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10.精霊さんの望み
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「精霊さんがなんでここに……って、さ、寒い! 精霊さん、とりあえず中に入らない?」
扉の向こうは相変わらずの大寒波で、扉から入ってくる身を切るような冷たい風に私はぶるりと体を揺らす。一瞬にして全身に鳥肌が立った。精霊さんは寒さや風の影響を感じないのか、特に寒そうな様子はないが、私が中へ促してみると、コクコクと首を縦に振って、敷居を跨いだ。
会いたいと思っていた精霊さんが、まさか向こうからやってきてくれるとは思わなかった。最初に会ったあの時以来だ。
「えっと……、精霊さんって何か食べたり飲んだりってするの?」
問いかけると、精霊さんは再び首を縦に振る。どうやら飲食OKらしい。
それなら、と精霊さんをリビングに通し、紅茶を淹れる。お茶請けは、昨日暇を持て余したあまり唐突に作り始めたクッキーでいいだろうか。このクッキー、私が昔からよく作る定番おかしの一つで、あの料理好きな祖母からも大絶賛されたことがある得意料理の一つだ。味はお墨付きである。
紅茶とクッキーを持ってリビングに戻ると、家の中をふよふよと飛んで観察していたらしい精霊さんがこちらを振り返った。
私はソファに座り、精霊さんは……ちょっとお行儀悪いけどテーブルの上に座ってもらおう。ソファに座ったままだと飲み食い出来ないだろうからね、サイズ的に。
精霊さんは私の掌サイズなので、普通のティーカップでは飲みにくいだろうと、昔ケーキ屋さんで買ったプリンが入っていた小さな陶器製のカップを用意した。それでも精霊さんには少しサイズが大きめだったが、特に問題なくカップから紅茶を飲んだ精霊さんは、満足そうに一つ吐息を零した。よかった、味も問題なかったみたい。
ちらちら、と伺うようにこちらを見る精霊さんに、どうぞ、と言いながらテーブルのクッキーを差し出す。にっこりと笑顔を零した精霊さんは、喜んでクッキーを食べ始める。クッキー一枚が両手サイズになってしまうが、精霊さんは器用に両手でクッキーを持ち、小さな口でサクサクと食べている。可愛い。口が小さいので減っていく量は少ないものの、結構早いペースで食べ進めている辺り、どうやらこちらもお気に召したようだ。
やがてクッキーを一枚ペロリと食べ切った精霊さんは、満足そうに紅茶を飲み、ふぅ……と言わんばかりに体の力を抜いた。ご満足いただけたようで何より。
「それで、精霊さんは急にどうしてここへ? 私も精霊さんには聞きたいことがあったからちょうどよかったんだけど……」
私の問いに、はッ!と表情が変わる。どうやら紅茶とクッキーに気を取られて要件を忘れていたらしい。……この表情、なんかデジャブだなぁ。
最初に精霊さんに会った時のことを思い出していると、リリンと言う鈴の音が返ってくる。……あ、そうだ、精霊さんの言葉わからないんだったわ。
「あー、えっと……ここに来たのは私に何か用事があったの?」
コクリと肯定の頷きが返ってきた。
どうやら私に用事があるみたいだけど……、残念ながら言葉での意思疎通が出来ないため、詳細が分からない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、徐に精霊さんはテーブルから飛び立った。
私の目線上まで飛び上がった精霊さんは、その状態のまま両腕を横に伸ばして上下に揺らす。パタパタと腕を動かし、小さな口を目いっぱい開いて「リリリリン!」といつもより大きな鈴の音を響かせた。
「え? な、なに??」
一瞬何か怒らせてしまったのかと思ったが、精霊さんは同じ仕草を繰り返して見せる。
そして次に、テーブルの上に立ち、背中から何かを抜きさった仕草をしたかと思うと、そのまま両手をぶんと縦に振る。
その二つのしぐさを見て、私はピンと来た。
「もしかして、ヴァイスハイトとマティアスさんのこと表してる?」
最初にやったのはドラゴンであるヴァイスハイトの真似。そして次が、大剣を背負った騎士であるマティアスさんの真似。
聞いてみると、精霊さんは嬉しそうに何度も首を縦に振る。正解のようだ。
「二人のことで何か話したいことがあるってこと? ……え、ま、まさか≪地上≫に帰れなくて、今も≪精霊の落とし穴≫にいる、なんてことないよね⁉」
精霊さんが来るまで心配していたことを告げてみると、精霊さんは慌てて首を横に振る。天井を指さし、両手をばたばたとさせ、ぐっと親指を立てた。
……良かった、どうやらヴァイスハイトに乗って無事に帰れたみたい。私はそっと胸を撫で下ろした。
しかし、そうなると、精霊さんの話というのは一体?
