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アデリーネの場合 5
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どうやら、龍脈の管理は古竜がするもので矮小な種族が手出しする事自体考えないとの事。エルフとか魔力の高い種族すら龍脈には関わらずに、不具合が有れば古竜に報告するだけと来たもんだから驚きだ。まあ、だから危機的状況になってゲームが成り立つっちゃ成り立つんだけど。生活が脅かされるとか無理だから、そこは過干渉しまくるぞ!
俺とダンの入れ替わりの魔法を知りたいと聞いたら阿保呼ばわりされるわ、
『事が全て終わり次第取り掛かってはやるが……先ずは魂が近くなる様に、体を近くする必要がある。先ずは……一年程はお互い頻繁に抱擁せよ』
『は? 』
この時は流石に令嬢の仮面を落としたよね。
『取り替えるに当たり、波動を同じにしなければならぬ。手は……当たり前に触れ合っておるようだからな。次の段階としては抱擁が相応しいだろう』
『ええっと……どのくらい? 』
『顔を合わす度にだ。一緒に居るなら常に、手を繋いでいるか……王子がそなたを抱き抱えていてもよい』
『いやいやいや、無理あるでしょ』
『承知しました、メディエーヌ様。貴方様のご助言、謹んでお受け致します』
『は? ちょっと……』
『という事で、エクル爺。今のメディエーヌ様のお言葉、しっかりと聞いたね? 私達がより力を合わせられる様にとのご助言だ。陛下にもその旨、伝える様に』
ダンがそう言うと、お目付役のエクル爺が頭を下げた。いやいやいや……そう言えば侍従達は寄って来れなくても側に居たんだったーー! せっかくなら盗聴防止の魔法も掛けてくれよー! お願い事を口に出されなくて良かったけど!
『ほほほ、ご助言通り熟せる様、励む所存ですわ』
取り繕ってはみたものの、肯定しちゃった俺……これも、入れ替わりの為だ。仕方ないよな……?
それから魔女は一旦戻って夫である古竜と相談した後、どうするか報告に来るとか言っていたけど、古竜が頭固い奴じゃないのを祈るばかりだ。
帰りの馬車で嬉々として俺を抱き抱えるダンに、お人形遊びが加速しない事を祈って、帰路に着いたのだった。まあ、妖精釣るどころか本命連れて良かった。チートは無いけど多少なりとも運はあるかも知れない。
その後、どう説得したのか魔女は無事俺の案に乗っかる事を決めて、近隣諸国に魔物が増えると注意喚起して回り、龍脈の流れの図は名言しなかったものの、その都度滞っている場所を伝えるという形を取った。全て把握されるのも駄目なのだろう。どんな利用されるか分からないだろうし。まあ、分かる人には分かるのだろうけど。
それと、滞った龍脈調査の連合部隊が編成される事になった。冒険者ギルドにも魔物が増える旨を伝え、少しばかり援助して冒険者育成にも力を注ぐらしい。冒険者ギルドは表向きは国が直接手を出さない制約があるけど、こればっかりはお互い協力しないとだろう。冒険者も色々居るから、国が関わってるとなると、問題多そうだから影ながら……って程だけど。
龍脈改善は国を挙げての一大事業だから、時間が掛かるのは仕方ない。早く動けるのはやっぱり冒険者ギルドで、魔物の討伐も増えたらしい。時間が掛かっても良いんだ。対処出来ていれば。俺とダンも近場で滞った場所が有れば出動する事にしている。制限は有るが、王族所有の転移魔法陣も使える様になったし。
そう、概ね順調でそれは良いんだけど…………。
「これは聖女様、本日もお美しい。本日お顔を拝見出来た事、幸運に感謝しとうございます」
「まあ、イゾルテ様。そんなに畏まらなくても宜しいわ。私はそんな大層な者ではございませんから」
「何を仰られますか。伝説の古竜様のお言葉を受け、龍脈の管理をなさっている貴女様は正にこの国の聖女でしょう」
