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第一章 覚醒編
28.『おにいちゃん』と一緒 1
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ランドルフは脱衣室の床にレイをそっと降ろすと、すぐに自らが着ていたものを脱ぎ始めた。
レイは自分の状況が上手く飲み込めず、まだ座り込んだままでいる。
(さっきのは一体どういう意味だったんだろう……?)
レイはぼんやりと先程ランドルフが囁いた言葉を思い出す。
“レイがどれくらい成長したのかたっぷり確認させてもらおうか。”
その言葉を額面通りに受け取れば、ずっと会えなかった弟の成長具合を確かめたいだけということになるが、その時のランドルフの口振りやレイを見るその目が、何故かそれだけで終わらないような危険な空気を孕んでいるように感じてしまったのだ。
(まったく。リディアーナ様が変なこと言い出すから、腐女子が元気になって困っちゃうな……。兄上に限ってそれはないよ。)
レイは即座に自分の考えを否定すると、気のせいだと思うことにした。
チラリとランドルフのほうを見ると、レイが何かを考えていることなどお構い無しに、さっさと自分の服を脱ぎ始めている。
シャツのボタンを外したところで、鍛えられた大人の男の身体が露になると、レイはそれを直視できずに、思わず下を向いてしまった。
(すごい……。)
レイは前世も含めて生まれて初めて見る大人の男性の全裸に、ドキドキが止まらない。
「どうした?脱がせてもらいたいのか?」
「……自分でできます。」
揶揄うような口振りに流石に恥ずかしくなってしまったレイは、思い切りそっぽを向くと、変に意識してしまった自分を誤魔化すように勢いよく自分の服を脱いでいく。
ランドルフはそんなレイを見てクスリ笑うと、それ以上は何も言わず、先に浴室へと向かっていった。
レイも自分の着ていたものを全て脱ぎ去ると、すぐにランドルフの後に続いたのだった。
レイが中に入ると、ランドルフはシャワーのお湯を出しながら温度を確認しているところだった。
レイが入って来たことに気付くと、手招きをする。
「具合悪かったんだろ?レイは何もしなくていいぞ。」
そう言うなりレイの腕を取ると、自分の前に座らせ、よく泡立てた柔らかい布で丁寧に身体の隅々まで洗い始めた。
身体を洗われるということが子供扱いされているようでなんだか面映ゆい。
レイが若干赤くなりつつランドルフに身を委ねていると。
「『おにいちゃん』に任せておけ。」
不意におかしな日本語が聞こえてきたことにギョッとする。
(あれ?今、『おにいちゃん』って言った?なぜ?)
もちろんレイは今まで一度もランドルフのことを『おにいちゃん』などという呼び方で呼んだ覚えなどないし、レイが日本人の記憶を持っていることを打ち明けた覚えもない。
どう考えてもリディアーナの入れ知恵としか思えないこの呼び方に、レイはリディアーナが本気で兄弟BLを実現させようとしていることを感じ、遠い目になった。
(だから、"前向きに検討します"は断り文句だって!……まさか他人事だと思って面白がってるとか……?)
ありえない話ではない。
レイだって他人事だったらきっと大喜びで禁断の兄弟ラブに協力する。
(自分がするとなると話は別だよ……!)
まさかの余計な気遣いに、今日の疲れが一気に押し寄せてきた気がした。
「兄上、その『おにいちゃん』というのは……?」
恐る恐る尋ねてみると。
「今、巷で流行っている言葉だよ。新密度の高い間柄で使われる特別な言葉なんだ。だからレイにもそう呼んで欲しいと思って。」
「……そうなのですか。」
(もしかして日本人が使う『ダーリン』とか『ハニー』とかっていうのと同じような感じなのかな?)
