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アデリーネの場合 2
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とりあえず、俺はダリウス王子の婚約者の地位を最大限に生かす事にした。
正式な発表は二年後だが、既に王子妃教育は始まる。これをダリウス王子と共に王子教育、王子妃教育のどちらも参加する事をごり押しした。
勉強は倍になるが、これで魂交換してもお互いの立場に難なく収まるだろう。説得は王子が外遊で自国に居ない時に、王子妃が政務を担える様に教育が必要とか何とか上手い事を言って大人達を納得させた。
そうして、渋るダリウス王子に頷かせて教育の予定が立った。歴史はお互い習っていたから、これからは他国の歴史に特性、自国の貴族の領地特性、政治学に剣に魔法に……戦略と、大忙しである。王子妃学はそれに他国のマナーや王族の家系暗記、客人を招く際の部屋の装飾の決まりを覚える事やら……まあ細かい。早く魂交換して、お互いの勉強だけで済ませたい。と言っても、魔法はこれから習うし、大した情報は初心者には伝わって来ないだろうから、先は長そうだ。
勉強初日。午前の勉強を終えて、疲れたダリウス王子と共に庭園の四阿へと赴いた。今日はここでランチをしようと思う。俺の可愛さを以ってすれば、ダリウス王子付きの侍女だろうとお目付け役だろうと頷かせるのは容易だわ。ふははは。流石美少女。
ランチのセッティングをして貰ったら、侍従達には下がって貰った。これから、大事な話があるのだ。
「ねぇ、ダリウス……殿下。私確認したい事がございますの」
「……もうダンで良いよ、婚約しちゃってるしね。私もアディって呼ぶから。って言うか、何でまだその話し方なの? 」
小首を傾げるダリウス改めダンは天使の容姿故に可愛い上に動作に一々キラキラエフェクトが付いて来る。何これ、俺が悪役令嬢だから、婚約者にどっぷり惚れる為の仕様か何かなの?
「ダン様。一応盗聴防止の魔法がまだ使えないから、口調は念の為ですわ。それよりも、私、ダン様にお尋ねしたい事がありますのよ。聞いて下さる? 」
俺はダン同様小首を傾げて微笑んだ。ダンは引き気味に『あ、うん……』と返事をした。何これ、悪役令嬢にはエフェクト飛ばないの? どうやっても嫌われる未来しかないの? それはちょっと悲しい。
「ダン様。ここはどういった世界なのか、何かご存知? 」
「やっぱり気になるよね? 多分ゲームの世界だと思うんだけど、私も良くは知らないんだ」
「マジか……じゃなくて、そうなんですの……。でも、ゲームの世界というのは間違いないのかしら? 」
ダンはこくりと頷く。どうやら俺の想像は間違ってないらしい。
「友達がやってたスマホのゲームだったと思うよ。勧められてはいたけど、私漫画の方が好きだったから興味が無くて……時折進みを見せられたりはしたけど、細かい内容はさっぱりだよ」
「そう……まあ、どう考えても、ダン様は攻略対象だし、私は悪役令嬢よね? となれば、ゲームの強制力がどのくらいか分からないけど、上手く動かないとダン様に断罪されて良くて国外追放か修道院入り、悪くて死亡……って所かしら? 」
「……死亡? 何それ」
「あら、ダン様は乙女ゲーム……の創作小説をご存知ありませんのね。大抵の乙女ゲームを題材にした世界は、悪役令嬢がヒロインに傾倒したヒーロー達に断罪されてしまうのです。それを回避するのが転生の醍醐味なのですが……しくじればバッドエンド。つまり死亡か、国の破滅か……ゲームによっては世界滅亡です。私の行動如何では責任重大ですわね」
「そんな……だって、私は今アディと婚約してるんだよ? なのにアディを断罪するの? ヒロインと? 」
「そういうお約束って事ですわね。勿論、私はダン様の体を狙っておりますし、そんな事態にはさせませんが」
「うっ……体云々はとにかく、私は浮気野郎なんてなりたくない……そんなのクズじゃない。本当にそれはヒーローなの? 」
え、俺は浮気っていうかハーレム作る気満々なんですけど……。クズ……まあ、そうだよなぁ。ハーレムは男の夢ではあるけど、実際に目にしたらチベットスナギツネの顔するかも。そうか、クズかぁ。
「まあ、少女漫画でも浮気性のヒーローは居るでしょう? それが、ヒロインに出会って目が覚めて……遊んでいた女の子達と別れてヒロインと結ばれる……とかあるでしょう? その捨てられた女の子が悪役令嬢ポジ……と置き換えると分かりやすいかも」
「えぇ……そうかぁ。浮気性のヒーローの時点でその作品は選ばないから、ヒロインの気持ちは分からないけど……。何となく流れは分かったよ。それで、どうして行けば良いのかな? ゲームの強制力って? 」
それから俺はゲームの強制力や、ありそうなイベント、ヒロインのキャラの兆候などを説明した。まぁ、小説は沢山読んだけれど、実際に転生したのは初めてなのだから、何が正しいのかは分からないがな!
