転校生で初対面の美少女が教室で、俺の彼女だと自称しだしたのだが。

浜里十寸(旧マソノマトキ)

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第六話 朝日。

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 秋元稔は、朝日に照らされて目を覚ました。


 けだるい身体を起こし、寝ぼけた頭で記憶を遡る。


「浜ノ宮っ!?」


 思い出した……。昨日、何故かはわからないけど、浜ノ宮が我が家にいて、ベッドに入ってきて……。

 慌てて、視線を下に向ける。しかし、浜ノ宮の姿はどこにもなく、ベットの上には稔しかいなかった。


 ……昨晩のことは夢だったのか?


 訳が分からず頭を搔く。時計を見ると時刻は7時半。そろそろ、ベッドから出ないと遅刻する時間だった。


 ……まぁ、いっか。


 深く考えることをやめ、ベットを降りる。窓から空を見ると雲一つない青空が広がっていた。
 本日は快晴である。なんだか清々しい気持ちになった稔は居間に向かった。





「おひゃよう アニニ。ひゃくしないと、遅刻するよ?」



「あ~。うん。そうだな」


 
 居間ではすでに食事が始まっていた。テレビを見ながら食パンを頬張っている麻友は咀嚼しながら開いた手で、チャンネルを変えていく。
 やっているのは、朝の情報番組で看板的アナウンサーが番組を進行していく様子が映されている。画面の上部には、各地の天気が順番に乗せられている。稔たちが住んでいる街は一日中晴れだった。



「大丈夫ですよ。ここから駅まで徒歩五分から十分ほどです。余程、歩きスピードが遅くない限り遅刻することはないですよ。まーちゃん」



 麻友の隣から、浜ノ宮が言う。ダラーッと背もたれにもたれて猫背な麻友とは違い、張った糸のようにまっすぐ姿勢を正して食事をしていた。



「……なにもないんだけど」


 二人を他所に、台所の戸棚を開けた稔は溜息をついた。
 昨日の朝、明日の朝飯に使おうと思っていた食材たちが何一つ残っていなかったからだ。
 冷蔵庫も覗いてみたが、水とバター。豆板醤。と言ったと調味料しか残っていない。我が妹恐るべし。



「あはははは。ごめんねアニニ。アニニの朝ご飯は私の胃袋の中に溶けていったよ~」



「あ~そっか。だから最近、太ももの肉と二の腕の肉が増えているんだな~」



 せめてもの仕返しとばかりに稔は言った。最近うちに来ると、体重計ばかり気にしていたから、そうなのだろうな、とは思っていたが。
 麻友は顔を真っ赤にして餌を求める金魚のように口をパクパクとさせている。



「はっ!? 太ってないし!! ちょっと肉が持ったぐらいだし!! ていうか、妹の身体をそこまで見てるとかキモ~死んだら?」



 浴びせられる罵詈雑言。一言、一言がぐさりと稔の胸を貫いていく。こっちは家の食材全てを食べられてるのに、ここまで言われると流石の稔でも腹が立ってくる。


 
「あのな……。お前、人の飯全部食べておいてそれはないだろ!!」



「アニニの家の物は私の物でもあるって前に約束したでしょ!!」



「そんな約束した記憶ねえよ!!」



 聞いたことない。ないよね?? 多分ない。麻友とそんな約束をした記憶は稔の中にはなかった。


 これ以上、麻友と話していても疲れるだけだ。



 そう思って振り返ると浜ノ宮が立っていた。



「稔君。これ」



 浜ノ宮にサンドウィッチを差し出される。いつのまにか、呼び方が秋元君から稔君に変わっていることに今、気が付いた。



「あり……がとう」



 礼を述べサンドウィッチを受け取ると、そそくさ浜ノ宮は元の席に戻っていった。その後も、チラチラと横目で稔の様子を窺ってくる。



 「あ!! なっちゃん。明日、休日だし買い物に行こうよ!! なっちゃん引っ越してきたばかりで何も家財ないっていうしさ!!」



 麻友は立ち上がると、自分の携帯を浜ノ宮の顔に押し付ける。このモードになった麻友を止めることは至難の業であり、ご愁傷様と心の中で冥福を祈りつつサンドウィッチを口に入れた。



 サンドウィッチの先端は何故か濡れていた。よくよく、考えてみるとなぜ、浜ノ宮はここにいるのか。
なんで、麻友がうちのカギを開けれるのか。疑問は止まないが、後で当事者たちに聞けば解決することだと思った稔は考えるのを止めた。



 麻友に迫られながらも浜ノ宮の耳が赤くなっていた。一体どういう会話をしているのだろうか。



「さぁ! なっちゃん!! 行こう!! 今すぐ行こう!!」



「え、えぇぇぇええぇ」



 浜ノ宮は目を丸くしながら、麻友に体を揺さぶられていた。
 可哀想に……。うちの妹の毒牙に……。



「そろそろ、やめとけよ」



 そろそろ収拾がつかなくなりそうだったので、麻友を浜ノ宮から離す。
 麻友はしばらくふてくされていたが、登校時間ギリギリになると渋々家を出ていった。


「さて、と」


 麻友が家を出ていって一息ついた稔は浜ノ宮を見た。
 彼女を見ていると、昨晩のことを思いだす。泡のように揺らいでいた瞳は何かを必死に耐えているような、少しの衝撃で割れてしまいそうなそんな不安定な物だった。そして、稔の前で必死に拒絶しないでと訴えた彼女。
 浜ノ宮は稔の横に来ると、無表情で立ち尽くしていた。 


「私たちも学校に行きましょう」


 浜ノ宮に腕を引っ張られ家から連れ出された稔は駅までの短い区間を彼女と歩くことになった。
 互いに一言も喋ることなく、駅まで歩く。この沈黙の間が辛かった。
 一体、何を話せばいいのかわからない。よく、考えると、女の子と一緒に登校なんてこれまでなかったことだ。
 人間はどうやら初体験に出会った時、何もできない生き物らしい。



「あ~。えっと、浜ノ宮さん?」



 稔が名前を呼ぶと、浜ノ宮の身体がビクッと揺れた。



「なんでしょう……?」



 こちらの様子を窺うように恐る恐る口を開く浜ノ宮。
 何かに怯えるように揺れる彼女の瞳を見たとき、なぜか、胸がチクリと痛んだ。



「あ、いや、なんで昨日うちに泊まってたのかなって聞きたかったんだけど……」



「えっと、それなら、まーちゃ……麻友さんが泊っていけと無理矢理……」



 なるほど、合点がいった。麻友ならそれくらいのごり押しはするだろうと、納得できる理由だ。
 話の話題が無い二人は、無言のまま歩いていく。



 そのまま、学校に着くまで二人が喋ることはなかった。











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