セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

19. 同室になりました!

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転校初日にして授業の大半をサボる形になってしまった俺は、大急ぎで特別棟を出て、普通棟にある自分の教室へと戻っていた。

すれ違う生徒たちから突き刺さるような視線が向けられている気がしたが、気にしてたらきりがない。

おそらくほとぼりが冷めるまではこの状態が続くのだろう。

これでは副委員長が言った珍獣という表現もあながち間違いじゃないかもしれない。


若干急ぎ足で教室に戻った俺が扉を開けて中に入ると、クラスメイトまでもが冷ややかな眼差しを向けてきた。

そんな中で二階堂だけは普通の態度で俺に声をかけてくれた。


「遅かったな。さっさと寮に戻ろうぜ。案内するよ」


その言葉に俺は少しだけホッとした。


「……ああ、悪い。頼む」


それだけ言うと、俺は荷物を取りに行くために一旦自分の席へと向かう。


すると、最初に俺を期待外れだと言ってきた斜め前の席の可愛い系の見た目の生徒が、いきなり俺の前に立ちはだかったのだ。


「ちょっとあんた!生徒会の皆様に構ってもらったからって、調子にのらないでよねっ!」


そう言いながら物凄い勢いで俺を睨み付けると、さっさと教室を出ていってしまった。

俺はあまりに突然の出来事に何が起こったのか把握できず、呆気に取られてしまう。


「なんだ、あれ…?」


まだ訳がわからないままの俺が思わずそう呟くと、いつの間にか側に来ていた二階堂が状況を説明してくれた。


「気にすんな。あいつはあのとおり見た目だけは可愛いだろ? だからちょっと前まで生徒会役員たちからちやほやされてたんだよ。ところが、生徒会長の親衛隊に入った途端相手にされなくなったから、今日役員達と仲良くしてたお前のことやっかんでるんだ」

「は?なんだそれ?完全八つ当たりってやつじゃん」


俺はその話を笑い飛ばすと、机に掛けっぱなしになっていたカバンを手に取った。


「お前意外に図太いんだな……」


二階堂が呆れたようにそう言ったが、俺としては自分の興味のないことにいちいち関心をむけていられないだけの話だ。


「そんなことはないけどな」


苦笑いした俺に、二階堂が気遣わし気な視線を送ってくる。一応心配はしてくれているらしい。

俺は大丈夫という意味を込めて、少し高い位置にある二階堂の肩を軽く二回叩くと、さっさと教室を後にした。



◇◆◇◆



二階堂は学園の地理に不慣れな俺を寮の部屋まで送ると、用事があるからと言ってすぐに自室へ戻っていってしまった。

なんだか妙に緊張してきた俺は、軽く深呼吸してから部屋のチャイムを鳴らす。

もちろん俺の部屋でもあるのでそのまま入って行くこともできたのだが、先に住んでる人間がいる以上、勝手に入っていくのも気が引けたのだ。


どういうヤツが同室なのかドキドキしながら待っていると、すぐに内側から扉が開けられ、背の高い爽やか系のイケメンが出てきた。

さすがに見た目が重要視される学校だけあって、イケメンの生息率が高いらしい。


しかし俺にとっては見た目の良し悪しよりも、性格が合うどうかのほうが重要だ。


ここまで来る途中、二人部屋で生活するということが不安だとこぼした俺に、二階堂が絶対大丈夫だという根拠のない太鼓判を押してくれたが、ただ顔が良いというだけでは不安は全く払拭できない。


お互いに上手くやっていくためには、自分の第一印象もなるべくなら良くしておくことが重要だと気付いた俺は、とりあえず不審に思われないよう、まずは同室者であることを説明しようと口を開いた。