明らかにリディアーナが流行らせた間違った日本文化の余波だということがわかり、最早言葉も見つからない。
「昔はよく洗いっこしたよな。最後に一緒に入ったのいつだっけ?……えーと、オレが王立学校に入る前だからもう五年も前か。」
後ろにいるランドルフはそんなレイの様子に気付くことなく、懐かしそうに思い出話をしながら上機嫌でレイの身体を洗っている。
レイは兄に余計な事を言ってせっかくの兄弟水入らずの状態に水を差すのも憚られ、されるがままの状態になっていた。
「はい。出来上がり。先にお湯に浸かって。」
ランドルフは満足そうに笑顔を浮かべながらレイの身体を解放し、今度は自分の身体を洗い始める。
レイは言われたとおり先にお湯に浸かりながら、そのランドルフの後ろ姿をボーッと眺めた。
(嫌味なくらいどこもかしこも完璧だな……。)
よく鍛えられた身体は引き締まっていて無駄な肉などどこにもないように見え、あらためて兄のハイスペックさを目の当たりにしたレイは、つい不純なことを考えてしまう。
(僕もこれから成長してああいう風になったら、例え知識はなくても立派な攻めにクラスチェンジできたりして……。)
兄のように顔良し、頭良し、家柄良し、将来有望、高身長の完璧ボディーとくれば、スーパー攻め様の条件を満たしまくっている。
思わずお湯に浸かった自分の身体を眺めてみるが、そもそもの骨格すら違うのか男らしさの欠片も見当たらない完全ショタボディーに思わずため息が出てしまった。
(まあ、わかってたけど……。)
レイとランドルフは、持って生まれた色彩こそクロフォードの人間の証とも云える銀色の髪に赤系統の瞳だが、顔の造りは元々あまり似ていない。
ランドルフは父親似。レイは非常に不本意だが完全に母親似だ。
(どうせ違うなら全部何もかも違ったほうが良かったのにな……。)
いっそ顔だけでなく髪の色も瞳の色もイレーネに似ていたのなら、最初から諦めもついたのかもしれない。
今日のレイは慣れないことをして疲れているせいか、段々とネガティブな思考に囚われていく。
「どうした?」
突然背後から声を掛けられ我に返る。
レイがひとり落ち込んでいる間に、自分の身体を流し終えて湯船に入ってきたランドルフが心配そうな顔でレイをみつめていた。
「……いえ。なんでもありません。」
レイは今自分が考えていたことを悟られたくなくて、無理矢理笑顔を作ってみるが、幼い頃から嘘が下手だと言われてきたレイの言葉はやはりランドルフには通用しなかったらしい。
ランドルフは黙ってレイを引き寄せると、湯船の中でレイの身体を反転させ、背後から抱き締めるような体勢で自分の脚の間に座らせた。
昔レイが落ち込んでいると、よくこうやってランドルフが話を聞いてくれたことを思い出す。
直に触れる素肌の感触と、ランドルフの心臓の鼓動が間近で聞こえてくるのが心地いい。
レイは子供の頃と同じ事をされ、安心している自分がなんだか妙におかしくなってしまい、少しも成長していないような自分に自嘲した。
「……兄上。僕もう子供じゃないんですけど。」
「んー?俺がくっ付きたいだけだから気にすんな。」
レイの気持ちを慮ってくれたのか、惚けたようにそう言うランドルフの心遣いが嬉しかったものの、素直になれないレイはそんなランドルフが少しだけ憎らしいような気持ちになり、わざと自分の体重を全て預けるようにして寄りかかってみた。
すぐ耳許でランドルフがクスリと笑う気配がする。
そこで漸くレイは、意趣返しのようなつもりでとった自分のこの行動が、単に甘えてるだけのように捉えられてしまう可能性に気が付いた。
慌てて身動ぎして、ランドルフから離れようとするものの、レイを抱えているその腕は少しも緩まない。
それどころか、ランドルフと裸で密着している状態だということを意識し出すと、どうにもこうにも落ち着かない気持ちにさせられる。
「兄上。ちょっと腕を緩めてもらっていいですか?」
そうお願いしてみたみのの、ランドルフは全く動く気配がない。
「あまり長湯するとのぼせそうなので、そろそろあがりたいんですが……。」
おずおずとそう口にすると、ランドルフは漸く腕の力を緩めてくれた。
レイは今がチャンスとばかりにランドルフの腕を抜け出すと、逃げるようにして勢いよく湯船から飛び出した。
ところが。
焦り過ぎたせいか、レイは足を滑らせてバランスを崩してしまう。
(あ、転ぶ!)
