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本編
17.事情聴取されました!
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威圧的なイケメン風紀にほぼ強制という形で学食から連れ出された俺は、特別棟にある風紀委員会の部屋で事情聴取という名の説教を受けていた。
テーブルを挟んだ向かい側のソファーには、二人の風紀委員が座っている。
ひとりは俺をここに連れてきた張本人で、名前を志波煌成といい、なんと風紀委員のトップである風紀委員長だった。
どおりで学食で皆がやたらと萎縮していたし、あの生徒会長とも対等に渡り合っていたわけだと納得する。
そしてその隣に座っている茶髪で前髪をヘアピンで留め、耳には複数ピアスという風紀委員にあるまじき出で立ちのちょっと軽そうな雰囲気のタレ目の男が副委員長だそうだ。
名前を橘夏樹というのだと、先程委員長サマの紹介と共に自己紹介してくれた。
二人ともネクタイの色は深緑なので二年生だ。
委員長なのに二年生なのか、と思った時、さっき会った生徒会長も二年生だったことを思い出す。
まさかとは思うが、学園内の秩序を護る風紀委員までもが嫌な方向の実力者の集まりなのでは、と俺は疑ってしまった。
委員長はともかく、副委員長はどう見ても普通の学校なら風紀委員には相応しくない外見だ。
俺はいつ終わるかわからない委員長サマの説教を聞き流しながら、もしかしたらこの学校ではどこの組織にもチャラ男がひとりは標準装備というお約束なのではないかと、くだらないことをぼんやり考えてしまった。
するとそんな俺の様子に気付いた委員長サマに凄い勢いで睨まれてしまう。
「お前、俺の話を聞き流すとは良い度胸してるな?そんなんでちゃんと俺の話を理解できてるのか!?」
「……一応」
先程から委員長サマの話はずっと、調子に乗るな、勘違いするな、大人しくしてろ、ということを言葉を変えて何度も繰り返しているだけで、それこそ耳にタコができるほど散々聞いた。
そろそろ同じ話を大人しく聞くのも俺的には限界だったのだが、そんな俺を余所に、委員長サマの話は続く。
「いいか? お前はあいつらの暇潰しに使われているだけだ。本気にするなよ?」
「……してません」
「お前の見た目は、この学園じゃ悪目立ちしかしねぇ。調子に乗る前に、まずそこそこ見れるレベルまで整えてからこい」
「調子になんて乗ってません。それに俺はこのままでいいんで」
さっきから同じようなやり取りの繰り返しだ。少しくらい聞き流してくだらないことを考えても仕方ないと思う。
俺がウンザリしている態度を隠しきれなくなってきた頃、自己紹介してからずっと黙ったままで、委員長の隣に座っていただけの副委員長がようやく口を開いた。
「ねぇ、煌成。この子のこれ、たぶん変装だよ」
突然とんでもないことを言われ、不覚にも俺の心臓はドキンと跳ねあがってしまった。
「あ、もしかして図星だった?」
俺の僅かな動揺を見逃さなかったらしい副委員長がしたり顔でそう聞いてくる。
どうやらこの人がずっと黙っていたのは、俺の様子を観察するためだったらしいとようやく気付いた。
俺はこれ以上自分の表情から何かを読み取られないように、気を引き締める。
そんな俺を見て、副委員長はニッコリ笑った。
「あ、もしかして警戒してる?」
この副委員長は見た目に反してなかなかに油断できない人物のようだというのがわかってしまったので、俺としては迂闊な受け答えはできない。
副委員長は俺が何も答えないことが想像できていたのか、答えを待たず一方的に話し始めた。
「もう気付いてると思うけど、俺、キミのことずっと観察してたんだよねー。煌成の話がやたらとくどかったのも、疲れたり飽きたりした時に無意識に出てしまうキミの素の反応をみるためだったんだ。ごめんねぇ。煌成もホントはこんなに話好きじゃないんだよ。あくまで今回は俺に協力してくれただけだから」