「あの、俺、「お前ホントに光希か? 話には聞いてたけど、なんて格好してんだか……。早く入って着替えろよ」


俺の言葉を遮るように言葉を繰り出され、俺は面食らってしまった。

初対面のはずなのに、なぜか俺のことをよく知っているような口振りに、どこかで会ったことがあっただろうかと記憶を辿ってみるが心当たりがない。

しかし、部屋に入りながら同室者の顔をあらためて見てみると、だんだんどこかで見たことあるような気もしてきたから不思議だ。

もう少しでコイツが誰か思い出せそうな気がしてジーっと見ていると、俳優にでもなれそうな爽やかイケメンは困ったような顔をして視線を逸らしてしまった。


その表情を見て、突如俺の記憶の断片が繋がった。


「──お前、もしかして、……颯真?」


おずおずとそう尋ねると、爽やかイケメンが驚いた顔をした。


「わかんなかったのかよ!」

「わかんねぇよ。 お前変わりすぎだろ!!」


冗談抜きで本当に変わりすぎていてわからなかったのだ。


──ただのサルだった颯真は、爽やか系イケメンに変貌を遂げていた。


背だって俺より低かったはずなのに、今は俺を軽々と追い越してしまっている。
しばらく会わないうちに随分成長していたらしい。

二階堂から颯真は親衛隊があるほどの人気者であることは聞いていたが、元の姿しか知らない俺には今の颯真の姿が全く想像できていなかったのだ。

しかし実際に今の颯真に会ってみると、親衛隊があるのも頷けるような成長ぶりに、俺はただただ驚くばかりだ。


小学校まで公立の学校に通っていたとはいえ、颯真は正真正銘大企業の社長の御曹司だ。

顔良し、家柄良し、それでもってSクラスに入れるほどの実力もあるとくれば人気があって当たり前だとようやく俺も納得した。


「お前、スゲーな。なんでたった三年でそこまで変われたワケ?言われなきゃお前だってわかんねぇぞ」


俺が颯真の全身を眺めて感心しながらそう言うと、

「光希も十分わかんねぇよ」

と、不貞腐れたような言い方をされてしまった。


その言い方に俺はようやくこの人物が颯真であると確信できた。

昔から颯真は恥ずかしい時や照れているのを誤魔化す時は必ず不貞腐れたような態度を取る。

昔と変わらない颯真に安心した俺は、思わず笑ってしまった。


「俺のは変装」

「……知ってる。光里あかりさんから聞いたし、圭吾さんからも事情は聞いてる。だから光希の正体知ってる俺が同室になったんだ」


どうやら圭吾さんが気を利かせて颯真と同室にしてくれたらしい。

先程二階堂が大丈夫だと太鼓判を押してくれた意味がようやくわかった。


諸々の事情から変装することに決めたものの、寮の部屋が二人部屋だと聞いて内心どうしようかと思っていた俺だったが、本当の姿を知っている颯真が同室なら安心して生活できそうだ。


「光希の部屋は右側だ。荷物はもう運んでおいたから、後は自分で確認してくれ」

「サンキュ。助かった」

「とりあえず、カバン置いて着替えてこいよ」


俺は早速颯真の言うとおり自分の部屋に行って着替えて来ることにした。







「はぁー、楽チン」


すっかり本来の姿に戻った俺は、そう言いながら共有スペースにおいてある二人掛けのソファーに座った。


「マジで颯真と同室で助かった。これなら部屋にいる時間は寛げるな」


すっかり寛ぎモードの俺の隣に、俺の分までコーヒーを淹れて戻ってきた颯真も座る。


「そんなに大変なら、あんな変な格好もうやめればいいだろ」


颯真はなんてことない事のようにそう言ってくれたが、俺にとってはそう簡単なことではない。


「今更できるかよ。俺はもうあの格好でいくって決めたんだから」


明日から素に戻すなんて、今日の俺の努力はなんだったんだという話だし、皆に批判されたことで慌てて見た目を整えてきたみたいに思われたら気分が悪い。

それになにより東條に俺の存在がバレるのが一番マズい。


「今更、か。そうだよな。素の光希って、見た目の雰囲気、佐伯先輩とまるかぶりだもんな。皆の憧れの役員様と同じなんて、絶対真似してるとか言われそう」


俺の金茶の髪を弄りながらそう言ってきた颯真を軽く睨み付ける。

あんなチャラ男と一緒にするとは失礼な!と思ってしまったが、今日学食で佐伯を見たとき俺も似たような事を思ってしまっているだけに否定はできない。


「……こっちはオリジナルカラーだっつーの。俺がアイツに憧れてるなんて、気色悪ぃこと言うなよ。
……ったく、なんであんなヤツらが人気があるのか理解できねぇよ」


俺は今日遭遇した生徒会役員、特に生徒会長を思い出して非常に不愉快な気持ちになってしまった。

嫌な気分を払拭するために、颯真が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。


その時。


「そういえば、光希、生徒会長とキスしたんだって? 会長のこと気に入った?」

「は!?」


とんでもない一言に、俺は危うくむせかけた。

コーヒーのお陰で少しだけ気分が落ち着いたと思ったのに、颯真の言葉で再び気分が悪くなってしまう。


あれはキスではなく、完全に嫌がらせか暴力だ。

大体あんな態度の人間を気に入る要素が見当たらない。

ひとりで憤る俺を余所に颯真は勝手に話を続けていく。


「一体どういうことなのか俺にも詳しく聞かせてほしいな。
他に積もる話もあることだし、久しぶりに一緒にお風呂に入りながら話そうか」

「え!?」


俺と颯真は小学生の頃、しょっちゅうどちらかの家に泊まって、一緒に風呂に入っていた。

風呂で一緒に遊んだり、話をしたり、それこそあまりおおっぴらに言えないことも二人でした。

風呂はかつての俺たちにとっての重要なコミュニケーションツールだったが、それが今の俺たちに必要だとは思えない。

むしろ俺としては高校生にもなって二人で風呂に入るという恥ずかしい行為は遠慮したかった。


「そうと決まればさっさと行くか。会長の事だけじゃなく、なんで携帯が繋がらなくなったのかもじっくり話してもらわないとだし」


どうやら颯真は俺が連絡しなかったことを相当根に持っているらしい。


表面上は笑顔だが、有無を言わせない雰囲気の颯真に、俺は異を唱える事などできないことを悟ったのだった。

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