すると、精霊さんは再び天井を指さし、両手ばたばたを繰り返す。最後のしぐさだけが先ほどと違い、ぐっと親指は立てずに、コテンと首を横に傾いだ。
「ん、んんー……? 天井は≪地上≫でしょ。両手バタバタはヴァイスハイトのことで……、最後に首を傾げたのはなんだろ……」
ここから、私と精霊さんによる仁義なきジェスチャーゲームが幕を開けた。
「えっと……、首を傾げたってことは、単純に考えて疑問に思ったってことだよね。ってことは、ヴァイスハイトが地上に帰ったのは何で?……ってこと?」
私の回答に、精霊さんはぐぬぬと顔を歪め、親指と人差し指で「ちょっぴり」と表現し、首を横に振る。どうやら惜しいけど違う、ってことらしい。精霊さんはそのまま、両手ばたばたをした後に首を振り、背中から何かを抜きさった仕草をした。これはマティアスさんのことを指しているはず。
「ヴァイスハイトじゃなくてマティアスさん……、つまりマティアスさんは何で帰ったの?ってこと?」
コクコク、と肯定の頷きが返ってきた。
「なんでって……、マティアスさんは元の世界に帰っただけで……。お仲間も心配しているだろうし、体調も良くなったから帰っただけなんだけど……」
精霊さんの質問の意図が分からずそう答えると、精霊さんはぷくっと小さな頬をいっぱいに膨らませた。何やら私の回答がご不満だったようだ。
精霊さんは私を指さす。そして空を見上げた仕草をした後に、両手で顔を覆って肩を震わせた。
「私……、見上げる仕草は二人を見送った時のこと……、顔を覆っているのは悲しいって表現で……。二人が帰ったことを私が悲しんでる、ってこと?」
ブン!と風を切る勢いで精霊さんが頷く。今までにない力強い頷きだった。
「んー……、いや確かに滅多に会えない人達に会えたわけだし、もう少しお話聞いてみたかったなーとか思わないでもないけど……。あっちの世界が彼らの世界なわけだし」
精霊さんは、マティアスさんジェスチャーをした後、私を指さし、膝をついて追い縋るような仕草をした。その後にまた首を横に傾げる。
精霊さんは「なんでマティアスさんを引き留めなかったんだ!」と言いたいらしい。
しかし、何故と言われても、さっき言った通りあっちの世界が彼らの世界なわけだし、私に引き留める権利は何もないと思うんだけど……。
だが、精霊さんはどうやらそのことに大変ご立腹らしく、ぷくっと両頬を膨らませ、小さな両腕を組んでプイっ!と顔を背けた。これはジェスチャーではなく、彼女の感情の表現のようだ。
なんで私、精霊さんに怒られてるんだろ……。
とりあえず、精霊さんの怒りを収めようと、クッキーを一枚差し出す。喜び勇んでクッキーを頬張り始めた精霊さんを見て、「あ、この精霊さんチョロい……」と思ったことは決して精霊さんには言わないでおこう。
精霊さんはクッキーにより機嫌を取り戻したので、その隙に私は早々に話題を変えることにした。また怒らせてしまっては困る。
「そうだ、私精霊さんに聞きたいことがあったの」
精霊さんは「なぁに?」と言わんばかりにコテンと首を傾げる。
「……家の裏口が≪精霊の落とし穴≫と繋がった理由、精霊さんは知ってる?」
まさか精霊さんの仕業なのでは、と真正面から聞くわけにもいかなかったので、少し遠回し気味に聞いてみる。
すると、精霊さんはコクンと頷き、自分を指さした。表情はとても嬉しそうに笑っている。
「…………もしかして、精霊さんが繋げたの?」
その問いに、精霊さんは力強く親指をグッと立てた。
……疑われたと思われたら気分が良くないだろうし、とあえて理由を知っているかと聞いたのに、どうやらいらぬ世話だったらしい。犯人はこの中にいる。というか目の前にいた。
しかも精霊さん的にはどうやら善意でやったことらしい。誇らしげな仕草がそれを物語っている。
「えぇーっと……。困る……というか、家の裏口が変な所に繋がったままだと落ち着かないし、元に戻してくれると嬉しいんだけど……」
遠慮がちに言ってみると、精霊さんは小さな口をぽかんと開けた。よほど衝撃を受けたのか、背後に雷が落ちるエフェクトが見えたような気さえする。
精霊さんはパタパタと羽を使って飛び上がり、顔がくっつきそうなほどに近寄ってくると、ブンブンと首を横に振った。言葉は分からないけど、絶対に嫌だ!という強い意志だけはひしひしと伝わってくる。
しかし、犯人は分かったものの、犯行動機が全く分からない。最初はただの悪戯なのかと思ったけど、精霊さんの反応を見る限り、何か理由があって扉を繋げたんだろうか?