「それで、ヒロイン対策は分かったけど、これからどうするの? 魔法は初歩の初歩だし、魂の交換なんて本当に出来るのかな? 」
「……それはね、二年後の巫女イベントを狙ってるんです」
「私達の婚約式だね。何かあるの? 」
「だって、婚約式の場所は霊山の頂上! そして巫女! これはもう、入れ替わりイベントと言っても過言ではありませんわ! 」
「全然分からない……神様にお願いするって事? 」
「山、巫女と来たら、自ずと頭に浮かぶのは『入れ替わってるぅ~?! 』となるじゃないですか! 何でもありのこの世界! 絶対不可思議な現象が起こるに決まってます! ですから、それまでは浸すらに勉強ですわ。前世では週五日から六日勉強していたのですから、王子、王子妃教育も熟せる筈ですわ! 」
「……言いたい作品は分かったけど、そう上手く行くかなぁ。まぁ、どうせ王子教育は避けられないから良いんだけど……」
「そうですわ、ダン様! それまでは家族を大切に過ごして下さいね。離れてしまったら悲しいかと思いますが」
転生しているとはいえ、子供を親から引き離すことはになるんだもんな。そこはちょっと罪悪感もある。恐々ダンの様子を見ると、困った様に頬を掻いた。
「いや、まぁ……。王族のせいかどうしても一歩引いた関係だから、それはそこまで悲しくはないんだけど……」
「うちも教育に関しては厳しいから……。あ! 後、ダン様何かトラウマとかありますか?! そこにヒロインが漬け込むのです」
そう、大抵の攻略対象者は何らかの心の傷があって、そこをヒロインから癒して貰って好きになって行くのだ。トラウマがあるなら、対処して行かないと!
「うーん…………私の婚約者が体を狙っている事? 」
「そこで悪役令嬢の影響が?! って、人聞きが悪い! 」
「けど、やろうとしている事は、悪い魔法使いっぽいよね」
くそっ! 何一つ反論出来ない! あれか、王子ルートは悪役令嬢の我が儘に嫌気がさすとかそんな感じか?!
「でも、でも、ダン様も私になれたらきっと楽しいでしょう? 私、美少女ですよ? 」
「自分で言っちゃう中身はとても残念だけれど、容姿はずっと眺めていたいぐらい可愛い。着せ替えしたい」
「あ……りがとうございます? 」
「うん、やっぱり可愛いよね」
う、しみじみ言われると恥ずかしいな?! まぁ、可愛いのは事実だし、これだけ可愛いと言うならば魂交換も嫌ではないんだろう。本当に、俺は良い物件を見つけたよなぁ。
「では、目的達成の為に勉強頑張って参りましょう! 」
「うん、宜しくね」
それから、俺はほぼ毎日王宮へお邪魔して、ダンと勉強したり悪戯したり、お互いの家族の事を話して過ごしていた。
二年はあっという間に経ち、俺とダン、そして護衛と巫女達と共に霊山であるブロキシア山を登った。中腹までは馬車で乗り入れ、そこからは徒歩だ。向かってる最中は、見る限りフジヤマぐらいかそれ以上あったから道中は辛いし長い。剣を習っていたから体力作りはしていたけど、平地と急坂を登るのは全然違う。息を切らしながら、俺達は山頂に辿り着いた。
そこは…………もう閉じた噴火口の平野の真ん中に、ストーンヘッジみたいな石造りの小屋? いや、小屋とも言えない遺跡があった。これ、これだよこれぇ!! まさに求めていた舞台だ。霊山というだけあって神秘的な澄んだ空気が漂っているし、これは奇跡が起きるかも知れない!!