「それを申し上げたら、古竜様の番であるメディエーヌ様が聖女かと……」
「彼女は古竜の御使いとも言える緒方。少しお立場が違うかと」
めんどくせぇな。それに、言葉を受けたのは魔女からだよ。古竜からは一言も聞いてねぇ。龍脈正常化運動開始より早半年。何で俺が聖女扱いされる事に……どうしてこうなった。
「あまり私のアデリーネを困らせないでくれないか、イゾルテ卿。報告書は承った。今日はこれから私主催の茶会があるので、これで」
「それは残念。そう言えば、我が愚息も今日の茶会にお招き頂きまして、大変光栄でございます。至らない所もあるかと存じますが、何卒宜しくお願い致します。では、またお会い出来る事を楽しみにしております。それでは」
ダンがしっかりと俺の腰に手を回して体を寄せる。魔術師長であるゼクシム・ハイア・イゾルテは一礼すると、ダンの執務室から出て行った。今龍脈案件はダンの管轄なんだけど、会う度会う度聖女扱いするから疲れるんだよな、あのイケおじ。って言うか、
「私のアデリーネって何ですの? 私のって! 恥ずかしいのでお辞め下さいませ」
「何をそんなに気にしているの? あのおじさん会う度にアディを美しいとか華やかとか口説いて来るんだから。ちょっとアピールしておかないと変に手を出されたらどうするつもり? 」
「同い年の息子がおりますのに、口説くはずございませんでしょう? 心配し過ぎですわ」
「これだからアディは放っておけないんだよ」
この半年でお互い十三歳をとっくに向かえ、龍脈正常化という国家重要案件を任されてるダンは最近お兄さん振る様になってしまった。しっかりするのは良い事だけど、俺は心配される程抜けてない……と思う。
「そろそろ時間だし、向かおうか。今日の茶会場所の秋薔薇庭園は見頃を迎えている筈だから、良い香りがすると思うよ。セッティングは任せてしまったけど、大丈夫だった? 」
「はい。秋薔薇は色が濃いでしょう? ですから、今日は敢えて淡い黄色をテーマにテーブルセッティングをお願いしましたの。黄色に真っ赤な赤が映える筈ですわ。お菓子はせっかくなので夏薔薇のシフォンケーキとプチエクレアに致しました。殿方が多いので、軽食は食べ応えある様にステーキサンドに致しましたのよ、ダン様もお好きでしょう? 」
「流石アディだね。客人の持て成しが板に付いてきたし、私も安心して任せられるよ」
そう言うと、ダンは目を細めて俺の頭を撫でる。うぅっ慣れない。嬉しいけど気恥ずかしさが鬩ぎ合ってへにゃりと笑うしか出来ない! 後ろに護衛が居るんだぞ?! あーもー、それもこれも魔女が抱擁しろとか言うから! ダンが隙あらばスキンシップがんがんして来るんだよ! そりゃ、入れ替わりに前向きなのは嬉しいけどさ?!
因みに今日の茶会はダンの側近の交流会である。正直、忙し過ぎて俺自身が悠長に選んでる場合じゃなかった。なので、勉強の進捗状況を報告させ、文官長監修の元でテストを受けて貰い、外交長官監修の元外国語面談を受けて貰い、最後ダンと宰相交えての最終面談をして貰って、実際俺は会ってない。俺が面談するとか言ったのに。すっかり聖女扱いされて皆色眼鏡掛かってるから、ダンにもやらなくて良いと言われてしまった。あれはちょっと寂しかったぞ。
でもまあ、今日は実は隠し面談なのだ。俺は聖女と呼ばれてはいるが元は悪役令嬢なのだし、会う事でゲームの強制力があるかを見る為だ。それと、今日は婚約者同伴を義務付けさせている。ゲームが始まるとしたら学校へ入る来年だ。それまでに龍脈が安定してくれてれば良いんだけど。まあ、聖女召喚でなければ普通にヒロインも入学して来る可能性は有る。その時に側近の奴らが暴走しては困るので、今日は婚約者との親睦を深めて欲しい思惑もある。
ここ最近当たり前になった、ダンの俺の腰に手を回してのエスコートで、俺は秋薔薇庭園へ足を踏み入れた。因みに王宮は花と季節のテーマで庭園がいくつもあるんだぞ。覚える時贅沢の使い方が共感出来なくて苦労したんだからな!
