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本編
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颯真に引きずられるようにして半ば強制的にバスルームへと連れて来られた俺は、一緒に風呂に入るのが当たり前のようにさっさと服を脱ぎ出した颯真を見てどうするべきか悩んでいた。
──高校生にもなって、大浴場でもないのに一緒に風呂に入るっておかしくね?
常識的に考えてこの状況が普通ではないと気付いた俺が後込みしている間に、颯真の均整のとれた身体が徐々に顕になっていく。
「光希も早く脱げば?」
いつまでたっても脱ごうとしない俺に、颯真はそう促してきた。
なんとなく悩んでいるのが面倒になった俺は、仕方なく自分の服に手をかけたのだが、ほぼ裸になった颯真が目に入った途端、俺の手は自然に止まってしまった。
目の前にいる颯真は昔のチビでサルの颯真からは想像もつかない男らしい体つきになっており、俺は不覚にも見惚れてしまったのだ。
俺は貧弱なほうではないが、まだまだ成長途中ということもあって颯真ほど完成された肉体ではない。
「手伝おうか?」
ぐずぐずしている俺を見ながら颯真がニヤリと笑った。
その表情がやけに大人びて見える。
「……余計なお世話だ」
なんとなく悔しくなった俺は、颯真を軽く睨み付けてから一気に全てを脱ぎ去ると、バスルームの中へと入り、勢いよくシャワーのお湯を出した。
「女にモテて喰いまくってるだけあって、結構いい身体してんじゃん」
気が付くと身体を洗っている俺の肩越しに、颯真が俺の身体を覗き込んでいた。
その視線はあきらかに下半身にむいている。
「さすがにもう初々しいピンクじゃないな」
「バ……ッ!何言ってんだ!!見てんじゃねぇ!!」
「今更恥ずかしがることないだろ?散々触りっこした仲なんだから。──光希のココ剥いたの俺だし」
そう言うなり、おもむろに颯真が股間に手を伸ばし俺のモノに触れてきた。
当時まだ幼かった俺たちは、聞きかじりの知識を試すべく、好奇心の赴くままお互いのモノを触り合うということをしていた。
先端の皮を剥くということも兄貴がいる同級生が発生源の情報で、『剥かないと病気になるらしい』という噂が男子の間で拡がり、聞いたその日のバスタイムに慌てて一緒に処置した覚えがある。
──ちなみに颯真のモノは俺がした。
「前とは違うだろ。触るのやめろよ」
俺はすぐに颯真の手を振り払う。
「なんで?触られると勃ちそう?」
「……勃たねぇよ」
そう言ったにも関わらず、颯真はボディーソープのついた手で俺のモノを扱きだした。
さすがに男同士だけあってよくツボを心得た動きではあったが、俺のモノに反応は見られない。
くすぐったいような感覚はあるが、性的なものに繋がるような感じまでには至らなかったのだ。
「ホントに勃たないな。もしかしてやり過ぎて枯れちゃった?」
颯真が冗談のように言ってくるが、俺にとっては非常にデリケートで由々しき問題なので冗談では済まされない。
俺はシャワーで身体についた泡を流すと、颯真を振り切って一足先にバスタブにむかう。
学生寮の風呂とは思えないほどの豪華な造りの浴室は、広々としており、脚が伸ばせるほどの大きめのバスタブも備え付けられている。
肩まで一気に湯に浸かると、自然と大きなため息が出た。
それは湯に浸かった時にでる身体の反応のせいだけではないことは自分が一番よくわかっている。
先程の颯真の手付きは通常なら反応してもおかしくないような絶妙な加減だっただけに、俺のモノがピクリとも反応しなかったことに対して地味に傷ついているのだ。
目を背けていた現実を見せられて、なんだかひどくなげやりな気持ちになってきた俺は、颯真に自分の状態を正直に告白した。
「……色々あって、勃たなくなったんだよ」
「マジで!?」
俺の事情を聞いた颯真は、身体を洗っていた手を止めて俺をガン見していた。
「……圭吾さんから光希が女のいない環境で人生やり直したいって言ってるって聞いたけど、もしかしてこのことが原因?」
正しくは原因があってこうなったのだが、それを今颯真に説明するだけの気力はない。
「……べつにいいだろ」