副委員長が事情説明の合間についでのように謝罪をくれたが、その言い方があまりにも口先だけだということがよくわかる軽薄そうなものだったので、俺はつい笑ってしまった。
表面上、一瞬だけ和やかになった俺と副委員長をよそに、委員長サマだけはニコリともしていない。
「夏樹。ムダ話はいい。どうしてこいつのナリが変装だとわかったのか説明しろ」
俺は委員長サマのその言葉に、二階堂が指摘してくれた俺の変装の欠点について思い出していた。
──たしか眼鏡なのにコンタクトレンズもしてるって言われたんだっけ。
てっきりそれと同じようなことを言われると思っていたのだが、副委員長が語った根拠は全く違うものだった。
「うーん。色々あるけど。……強いて言えば勘かな?」
「勘、ですか……?」
俺はそう聞いて少しだけ安心してしまった。
勘ということは、ただそう思っただけということなので、いくらでも誤魔化しはきく。
ところがそれが根拠のない勘ではなかったことをすぐに知らされてしまう。
「見た目を貶されて満足そうにしてるなんて、普通じゃあり得ないでしょ。だから本当は違う見た目でそれを隠すために変装してるんじゃないかなーって。それでもって、本人はその出来に満足してるってことじゃないかと思ったわけ」
勘とはいえ、副委員長の的を射た意見に俺は驚いてしまった。
その説明を聞き終えた委員長サマは俺のほうを向くと、絶対に誤魔化しは許さないとばかりに凄い眼力で俺を見据えた。
「夏樹の言ったことは本当か?」
本当だが、その程度の根拠じゃ簡単に認めるわけにはいかない。
「……それって俺、答える義務あります?」
答えるつもりがないと言っているのと同じ俺の言葉に、委員長サマの眉毛がピクリと動いた。
「あ?義務だと?──生意気なこと言ってんじゃねぇ!」
語気を荒げるようにそうに言われたが、残念ながら俺にはそんな威しめいたことは通用しない。
何の反応もしない俺を委員長サマが憎々しそうに見ている隣で、副委員長は相変わらず愉しそうな表情を崩さなかった。
「ねぇ、ねぇ、キミが変装してること、もしかして生徒会の連中は知ってたりする?」
完全に誘導尋問のような質問を仕掛けてきた副委員長に、俺は苦笑いしてしまった。
「……なんでそう思うんですか?」
「質問に質問で返すってことは知られたくないことがあるってことだよね?
……じゃあ、質問を変えようか。
──なんであいつらはあんなにキミに絡むわけ?」
そんなことを聞かれても答えられる訳がない。むしろ俺が教えてもらいたいくらいだ。
「……さあ? この学校の異常さに染まってない人間が物珍しいだけじゃないんでしょうか」
少し嫌味な言い方になってしまったが仕方ない。
その他に思い当たる事と言えば、朝比奈を殴った報復で嫌がらせをされているのではないかという可能性くらいだ。
そう考えていた俺を副委員長の鋭い視線がしっかり捉えていた。
「……キミ、今答えたこと以外に違う理由を考えなかった?」
その一言に不覚にも俺は一瞬動揺してしまう。
もちろん副委員長はそんな俺を見逃してくれるはずはなく、早くも獲物を見つけた猛獣の雰囲気を醸し出してきた。
「じゃあ、今日朝からの出来事を洗いざらい吐いてもらおうか。出来るよね?光希クン?」
そう言った副委員長はとびきりの笑顔だった。
委員長の威嚇は何とも思わないが、この人の笑顔には恐ろしさを感じてしまうのは何故だろう。
でも俺は素直に答えようとは思えない。
「え。イヤです。面倒なんで」
即答した俺に、副委員長が突如真顔になって立ち上がり、テーブルを乗り越える勢いで俺に顔を近付けながら迫ってくると、再びニッコリと笑顔を作りながら口を開いた。
「ねぇ、キミに拒否権があると思ってるのかなぁ?」
