天才魔術師(男)としてデビューする予定です。

みなみ ゆうき

文字の大きさ
52 / 71

52.理想の裏側

しおりを挟む
    さりげなく私の手を握り、理想の王子様モードの笑みを浮かべ、何かを期待するように熱い視線を送ってくる王弟殿下に危機感を感じた私は、重ねられたその手を振り払うと、脱兎のごとく逃げ出した。

 これ以上の接触は絶対マズい。

 万が一、私が魔法を使って変装していることがバレるのも充分マズいが、今の王弟殿下の態度が普段の私に対するものとあまりに違い過ぎて、イチイチおかしな反応しちゃいそうで本当にマズい。
 今も物凄く挙動不審だと思うけど、これから先まだまだ王弟殿下と行動を共にするというのに、思い出す度、不審な態度とっちゃいそう……。

 正直、こんな王弟殿下の姿を知ってしまうのって、秘密を覗き見してるようで恥ずかしい。


 口を開けば罵詈雑言。態度は悪いし、酒癖も女癖も悪いというのが標準装備の王弟殿下が、美人でナイスバディな女の人相手だとこうも態度が変わるなんて、詐欺だよね……。


 確かにロザリーとして出会った時の王弟殿下も優しそうな好青年風ではあったが、あそこまで甘い雰囲気を醸し出してはいなかった。

 王太子殿下もそうだったけど、理想の王子様といわれてる人達の裏側を知れば知るほど、現実の残念さが浮き彫りになっていく。
 それを知る度、もし今後素敵な人に出会って優しくされても、本当は何か問題がある人なのではないかと穿った見方をしてしまいそうだ。


 そこまで考えてふと王太子殿下の言葉が脳裏を過る。

『キミにはもう一生嫁に行く予定はないんだから、そんな心配しなくても大丈夫だよ』

 同時にあの時のキラッキラに輝く王子様スマイルを思い出し、自然と乾いた笑いが出た。


「……宿に戻ろっかな」


 虚しい気分になった私は、適当な裏路地に入ると、すぐに『姿変えの魔法』を解除して本来の姿に戻った後、クルトさんの待つ宿へと戻ったのだった。






「おかえりなさい。随分と遅かったので道に迷ったか、具合が悪くなったのではないかと心配してました」

「申し訳ありません。ちょっと色々ありまして……」


 クルトさんに王弟殿下との思いがけない遭遇を話すべきか迷っていると。


「おい、小僧。邪魔すんぞ。こっちにクルト来てるだろ」


 予告も無しに当の本人が現れギクリとしてしまう。

 思わず逃げ腰になる私に、クルトさんは何か察するものがあったのかポンポンと軽く頭を撫でると、優しく微笑みかけてくれた。やっぱりクルトさんは優しい。


「ノックくらいしてはいかがですか?病人がいるのですよ」

「あ?病人なんて言ってる割には元気そうじゃねぇか」


 クルトさんの言葉を無視して王弟殿下はツカツカと私に歩み寄ると、ごく至近距離で私の顔を除き込んできた。


 ギャーッ!!


 私はそう叫んで逃げ出しそうになるのを必死に堪える。
 今更ときめくなどということはないものの、さっきの今でこの状態は後ろめた過ぎて心臓に悪い。
 私は一瞬にして青くなりながら、ぎこちなく目を伏せた。


「お前ホントに顔色悪ぃな。すぐ出てくから寝てろよ。起きてるから元気になったのかと思うじゃねぇか」

「……はい。お気遣いありがとうございます」

「アーサー、無理はしないほうがいいですよ」


 クルトさんは明らかに様子のおかしい私をさりげなくベッドのほうへ行くよう促してくれる。

 私は大人しくベッドに横たわり上掛けにくるまると、二人の話に耳を傾けた。

 私に聞かれたくない話なら部屋を出て話すだろうから、問題ないよね?


「それで?アルフレッド様は私にどのような御用でしょう?」

「あ、そうだ。クルト。聞いてくれ。俺はついに出会ってしまったかもしれない」

「どういうことでしょう。ちゃんと説明していただけますか?」


 突然始まった王弟殿下の脈絡もない話に、クルトさんが困惑している様子がその声の感じで伝わってくる。
 私は出会いと聞いて、さっきの出来事なのではないかと思い、変に緊張してしまった。


「俺の呪いが効かない女が現れた」

「……それはまた」


 王弟殿下の説明聞いてすぐに何の話か合点がいったらしいクルトさんは、感心したような相槌を打った後、何か言いたそうな顔で私のほうをチラリと見る。


 あ、聞き耳たててたのバレてました?

 それとも、その女性が私かもしれないって疑ってます?

 でも呪いって……?


 王弟殿下もクルトさんにつられるように私を見ると、途端にニヤリと口の端を上げた。


「なんだ?盗み聞きか?お前も女に興味が出てくる年頃だもんなぁ」


 私は身体を起こすと、即座に否定する。

 その女性というのが私のことなのかどうかは凄く気になるが、王弟殿下の女性関係に興味はない。


「……いえ。そういうことが気になったのではなく」

「お?もしかしてどんな呪いか聞きたいのか?」


 呪われてる身としては是非ともその内容を教えてもらいたい。

 私は期待を込めて頷いた。


「俺に掛けられた呪いはな、『どんな女でもひと目で虜にする呪い』だ」


 その内容を聞いた途端、私はカイル様の契約の対価を聞いた時以上のガッカリ気分を味わった。


 それって呪いっていうより、単なるモテ自慢ですけど。
 真面目に聞いた私がバカでした。


「俺が口説けばどんな女もイチコロだぜ」

「……おモテになるようで何よりです」


 最早なんとコメントしたらいいのかわからず、ジト目になりながら適当な相槌を打つ。

 すると、クルトさんは呆れたようなため息を吐きながら王弟殿下に視線を向けた。


「アルフレッド様。これ以上は子供に聞かせる話ではありません。続きはお部屋で伺いましょう」

「……そうだな。悪い」

「アーサー。顔色がよくありません。我々はこれでお暇致しますのでゆっくり休んで下さい」


 クルトさんは笑顔でそう言い残すと、ばつの悪そうな表情の王弟殿下を連れて部屋を出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...