ぶっきらぼうにそう言いながら脚を伸ばして寛いでいると、身体を洗い終わった颯真もバスタブに入ってきた。
さすがに男二人が一緒に入ると狭く感じたが、颯真が勝手に俺の身体の位置を移動させ、自分の脚の間に俺を座らせるという形をとったことでスペースの問題はひとまず解決した。
男二人がこの体勢で一緒に風呂に入るなんて端からみたら鳥肌モノだろうが、誰にも見られる心配はないし、抗うのも面倒なので、俺は遠慮なく颯真に身体を預けて寛ぐことにした。
「光希って……」
颯真が困ったようにそう呟いていたが、そもそも颯真が仕向けたことだ。文句を言われても困る。
「なんだよ?文句あるのか?」
俺が首だけで振り返りすぐ後ろにいる颯真に鋭い視線を送ると、首を横に振りながら苦笑いしていた。
「いや、べつに」
「じゃあこのまま俺のクッションになってろよ」
俺はそのまま颯真の肩に後頭部を乗せて目を閉じた。
ちょっとやり過ぎかとも思ったが、何も言われないのでそのままでいると、俺の髪が素肌に当たるのが擽ったいのか、颯真は少しだけ身動ぎした。
「……光希なんだかガラ悪くなったんじゃねぇ?前はもっと当たりの柔らかい女子受けしそうな話し方してたよな?」
俺は幼い頃からの姉の教育的指導により、普段からぞんざいな言葉遣いにならないように気を付けていた。
その上フェミニストを自称していたので、女の子に対してはなるべく優しい口調で話すことを心掛けていただけなのだ。
男同士だというなら俺もそれなりの喋り方になる。
「理想の王子なんてもんを目指してても良いことないって気付いたんだよ。それにここじゃそんな喋り方する必要もないしな。
──久しぶりすぎて忘れてるかもしんないけど、お前と二人でいるときはいつもこんな感じだっただろ」
姉が側にいる時にそんな口の聞き方をしようものなら大変なことになるのがわかっていたので、そういう場合は颯真が相手でも気をつけていたが、二人だけの時は結構素が出ていたように思う。
「……言われてみればそうかも」
そう言った颯真の声は少しだけ嬉しそうなものだった。
俺もまた、三年というブランクと見た目の変化はあるものの、こうして颯真と一緒に過ごせる時間を嬉しく思ってしまった。
しかし俺がそんなことを感じて少しだけほっこりしたのも束の間、颯真の声のトーンが突然低いものに変わりドキリとさせられる。
「で、そんな素が出せるほどの仲良しの俺が、光希に連絡取れなくなったのはどういうワケ?」
何故かその声はさっき部屋で風呂に入ろうと誘われた時の有無を言わせないものと同じものだった。
恐る恐る閉じていた目を開けると、颯真が真摯な眼差しで俺を見つめているのが見えた。
俺は仕方なく理由を説明することにする。
「……色々あって、勢いでアドレス全削除した」
「は?」
「その後、色々煩わしくて番号ごと変えた。アドレスわかんなかったから連絡できなかった。以上」
色々詳細をすっ飛ばして説明したけど、嘘はついていない。
自分のことで精一杯で、今日二階堂に聞くまで颯真の存在を忘れてたことは言わないでおく。
「すっごい省かれた気がするけど、一応わかった。
ようするにアドレスも消したくなるほどの何かが女関係であったってことだな。……俺、前から言ってたよな?いつか刺されるぞって」
呆れたような物言いに俺はすかさず反論した。
「そういうんじゃねぇよ」
「じゃあ、なんだよ」
「……知りたくなかった現実を一気に知った。身体が女を拒絶するようになった。結果、もう女のいる環境にいたくなくなった」
半ば自棄気味に事実を淡々と述べる。
女の実態と、その女たちの中での自分の評価にショック受けた結果、俺のオスとしての機能は活動休止してしまったのだ。
そんな俺に必要なのは女に囲まれた環境ではなく、静かに過ごせる環境だ。
「そういうことか……」
颯真はその説明で一応は納得してくれたらしい。
「……べつにもうヤりてぇとか思わねぇから、ホントにもういいんだ」
セックス出来ないことに関してはホントにもういいと思っている。
はっきり言って今はもう誰ともそう言うことをする気にはなれない。
しかし颯真はこの状態でいることのマズさをあっさり指摘してくれた。
「よくねぇよ。一大事じゃん! お前オナニーしてんの? っていうかできてんの?出さなきゃヤバくないか?」
