異世界転移した現役No.1ホストは人生設計を変えたくない。

みなみ ゆうき

文字の大きさ
56 / 73
本編

55.密談

しおりを挟む
宰相様に姫抱っこされたまま連れていかれたのは、王宮内にある客室フロア。
しかも最終目的地はその中でも外国からの貴賓客が滞在する時にも使われるVIPルームだった。

ターコイズブルーに凝った金色の模様が描かれた壁紙。ネイビーのカーペット。キングサイズのベッドは天蓋つきで淡いブルーのシフォンのような布で覆われており、ベッドに使われている寝具は深海を思わせるような濃いブルーだ。

青って確か鎮静効果がある色なんだっけ?

部屋全体が落ち着く色合いの筈なのに全然落ち着けないのは、一緒にいる相手がこの人だからなのか。はたまた別の理由か。
宰相様の表情はさっきとは打って変わって険しいものになっており、さっき見せた表情は幻だったんじゃないかと思えてしまう。……いつもどおりに戻っただけともいうけどさ。


「まさかこの私が間男のような真似をする日がこようとは」


明らかに不服そうな口調とは裏腹に、丁寧な仕草でベッドルームにあるキングサイズのベッドへと下ろしてくれた宰相様は、酷く疲れた様子で自身も俺が横たわるベッドの端に腰かけた。

諸々忙しい最中なのに仕事増やしてゴメン。
でも、俺が頼んだの宰相様じゃねぇし。

とは思ったもののそんな事を言おうものならこっちに何かが飛び火してくることは目に見えているので、腹の中だけに留めて黙っておくことにした。


さて、こんな場所に連れ込んで一体何を企んでいらっしゃることやら。

一応身構えてはみるものの、情けないことに魔力不足による弊害で色々と鈍くなっている状態では、この宰相様相手に下手に言質をとられないようにするだけで精一杯かもしれない。


「そんなに警戒しないでいただけますか。少し・・お聞きしたいことがあっただけなので」


そういえばたっぷり・・・・話を聞くとか言ってたっけ。
あれ、てっきり山ほど文句を言われたりってことだと思ってたけど、この宰相様の様子を見る限りどうもそういう方向ではなさそうだ。

でも正直言って今の状態じゃ俺、その話を聞いてる間に寝ちゃいそうなんだけど……。

今の俺はなんの心配もなくこの素晴らしいベッドを堪能していいのならすぐに意識を手放せる自信がある。
安静にしていたほうが魔力の自然回復が早まるから、身体がひたすら睡眠を求めてるんだよな。


「……手短にお願いします。見てのとおり俺今限界なんで」

「辛そうですね。セドリック様は魔力の譲渡をしてはくださらなかったんですか?」

「色々あってそこまでに至らなかったんですよ」

「もしかして秘めた想いを告げられでもしましたか?」


何があったのかあっさり言い当てられ、俺はどう返事をしていいものかちょっと迷った。

告白されたことは確かだが、記憶操作の魔法が成功していたらそもそもの想い自体が無かったことになってる筈なので下手なことを言わないほうがいい。

すると宰相様は俺の沈黙をどう捉えたのか。


「コウキさんは普段合理的な考えをするくせに、案外情に厚いところがありますからね。自分に真摯に想いを寄せているとわかった相手を素知らぬ顔で利用することは出来なかった、といったところでしょうか」


訳知り顔でそう言い出した。

ほとんど当たっているものの、指摘されると面白くない。

俺は宰相様の言葉に反応することすら面倒になり、静かにため息を吐いて目を閉じた。

俺限界だって言ったし、寝落ちしたってことにしちゃおうかな……。


ところが。
宰相様は俺のそんな行動を許してくれる筈もなく、ベッドが揺れたと思ったら、不意に唇を塞がれた。

顎を掴まれ半強制的に口を開けさせられ、遠慮なく滑り込んできた舌によって俺の舌が捕らえられる。
口腔内をまさぐられ、クチュリという音が室内に響き渡り、唾液と共に魔力が流れ込んできたと思ったら、強制的に魔力の補給をされてしまった。


「寝てもらっては困ります」


仕方なしに目を開けると、苛立たし気な榛色の瞳が至近距離で俺を見据えていた。

俺らって一応ベッドでキスして見つめ合ってるっていう状態だよな?