俺達が現れると、招待していた各カップルが頭を下げた。
「今日はお互い忙しい中息抜きの為集まって貰った。堅苦しい挨拶も必要ない。楽にして着席してくれ」
ダンがそう言うと、カップル達はお互い目配せしながらもおずおずと席へ座り出した。
「アディも、どうぞ」
そう言うと、ダンが椅子を引いてくれる。いや、侍従の仕事取っちゃ駄目だからな? 座るけど。それを見て、皆目を丸くしている。
「殿下、侍従の仕事を取ってまで私を甘やかさないで下さいませ」
「本当は膝に座らせたいぐらいなのだから、甘やかすぐらい良いでしょう? 」
「まあ。甘やかされ過ぎたら、私我が儘な娘になってしまいますわ」
「アディは我が儘も言わずに日々勉強に仕事に勤しんでいるのだから、もっと言ってくれても構わないよ」
いやいや、俺達政略的婚約者でも仲良しだぜアピールはするつもりだったけど、ここまでとは思ってなかったよ?! 大丈夫? これ、ダンが脳内お花畑に見られない?
俺達の茶番が披露される中、粛々と侍女達が用意を進め、皆へお茶が行き渡った。
「……皆様失礼致しましたわ。こうやって殿下は私をいつも甘やかそうと画策しておられるのです。どうぞ、気にせずにお茶を楽しんで下さいませ。今日の茶葉は王領であるキントーのアールグレーをご用意致しました。それから、王宮庭園で栽培されたローズヒップもございます。気になる方は侍従へお申し付け下さいませね」
そう言うと、皆おずおずと紅茶へ手を付ける。あれ、茶番やり過ぎた? いやいや、普段のダンのスキンシップはやべぇんだから、慣れて貰わないと困る。今のところ戸惑いが多くて嫌悪を向けられないから大丈夫そうか?
俺もゆっくりとお茶へ口を付ける。うん、美味しい。今日は宰相(王弟で一代限りの公爵)の息子とその婚約者の侯爵令嬢と、魔術師長(侯爵家)の息子と婚約者の伯爵令嬢。騎士団長(侯爵家)の息子とその婚約者の伯爵令嬢と、辺境伯の息子と婚約者の侯爵令嬢の計八名を招いている。攻略者少ないな……後は学園の先生と隠れキャラか? 俺としては隠れキャラには当てがあるけどね。しっかし、見事に皆婚約者居るなぁ。まあ、良家は縁を結んで強固にしとかないとだろうから、当たり前なんだろうけど。
騎士団長の息子……ジオルグが黙々とステーキサンドを食べている。気に入ったか。宰相の息子のクルニードはたまに顔を合わせてたけど……嫌悪は見えないか。婚約者とは……大丈夫そうだな。まあ、普段からダンと俺との事を遠い目をしてやり過ごしてたし、彼なりに婚約者への態度というものを考えているんだろう。あれ、俺達が反面教師って事?