そう思った瞬間。
ランドルフの腕がレイの身体をなんなく受け止め、事なきを得た。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。」
危うく滑って転ぶところだったせいもあり、レイの心臓はバクバクと早鐘を打ち、身体は今味わったばかりの恐怖のせいか力が上手く入らない。
(危なかった…!兄上が助けてくれなかったらヤバかったな……。)
ランドルフは半ば放心状態のレイを横抱きにすると、大丈夫だというようにギュッと強く抱き締めてくれた。
服の上からではわからなかった男らしい胸板に顔を埋める形となったレイは、この思いがけない素肌の触れあいに、先程とは別の意味でドキドキしてしまう。
(これってまさかの吊り橋効果というものじゃ……。)
危険な状況で恐怖のドキドキを恋と勘違いしてしまうというあれである。
(だって、相手は一応実の兄だよ……!いくら腐女子でもこれはマズいでしょ!!冷静に考えようよ、自分。)
本来のレイと前世の腐女子の意識がせめぎあう。
客観的にランドルフを攻略対象として見た場合、間違いなく優良物件といえるだろう。
引っ掛かるポイントは兄弟という一点だけで、その背徳感を越えられるだけの何かがあれば、一歩踏み出せそうな気がしないでもない。
(……でも、無理。だって兄弟だし。)
せめて義理の兄弟という間柄だったら、と思わずにはいられない。
レイがそんなことを考えているうちに、ランドルフはレイを抱き締めたままもう一度湯船へと入っていく。
そして、再びレイを背後から抱き締めるような体勢にすると、今度はその抱き締めていた手を少しずつレイの身体のあちこちへ移動させ始めたのだ。
驚いたレイは、大袈裟とも思えるほどに身体をビクリと震わせた。
「レイの肌はすべすべしてるな。どこもかしこもツルツルだから触ってて気持ちがいいよ。きっと体毛が薄い体質なんだろうなぁ。
──こっちもまだ生えてないみたいだし。」
ランドルフはレイの性器の近くに手を移動させながら、デリカシーのない発言をする。
レイは自分の身体がまだ子供のものだと指摘されたようで悔しくなり、思わず言い返した。
「なっ。何言ってるんですか?!ちょっとは生えてます。銀髪だから目立たないだけで。」
「うーん。そうかな。お湯の中だからよくわかんないな。」
ランドルフはそう言うなり、レイの股間を肩越しに凝視してきたのだ。
そんなところをじっくり見られたレイは、恥ずかしすぎていたたまれない。
「……あんまり見ないでください。」
後ろを振り向きながら睨み付けると、ちょっと意地悪そうな表情になったランドルフがレイの耳許に唇を近付けて囁いた。
「忘れたのか?たっぷり確認してやるって言っただろ?」
先ほどまでとは違う、低いけれどちょっと甘いような、やけに艶っぽく感じる声に、レイは身体を震わせた。
レイは自分の状況が上手く飲み込めず、まだ座り込んだままでいる。
(さっきのは一体どういう意味だったんだろう……?)
レイはぼんやりと先程ランドルフが囁いた言葉を思い出す。
“レイがどれくらい成長したのかたっぷり確認させてもらおうか。”
その言葉を額面通りに受け取れば、ずっと会えなかった弟の成長具合を確かめたいだけということになるが、その時のランドルフの口振りやレイを見るその目が、何故かそれだけで終わらないような危険な空気を孕んでいるように感じてしまったのだ。
(まったく。リディアーナ様が変なこと言い出すから、腐女子が元気になって困っちゃうな……。兄上に限ってそれはないよ。)
レイは即座に自分の考えを否定すると、気のせいだと思うことにした。
チラリとランドルフのほうを見ると、レイが何かを考えていることなどお構い無しに、さっさと自分の服を脱ぎ始めている。
シャツのボタンを外したところで、鍛えられた大人の男の身体が露になると、レイはそれを直視できずに、思わず下を向いてしまった。
(すごい……。)
レイは前世も含めて生まれて初めて見る大人の男性の全裸に、ドキドキが止まらない。
「どうした?脱がせてもらいたいのか?」
「……自分でできます。」
揶揄うような口振りに流石に恥ずかしくなってしまったレイは、思い切りそっぽを向くと、変に意識してしまった自分を誤魔化すように勢いよく自分の服を脱いでいく。
ランドルフはそんなレイを見てクスリ笑うと、それ以上は何も言わず、先に浴室へと向かっていった。
レイも自分の着ていたものを全て脱ぎ去ると、すぐにランドルフの後に続いたのだった。
レイが中に入ると、ランドルフはシャワーのお湯を出しながら温度を確認しているところだった。
レイが入って来たことに気付くと、手招きをする。
「具合悪かったんだろ?レイは何もしなくていいぞ。」
そう言うなりレイの腕を取ると、自分の前に座らせ、よく泡立てた柔らかい布で丁寧に身体の隅々まで洗い始めた。
身体を洗われるということが子供扱いされているようでなんだか面映ゆい。
レイが若干赤くなりつつランドルフに身を委ねていると。
「『おにいちゃん』に任せておけ。」
不意におかしな日本語が聞こえてきたことにギョッとする。
(あれ?今、『おにいちゃん』って言った?なぜ?)
