想いの先にあるものは

みなみ ゆうき

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「悪いッ。待たせたか?」


待ち合わせの相手。深見たすくは俺の目の前で立ち止まると、少しだけ息を弾ませながら屈託のない笑みを見せた。


(あれ? コイツってこんな無邪気な表情するようなヤツじゃなかったよな?)


俺の記憶にあるものとは違ったその表情に、あらためて流れた月日の長さを感じずにはいられない。


以前の深見はいつでも余裕そうな態度を崩すことなく、同年代と比べても随分大人びていて落ち着いていた。
それは俺と二人でいる時もあまり変わらなかった気がする。

少なくとも待ち合わせ時間前だというのに、俺の姿が先にあったからといって、主人を見つけた大型犬のように走り寄ってきてくれるようなキャラではなかったはずだ。


「もしかして結構待った?」


心配そうに俺の顔を覗き込んでくる深見。
その表情さえも以前とは少し違って見える。


金曜日に再会した時は動揺しすぎていて気付かなかったが、数年会わない間に、深見は俺の知らない人になってしまったような印象を受ける。

俺はというと。一体どういうスタンスで深見に接すればいいのかわからず、一瞬反応が遅れてしまった。

それでも胸の内で感じているものを表には出さないよう、平常心を心掛けながら口を開く。


「……いや。俺が早く着いただけだから。まだ待ち合わせ時間前だし。わざわざ走ってくることなかったのに」


最後の一言は完全に余計だったな、とは思ったものの出してしまった言葉は元には戻らない。

しかし深見は俺の言葉などたいして気にする様子もなく、またしても俺の知らない表情を見せながらとんでもない事を言い出した。


「どういう理由だったとしても、せっかく樹が俺と会ってくれる気になったんだ。少しでも長く一緒にいたいから」


蕩けるような甘い視線と、緩やかに弧を描く口元。

それはまるで愛しい恋人に向けるような表情にも見え、俺はその視線を真っ向から受け止める気にはなれず、不自然にならないよう注意しながらさりげなく視線を外した。


(なんで俺、コイツと直接会って話をしようと思ったんだろう……?)


後悔したところで後の祭り。

寝不足のせいでテンパり過ぎてて、冷静な判断が下せなかった朝の自分を恨みたくなる。

ただ一刻も早くケリをつけるということだけに重点を置いてしまい、直接話したほうが早いと思ったのがそもそも間違いだったということに何で気付けなかったのか。


お昼休みに今日深見と会うことになったと関口に報告した時、微妙な顔をしていたのは俺のこの判断に何か思うところがあったからだろう。


(……だったら口に出して言ってくれればよかったのに)


それでも他人に聞かれたくない話をするのにうってつけの店を教えてくれて、予約までしてくれたのは、きっちりと過去に決着をつけてこいという関口なりの激励だと思いたい。


「じゃあ、行くか」


深見に促され肩を並べて歩き出す。

まだ友達でいられた時と何も変わらない距離感で極自然に。それこそかつて二人で並んで歩く時の定位置だった俺の左側に当然のように位置どった深見に、懐かしい日々が思い出され、少しだけ胸が痛んだ。


複雑な心境で俺より頭半分以上背の高い深見の顔をチラリと盗み見る。

出会った当初から既にイケメンだった深見の顔は、相変わらず整っていることに変わりはないものの、少しだけ精悍さが増した気がした。


その横顔を見ていると、深見に恋した過去の自分が感じた痛みが、まだ完全に消え去っていないことを嫌でも実感させられる。


俺は内心ため息を吐きながら、予約してある店までの道のりをただひたすら無言で歩き続けた。
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