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26、モテる男の受難
しおりを挟む前回、薬師長を魔導師長と書いてしまい、読み辛かくてすみませんでした。最初から最後まで薬師長しかおりません。
訂正致しました。失礼致しましたm(_ _)m!
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お茶の時間はまだ続いている。
薬師の基本業務は勿論薬作りと、治癒術を使う程ではない怪我や病気などの対処が主だ。回復薬や魔力回復は訓練などで大量に消費されてしまうので、ほぼ毎日作っているのと、その他に一週間程度のストックも作っておく。
これらはいつ魔物が『暗き森』から溢れるか分からないので、その為の分だ。これが地味に量が多いし、古い物から普段用に使って行くので、どんどん新しく作らなければならない。
けれど、忙しくてもこうやって休憩はきちんと取る様にしている。単に薬師長が皆の様々な薬煎茶を飲みたくて、休みたいだけではないだろうかと思ったりもするけれど。
大抵休憩を忘れるのは、休みの日に個人で薬の研究をして熱中している時で、私だけではなく薬師達全員がそんな感じなので改善はされ難い。
「そう言えば、そろそろアルバーグの湖開きの時期じゃない? 」
「ああ、もうそんな時期か。一角獣の角か……高いんだよなぁ……」
エドは何処か遠くを見つめながらぼやいた。
アルバーグは砦より南下した所にある、『暗き森』とぎりぎり接している湖だ。その近辺は一角獣や亜種の二角獣の縄張りなっている。一足先に繁殖期を終える種なので、その頃を見計らい森に接していない方を行楽の為解放するのだ。
森の反対側は草原が広がり、湖を眺めながらのんびりと過ごせる。解放した後は小舟を設置し、屋台なども並んでいてとても賑やかになる。
一角獣達は賢く、滅多に人を襲わないので、森側でその姿を現しても、皆その白い輝く毛並みを眺めて、観察して楽しんだりと平和な時を過ごすのだ。
「繁殖期の後は、ぼろぼろ角が落ちてる筈なんだよなぁ……」
「森側じゃなくて湖全域でうろうろしてくれれば良いのに」
「マキナ……いくら滅多に襲わないからって、襲われない保証はないんだぞ」
「それぐらい分かってるわよ」
マキナとエド、言い合う二人を横目に、いつもの事だと皆お茶を啜る。
一角獣の角は、回復薬よりも効果の高い上級回復薬を作る素材でもある。
普通の回復薬は体力をやや回復して、擦り傷や切り傷、打撲などに効果はあるが、骨折や内臓の損傷など重度の怪我には効果が薄い。上級回復薬は飲めば体力の八割回復するだけでなく、治癒術の様に八割方どんな怪我でも治ってしまう高効果薬だ。
ただ、失明などは怪我を治せても視力を戻したりは出来ないし、失った箇所を再生は出来ないので、八割方という表現になるけれど。
一角獣が賢いせいで、人前には滅多に現れず、落ちている角を拾って採取するしかないのだが、これがまた難しい。
現れたとしても、純潔でなければ角で刺し殺されるか、体当たりされた挙句踏まれて圧死するかの二つに一つだ。
綺麗でも魔物には違いないので、出会ったら即死を覚悟しなければならない。
じゃあ純潔であれば良いかと言うと、そうでは無く。とにかく懐かれその場から何日も返して貰えないと言うのだから、質が悪い。
けれど……せっかくの湖開きだ。早めに行けばもしかしたら一つくらいは落ちているかも知れない。森側へ小舟で回ってみても良いだろう。
「次の休み行って来ようか? 」
「良いの?! 遠いわよ」
「湖をちょっと回るくらいなら、フェリクス様も了承すると思う。せっかくなら屋台を見せてあげたいし……」
きっと、王族だった頃はそういった祭に参加など出来なかっただろうから、お互いに良い行楽になるのではないだろうか?
私がそんな事を思っていると、エドとマキナが慌てて立ち上がった。
「こうしちゃいられない! ストック分の魔力回復薬作るぞ! 」
「どうしようエド! 回復薬も二週分ストック作っておく?! 」
「二人とも落ち着いて、作っても良いけど瓶が足りなくなる」
「そうだよ、今まだ休憩時間なのに~」
慌ただしく仕事へ戻る二人に、どうしたのかとナオリとネネも顔を見合わせている。
「どうしたの二人とも、勢い込んで? 」
あまりの意気込み振りに訊ねると、エドはキラキラとした瞳でこちらを見て来る。思わず眩しいと思ってしまう程の笑顔だ。珍しい。
「ルーセント様が行くなら、一角獣自体を狩れるかも知れないからな! 」
「そうね! せっかくなら一緒に行った方が沢山拾えるかも知れないし!! 今から薬を沢山作って休みを取るのよ! 」
フェリクス様へのその変な信頼は一体何処から来ているのだろう。
「こらこら、一角獣は流石に簡単には狩れないぞ。落ち着きなさい」
「薬師長……」
「一応一部で神獣扱いされているのだから、自分達から手は出さない事。それから、一角獣を殺した瞬間の血が付くと呪われる可能性があるから、遠くから仕留める事。……まあ、彼なら強い呪い返しの魔道具を持っているかも知れないから、万が一採取出来るかも知れないな 」
すると、エドとマキナ、ナオリとネネまでが、『それだ!! 』と言って瞳を輝かせた。一体どれだ。せっかく薬師長が諭してくれるかと期待したらこれなんだから。
「三日も閉めて、また長い事作業部屋を閉鎖は出来ないから、全員は無理だな。誰が行くかは話し合いで決める事」
『はーい! 』と元気な返事をして皆黙々と作業し始めた。確実に取れるとも、確実に仕留めるとも誰も言っていない。フェリクス様にはまだ出掛ける旨すら伝えてない。しかし、彼らの気迫は嫌とは言えない程の迫力だ。
きっと、私が誘いを失敗したとしても、彼らのこの熱意でフェリクス様のアルバーグお出掛けは実現されるだろう。
……砦の女性達にモテるより、薬師達にモテる方が色々と大変かも知れない。
何も知らない彼に心の中で謝っておく。
私も角は欲しい側である。結局は作業に加わるのだった。
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