もちろんレイは今まで一度もランドルフのことを『おにいちゃん』などという呼び方で呼んだ覚えなどないし、レイが日本人の記憶を持っていることを打ち明けた覚えもない。
どう考えてもリディアーナの入れ知恵としか思えないこの呼び方に、レイはリディアーナが本気で兄弟BLを実現させようとしていることを感じ、遠い目になった。
(だから、"前向きに検討します"は断り文句だって!……まさか他人事だと思って面白がってるとか……?)
ありえない話ではない。
レイだって他人事だったらきっと大喜びで禁断の兄弟ラブに協力する。
(自分がするとなると話は別だよ……!)
まさかの余計な気遣いに、今日の疲れが一気に押し寄せてきた気がした。
「兄上、その『おにいちゃん』というのは……?」
恐る恐る尋ねてみると。
「今、巷で流行っている言葉だよ。新密度の高い間柄で使われる特別な言葉なんだ。だからレイにもそう呼んで欲しいと思って。」
「……そうなのですか。」
(もしかして日本人が使う『ダーリン』とか『ハニー』とかっていうのと同じような感じなのかな?)
明らかにリディアーナが流行らせた間違った日本文化の余波だということがわかり、最早言葉も見つからない。
「昔はよく洗いっこしたよな。最後に一緒に入ったのいつだっけ?……えーと、オレが王立学校に入る前だからもう五年も前か。」
後ろにいるランドルフはそんなレイの様子に気付くことなく、懐かしそうに思い出話をしながら上機嫌でレイの身体を洗っている。
レイは兄に余計な事を言ってせっかくの兄弟水入らずの状態に水を差すのも憚られ、されるがままの状態になっていた。
「はい。出来上がり。先にお湯に浸かって。」
ランドルフは満足そうに笑顔を浮かべながらレイの身体を解放し、今度は自分の身体を洗い始める。
レイは言われたとおり先にお湯に浸かりながら、そのランドルフの後ろ姿をボーッと眺めた。
(嫌味なくらいどこもかしこも完璧だな……。)
よく鍛えられた身体は引き締まっていて無駄な肉などどこにもないように見え、あらためて兄のハイスペックさを目の当たりにしたレイは、つい不純なことを考えてしまう。
(僕もこれから成長してああいう風になったら、例え知識はなくても立派な攻めにクラスチェンジできたりして……。)
兄のように顔良し、頭良し、家柄良し、将来有望、高身長の完璧ボディーとくれば、スーパー攻め様の条件を満たしまくっている。
思わずお湯に浸かった自分の身体を眺めてみるが、そもそもの骨格すら違うのか男らしさの欠片も見当たらない完全ショタボディーに思わずため息が出てしまった。
(まあ、わかってたけど……。)
レイとランドルフは、持って生まれた色彩こそクロフォードの人間の証とも云える銀色の髪に赤系統の瞳だが、顔の造りは元々あまり似ていない。
ランドルフは父親似。レイは非常に不本意だが完全に母親似だ。
(どうせ違うなら全部何もかも違ったほうが良かったのにな……。)
いっそ顔だけでなく髪の色も瞳の色もイレーネに似ていたのなら、最初から諦めもついたのかもしれない。
今日のレイは慣れないことをして疲れているせいか、段々とネガティブな思考に囚われていく。
「どうした?」
突然背後から声を掛けられ我に返る。
レイがひとり落ち込んでいる間に、自分の身体を流し終えて湯船に入ってきたランドルフが心配そうな顔でレイをみつめていた。
「……いえ。なんでもありません。」
レイは今自分が考えていたことを悟られたくなくて、無理矢理笑顔を作ってみるが、幼い頃から嘘が下手だと言われてきたレイの言葉はやはりランドルフには通用しなかったらしい。
ランドルフは黙ってレイを引き寄せると、湯船の中でレイの身体を反転させ、背後から抱き締めるような体勢で自分の脚の間に座らせた。
昔レイが落ち込んでいると、よくこうやってランドルフが話を聞いてくれたことを思い出す。
直に触れる素肌の感触と、ランドルフの心臓の鼓動が間近で聞こえてくるのが心地いい。
レイは子供の頃と同じ事をされ、安心している自分がなんだか妙におかしくなってしまい、少しも成長していないような自分に自嘲した。
「……兄上。僕もう子供じゃないんですけど。」
「んー?俺がくっ付きたいだけだから気にすんな。」
