うろ覚え乙女ゲームの世界に転生しました!モブですらないと思ってたのに……。

みなみ ゆうき

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10.黒かグレーか

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後で私の世話をしてくれる人が来るって聞いたのに、待てど暮らせど誰も来ない。
歓迎されてないのは、さっきの人の態度で察しがついたけど、仕事なんだから最低限のことだけでもちゃんとやって欲しいと望むのは贅沢なものなのか……。

バンフィールド辺境伯家の使用人達も同じような態度だったけど、それでもジョエルさんがいたからまだ何とかなっていた。
でもここには私に情報を与えてくれる人もいなければ、私の実情を知っている人もいない。待ってるだけじゃなく、自分からどうにかしなければ、それこそ食事ですら出てこない可能性が出てきた。

それにさっきバスルームを見たけど、ここのお風呂ってどこかで沸かしたお湯を運んでくるシステムらしく、水道なんてものは見当たらなかった。

この世界。
日本人が作ったゲームの世界の影響なのか、よくよく思い返してみれば中途半端に文明が発達してる。
だからトイレは水洗だし、お風呂もシャワーも普通に使えてお湯も出る。
でもそれを温めるための燃料とか暖房とか料理に使うのは薪っていう。
水道にしても蛇口を捻れば水出るけど、その仕組みが前世と同じなのかどうかわからない。なんせ私自身がどっちの仕組みもよくわかってないからね……。

話を戻すと。
案内された豪華な造りの部屋はリビングスペースの奥にベッドルームがあり、ウォークインクローゼット、パウダールーム、バスルームなどもあるため、一歩も外に出なくとも生活出来る。

でもさ。百歩譲ってお風呂は我慢出来ても、飲まず食わずでは生きていけんのよ!

幼い頃に全てを失い、働くことになってから満足に食事もとれないなんてことも珍しくはなかったが、日本人としての記憶が戻った今となっては、それが当たり前だともしょうがないとも思えない。


用があったら呼び鈴で。

そう言われていたことを思い出した私は、思い切ってテーブルの上に置かれていた呼び鈴を鳴らした。

待つ事数分。

もうだいぶ夜も更けた後だったせいか、控え目なノックの音がした。
返事をすると、やや躊躇いがちに扉が開けられる。

現れたのは、どこかオドオドした様子のまだ十代前半って感じの女の子。
さっき案内してくれた侍女らしき人とは着てるお仕着せの種類が違うから、こちらはメイドさんなのだろうと推察する。

何故か消え入りそうな声で「お呼びでしょうか……」と言った後、俯いたまま一向に視線を合わせようとしない。

え? なんでまだ何にもしないうちからこんなに怯えられてるの?

内心首を傾げながらも、こちらも切羽詰ってる用件を話すと。

「申し訳ございませんッ!」

物凄い勢いで謝られた。

え? ホントに何で?

「……夫人からお呼び出しを受けるまで部屋に入ることも、こちらから声をお掛けすることすらもしてはいけないと言われておりましたので……」

じゃあ、私が呼ばなかったら永遠に誰も来なかったと……。

「私には後から私のお世話をしてくれる方がいらっしゃるということと、その方から詳しい説明があるということしか聞かされていなかったのだけど」

単なる連絡ミスなのか、呼ばなかった私が悪いのか。

「本当に申し訳ございません! 夫人はご自分のペースで生活をされる事を好まれる方なので、余程の事がない限りこちらからは声を掛けたり、何かを尋ねたりしてはいけないと、王太子様付きの侍女より厳命されておりました」


あ~、なるほどね~。そういう事。

こっちを気遣ったようでいて、実は完全に貶めてるっていうやり口。しかも呼ばれても行くなとか言ってないあたりが、ずる賢さを感じる。

睨まれた事といい、この件といい、あの出来る系ベテラン侍女さん、私の事嫌いだよね?

完全に黒だと思うんだけど……。

まあ、証拠がないから黒よりのグレーって感じ?

何が気に入らないのか知らないけど、初っぱなからこんな地味な嫌がらせするなんて……。




──このまま嫌がらせで王太子様のところにずっと呼ばれないとかっていう、ありがたい展開にならないかな。
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