転生悪役令嬢は、王子様の体を狙っている

芹澤©️

文字の大きさ
10 / 10

ヒロイン彩香の場合 1

しおりを挟む
歩道橋の階段だった。

私はすれ違い様に人とぶつかり、バランスを崩して背中から歩道橋の階段を落下していた筈だった。

死ぬと思った。
周りがゆっくりと流れて、最後に地上にぶつかると思ってギュっと目を瞑った。来る筈の衝撃が来なくて、恐る恐る目を開ければ……雷鳴轟く火山の麓に座っていた。

意味が分からない。確かに私は通学路のビルが犇めく大通りの歩道橋の上から落ちた筈なのだ。

辺りは植物も無い岩ばかりで、人の気配も無い。それに……これは火山ガス?  息が苦しい……。

「おい、大丈夫か?!  」

あれ、人が居たんだ。……でも、駄目。意識が……。

そのまま、私は意識を失った。






目が覚めた時、聞こえたのは倒れる前に聞いた声とは違う、落ち着いた女性の声だった。眩しさに眉を顰めつつ瞼を上げると、そこには恐ろしい程の美人が居た。ただ、黒髪に黒目、黒いドレスと、白く透き通る肌以外は真っ黒な迫力美人だ。

「あの、私……?  」

「不運な事に、そなたは異界から零れ落ちて来た様じゃ。愛し子であった為にさぞ生き辛い場所におったのであろう。だが、こちらは直ぐに体も馴染む筈だ。安心するが良い」

とても古い言い回しをする人だ。

「あ……の、ありがとうございます……ここは一体?  」

「ここの国には知り合いがおるのでな。人族は人族の国で暮らすのが最良だろう。愛し子というのは黙っておいてやる。どう転ぶか分からぬからな」

「は、はあ……」

「どうやら我が愚息がそなたを気に入ってしまった様なのだ。迷惑はかけると思うが、そう悪い奴ではない。宜しく頼む」

「えっ?  あの、はい……えっ?!  」

突然美人さんが目の前から消えた。えっ?  えっ?   夢?  幽霊?!

そうして私はまた気を失うのだった。



次に目が覚めてから私の周りは慌しくなった。

私を預かってくれているのは王様で、助けてくれたのは神に等しいドラゴンの番?  ……奥さんで、王族の顔合わせにドレスを着て出席して挨拶をしろと言う。

ねえ、どれから突っ込めば良いかな?  王様?   ドラゴン?  こんな一般人に何日も時間とお金を掛けてドッキリなんてしない筈。となると、あの奥さんが言っていた異界から零れ落ちたとは、異世界に来ちゃったという事なのだろうか。

じゃあ何故私?  愛し子って何?  これから魔王を倒せとか言われても私運動は普通ぐらいだよ?

そんな事を悶々と考えたら日はあっという間に経ち、私は王族との挨拶をする運びとなった。

綺麗な水色のドレスを着て、豪勢な部屋へ通される。思い描く宮殿そのもので、やっぱり私は違う世界へと来てしまったのだと実感する。ふかふかの絨毯は柄も細かくて、頭を下げている間中繁々と堪能してしまう。

「面をあげよ」

声が掛かり顔を上げる。目の前には玉座に座る王様……にしては若いイケメンと、その隣にはこれまた儚げ美人が座ってこちらを見ている。

私の横に立っている偉いっぽい男の人が、あれが保護してくれた王様と王妃様だと言う。あ、陛下と王妃殿下と呼ばないといけないみたい。
その一段下に王子様を具現化した様な美男子が居た。何を言っているのかと思うけど、本当に絵本とか物語で想像する様な金髪碧眼の王子様が、小柄で人形みたいな美しい少女の腰を大切そうに抱き寄せている。

顔面偏差値おかしくない?  陛下と王妃殿下も親とは思えないぐらい若くて綺麗なのに、更にキラキラ輝く王子様にお姫様……やっぱりここは異世界なんだ。だってあんなキラキラ人物達とめちゃくちゃ言葉通じてるもん。

第二王子はまだ十歳だけど、これまた天使かと思う程の美少年だ。もう目が眩しさで眩みそう。美人凄い。

それから私からは一言も発せずに、王族との面会は終わる……と思いきや、第一王子殿下とその婚約者であるアデリーネ様が今後のご指示をしてくれるらしい。いやいや、その辺の人で良いですよ?  何で王子様出張っちゃうの?  私も緊張で顔色悪いし、アデリーネ様なんて蒼白になっちゃってるよ?  体弱いのでは?  大丈夫?