そう言えば、辺境伯の息子ラジットは仕方ないとして、何でこの顔触れにあんまり会った事ないんだろ? 十歳の時と王妃様の茶会で居た筈だよな? まあ、あの時はそれどころじゃなかったけど。
小さなお口でプチエクレアを食べているのはラジットの婚約者の……デランダ侯爵令嬢だな。その前にヘルグジット侯爵令嬢に挨拶しておいた方が良いか。
「ヘルグジット様、シフォンケーキは如何ですか? 王宮庭園の夏薔薇の花弁を練り込んでますのよ」
ヘルグジットは亜麻色の髪に緑色の瞳が優しげな女の子だ。
「とても香り高くて美味しゅうございますわ。今日の茶会は全てハーフス様がご準備されたのですか? 」
「アデリーネで結構ですわ、私もユーリル様と呼ばせて頂いても? たまに茶会でお会いしても、挨拶のみで失礼致しました。今日のこの会は忙しい殿下の代わりに指名して頂きましたの。不足が無いと良いのですけど……」
「不足だなんてとんでもございませんわ。色合いと良い、お茶と良い菓子と良い、とても素敵です。勿論私の事はユーリルとお呼び下さい。アデリーネ様は常に大人達に囲まれていましたもの、今日こうやってお話出来て光栄ですわ」
「まあ。そう言って頂けると嬉しいわ。私そんなに大人に囲まれていましたかしら、常に殿下がご一緒にいらっしゃるのは分かるのですけれど……」
「ええ、お二人は常に一緒でしたものね。仲睦まじくていつも羨ましいと思っておりましたの」
これは、お世辞かそれとも二人の仲は進展してないのか? どっち? 暫し悩むと、さっと手を取られた。
「大切な人を守るのが紳士の務めだからね。アディを不安にさせる事は私はしたくないんだ」
ダンはそう言うと、俺の手を自身の唇近くまで持ち上げた。やーめーろー! 世界広しと言えどもこんな十三歳居ねぇぞ! ユーリルはまあまあ! と頬を赤くして言っているけど、男子達はしらーっとしている。そうだな、皆十三歳の多感な頃だし、いくらなんでも女性の扱いを完璧にしろとか難しいよな? 寧ろ気恥ずかしいぐらいだろう。中身女子とは言え、すげぇな、ダン。
うーん、大丈夫これ? スキンシップ暴走気味なダンに付いてこれる奴いるのか?
「世の中には、女性に甘い姿を公で見せると軟弱だとか言う者も居るみたいだけど、それはその他大勢の女性にそんな態度をする者の事だと思う。第一に大切にしなければならない相手を蔑ろにしてまで保つ体面など無いに等しい。手が届く近くの大切な者を守れずにして、国を守れる力があるとは到底思えないと私は考えている」
ダンがにっこり笑っている。これ、あれだ。甘くない笑顔の方。
「よって、婚約者一人大切に出来ない者は器が知れる……と私は思うよ。例え政略だとしても、それはお互い様だからね。そもそも人付き合いは対話が必要だし、気遣いが重要なのは誰にも言える事でしょう? ね、アディ」
「……殿下の仰る通りでございますね。私達もここ二年、ずっと対話して参りましたから」
「政略はお互い様……」
魔術師長の息子、オリアーノがぼそりと呟いた。心に刺さってくれてると良い。ダンが釘は刺したから、後はこいつら次第だな。今後強制力無しでヒロインに傾倒したら多分慈悲は無い。
だって怖くない? ダン怖いよね? 浮気絶対許さないマンだよー。これ、今恋愛対象じゃなくても婚約者である俺にも言ってない? 気のせい?
……俺、勘違いされない様に絶対一人で行動しない。
俺とダンの入れ替わりの魔法を知りたいと聞いたら阿保呼ばわりされるわ、
『事が全て終わり次第取り掛かってはやるが……先ずは魂が近くなる様に、体を近くする必要がある。先ずは……一年程はお互い頻繁に抱擁せよ』
『は? 』
この時は流石に令嬢の仮面を落としたよね。
『取り替えるに当たり、波動を同じにしなければならぬ。手は……当たり前に触れ合っておるようだからな。次の段階としては抱擁が相応しいだろう』
『ええっと……どのくらい? 』
『顔を合わす度にだ。一緒に居るなら常に、手を繋いでいるか……王子がそなたを抱き抱えていてもよい』
『いやいやいや、無理あるでしょ』
『承知しました、メディエーヌ様。貴方様のご助言、謹んでお受け致します』
『は? ちょっと……』
『という事で、エクル爺。今のメディエーヌ様のお言葉、しっかりと聞いたね? 私達がより力を合わせられる様にとのご助言だ。陛下にもその旨、伝える様に』
ダンがそう言うと、お目付役のエクル爺が頭を下げた。いやいやいや……そう言えば侍従達は寄って来れなくても側に居たんだったーー! せっかくなら盗聴防止の魔法も掛けてくれよー! お願い事を口に出されなくて良かったけど!