傍から見れば立派に恋人同士の睦み合い。
さっきのセドリックと同じような状況のはずなのにこちらは甘さなど微塵もない。


「フッ……」

「何が可笑しいのですか?」

「いや。なんとなく?」


もう男とセックスする必要性が無くなったのに一日に何度も男とベッドでキスしてるっていう状況と、俺に対するスタンスが全くブレない宰相様に、俺はなんだか可笑しくなってしまい、つい笑いが溢れてしまった。


「多少は回復されたのなら本題に入ってもよろしいでしょうか」

「それってさっきの茶番に関係ある話ってことですか?」

「わかっていらっしゃるのなら話が早い。腹芸には多少自信があったのですが、さすがに偽りの愛を売るプロだったあなたには通用しませんでしたね」


褒めてんのか嫌味を言われてんのか微妙なラインだが、これは多分後者だな。
それはわかっても茶番の意味までは察することが出来なかった俺は、わかった風な顔をして俺に覆い被さったままの宰相様の顔を見上げた。


「あなたは運命というものをどう思われますか?」


運命、ね……。

それってシチュエーションによっては物凄いドラマチックな言葉だし、不遇な境遇に陥った時もその言葉を当てはめることによってある程度気持ちに折り合いをつけることが出来る場合があるってのもわかってるけど、神様の作為によってこの世界の勇者にさせられた俺としては、運命というのは『押し付けられた厄介な役割』を肯定する為の便利な言葉だとしか思えない。

そもそも俺は運命なんてもんを信じちゃいないし。


「宰相様は信じてるんですか?運命ってやつを」


馬鹿にしたつもりはないが、俺と同様そんなものを信じていなそうな宰相様がそんな話をしてきたってことは、そういうのに絡んだ話ってことだろう。


「信じているというよりは、信じざるを得ない状況になっていることを認めたといったところでしょうか。出来ることならそんなものに引き摺られたくはないのですがね……」


一体誰のどういう行動を見てそう思ったんだか……。


「回りくどい言い回しは時間の無駄でしかないでしょう? ここでの話はあくまでもベッドでのリップサービスってことでお互い腹割って話しません?」


俺の提案に宰相様は少しだけ逡巡するような素振りを見せると。


「そうですね。ベッドの中では多少口が軽くなる傾向にあるらしいですから、こればかりは仕方がないですね。所詮は寝物語ですし」


暗にここだけの話だということを仄めかしながら、もう一度俺に深く口付けた。

確かにベッドの中だったら密談にはうってつけかもしれない。
ただ話をするだけよりは魔力の譲渡をしながらのほうが無駄がないからありがたいけど。……後が怖いなぁ。

とは思いつつも貰えるモンは貰っとこうと俺もちゃっかり舌を絡めて積極的に唇を合わせていく。

やっぱり宰相様とのキスはスゲーな。あっという間に身体のダルさが無くなった。


「単刀直入に言います。セドリック様にはもう近付かないでいただけますか?」


もちろん既にそういうつもりで行動していた俺に否やはない。
でもあっさり了承すると怪しまれるので、返事は一応理由を聞いてからにしよう。


「何故、とお聞きしても?」

「……セドリック様にはミューア侯爵家のクラウディア様という国が定めた正式な婚約者がおられます。本来なら結婚式は来年の予定だったのですが、王はセドリック様に北の砦への遠征をお命じになった際、万が一に備えて遠征前にクラウディア様と婚姻関係を持たれるよう示唆されました」


そういえばセドリックはアシュリーの妹と婚約してるんだっけ。
死の危険が伴う任務だからせめてセドリックの血を引く子供だけでも残しておきたいってことなんだろうけど。
でもさ、国王様にはもう五人も王子がいるんだから王家の血筋が途絶える心配をする必要はないよな?

なんか引っかかる。


先代の王の子供は現国王様とセドリックの二人だけ。
セドリックは臣下に下っているが、国王様には五人の子供がいて既に第一王子が立太子している。

一見安泰に見えるんだけど。

でもアイザックからの情報によると、其々に後ろ楯となる有力貴族がついており、既に水面下で次代の王位争いが繰り広げられているのではないかという話だった。

俺はそれを聞いた時、ただでさえ女性が生まれにくくなって人口が減少してる現状で更に魔物が強くなり魔王まで復活しようとしてる今、そんな事してる場合じゃないだろうに、自分の事しか考えない人間っていうのはホント空気読まないよな、としか思わなかったし、実際王太子殿下と接してみてこの国大丈夫かな、って思わなくもなかったけど……。

──もしかして。


宰相様が云わんとしていることに気付き、俺は正直反応に困った。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...