それから部屋を移し、あの豪華絢爛な大広間とは違って、外国の伝統ある重厚なホテルっぽい部屋へと通された。そこで対面して分かった。

第一王子殿下はにこにこと人好きそうな笑顔だけれど、笑ってない。寧ろ背負うオーラが怖い。それに、アデリーネ様は何故か私を恐々と様子を伺っているみたい。えーと、異世界人が怖いとか、本当は差別されてるとかじゃないよね? 

はっきりと分かるのは、私は歓迎されていないって事だ。

そう思ったら突然怖くなって来た。
ここは知り合いも居ない。助けてくれる人も居ない。この人達の反感を買ったら、私は追い出されて路頭に迷う。バイトみたいにすぐに見つけて働けて生きて行けたら良いけど、そんな簡単に行くだろうか?

帰る方法は無いし、帰ったら私重体で危篤な気がする。下手したら……もう死んでるかも知れない。

「でね、貴女には学園に通って貰う事になると思う」

しまった、王子殿下の説明聞いてなかった。

「……学園、ですか?  」

「そう。マナーはここ一カ月くらいで軽く身に付けて貰って、その後教師から了解を得れば学園に特別枠で入学して貰う。年齢的には最終学年だから後一年も無いけれど、年頃の近い友達が必要でしょう?  」

それは……嬉しい。不安もあるけど嬉しい。きっとこの人達とは友達にはなれない。いや、身分的になれる訳が無い。なら、学園で少しでも交友を…………?

……異世界に来ちゃって学園に入学なんて、乙女ゲーみたいな話だよね。

……まさか、そんな訳無いよね?  ここは只の異世界だよね?  


私は顔を上げて正面の美男子と美少女の顔を食い入る様に見る。

奇跡としか言えないぐらいの美形だ。どちらも何だかキラキラ輝いているし。これ、ゲームのキャラだからって言わないよね??

「あの、彩香様……?  どうされましたの……?  」

くあぁぁ、アデリーネ様は声も鈴が鳴る様に可愛いっ!  じゃなくて、何故そんなに怯えているのだろう?  確かにガン見しているのは私だけど。私はすかさず首を振った。

これって、最近流行りの主人公が選択出来る乙女ゲーじゃない?  正当ヒロインと、バッドエンドを回避する悪役令嬢を選べるゲーム。ヒロインはそのまま攻略対象を攻略して行けば良い。悪役令嬢を選べば窮地を脱するべく行動を選択して行くゲーム……な筈。友達がやってた。人気は悪役令嬢らしいけど。

もし、私がヒロインなら……彼女は悪役令嬢?  しかもそれをどうしてか知っているから、そんなに怯えて……?  考え過ぎだろうか。

「彩香嬢?  気分が優れないのだろうか?  」

王子殿下が怪訝な顔で私の様子を伺って来る。不味い、この人を怒らせてはいけない。

「は、はい……少し疲れてしまったかも知れません」

そう言うと、彼はメイドさんを手招きして、私に付けてくれた。私は促されるままに部屋を後にする。


面会からずっと大事そうにアデリーネ様の手を握っているのだから、あの二人は思い合っているんだ。
そして、彼は絶対アデリーネ様至上主義だ。周囲へと向ける瞳の温度が零度から百度くらい違う。あれは……彼女が憂うなら、人をもさくっと殺しそうな雰囲気がある。

溺愛系の人を怒らせるのは一番不味い。


取り敢えず、せっかく生き長らえたんだから、私は私の身の安全の為にマナーを覚えて学園で勉強して、知り合いを作って、ここを出よう!!  そして、あの人達には礼儀を尽くしてなるべく関わらずに行こう、うん。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢に転生したにしては、腕っぷしが強すぎます

雨谷雁
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公は、悪役令嬢セラフィナ。 本来ならヒロインをいじめ、最後は断罪される役だ。 しかし彼女には一つ問題があった。 前世の影響で、異常に腕っぷしが強いのである。 悪役らしく陰で動こうとしても、トラブルが起きれば拳で解決。 剣術教師より強く、騎士団にも勝ち、結果的に周囲から恐れられる存在になる。 そのせいで、断罪イベントは次々失敗。 ヒロインや王子たちとの関係も、ゲーム通りには進まない。 破滅を避けたいだけなのに、 力が強すぎて世界の流れを壊してしまう―― これは、物理で運命をねじ曲げる悪役令嬢の物語。

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

乙女ゲームに転生したモブです!このままだと推しの悪役令嬢が断罪されてしまうのでなんとかしようと思います

ひなクラゲ
恋愛
「結婚してください!」    僕は彼女にプロポーズした    こんな強引な方法しかなかったけど…  でも、このままだと君は無実の罪を着せられて断罪されてしまう  何故わかるかって?  何故ならここは乙女ゲームの世界!  そして君は悪役令嬢  そして僕は…!  ただのモブです

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。 ※表紙はAIです。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...