『ほほほ、ご助言通り熟せる様、励む所存ですわ』
取り繕ってはみたものの、肯定しちゃった俺……これも、入れ替わりの為だ。仕方ないよな……?
それから魔女は一旦戻って夫である古竜と相談した後、どうするか報告に来るとか言っていたけど、古竜が頭固い奴じゃないのを祈るばかりだ。
帰りの馬車で嬉々として俺を抱き抱えるダンに、お人形遊びが加速しない事を祈って、帰路に着いたのだった。まあ、妖精釣るどころか本命連れて良かった。チートは無いけど多少なりとも運はあるかも知れない。
その後、どう説得したのか魔女は無事俺の案に乗っかる事を決めて、近隣諸国に魔物が増えると注意喚起して回り、龍脈の流れの図は名言しなかったものの、その都度滞っている場所を伝えるという形を取った。全て把握されるのも駄目なのだろう。どんな利用されるか分からないだろうし。まあ、分かる人には分かるのだろうけど。
それと、滞った龍脈調査の連合部隊が編成される事になった。冒険者ギルドにも魔物が増える旨を伝え、少しばかり援助して冒険者育成にも力を注ぐらしい。冒険者ギルドは表向きは国が直接手を出さない制約があるけど、こればっかりはお互い協力しないとだろう。冒険者も色々居るから、国が関わってるとなると、問題多そうだから影ながら……って程だけど。
龍脈改善は国を挙げての一大事業だから、時間が掛かるのは仕方ない。早く動けるのはやっぱり冒険者ギルドで、魔物の討伐も増えたらしい。時間が掛かっても良いんだ。対処出来ていれば。俺とダンも近場で滞った場所が有れば出動する事にしている。制限は有るが、王族所有の転移魔法陣も使える様になったし。
そう、概ね順調でそれは良いんだけど…………。
「これは聖女様、本日もお美しい。本日お顔を拝見出来た事、幸運に感謝しとうございます」
「まあ、イゾルテ様。そんなに畏まらなくても宜しいわ。私はそんな大層な者ではございませんから」
「何を仰られますか。伝説の古竜様のお言葉を受け、龍脈の管理をなさっている貴女様は正にこの国の聖女でしょう」
「それを申し上げたら、古竜様の番であるメディエーヌ様が聖女かと……」
「彼女は古竜の御使いとも言える緒方。少しお立場が違うかと」
めんどくせぇな。それに、言葉を受けたのは魔女からだよ。古竜からは一言も聞いてねぇ。龍脈正常化運動開始より早半年。何で俺が聖女扱いされる事に……どうしてこうなった。
「あまり私のアデリーネを困らせないでくれないか、イゾルテ卿。報告書は承った。今日はこれから私主催の茶会があるので、これで」
「それは残念。そう言えば、我が愚息も今日の茶会にお招き頂きまして、大変光栄でございます。至らない所もあるかと存じますが、何卒宜しくお願い致します。では、またお会い出来る事を楽しみにしております。それでは」
ダンがしっかりと俺の腰に手を回して体を寄せる。魔術師長であるゼクシム・ハイア・イゾルテは一礼すると、ダンの執務室から出て行った。今龍脈案件はダンの管轄なんだけど、会う度会う度聖女扱いするから疲れるんだよな、あのイケおじ。って言うか、
「私のアデリーネって何ですの? 私のって! 恥ずかしいのでお辞め下さいませ」
「何をそんなに気にしているの? あのおじさん会う度にアディを美しいとか華やかとか口説いて来るんだから。ちょっとアピールしておかないと変に手を出されたらどうするつもり? 」
「同い年の息子がおりますのに、口説くはずございませんでしょう? 心配し過ぎですわ」
「これだからアディは放っておけないんだよ」
この半年でお互い十三歳をとっくに向かえ、龍脈正常化という国家重要案件を任されてるダンは最近お兄さん振る様になってしまった。しっかりするのは良い事だけど、俺は心配される程抜けてない……と思う。