山頂で一晩過ごして体内に霊気を吸収し、お互いの魂の質を近付ける……というのがこのイベントの建前らしい。それと、遺跡で泊まるにあたり、防壁魔法がきちんと展開出来るかもテストされる。王族の技量を見るのが本音なんじゃないだろうか? やっぱり魔力や力が強い者が上に立つ世界みたいだし。
噴火口には王族とそれに連なる者、そして巫女しか足を踏み入れてはいけないので、護衛達すら火口手前でキャンプする。勿論、噴火口よりやや上になるから、そこから見守っているのだろうけれど。
ゆっくりと噴火口へと降りて行く。長い事活動していないからなのか、そう噴火したからか、テレビで見る様な深さは無く、小高い丘を下る感じで、俺達は火口の平野へと降り立った。途端に地から魔力が溢れているのが足から伝わった。火山は向こうでもパワースポットだったりしていたから、納得だ。
ここまでダンがずっと俺の手を引いてくれている。
ここ二年で随分と背が伸びて、天使から美男子へと成長している。うん、良い育ち方だ。順調だ。これで体を交換出来たらと思うと、胸が高鳴る。勿論俺だって、ダンに差し出す予定のこの体を磨いて来たつもりだ。筋肉をつけ過ぎず、肌の保湿に気をつけて、姿勢は正しく。おかげで、俺とダンの侍女達から女神だなんだと褒めそやされて、悪役令嬢だとは思えない程の好意を集めている。
これで、ダンが入れ替わっても楽に生きて行ける筈だ。
空がすっかり夕闇に染まる中、俺達は遺跡の前で巫女の足元へ跪き、何か古語で祝詞を捧げられる。
神様、どうぞこの間違った転生を正しい道へとお戻し下さい!! その為に俺はダンの力にも何にでもなるし、世界がピンチだと言うなら王子として尽力するから。巫女様、よーくよーく神様へ祈って下さい。選ばれたあんた達なら、祈りが届くかも知れない。
それから、俺達は精進料理を食し、祈り用の神酒を飲まされ、二人で力を合わせ四人分の防壁魔法を展開して、星降る夜空の下で眠った。これで、朝日を浴びて山と太陽の霊力を蓄えたら、婚約の儀は終了である。
ああ、起きるのが楽しみだ。
次の日、眩しい朝日に目が覚めた。標高の高い山だから、遮るものが何も無く、とても眩しい。
「う……どうなった? 」
「もう朝……? 」
そうして俺達はのそのそと体を起こし、顔を見合わせた。視界に映ったその顔は……
「……俺達……」
「……私達……」
「「……っ入れ替わってねーし(ないし)!! 」
その絶叫は火口の中で木霊した。
正式な発表は二年後だが、既に王子妃教育は始まる。これをダリウス王子と共に王子教育、王子妃教育のどちらも参加する事をごり押しした。
勉強は倍になるが、これで魂交換してもお互いの立場に難なく収まるだろう。説得は王子が外遊で自国に居ない時に、王子妃が政務を担える様に教育が必要とか何とか上手い事を言って大人達を納得させた。
そうして、渋るダリウス王子に頷かせて教育の予定が立った。歴史はお互い習っていたから、これからは他国の歴史に特性、自国の貴族の領地特性、政治学に剣に魔法に……戦略と、大忙しである。王子妃学はそれに他国のマナーや王族の家系暗記、客人を招く際の部屋の装飾の決まりを覚える事やら……まあ細かい。早く魂交換して、お互いの勉強だけで済ませたい。と言っても、魔法はこれから習うし、大した情報は初心者には伝わって来ないだろうから、先は長そうだ。
勉強初日。午前の勉強を終えて、疲れたダリウス王子と共に庭園の四阿へと赴いた。今日はここでランチをしようと思う。俺の可愛さを以ってすれば、ダリウス王子付きの侍女だろうとお目付け役だろうと頷かせるのは容易だわ。ふははは。流石美少女。
ランチのセッティングをして貰ったら、侍従達には下がって貰った。これから、大事な話があるのだ。
「ねぇ、ダリウス……殿下。私確認したい事がございますの」
「……もうダンで良いよ、婚約しちゃってるしね。私もアディって呼ぶから。って言うか、何でまだその話し方なの? 」
小首を傾げるダリウス改めダンは天使の容姿故に可愛い上に動作に一々キラキラエフェクトが付いて来る。何これ、俺が悪役令嬢だから、婚約者にどっぷり惚れる為の仕様か何かなの?