それは俺にもわかっている。
東條とセックスした時はすんなり勃ったことから、彼女相手に勃たなかったことは一時的なショックからくるものだと当初楽観視していた俺だったが、少しして男の事情から自慰行為に及ぼうとした時にピクリとも反応しない自身に気付いて愕然としたのだ。
現実問題、十五歳の健康男子の体内では日々生産活動が活発に行われており、処理を怠ると夢精というとても残念な結末を迎えてしまうため、セックスすることがなくなった今は自慰行為をしなければ大変なことになる。
しかしそんな下半身の事情を赤裸々に颯真に言う必要はないはずだ。
「……それ、お前に言う必要あるワケ?」
「俺、朝からパンツ洗ってる光希とかみたくない」
颯真からは可哀想な子を見るような視線が向けられている。
「……見せねぇし」
暗にこの話題終わりだというつもりでわざと素っ気なく答えてみたのだが、俺の意図が伝わったかどうかは怪しい。
その証拠に颯真はとんでもないことを言い出した。
「気持ちの問題で勃たなくなったんなら、物理的に勃たせてみればいいんじゃねぇ?」
「……は?」
全く俺の意図が伝わっていなかったどころか嫌な予感しかしない発言に、俺は咄嗟に逃げを打って颯真から身体を離し、立ち上がった。
しかしその行動を予測していたのか、すかさず颯真が俺を捕まえる。
「離せよ。俺、もう出るし」
そう言った俺の腕を掴んだまま、颯真は一緒にバスタブから出て、何故か壁際へと移動する。
そして俺を壁に寄りかからせると、自分は壁に手を付き俺のすぐ正面に立った。
──いわゆる壁ドンというヤツだ。
やったことはあってもやられるのは初めての行為に、自分より大きい男にされるのはあまり気分のいいものではないと思い知る。
そんな俺の気持ちを余所に颯真は俺を解放しようという気はないらしく、口許に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「試してみたくねぇ?」
聞きたくはなかったが、何をするつもりか聞くまで放してもらえそうにないっていう空気をバリバリ感じる。
「……何を?」
途端に颯真がニヤリと笑った。
「前立腺マッサージ」
──俺の嫌な予感は大当たりだったのだ。
──高校生にもなって、大浴場でもないのに一緒に風呂に入るっておかしくね?
常識的に考えてこの状況が普通ではないと気付いた俺が後込みしている間に、颯真の均整のとれた身体が徐々に顕になっていく。
「光希も早く脱げば?」
いつまでたっても脱ごうとしない俺に、颯真はそう促してきた。
なんとなく悩んでいるのが面倒になった俺は、仕方なく自分の服に手をかけたのだが、ほぼ裸になった颯真が目に入った途端、俺の手は自然に止まってしまった。
目の前にいる颯真は昔のチビでサルの颯真からは想像もつかない男らしい体つきになっており、俺は不覚にも見惚れてしまったのだ。
俺は貧弱なほうではないが、まだまだ成長途中ということもあって颯真ほど完成された肉体ではない。
「手伝おうか?」
ぐずぐずしている俺を見ながら颯真がニヤリと笑った。
その表情がやけに大人びて見える。
「……余計なお世話だ」
なんとなく悔しくなった俺は、颯真を軽く睨み付けてから一気に全てを脱ぎ去ると、バスルームの中へと入り、勢いよくシャワーのお湯を出した。
「女にモテて喰いまくってるだけあって、結構いい身体してんじゃん」
気が付くと身体を洗っている俺の肩越しに、颯真が俺の身体を覗き込んでいた。
その視線はあきらかに下半身にむいている。
「さすがにもう初々しいピンクじゃないな」
「バ……ッ!何言ってんだ!!見てんじゃねぇ!!」
「今更恥ずかしがることないだろ?散々触りっこした仲なんだから。──光希のココ剥いたの俺だし」
そう言うなり、おもむろに颯真が股間に手を伸ばし俺のモノに触れてきた。
当時まだ幼かった俺たちは、聞きかじりの知識を試すべく、好奇心の赴くままお互いのモノを触り合うということをしていた。
先端の皮を剥くということも兄貴がいる同級生が発生源の情報で、『剥かないと病気になるらしい』という噂が男子の間で拡がり、聞いたその日のバスタイムに慌てて一緒に処置した覚えがある。