「……え?」
よく見ると、全く目が笑っていないことに気付いた俺は、副委員長の本気を感じ、渋々今日の朝からの出来事を語ることにしたのだった。
テーブルを挟んだ向かい側のソファーには、二人の風紀委員が座っている。
ひとりは俺をここに連れてきた張本人で、名前を志波煌成といい、なんと風紀委員のトップである風紀委員長だった。
どおりで学食で皆がやたらと萎縮していたし、あの生徒会長とも対等に渡り合っていたわけだと納得する。
そしてその隣に座っている茶髪で前髪をヘアピンで留め、耳には複数ピアスという風紀委員にあるまじき出で立ちのちょっと軽そうな雰囲気のタレ目の男が副委員長だそうだ。
名前を橘夏樹というのだと、先程委員長サマの紹介と共に自己紹介してくれた。
二人ともネクタイの色は深緑なので二年生だ。
委員長なのに二年生なのか、と思った時、さっき会った生徒会長も二年生だったことを思い出す。
まさかとは思うが、学園内の秩序を護る風紀委員までもが嫌な方向の実力者の集まりなのでは、と俺は疑ってしまった。
委員長はともかく、副委員長はどう見ても普通の学校なら風紀委員には相応しくない外見だ。
俺はいつ終わるかわからない委員長サマの説教を聞き流しながら、もしかしたらこの学校ではどこの組織にもチャラ男がひとりは標準装備というお約束なのではないかと、くだらないことをぼんやり考えてしまった。
するとそんな俺の様子に気付いた委員長サマに凄い勢いで睨まれてしまう。
「お前、俺の話を聞き流すとは良い度胸してるな?そんなんでちゃんと俺の話を理解できてるのか!?」
「……一応」
先程から委員長サマの話はずっと、調子に乗るな、勘違いするな、大人しくしてろ、ということを言葉を変えて何度も繰り返しているだけで、それこそ耳にタコができるほど散々聞いた。
そろそろ同じ話を大人しく聞くのも俺的には限界だったのだが、そんな俺を余所に、委員長サマの話は続く。
「いいか? お前はあいつらの暇潰しに使われているだけだ。本気にするなよ?」
「……してません」
「お前の見た目は、この学園じゃ悪目立ちしかしねぇ。調子に乗る前に、まずそこそこ見れるレベルまで整えてからこい」
「調子になんて乗ってません。それに俺はこのままでいいんで」
さっきから同じようなやり取りの繰り返しだ。少しくらい聞き流してくだらないことを考えても仕方ないと思う。
俺がウンザリしている態度を隠しきれなくなってきた頃、自己紹介してからずっと黙ったままで、委員長の隣に座っていただけの副委員長がようやく口を開いた。
「ねぇ、煌成。この子のこれ、たぶん変装だよ」
突然とんでもないことを言われ、不覚にも俺の心臓はドキンと跳ねあがってしまった。
「あ、もしかして図星だった?」
俺の僅かな動揺を見逃さなかったらしい副委員長がしたり顔でそう聞いてくる。
どうやらこの人がずっと黙っていたのは、俺の様子を観察するためだったらしいとようやく気付いた。
俺はこれ以上自分の表情から何かを読み取られないように、気を引き締める。
そんな俺を見て、副委員長はニッコリ笑った。
「あ、もしかして警戒してる?」
この副委員長は見た目に反してなかなかに油断できない人物のようだというのがわかってしまったので、俺としては迂闊な受け答えはできない。
副委員長は俺が何も答えないことが想像できていたのか、答えを待たず一方的に話し始めた。
「もう気付いてると思うけど、俺、キミのことずっと観察してたんだよねー。煌成の話がやたらとくどかったのも、疲れたり飽きたりした時に無意識に出てしまうキミの素の反応をみるためだったんだ。ごめんねぇ。煌成もホントはこんなに話好きじゃないんだよ。あくまで今回は俺に協力してくれただけだから」
副委員長が事情説明の合間についでのように謝罪をくれたが、その言い方があまりにも口先だけだということがよくわかる軽薄そうなものだったので、俺はつい笑ってしまった。