「ダン様。一応盗聴防止の魔法がまだ使えないから、口調は念の為ですわ。それよりも、私、ダン様にお尋ねしたい事がありますのよ。聞いて下さる? 」
俺はダン同様小首を傾げて微笑んだ。ダンは引き気味に『あ、うん……』と返事をした。何これ、悪役令嬢にはエフェクト飛ばないの? どうやっても嫌われる未来しかないの? それはちょっと悲しい。
「ダン様。ここはどういった世界なのか、何かご存知? 」
「やっぱり気になるよね? 多分ゲームの世界だと思うんだけど、私も良くは知らないんだ」
「マジか……じゃなくて、そうなんですの……。でも、ゲームの世界というのは間違いないのかしら? 」
ダンはこくりと頷く。どうやら俺の想像は間違ってないらしい。
「友達がやってたスマホのゲームだったと思うよ。勧められてはいたけど、私漫画の方が好きだったから興味が無くて……時折進みを見せられたりはしたけど、細かい内容はさっぱりだよ」
「そう……まあ、どう考えても、ダン様は攻略対象だし、私は悪役令嬢よね? となれば、ゲームの強制力がどのくらいか分からないけど、上手く動かないとダン様に断罪されて良くて国外追放か修道院入り、悪くて死亡……って所かしら? 」
「……死亡? 何それ」
「あら、ダン様は乙女ゲーム……の創作小説をご存知ありませんのね。大抵の乙女ゲームを題材にした世界は、悪役令嬢がヒロインに傾倒したヒーロー達に断罪されてしまうのです。それを回避するのが転生の醍醐味なのですが……しくじればバッドエンド。つまり死亡か、国の破滅か……ゲームによっては世界滅亡です。私の行動如何では責任重大ですわね」
「そんな……だって、私は今アディと婚約してるんだよ? なのにアディを断罪するの? ヒロインと? 」
「そういうお約束って事ですわね。勿論、私はダン様の体を狙っておりますし、そんな事態にはさせませんが」
「うっ……体云々はとにかく、私は浮気野郎なんてなりたくない……そんなのクズじゃない。本当にそれはヒーローなの? 」
え、俺は浮気っていうかハーレム作る気満々なんですけど……。クズ……まあ、そうだよなぁ。ハーレムは男の夢ではあるけど、実際に目にしたらチベットスナギツネの顔するかも。そうか、クズかぁ。
「まあ、少女漫画でも浮気性のヒーローは居るでしょう? それが、ヒロインに出会って目が覚めて……遊んでいた女の子達と別れてヒロインと結ばれる……とかあるでしょう? その捨てられた女の子が悪役令嬢ポジ……と置き換えると分かりやすいかも」
「えぇ……そうかぁ。浮気性のヒーローの時点でその作品は選ばないから、ヒロインの気持ちは分からないけど……。何となく流れは分かったよ。それで、どうして行けば良いのかな? ゲームの強制力って? 」
それから俺はゲームの強制力や、ありそうなイベント、ヒロインのキャラの兆候などを説明した。まぁ、小説は沢山読んだけれど、実際に転生したのは初めてなのだから、何が正しいのかは分からないがな!
「それで、ヒロイン対策は分かったけど、これからどうするの? 魔法は初歩の初歩だし、魂の交換なんて本当に出来るのかな? 」
「……それはね、二年後の巫女イベントを狙ってるんです」
「私達の婚約式だね。何かあるの? 」
「だって、婚約式の場所は霊山の頂上! そして巫女! これはもう、入れ替わりイベントと言っても過言ではありませんわ! 」
「全然分からない……神様にお願いするって事? 」
「山、巫女と来たら、自ずと頭に浮かぶのは『入れ替わってるぅ~?! 』となるじゃないですか! 何でもありのこの世界! 絶対不可思議な現象が起こるに決まってます! ですから、それまでは浸すらに勉強ですわ。前世では週五日から六日勉強していたのですから、王子、王子妃教育も熟せる筈ですわ! 」
「……言いたい作品は分かったけど、そう上手く行くかなぁ。まぁ、どうせ王子教育は避けられないから良いんだけど……」
「そうですわ、ダン様! それまでは家族を大切に過ごして下さいね。離れてしまったら悲しいかと思いますが」
転生しているとはいえ、子供を親から引き離すことはになるんだもんな。そこはちょっと罪悪感もある。恐々ダンの様子を見ると、困った様に頬を掻いた。
「いや、まぁ……。王族のせいかどうしても一歩引いた関係だから、それはそこまで悲しくはないんだけど……」
「うちも教育に関しては厳しいから……。あ! 後、ダン様何かトラウマとかありますか?! そこにヒロインが漬け込むのです」
そう、大抵の攻略対象者は何らかの心の傷があって、そこをヒロインから癒して貰って好きになって行くのだ。トラウマがあるなら、対処して行かないと!