「そろそろ時間だし、向かおうか。今日の茶会場所の秋薔薇庭園は見頃を迎えている筈だから、良い香りがすると思うよ。セッティングは任せてしまったけど、大丈夫だった? 」
「はい。秋薔薇は色が濃いでしょう? ですから、今日は敢えて淡い黄色をテーマにテーブルセッティングをお願いしましたの。黄色に真っ赤な赤が映える筈ですわ。お菓子はせっかくなので夏薔薇のシフォンケーキとプチエクレアに致しました。殿方が多いので、軽食は食べ応えある様にステーキサンドに致しましたのよ、ダン様もお好きでしょう? 」
「流石アディだね。客人の持て成しが板に付いてきたし、私も安心して任せられるよ」
そう言うと、ダンは目を細めて俺の頭を撫でる。うぅっ慣れない。嬉しいけど気恥ずかしさが鬩ぎ合ってへにゃりと笑うしか出来ない! 後ろに護衛が居るんだぞ?! あーもー、それもこれも魔女が抱擁しろとか言うから! ダンが隙あらばスキンシップがんがんして来るんだよ! そりゃ、入れ替わりに前向きなのは嬉しいけどさ?!
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でもまあ、今日は実は隠し面談なのだ。俺は聖女と呼ばれてはいるが元は悪役令嬢なのだし、会う事でゲームの強制力があるかを見る為だ。それと、今日は婚約者同伴を義務付けさせている。ゲームが始まるとしたら学校へ入る来年だ。それまでに龍脈が安定してくれてれば良いんだけど。まあ、聖女召喚でなければ普通にヒロインも入学して来る可能性は有る。その時に側近の奴らが暴走しては困るので、今日は婚約者との親睦を深めて欲しい思惑もある。
ここ最近当たり前になった、ダンの俺の腰に手を回してのエスコートで、俺は秋薔薇庭園へ足を踏み入れた。因みに王宮は花と季節のテーマで庭園がいくつもあるんだぞ。覚える時贅沢の使い方が共感出来なくて苦労したんだからな!
俺達が現れると、招待していた各カップルが頭を下げた。
「今日はお互い忙しい中息抜きの為集まって貰った。堅苦しい挨拶も必要ない。楽にして着席してくれ」
ダンがそう言うと、カップル達はお互い目配せしながらもおずおずと席へ座り出した。
「アディも、どうぞ」
そう言うと、ダンが椅子を引いてくれる。いや、侍従の仕事取っちゃ駄目だからな? 座るけど。それを見て、皆目を丸くしている。
「殿下、侍従の仕事を取ってまで私を甘やかさないで下さいませ」
「本当は膝に座らせたいぐらいなのだから、甘やかすぐらい良いでしょう? 」
「まあ。甘やかされ過ぎたら、私我が儘な娘になってしまいますわ」
「アディは我が儘も言わずに日々勉強に仕事に勤しんでいるのだから、もっと言ってくれても構わないよ」
いやいや、俺達政略的婚約者でも仲良しだぜアピールはするつもりだったけど、ここまでとは思ってなかったよ?! 大丈夫? これ、ダンが脳内お花畑に見られない?
俺達の茶番が披露される中、粛々と侍女達が用意を進め、皆へお茶が行き渡った。
「……皆様失礼致しましたわ。こうやって殿下は私をいつも甘やかそうと画策しておられるのです。どうぞ、気にせずにお茶を楽しんで下さいませ。今日の茶葉は王領であるキントーのアールグレーをご用意致しました。それから、王宮庭園で栽培されたローズヒップもございます。気になる方は侍従へお申し付け下さいませね」
そう言うと、皆おずおずと紅茶へ手を付ける。あれ、茶番やり過ぎた? いやいや、普段のダンのスキンシップはやべぇんだから、慣れて貰わないと困る。今のところ戸惑いが多くて嫌悪を向けられないから大丈夫そうか?