「精霊さん、扉を繋げたのって何か理由があるの?」
私の眼前から離れた精霊さんは、再び身振り手振りを繰り返す。
私と精霊さんによるジェスチャーゲーム第二弾の幕開けだった。
精霊さんは、マティアスさんジェスチャーをした後、私を指さし、小さな頬に両手を当てて恥ずかしそうにニコニコ笑う。私とマティアスさんが……なんなんだ? 最後のジェスチャーが全く分からない。
んーと唸っている私に伝わらなかったことを悟ったのか、精霊さんは次のジェスチャーに移る。
今度は、小さな両手の指を動かし、一つのマークを作った。
サイズは小さいけど、そのマークが何を示しているのかは分かる。
ハートマークだ。
「……まさかとは思うけど、精霊さん……。私とマティアスさんをくっつけようとしてる? ……だからマティアスさんをあっさり帰した私に怒ってた……とか?」
まさか違うよね、と思いながら恐る恐る聞いてみると、返ってきたのは最早おなじみとなった親指を立てるサムズアップ。
……どうやら精霊さんは精霊さんでも、恋のキューピッドを目指す精霊さんだったらしい。巷で聞く、いい年して恋人が一人もいない娘へお見合いを進める母親じゃあるまいし。……いや、確かにいい年だし、恋人もいないんだけど、何故初対面だったはずの精霊さんからそんな世話を焼かれなければならないのか。
色々とツッコみたい所だが、力強くサムズアップする精霊さんに強く言うことも出来ず、結局私は脱力したようにソファへ突っ伏したのだった。
扉の向こうは相変わらずの大寒波で、扉から入ってくる身を切るような冷たい風に私はぶるりと体を揺らす。一瞬にして全身に鳥肌が立った。精霊さんは寒さや風の影響を感じないのか、特に寒そうな様子はないが、私が中へ促してみると、コクコクと首を縦に振って、敷居を跨いだ。
会いたいと思っていた精霊さんが、まさか向こうからやってきてくれるとは思わなかった。最初に会ったあの時以来だ。
「えっと……、精霊さんって何か食べたり飲んだりってするの?」
問いかけると、精霊さんは再び首を縦に振る。どうやら飲食OKらしい。
それなら、と精霊さんをリビングに通し、紅茶を淹れる。お茶請けは、昨日暇を持て余したあまり唐突に作り始めたクッキーでいいだろうか。このクッキー、私が昔からよく作る定番おかしの一つで、あの料理好きな祖母からも大絶賛されたことがある得意料理の一つだ。味はお墨付きである。
紅茶とクッキーを持ってリビングに戻ると、家の中をふよふよと飛んで観察していたらしい精霊さんがこちらを振り返った。
私はソファに座り、精霊さんは……ちょっとお行儀悪いけどテーブルの上に座ってもらおう。ソファに座ったままだと飲み食い出来ないだろうからね、サイズ的に。
精霊さんは私の掌サイズなので、普通のティーカップでは飲みにくいだろうと、昔ケーキ屋さんで買ったプリンが入っていた小さな陶器製のカップを用意した。それでも精霊さんには少しサイズが大きめだったが、特に問題なくカップから紅茶を飲んだ精霊さんは、満足そうに一つ吐息を零した。よかった、味も問題なかったみたい。
ちらちら、と伺うようにこちらを見る精霊さんに、どうぞ、と言いながらテーブルのクッキーを差し出す。にっこりと笑顔を零した精霊さんは、喜んでクッキーを食べ始める。クッキー一枚が両手サイズになってしまうが、精霊さんは器用に両手でクッキーを持ち、小さな口でサクサクと食べている。可愛い。口が小さいので減っていく量は少ないものの、結構早いペースで食べ進めている辺り、どうやらこちらもお気に召したようだ。
やがてクッキーを一枚ペロリと食べ切った精霊さんは、満足そうに紅茶を飲み、ふぅ……と言わんばかりに体の力を抜いた。ご満足いただけたようで何より。
「それで、精霊さんは急にどうしてここへ? 私も精霊さんには聞きたいことがあったからちょうどよかったんだけど……」
私の問いに、はッ!と表情が変わる。どうやら紅茶とクッキーに気を取られて要件を忘れていたらしい。……この表情、なんかデジャブだなぁ。