レイの気持ちを慮ってくれたのか、惚けたようにそう言うランドルフの心遣いが嬉しかったものの、素直になれないレイはそんなランドルフが少しだけ憎らしいような気持ちになり、わざと自分の体重を全て預けるようにして寄りかかってみた。
すぐ耳許でランドルフがクスリと笑う気配がする。
そこで漸くレイは、意趣返しのようなつもりでとった自分のこの行動が、単に甘えてるだけのように捉えられてしまう可能性に気が付いた。
慌てて身動ぎして、ランドルフから離れようとするものの、レイを抱えているその腕は少しも緩まない。
それどころか、ランドルフと裸で密着している状態だということを意識し出すと、どうにもこうにも落ち着かない気持ちにさせられる。
「兄上。ちょっと腕を緩めてもらっていいですか?」
そうお願いしてみたみのの、ランドルフは全く動く気配がない。
「あまり長湯するとのぼせそうなので、そろそろあがりたいんですが……。」
おずおずとそう口にすると、ランドルフは漸く腕の力を緩めてくれた。
レイは今がチャンスとばかりにランドルフの腕を抜け出すと、逃げるようにして勢いよく湯船から飛び出した。
ところが。
焦り過ぎたせいか、レイは足を滑らせてバランスを崩してしまう。
(あ、転ぶ!)
そう思った瞬間。
ランドルフの腕がレイの身体をなんなく受け止め、事なきを得た。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です。」
危うく滑って転ぶところだったせいもあり、レイの心臓はバクバクと早鐘を打ち、身体は今味わったばかりの恐怖のせいか力が上手く入らない。
(危なかった…!兄上が助けてくれなかったらヤバかったな……。)
ランドルフは半ば放心状態のレイを横抱きにすると、大丈夫だというようにギュッと強く抱き締めてくれた。
服の上からではわからなかった男らしい胸板に顔を埋める形となったレイは、この思いがけない素肌の触れあいに、先程とは別の意味でドキドキしてしまう。
(これってまさかの吊り橋効果というものじゃ……。)
危険な状況で恐怖のドキドキを恋と勘違いしてしまうというあれである。
(だって、相手は一応実の兄だよ……!いくら腐女子でもこれはマズいでしょ!!冷静に考えようよ、自分。)
本来のレイと前世の腐女子の意識がせめぎあう。
客観的にランドルフを攻略対象として見た場合、間違いなく優良物件といえるだろう。
引っ掛かるポイントは兄弟という一点だけで、その背徳感を越えられるだけの何かがあれば、一歩踏み出せそうな気がしないでもない。
(……でも、無理。だって兄弟だし。)
せめて義理の兄弟という間柄だったら、と思わずにはいられない。
レイがそんなことを考えているうちに、ランドルフはレイを抱き締めたままもう一度湯船へと入っていく。
そして、再びレイを背後から抱き締めるような体勢にすると、今度はその抱き締めていた手を少しずつレイの身体のあちこちへ移動させ始めたのだ。
驚いたレイは、大袈裟とも思えるほどに身体をビクリと震わせた。
「レイの肌はすべすべしてるな。どこもかしこもツルツルだから触ってて気持ちがいいよ。きっと体毛が薄い体質なんだろうなぁ。
──こっちもまだ生えてないみたいだし。」
ランドルフはレイの性器の近くに手を移動させながら、デリカシーのない発言をする。
レイは自分の身体がまだ子供のものだと指摘されたようで悔しくなり、思わず言い返した。
「なっ。何言ってるんですか?!ちょっとは生えてます。銀髪だから目立たないだけで。」
「うーん。そうかな。お湯の中だからよくわかんないな。」
ランドルフはそう言うなり、レイの股間を肩越しに凝視してきたのだ。
そんなところをじっくり見られたレイは、恥ずかしすぎていたたまれない。
「……あんまり見ないでください。」
後ろを振り向きながら睨み付けると、ちょっと意地悪そうな表情になったランドルフがレイの耳許に唇を近付けて囁いた。
「忘れたのか?たっぷり確認してやるって言っただろ?」
先ほどまでとは違う、低いけれどちょっと甘いような、やけに艶っぽく感じる声に、レイは身体を震わせた。
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