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1.蘇った曖昧な記憶
しおりを挟む「父が亡くなった今、このバンフィールド辺境伯領においての全ての裁量権は、国王陛下より正式な後継と認められた俺にある。だからあなたも一応まだバンフィールドの人間である以上、当主になる俺の決定に従ってもらうことになる。それを踏まえた上で聞くように。
──俺はあなたがここに留まることを許可しない」
突然告げられた非情な宣告。
私はその言葉を放った人物の顔を、ただ呆然と見上げることしか出来ずにいた。
私の名前はメリンダ・バンフィールド。
今年二十歳になる元子爵令嬢で、今はバンフィールド辺境伯夫人と呼ばれている。
私が今いる場所は、私の嫁ぎ先であるバンフィールド辺境伯邸の敷地内に建てられている教会の入口。
今日はここで私の夫であるヘンリー・バンフィールド辺境伯の葬儀が行われる予定になっている。
一ヶ月ほど前に結婚したばかりの夫が三日前に突然亡くなるという信じられない出来事がおこり、私はこの三日間ひたすら悲しみにくれていた。
僅か一ヶ月足らずで終わった私の結婚生活。それでも夫と過ごした日々は、私のろくでもない人生の中で一番幸せな時間だった。
夫婦というよりも家族という言葉のほうがしっくりくるような私達。
いつか別れの時が訪れるとしても、それはまだ先の話だと思っていたのに。
眠れない夜を過ごした私は、夫の葬儀が行われる日の朝早く、夫と二人きりで最期の時間を過ごそうと、教会へとむかっていた。
そして教会に入ろうとしたちょうどその時。中から出てきた人物に私の行く手を阻まれ、何の前触れもなくさっきのあの非情な言葉をぶつけられたのだ。
全く予想もしていなかった出来事に、私は目の前にいる人物が何を言っているのか咄嗟に理解できず、頭二つ分は上にある相手の顔をただ呆然と見上げることしか出来ずにいた。
しかし、相手の顔をじっくり見たことである事に気付く。
あれ? この顔絶対どっかで見たよね……?
それがいつのことなのか思い出せず、モヤモヤしていると。
目の前の人物は黙ったまま微動だにしない私に冷たい視線を向けた後、大きなため息を吐いた。
この人の名前はアーネスト・バンフィールド。
私の夫であるヘンリーと彼の最初の奥様との間に生まれた息子で、歳は確か十九歳。
夫とは折り合いが悪かったらしく、十五歳で王都にある王立学園に入学してからずっと、卒業した今でも王都に留まり、夫がこんな事になるまで一度も領地に戻ってくることはなかった。
見た目は繊細そうなイケメン。どちらかというと威厳があるというか、厳つい顔だちだった夫には驚くほど似ていない。でも、薄い茶色の髪とアイスブルーの瞳という組み合わせが、夫との血の繋がりを感じさせた。
何と答えたらいいのかわからず、見つめ合ったまま気まずい沈黙が続く。
すると、私がいっこうに何の反応も見せないことに苛立ったのか、アーネストの表情が不快そうに歪んだ。
その顔を見た途端。
私の記憶の回路が急激な速度で突如繋がった気がした。
──このイケメン、もしかしてアイツじゃね?
既視感の正体に気付いた私の脳内に、よく知る声が響き渡る。
──うん。間違いない。アイツだよ。ほら、あのゲームの。なんだっけ? 攻略対象全員トラウマ持ちっていう暗いゲーム。そこに出てきた先生じゃん!
あり得ないことにかつての自分らしき声にそう告げられ、私は驚きのあまり危うく叫び出しそうになってしまった。
アーネストはそんな挙動不審な私に侮蔑の視線を向けると。
「すぐに出ていけとは言わない。一ヶ月時間をやろう。それまでに身の振り方を考えておくんだな」
恩着せがましいにも程がある言葉を吐き捨て、この場を立ち去った。
一方私は。
今自分のおかれている状況を察したものの。
二度目の人生が、よりにもよってこの世界だったことにひどくガッカリしたせいか寝不足の身体に力が入らなくなり、その場にへたりこんだ。
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