最初に精霊さんに会った時のことを思い出していると、リリンと言う鈴の音が返ってくる。……あ、そうだ、精霊さんの言葉わからないんだったわ。
「あー、えっと……ここに来たのは私に何か用事があったの?」
コクリと肯定の頷きが返ってきた。
どうやら私に用事があるみたいだけど……、残念ながら言葉での意思疎通が出来ないため、詳細が分からない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、徐に精霊さんはテーブルから飛び立った。
私の目線上まで飛び上がった精霊さんは、その状態のまま両腕を横に伸ばして上下に揺らす。パタパタと腕を動かし、小さな口を目いっぱい開いて「リリリリン!」といつもより大きな鈴の音を響かせた。
「え? な、なに??」
一瞬何か怒らせてしまったのかと思ったが、精霊さんは同じ仕草を繰り返して見せる。
そして次に、テーブルの上に立ち、背中から何かを抜きさった仕草をしたかと思うと、そのまま両手をぶんと縦に振る。
その二つのしぐさを見て、私はピンと来た。
「もしかして、ヴァイスハイトとマティアスさんのこと表してる?」
最初にやったのはドラゴンであるヴァイスハイトの真似。そして次が、大剣を背負った騎士であるマティアスさんの真似。
聞いてみると、精霊さんは嬉しそうに何度も首を縦に振る。正解のようだ。
「二人のことで何か話したいことがあるってこと? ……え、ま、まさか≪地上≫に帰れなくて、今も≪精霊の落とし穴≫にいる、なんてことないよね⁉」
精霊さんが来るまで心配していたことを告げてみると、精霊さんは慌てて首を横に振る。天井を指さし、両手をばたばたとさせ、ぐっと親指を立てた。
……良かった、どうやらヴァイスハイトに乗って無事に帰れたみたい。私はそっと胸を撫で下ろした。
しかし、そうなると、精霊さんの話というのは一体?
すると、精霊さんは再び天井を指さし、両手ばたばたを繰り返す。最後のしぐさだけが先ほどと違い、ぐっと親指は立てずに、コテンと首を横に傾いだ。
「ん、んんー……? 天井は≪地上≫でしょ。両手バタバタはヴァイスハイトのことで……、最後に首を傾げたのはなんだろ……」
ここから、私と精霊さんによる仁義なきジェスチャーゲームが幕を開けた。
「えっと……、首を傾げたってことは、単純に考えて疑問に思ったってことだよね。ってことは、ヴァイスハイトが地上に帰ったのは何で?……ってこと?」
私の回答に、精霊さんはぐぬぬと顔を歪め、親指と人差し指で「ちょっぴり」と表現し、首を横に振る。どうやら惜しいけど違う、ってことらしい。精霊さんはそのまま、両手ばたばたをした後に首を振り、背中から何かを抜きさった仕草をした。これはマティアスさんのことを指しているはず。
「ヴァイスハイトじゃなくてマティアスさん……、つまりマティアスさんは何で帰ったの?ってこと?」
コクコク、と肯定の頷きが返ってきた。
「なんでって……、マティアスさんは元の世界に帰っただけで……。お仲間も心配しているだろうし、体調も良くなったから帰っただけなんだけど……」
精霊さんの質問の意図が分からずそう答えると、精霊さんはぷくっと小さな頬をいっぱいに膨らませた。何やら私の回答がご不満だったようだ。
精霊さんは私を指さす。そして空を見上げた仕草をした後に、両手で顔を覆って肩を震わせた。
「私……、見上げる仕草は二人を見送った時のこと……、顔を覆っているのは悲しいって表現で……。二人が帰ったことを私が悲しんでる、ってこと?」
ブン!と風を切る勢いで精霊さんが頷く。今までにない力強い頷きだった。
「んー……、いや確かに滅多に会えない人達に会えたわけだし、もう少しお話聞いてみたかったなーとか思わないでもないけど……。あっちの世界が彼らの世界なわけだし」
精霊さんは、マティアスさんジェスチャーをした後、私を指さし、膝をついて追い縋るような仕草をした。その後にまた首を横に傾げる。
精霊さんは「なんでマティアスさんを引き留めなかったんだ!」と言いたいらしい。