──ちなみに颯真のモノは俺がした。
「前とは違うだろ。触るのやめろよ」
俺はすぐに颯真の手を振り払う。
「なんで?触られると勃ちそう?」
「……勃たねぇよ」
そう言ったにも関わらず、颯真はボディーソープのついた手で俺のモノを扱きだした。
さすがに男同士だけあってよくツボを心得た動きではあったが、俺のモノに反応は見られない。
くすぐったいような感覚はあるが、性的なものに繋がるような感じまでには至らなかったのだ。
「ホントに勃たないな。もしかしてやり過ぎて枯れちゃった?」
颯真が冗談のように言ってくるが、俺にとっては非常にデリケートで由々しき問題なので冗談では済まされない。
俺はシャワーで身体についた泡を流すと、颯真を振り切って一足先にバスタブにむかう。
学生寮の風呂とは思えないほどの豪華な造りの浴室は、広々としており、脚が伸ばせるほどの大きめのバスタブも備え付けられている。
肩まで一気に湯に浸かると、自然と大きなため息が出た。
それは湯に浸かった時にでる身体の反応のせいだけではないことは自分が一番よくわかっている。
先程の颯真の手付きは通常なら反応してもおかしくないような絶妙な加減だっただけに、俺のモノがピクリとも反応しなかったことに対して地味に傷ついているのだ。
目を背けていた現実を見せられて、なんだかひどくなげやりな気持ちになってきた俺は、颯真に自分の状態を正直に告白した。
「……色々あって、勃たなくなったんだよ」
「マジで!?」
俺の事情を聞いた颯真は、身体を洗っていた手を止めて俺をガン見していた。
「……圭吾さんから光希が女のいない環境で人生やり直したいって言ってるって聞いたけど、もしかしてこのことが原因?」
正しくは原因があってこうなったのだが、それを今颯真に説明するだけの気力はない。
「……べつにいいだろ」
ぶっきらぼうにそう言いながら脚を伸ばして寛いでいると、身体を洗い終わった颯真もバスタブに入ってきた。
さすがに男二人が一緒に入ると狭く感じたが、颯真が勝手に俺の身体の位置を移動させ、自分の脚の間に俺を座らせるという形をとったことでスペースの問題はひとまず解決した。
男二人がこの体勢で一緒に風呂に入るなんて端からみたら鳥肌モノだろうが、誰にも見られる心配はないし、抗うのも面倒なので、俺は遠慮なく颯真に身体を預けて寛ぐことにした。
「光希って……」
颯真が困ったようにそう呟いていたが、そもそも颯真が仕向けたことだ。文句を言われても困る。
「なんだよ?文句あるのか?」
俺が首だけで振り返りすぐ後ろにいる颯真に鋭い視線を送ると、首を横に振りながら苦笑いしていた。
「いや、べつに」
「じゃあこのまま俺のクッションになってろよ」
俺はそのまま颯真の肩に後頭部を乗せて目を閉じた。
ちょっとやり過ぎかとも思ったが、何も言われないのでそのままでいると、俺の髪が素肌に当たるのが擽ったいのか、颯真は少しだけ身動ぎした。
「……光希なんだかガラ悪くなったんじゃねぇ?前はもっと当たりの柔らかい女子受けしそうな話し方してたよな?」
俺は幼い頃からの姉の教育的指導により、普段からぞんざいな言葉遣いにならないように気を付けていた。
その上フェミニストを自称していたので、女の子に対してはなるべく優しい口調で話すことを心掛けていただけなのだ。
男同士だというなら俺もそれなりの喋り方になる。
「理想の王子なんてもんを目指してても良いことないって気付いたんだよ。それにここじゃそんな喋り方する必要もないしな。
──久しぶりすぎて忘れてるかもしんないけど、お前と二人でいるときはいつもこんな感じだっただろ」
姉が側にいる時にそんな口の聞き方をしようものなら大変なことになるのがわかっていたので、そういう場合は颯真が相手でも気をつけていたが、二人だけの時は結構素が出ていたように思う。
「……言われてみればそうかも」
そう言った颯真の声は少しだけ嬉しそうなものだった。
俺もまた、三年というブランクと見た目の変化はあるものの、こうして颯真と一緒に過ごせる時間を嬉しく思ってしまった。
しかし俺がそんなことを感じて少しだけほっこりしたのも束の間、颯真の声のトーンが突然低いものに変わりドキリとさせられる。