俺もゆっくりとお茶へ口を付ける。うん、美味しい。今日は宰相(王弟で一代限りの公爵)の息子とその婚約者の侯爵令嬢と、魔術師長(侯爵家)の息子と婚約者の伯爵令嬢。騎士団長(侯爵家)の息子とその婚約者の伯爵令嬢と、辺境伯の息子と婚約者の侯爵令嬢の計八名を招いている。攻略者少ないな……後は学園の先生と隠れキャラか? 俺としては隠れキャラには当てがあるけどね。しっかし、見事に皆婚約者居るなぁ。まあ、良家は縁を結んで強固にしとかないとだろうから、当たり前なんだろうけど。
騎士団長の息子……ジオルグが黙々とステーキサンドを食べている。気に入ったか。宰相の息子のクルニードはたまに顔を合わせてたけど……嫌悪は見えないか。婚約者とは……大丈夫そうだな。まあ、普段からダンと俺との事を遠い目をしてやり過ごしてたし、彼なりに婚約者への態度というものを考えているんだろう。あれ、俺達が反面教師って事?
そう言えば、辺境伯の息子ラジットは仕方ないとして、何でこの顔触れにあんまり会った事ないんだろ? 十歳の時と王妃様の茶会で居た筈だよな? まあ、あの時はそれどころじゃなかったけど。
小さなお口でプチエクレアを食べているのはラジットの婚約者の……デランダ侯爵令嬢だな。その前にヘルグジット侯爵令嬢に挨拶しておいた方が良いか。
「ヘルグジット様、シフォンケーキは如何ですか? 王宮庭園の夏薔薇の花弁を練り込んでますのよ」
ヘルグジットは亜麻色の髪に緑色の瞳が優しげな女の子だ。
「とても香り高くて美味しゅうございますわ。今日の茶会は全てハーフス様がご準備されたのですか? 」
「アデリーネで結構ですわ、私もユーリル様と呼ばせて頂いても? たまに茶会でお会いしても、挨拶のみで失礼致しました。今日のこの会は忙しい殿下の代わりに指名して頂きましたの。不足が無いと良いのですけど……」
「不足だなんてとんでもございませんわ。色合いと良い、お茶と良い菓子と良い、とても素敵です。勿論私の事はユーリルとお呼び下さい。アデリーネ様は常に大人達に囲まれていましたもの、今日こうやってお話出来て光栄ですわ」
「まあ。そう言って頂けると嬉しいわ。私そんなに大人に囲まれていましたかしら、常に殿下がご一緒にいらっしゃるのは分かるのですけれど……」
「ええ、お二人は常に一緒でしたものね。仲睦まじくていつも羨ましいと思っておりましたの」
これは、お世辞かそれとも二人の仲は進展してないのか? どっち? 暫し悩むと、さっと手を取られた。
「大切な人を守るのが紳士の務めだからね。アディを不安にさせる事は私はしたくないんだ」
ダンはそう言うと、俺の手を自身の唇近くまで持ち上げた。やーめーろー! 世界広しと言えどもこんな十三歳居ねぇぞ! ユーリルはまあまあ! と頬を赤くして言っているけど、男子達はしらーっとしている。そうだな、皆十三歳の多感な頃だし、いくらなんでも女性の扱いを完璧にしろとか難しいよな? 寧ろ気恥ずかしいぐらいだろう。中身女子とは言え、すげぇな、ダン。
うーん、大丈夫これ? スキンシップ暴走気味なダンに付いてこれる奴いるのか?
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「よって、婚約者一人大切に出来ない者は器が知れる……と私は思うよ。例え政略だとしても、それはお互い様だからね。そもそも人付き合いは対話が必要だし、気遣いが重要なのは誰にも言える事でしょう? ね、アディ」
「……殿下の仰る通りでございますね。私達もここ二年、ずっと対話して参りましたから」
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……俺、勘違いされない様に絶対一人で行動しない。
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