しかし、何故と言われても、さっき言った通りあっちの世界が彼らの世界なわけだし、私に引き留める権利は何もないと思うんだけど……。
だが、精霊さんはどうやらそのことに大変ご立腹らしく、ぷくっと両頬を膨らませ、小さな両腕を組んでプイっ!と顔を背けた。これはジェスチャーではなく、彼女の感情の表現のようだ。
なんで私、精霊さんに怒られてるんだろ……。
とりあえず、精霊さんの怒りを収めようと、クッキーを一枚差し出す。喜び勇んでクッキーを頬張り始めた精霊さんを見て、「あ、この精霊さんチョロい……」と思ったことは決して精霊さんには言わないでおこう。
精霊さんはクッキーにより機嫌を取り戻したので、その隙に私は早々に話題を変えることにした。また怒らせてしまっては困る。
「そうだ、私精霊さんに聞きたいことがあったの」
精霊さんは「なぁに?」と言わんばかりにコテンと首を傾げる。
「……家の裏口が≪精霊の落とし穴≫と繋がった理由、精霊さんは知ってる?」
まさか精霊さんの仕業なのでは、と真正面から聞くわけにもいかなかったので、少し遠回し気味に聞いてみる。
すると、精霊さんはコクンと頷き、自分を指さした。表情はとても嬉しそうに笑っている。
「…………もしかして、精霊さんが繋げたの?」
その問いに、精霊さんは力強く親指をグッと立てた。
……疑われたと思われたら気分が良くないだろうし、とあえて理由を知っているかと聞いたのに、どうやらいらぬ世話だったらしい。犯人はこの中にいる。というか目の前にいた。
しかも精霊さん的にはどうやら善意でやったことらしい。誇らしげな仕草がそれを物語っている。
「えぇーっと……。困る……というか、家の裏口が変な所に繋がったままだと落ち着かないし、元に戻してくれると嬉しいんだけど……」
遠慮がちに言ってみると、精霊さんは小さな口をぽかんと開けた。よほど衝撃を受けたのか、背後に雷が落ちるエフェクトが見えたような気さえする。
精霊さんはパタパタと羽を使って飛び上がり、顔がくっつきそうなほどに近寄ってくると、ブンブンと首を横に振った。言葉は分からないけど、絶対に嫌だ!という強い意志だけはひしひしと伝わってくる。
しかし、犯人は分かったものの、犯行動機が全く分からない。最初はただの悪戯なのかと思ったけど、精霊さんの反応を見る限り、何か理由があって扉を繋げたんだろうか?
「精霊さん、扉を繋げたのって何か理由があるの?」
私の眼前から離れた精霊さんは、再び身振り手振りを繰り返す。
私と精霊さんによるジェスチャーゲーム第二弾の幕開けだった。
精霊さんは、マティアスさんジェスチャーをした後、私を指さし、小さな頬に両手を当てて恥ずかしそうにニコニコ笑う。私とマティアスさんが……なんなんだ? 最後のジェスチャーが全く分からない。
んーと唸っている私に伝わらなかったことを悟ったのか、精霊さんは次のジェスチャーに移る。
今度は、小さな両手の指を動かし、一つのマークを作った。
サイズは小さいけど、そのマークが何を示しているのかは分かる。
ハートマークだ。
「……まさかとは思うけど、精霊さん……。私とマティアスさんをくっつけようとしてる? ……だからマティアスさんをあっさり帰した私に怒ってた……とか?」
まさか違うよね、と思いながら恐る恐る聞いてみると、返ってきたのは最早おなじみとなった親指を立てるサムズアップ。
……どうやら精霊さんは精霊さんでも、恋のキューピッドを目指す精霊さんだったらしい。巷で聞く、いい年して恋人が一人もいない娘へお見合いを進める母親じゃあるまいし。……いや、確かにいい年だし、恋人もいないんだけど、何故初対面だったはずの精霊さんからそんな世話を焼かれなければならないのか。
色々とツッコみたい所だが、力強くサムズアップする精霊さんに強く言うことも出来ず、結局私は脱力したようにソファへ突っ伏したのだった。
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