
ユミル殿下は目を丸くして考え込む。
フィーネわたしが来ないことを気にしてくださっているのかしら?

「きっと、やむを得ない事情があるのかもしれません。それか、カイル殿下のように風邪をひいている可能性も考えられます。」

「ウインはともかく、フィーネが風邪じゃなかったらいいんだけどな。...あぁ~、フィーネだけでも来ないかなぁ。」

知らないとはいえユミル殿下ウイン様の前でその言い方は良くないわ。ユミル殿下は気にしてなさそうだけど、内心ではどう思っているのかしら?
そんなレディーナの態度が気になったのか、タマモ様は口を挟んだ。

「話を聞く限りじゃと、ウイン殿は賢者仲間なのであろう? レディーナ殿はウイン殿と仲が良くないのか?」

やっぱり第三者からしても、レディーナのウイン様への態度は素っ気なく見えるようね。

「実は私も先程、同じ質問をレディーナ様にしました。なんでも、レディーナ様はウイン様を嫌ってはいないそうです。」
「そーそー! 私の好きな人がウインを好きってだけで。強いて言えば、アイツに嫉妬してる。」

タマモ様に説明しながら、ユミル殿下の様子をちらりと見る。殿下はあまり表情を変えていない。『レディーナの好きな人がウイン様を好いている』ということについて、どう思っているのかしら?

「ほほう! レディーナ殿の好きな人じゃと? 面白そうではないか。」
タマモ様はレディーナの恋バナに興味深々のようだ。

「それで、レディーナ殿の好きな人とやらは一体どんな人物なのじゃ?」
「よくぞ聞いてくれた!」
レディーナもジャズ先輩好きな人の話ができて嬉しそうね。

「その娘は、優しくて真面目で、正義感が強くて......そして何より、一緒の空間にいるだけで癒される。存在そのものが尊いんだ!」
微笑みながらジャズ先輩好きな人のことを語るレディーナの顔は、完全に恋する乙女の顔だった。

「レディーナ殿はよほど、その人物が好きなのじゃな。それで、脈はありそうなのかえ?」
「いや、全然。今のところは友達止まりだな。向こうがウインを好きすぎて、私のことは眼中にない感じ。」

さっきまで笑顔だったレディーナは、その話になった途端、憂いを帯びた表情へと変わった。

「なるほど...よほどウイン殿は手強い女子おなごなのじゃな。」
「へ? ウインは男だけど?」
「ん??」

ウイン様を女だと勘違いしていたタマモ様は、男だと知った途端、目を大きく見開いて固まった。
ヒヒさんもタマモ様と同じように固まっている。ということは、彼もウイン様を女だと思っていたのだろう。

それにしても、なぜ二人はウイン様の性別を勘違いしたのかしら。
少し疑問に思ったものの、その謎はすぐに解明した。

女性レディーナの好きな人』と聞いたら、普通は男性だと考える。
それと同じで、『男性レディーナの好きな人の好きな人』と聞いたら、女性だと思うのがむしろ自然だ。

タマモ様達はしばらく固まった後、を察したように口元に手を当てた。

「じゃ、じゃあレディーナ殿の好きな相手は...。」
「タマモ様、それ以上は言及しないでおきましょう。ヤマタイ我々の国では同性婚は禁忌ですが、ヒト族はそうではありませぬ故。」

「そ、そうじゃったな。危うく無粋なことを聞くところじゃった。」
ジャズ先輩レディーナの好きな人が薔薇の人だと察した二人は、戸惑いながらも受け入れたようだった。

「まぁ、そういうことだ。私が友達止まりなのも、それが一番の原因なんだよなぁ。どうしても性別の壁を越えられないというか。まぁ、越えたらそれはそれで色々問題だけど。」

確かに、性別の壁は越えるのは難しいわね。
可憐な彼女がジャズ先輩薔薇の人に好かれるには、どうすればいいのかしら。

「だったら、いっそのこと男に変装するというのはどうじゃ?」
「それは一回やったことがある。けど、そんな頻繁に男の姿で会えないしなぁ。」

レディーナって、男装したことがあるのね!
キャリーじゃないけど、すごく興味がある。

「それで、相手の反応はどうだったのだ?」
「そこまで悪くないと思う。私のこと、強くて優しくて、頼りになるって言っていたし。ただ、私と会う時は少し緊張するみたい。多分、私が威圧的に感じるんだと思う。私、たまに『威圧的に感じる』って言われるしなぁ。」

レディーナが威圧的...って、どこが?
可憐な彼女が男装したところで、威圧的になるとは到底思えない。
だけど彼女の話を聞く限りでは、好感触のようね。
...まさか、緊張する理由は別だったりして?

「もしかして、そのお方は男装したレディーナ様に少しだけ気があるから、会われる時に緊張されるのではないのでしょうか?」

「えっ...!」
私がその可能性を指摘すると、レディーナは目を丸くし、頬を緩めた。

「そ、そうか? 男の姿の私って、可能性ありそう?」
「可能性はゼロではないと思います。ただ、男装した姿の方で好かれても、後々大変だと思いますが...。」

「確かに色々大変だけど、悪魔王を倒すことに比べたら楽勝でしょ!」
レディーナは呑気ね。
ま、本人は嬉しそうだし、水を差すようなことは言わないでおこう。
男装での恋愛に行き詰まったら、その時に相談に乗ってあげればいいわ。

......そんな話をしていると、突然、ヒヒさんが大きな声で叫び始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

処理中です...