セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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番外編

その後7.デートしました! その3

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言いたいことは山程あったものの、俺は何とかそれを飲み込んで、とりあえず東條が用意した衣装に着替えることにした。

事前に何も聞かされていなかった事については正直腹も立つが、既に予約されてるディナーの事を考えると今更すっぽかすのも気が引けるし、そこへ行くためにはそれなりの格好が必要なのは確かなので、俺はわざわざ準備する手間が省けたのだと割り切って東條の気遣いを受け入れることにしたのだ。

とはいっても東條の前で着替えるのもなんか恥ずかしいので、パウダールームを利用することにする。大きい鏡があるからちょうどいい。

俺は着ていた服をさっさと脱ぐと、東條の独占欲の結果ともいえる衣装に身を包んだ。


ブルーのシャツにタイトなシルエットのライトグレーのスーツ。そしてレモンイエローのニットタイ。

自分ではあまり選ばない組み合わせを新鮮に感じつつリビングに戻ると、そこにはダークカラーのスーツとシャツに、俺のものとは色違いと思われる鮮やかなブルーのニットタイを着けた東條が長い足を優雅に組んでソファーに座っていた。

パッと見じゃ気付かれにくいところにこういう事してくるなんて意外と東條ってロマンチストっていうかなんていうか……。
恋人モードだとこういう感じなんだなって改めて認識させられた。


さっきまで勝手に衣装を用意されたことに腹を立てていた俺だけど、俺様っぽくて強引だと思っていたところに普段の東條からは想像出来ないような真似をされると、なんかちょっと可愛いなとか思ってしまう。

これが噂のギャップ萌えってやつか?
それともやっぱり俺は東條の事を好きになってるってことなのか……?

なんかそれを認めるのはやっぱり悔しい気がして、俺はわざと視線を合わせずにやや早口でお礼を言った。


「服、サンキュ。今回はありがたく受け取っておくけど、次からは前以て一言言ってくれ」


またこんな事がないようにしっかりと釘を刺すのも忘れない。

いくら東條が経済力がある大人でこのくらいのプレゼントなんて大したことじゃないんだとしても、ただの高校生でしかない俺が金をかけてもらうのが当たり前なんていう関係にはなりたくない。


「わかった。善処する」


東條は本気でそうするつもりがあるのか怪しいほど軽い調子で言葉を返すと、ソファーから立ち上がり、俺の方へと歩み寄ってきた。

そして。


「想像以上に似合ってる。脱がせるのが楽しみだ」


耳に触れるギリギリの位置で甘く囁く。
けして不快ではないゾワリとした感覚に俺は反射的に身体を跳ねさせてしまった。

不意討ちにも程があるだろ……。

油断していた俺は過剰反応してしまった自分が恥ずかしくなってしまい、完全に八つ当たりだと認識しつつも東條をしっかりと睨み付けてやった。

東條はいつもどおり余裕の表情でそれを受け止めるんだろうなと思いきや。
全く予想もしていなかったような熱い眼差しで見つめ返され、途端に俺の身体にある種のスイッチが入る。

東條が今してる表情は学校にいる時とは違いどこか蠱惑的で、俺はヤバいクスリで身体を無理矢理高ぶらせられた時のような妙な酩酊感を感じてしまった。
それと同時に俺の身体は明らかに勝手な反応を見せる。

前側が反応するより先に身体の奥が疼いて東條で埋めて欲しくて堪らないと思うなんて……。

いくら不能気味でもこんな反応するなんて。俺の身体、かなりヤベェなと思いつつも、不思議と嫌だとは思わなかった。



◇◆◇◆



すっかり高ぶった身体は俺の性格とは裏腹にすごく正直で、今すぐにでも東條と繋がりたいと訴えていた。

しかしながらせっかく予約してしたディナーをそんな理由でキャンセルする訳にはいかず、俺はソワソワと落ち着かない気分のままホテルのレストランの個室へと向かう羽目になった。

そんな困った状態の俺だったが、さすがに食事が始まれば美味しい料理の前に性欲よりも食欲がかろうじて勝り、ちゃんと料理を堪能することが出来てホッとした。


コースも終盤に差し掛かり和やかな雰囲気で他愛もない会話をしていると、不意に扉がノックされた。

てっきり料理長あたりが挨拶に来たのかと思ったら。

現れたのは東條とそう歳の変わらないようなスーツ姿の男性。
その姿を認めた途端。東條の表情が険しいものに変わった。


「何しに来たんだよ」


あからさまに眉を顰めた東條に対し、男性はにこやかな表情で口を開く。


「黒崎さんから響夜がいるって聞いたから挨拶しに来ただけ」

「……アイツめ。余計なこと言いやがって」


文句を言いつつも帰れとは言わないところをみると、この人が来たことを本気で迷惑だとは思っていないんだろう。
それに東條のことを響夜と名前で呼ぶということは、それなりに親しい間柄なんだろうし。

俺は二人のやり取りをただ黙って見守ることにした。


それにしても。芸能人かと思うほど整った容姿のこの男性。
さすがは東條の友達って感じ。

紅鸞学園は家柄もさることながら見た目をやたらと重視する傾向にある。だからそこそこ見た目の良い人間というものを見慣れた筈なのに、東條といい圭吾さんといい、この人もそうだけど明らかにそれよりワンランク上って感じがすんだよな。
大人だってこともあるんだろうけど。

高校生にしては随分大人っぽいと思ってた生徒会メンバーや颯真も、この人達に比べたらやっぱりまだ学生でしかないんだと実感させられる。

でもきっと将来はこんな感じになるんだろうなぁ、なんて呑気に考えていたのだが。


「急にお邪魔しちゃってごめんね。俺、一応響夜の友人で相楽さがら 遥斗はるとっていいます」

「……中里 光希です」


予期せず話し掛けられたために俺は一瞬対応が遅れ、酷く無愛想なものになってしまった。

しかしこの相楽さんは俺の対応を大して気にした様子もなく、笑顔のままじっと俺を見つめ始めたのだ。


なんだろう? パッと見すごい良い人そうな雰囲気なのに、仄かにヤバそうなオーラを感じる……。
それにこの笑顔の裏で滅茶苦茶値踏みされてるような気さえするんだけど。


「ねぇ、キミ。芸能界とか興味ない? 実は俺、こういう者なんだけど」

「え?」


差し出された名刺を受け取ると、そこには【相楽プロモーション 代表取締役社長 相楽 遥斗】と印刷されていた。


まさかのスカウト……。

予想外の展開に俺は苦笑いしながら名刺を眺めた。
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