「うーん…………私の婚約者が体を狙っている事? 」
「そこで悪役令嬢の影響が?! って、人聞きが悪い! 」
「けど、やろうとしている事は、悪い魔法使いっぽいよね」
くそっ! 何一つ反論出来ない! あれか、王子ルートは悪役令嬢の我が儘に嫌気がさすとかそんな感じか?!
「でも、でも、ダン様も私になれたらきっと楽しいでしょう? 私、美少女ですよ? 」
「自分で言っちゃう中身はとても残念だけれど、容姿はずっと眺めていたいぐらい可愛い。着せ替えしたい」
「あ……りがとうございます? 」
「うん、やっぱり可愛いよね」
う、しみじみ言われると恥ずかしいな?! まぁ、可愛いのは事実だし、これだけ可愛いと言うならば魂交換も嫌ではないんだろう。本当に、俺は良い物件を見つけたよなぁ。
「では、目的達成の為に勉強頑張って参りましょう! 」
「うん、宜しくね」
それから、俺はほぼ毎日王宮へお邪魔して、ダンと勉強したり悪戯したり、お互いの家族の事を話して過ごしていた。
二年はあっという間に経ち、俺とダン、そして護衛と巫女達と共に霊山であるブロキシア山を登った。中腹までは馬車で乗り入れ、そこからは徒歩だ。向かってる最中は、見る限りフジヤマぐらいかそれ以上あったから道中は辛いし長い。剣を習っていたから体力作りはしていたけど、平地と急坂を登るのは全然違う。息を切らしながら、俺達は山頂に辿り着いた。
そこは…………もう閉じた噴火口の平野の真ん中に、ストーンヘッジみたいな石造りの小屋? いや、小屋とも言えない遺跡があった。これ、これだよこれぇ!! まさに求めていた舞台だ。霊山というだけあって神秘的な澄んだ空気が漂っているし、これは奇跡が起きるかも知れない!!
山頂で一晩過ごして体内に霊気を吸収し、お互いの魂の質を近付ける……というのがこのイベントの建前らしい。それと、遺跡で泊まるにあたり、防壁魔法がきちんと展開出来るかもテストされる。王族の技量を見るのが本音なんじゃないだろうか? やっぱり魔力や力が強い者が上に立つ世界みたいだし。
噴火口には王族とそれに連なる者、そして巫女しか足を踏み入れてはいけないので、護衛達すら火口手前でキャンプする。勿論、噴火口よりやや上になるから、そこから見守っているのだろうけれど。
ゆっくりと噴火口へと降りて行く。長い事活動していないからなのか、そう噴火したからか、テレビで見る様な深さは無く、小高い丘を下る感じで、俺達は火口の平野へと降り立った。途端に地から魔力が溢れているのが足から伝わった。火山は向こうでもパワースポットだったりしていたから、納得だ。
ここまでダンがずっと俺の手を引いてくれている。
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これで、ダンが入れ替わっても楽に生きて行ける筈だ。
空がすっかり夕闇に染まる中、俺達は遺跡の前で巫女の足元へ跪き、何か古語で祝詞を捧げられる。
神様、どうぞこの間違った転生を正しい道へとお戻し下さい!! その為に俺はダンの力にも何にでもなるし、世界がピンチだと言うなら王子として尽力するから。巫女様、よーくよーく神様へ祈って下さい。選ばれたあんた達なら、祈りが届くかも知れない。
それから、俺達は精進料理を食し、祈り用の神酒を飲まされ、二人で力を合わせ四人分の防壁魔法を展開して、星降る夜空の下で眠った。これで、朝日を浴びて山と太陽の霊力を蓄えたら、婚約の儀は終了である。
ああ、起きるのが楽しみだ。
次の日、眩しい朝日に目が覚めた。標高の高い山だから、遮るものが何も無く、とても眩しい。
「う……どうなった? 」
「もう朝……? 」
そうして俺達はのそのそと体を起こし、顔を見合わせた。視界に映ったその顔は……
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