「で、そんな素が出せるほどの仲良しの俺が、光希に連絡取れなくなったのはどういうワケ?」
何故かその声はさっき部屋で風呂に入ろうと誘われた時の有無を言わせないものと同じものだった。
恐る恐る閉じていた目を開けると、颯真が真摯な眼差しで俺を見つめているのが見えた。
俺は仕方なく理由を説明することにする。
「……色々あって、勢いでアドレス全削除した」
「は?」
「その後、色々煩わしくて番号ごと変えた。アドレスわかんなかったから連絡できなかった。以上」
色々詳細をすっ飛ばして説明したけど、嘘はついていない。
自分のことで精一杯で、今日二階堂に聞くまで颯真の存在を忘れてたことは言わないでおく。
「すっごい省かれた気がするけど、一応わかった。
ようするにアドレスも消したくなるほどの何かが女関係であったってことだな。……俺、前から言ってたよな?いつか刺されるぞって」
呆れたような物言いに俺はすかさず反論した。
「そういうんじゃねぇよ」
「じゃあ、なんだよ」
「……知りたくなかった現実を一気に知った。身体が女を拒絶するようになった。結果、もう女のいる環境にいたくなくなった」
半ば自棄気味に事実を淡々と述べる。
女の実態と、その女たちの中での自分の評価にショック受けた結果、俺のオスとしての機能は活動休止してしまったのだ。
そんな俺に必要なのは女に囲まれた環境ではなく、静かに過ごせる環境だ。
「そういうことか……」
颯真はその説明で一応は納得してくれたらしい。
「……べつにもうヤりてぇとか思わねぇから、ホントにもういいんだ」
セックス出来ないことに関してはホントにもういいと思っている。
はっきり言って今はもう誰ともそう言うことをする気にはなれない。
しかし颯真はこの状態でいることのマズさをあっさり指摘してくれた。
「よくねぇよ。一大事じゃん! お前オナニーしてんの? っていうかできてんの?出さなきゃヤバくないか?」
それは俺にもわかっている。
東條とセックスした時はすんなり勃ったことから、彼女相手に勃たなかったことは一時的なショックからくるものだと当初楽観視していた俺だったが、少しして男の事情から自慰行為に及ぼうとした時にピクリとも反応しない自身に気付いて愕然としたのだ。
現実問題、十五歳の健康男子の体内では日々生産活動が活発に行われており、処理を怠ると夢精というとても残念な結末を迎えてしまうため、セックスすることがなくなった今は自慰行為をしなければ大変なことになる。
しかしそんな下半身の事情を赤裸々に颯真に言う必要はないはずだ。
「……それ、お前に言う必要あるワケ?」
「俺、朝からパンツ洗ってる光希とかみたくない」
颯真からは可哀想な子を見るような視線が向けられている。
「……見せねぇし」
暗にこの話題終わりだというつもりでわざと素っ気なく答えてみたのだが、俺の意図が伝わったかどうかは怪しい。
その証拠に颯真はとんでもないことを言い出した。
「気持ちの問題で勃たなくなったんなら、物理的に勃たせてみればいいんじゃねぇ?」
「……は?」
全く俺の意図が伝わっていなかったどころか嫌な予感しかしない発言に、俺は咄嗟に逃げを打って颯真から身体を離し、立ち上がった。
しかしその行動を予測していたのか、すかさず颯真が俺を捕まえる。
「離せよ。俺、もう出るし」
そう言った俺の腕を掴んだまま、颯真は一緒にバスタブから出て、何故か壁際へと移動する。
そして俺を壁に寄りかからせると、自分は壁に手を付き俺のすぐ正面に立った。
──いわゆる壁ドンというヤツだ。
やったことはあってもやられるのは初めての行為に、自分より大きい男にされるのはあまり気分のいいものではないと思い知る。
そんな俺の気持ちを余所に颯真は俺を解放しようという気はないらしく、口許に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「試してみたくねぇ?」
聞きたくはなかったが、何をするつもりか聞くまで放してもらえそうにないっていう空気をバリバリ感じる。
「……何を?」
途端に颯真がニヤリと笑った。
「前立腺マッサージ」
──俺の嫌な予感は大当たりだったのだ。
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