表面上、一瞬だけ和やかになった俺と副委員長をよそに、委員長サマだけはニコリともしていない。
「夏樹。ムダ話はいい。どうしてこいつのナリが変装だとわかったのか説明しろ」
俺は委員長サマのその言葉に、二階堂が指摘してくれた俺の変装の欠点について思い出していた。
──たしか眼鏡なのにコンタクトレンズもしてるって言われたんだっけ。
てっきりそれと同じようなことを言われると思っていたのだが、副委員長が語った根拠は全く違うものだった。
「うーん。色々あるけど。……強いて言えば勘かな?」
「勘、ですか……?」
俺はそう聞いて少しだけ安心してしまった。
勘ということは、ただそう思っただけということなので、いくらでも誤魔化しはきく。
ところがそれが根拠のない勘ではなかったことをすぐに知らされてしまう。
「見た目を貶されて満足そうにしてるなんて、普通じゃあり得ないでしょ。だから本当は違う見た目でそれを隠すために変装してるんじゃないかなーって。それでもって、本人はその出来に満足してるってことじゃないかと思ったわけ」
勘とはいえ、副委員長の的を射た意見に俺は驚いてしまった。
その説明を聞き終えた委員長サマは俺のほうを向くと、絶対に誤魔化しは許さないとばかりに凄い眼力で俺を見据えた。
「夏樹の言ったことは本当か?」
本当だが、その程度の根拠じゃ簡単に認めるわけにはいかない。
「……それって俺、答える義務あります?」
答えるつもりがないと言っているのと同じ俺の言葉に、委員長サマの眉毛がピクリと動いた。
「あ?義務だと?──生意気なこと言ってんじゃねぇ!」
語気を荒げるようにそうに言われたが、残念ながら俺にはそんな威しめいたことは通用しない。
何の反応もしない俺を委員長サマが憎々しそうに見ている隣で、副委員長は相変わらず愉しそうな表情を崩さなかった。
「ねぇ、ねぇ、キミが変装してること、もしかして生徒会の連中は知ってたりする?」
完全に誘導尋問のような質問を仕掛けてきた副委員長に、俺は苦笑いしてしまった。
「……なんでそう思うんですか?」
「質問に質問で返すってことは知られたくないことがあるってことだよね?
……じゃあ、質問を変えようか。
──なんであいつらはあんなにキミに絡むわけ?」
そんなことを聞かれても答えられる訳がない。むしろ俺が教えてもらいたいくらいだ。
「……さあ? この学校の異常さに染まってない人間が物珍しいだけじゃないんでしょうか」
少し嫌味な言い方になってしまったが仕方ない。
その他に思い当たる事と言えば、朝比奈を殴った報復で嫌がらせをされているのではないかという可能性くらいだ。
そう考えていた俺を副委員長の鋭い視線がしっかり捉えていた。
「……キミ、今答えたこと以外に違う理由を考えなかった?」
その一言に不覚にも俺は一瞬動揺してしまう。
もちろん副委員長はそんな俺を見逃してくれるはずはなく、早くも獲物を見つけた猛獣の雰囲気を醸し出してきた。
「じゃあ、今日朝からの出来事を洗いざらい吐いてもらおうか。出来るよね?光希クン?」
そう言った副委員長はとびきりの笑顔だった。
委員長の威嚇は何とも思わないが、この人の笑顔には恐ろしさを感じてしまうのは何故だろう。
でも俺は素直に答えようとは思えない。
「え。イヤです。面倒なんで」
即答した俺に、副委員長が突如真顔になって立ち上がり、テーブルを乗り越える勢いで俺に顔を近付けながら迫ってくると、再びニッコリと笑顔を作りながら口を開いた。
「ねぇ、キミに拒否権があると思ってるのかなぁ?」
「……え?」
よく見ると、全く目が笑っていないことに気付いた俺は、副委員長の本気を感じ、渋々今日の朝からの出来事を語ることにしたのだった。
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