どうやら我が家は異世界と繋がったらしい

持原 奏真

文字の大きさ
26 / 29

26.竜騎士団最年少

しおりを挟む
 カレーを食べ終え、食後のお茶を飲みながらそろそろ食堂を出ようかとなった時。今まで殆ど人の出入りがなかった食堂の扉が開かれた。

「あ! 隊長、見つけたっス!」

 振り返ってみると、他の竜騎士さん達と同じような服装の少年がマティアスさんを見て溌剌とした笑みを浮かべていた。

 少年は十代後半の年頃に見え、今まで見てきた竜騎士の誰よりも若そうだ。ぴょんぴょんと外に跳ねるオレンジ色の髪が眩しい。ついでに笑顔も眩しい。これが若さか。

「どうした、レオ」
「団長が探してた……っス…………よ……」

 子犬のように無邪気な笑みを浮かべながら駆け寄ってきた少年は、私の姿を見た瞬間、足と声を止めた。多分、マティアスさんの陰に隠れて今まで私のことが見えてなかったんだと思う。姿を見た後に一瞬固まられるのはもう慣れっこだ。今までほぼ全員同じ反応しているからねぇ!

 しかし、若さ故か、彼の気質なのか。
 レオと呼ばれた少年は、私から一定の距離を取って近づいてこない竜騎士さん達(ブルーノさんは除く)と違い、瞬く間に私との間にあった距離を縮めた。

「ほ、ホントに精霊様がいたっス! あ、あの! 隊長助けてくれた精霊様っスよね⁉」

 私とマティアスさんの顔を見ながら、レオ君が叫ぶ。興奮気味なのか、白い肌が少し赤く染まっていた。

「あぁ、そうだが……」

 レオ君の勢いに驚いたのか、マティアスさんが怪訝そうに答える。

 するとレオ君は途端表情を引き締め、私に向かって90度のお辞儀をした。分度器で測りたくなる程綺麗な直角だ。

「隊長助けてくれて、ありがとうございました!」

 食堂中に響き渡る声でレオ君が言う。

「隊長がスゲー人でスゲー強いのも分かってっし、俺みたいなのに心配されなくても大丈夫だって分かってるんスけど、あ、あの時はヴァイスにも異変が出てて……、ど、んどん翼がなくなっていく、し……お、俺達……、も、う、ダメなのかもしれないって……」

 話しながら感極まっていったのか、段々と声色に水気を帯び始める。お辞儀したままの状態でしゃべり続けているので表情は分からないけど、多分泣きそうになっているのを必死に我慢しているんだろうなと容易に想像が出来た。

 ちらりと隣に座るマティアスさんを見ると、表情は変わっていないけど随分と優しい目でレオ君のことを見ていた。

 なるほど、レオ君は行方不明になったマティアスさんの安否を泣いて心配するほど慕っているし、マティアスさんもそんなレオ君を可愛がっていると。マティアスさんの職場での人間関係はとても良好なようで何よりだ。

「あ、ありがどぅございまじだぁ……」

 もう完全に泣き始めてしまったレオ君に、私は頭を上げて貰いたくて、目の前にあるオレンジ色の髪をそっと撫でた。

 驚いたのかレオ君は勢いよく頭を上げてくれたんだけど、その顔は涙や鼻水でぐしゃぐしゃだ。

 こんなに全身でマティアスさんの無事を喜ぶ辺り、レオ君がどれだけ感情豊かでまっすぐな少年かが伺える。年的には高校生くらいのレオ君は思春期真っただ中な難しいお年頃だろうに、涙を隠さずに感情を露わにしているのだ。
 人の死がとても身近なこの世界では、その時に感じた感情を大切にして表現することが必要なのかもしれない。人はいつ死ぬか分からない。死んでしまう時、または置いていかれてしまった時、「ああ言っておけばよかった」「ああしておけばよかった」と後悔しないように。

 これもまた身近に危険がある異世界と平和な現代世界で育った者の違いなのかもしれない。……いや、単純にレオ君がめちゃくちゃいい子なだけかもしれないけど。

 とりあえず、レオ君がいい子だというのは分かった。こんなに泣いちゃってまぁ、可愛いったらありゃしない。

 私はワンピースのポケットからハンカチを取り出し、レオ君の顔を拭った。

「え、えぇ⁉ あ、の、ちょっと……!」

 途端レオ君が挙動不審になり始めたけど、私の手は止まらない。だって泣いてる子は放っておけないじゃんかよぉ……。

 レオ君は泣いたせいで目が真っ赤になっていたんだけど、それと同じくらい顔も赤くなっていっている。泣いてる時って頭に血が上るもんね……。ちなみに私は泣くと頭が痛くなるタイプの人間だ。

 顔を拭き終え、すっかり涙が止まったレオ君にうんと一つ満足げな頷きを返し、最後にもう一度頭を撫でた。
 やっぱりこのオレンジ色って自然の色なんだね。全然痛んでないし、ふわふわしている。

「ぅ……あぅ……」

 声にならない声を上げたレオ君は、そのまま両手で顔を覆って項垂れてしまった。

 なんだ、そんなに私に顔を拭かれたのが嫌だったのか。
 ……いや、初対面の良く分からない大人の女性にそんなことされたら、私だったら嫌だわ。どうしよう、これってセクハラ? お巡りさん、犯人は私です。

 そんなことを考えていると、突然腰の辺りを掴まれ、ぐっと体を引き寄せられた。相手は勿論、私の隣に座っているマティアスさんだ。
 私とマティアスさんはずっと座ったままなので、急に体勢を崩される形になり、思わず倒れこみそうになるが、その辺りは流石マティアスさん。私が無様に倒れる前にさっと手を添え、自分の体に凭れ掛からせた。

 突然どうしたんだと見上げると、マティアスさんは苦笑を浮かべていた。

「それ位にしてやってください。レオが羞恥の余り逃げ出しそうだ……。レオ、団長が俺を探しているという話ではなかったか?」

 あ、そうだ。そもそもレオ君はマティアスさんを探しに来たっぽいことを言ってたんだった。

 私と同じようにたった今用件を思い出したらしく、レオ君がハッ!と表情を変える。その顔や反応の仕方が精霊さんにそっくりで、私は少し笑ってしまった。

 あ、ちなみに喋ってないからいないと思われたかもしれないけど、精霊さんはずっと私の肩に座っている。カレーを作っているのを見ていた時も、試食中も、今もずっと精霊さんは私達の傍にいる。

 何故精霊さんの姿に誰も反応しないのかというと、それは精霊さんが姿を隠す魔法を使っているからだ。視覚からは消えるけど触覚では分かるので、私は肩の重さで精霊さんが近くにいるかいないかの判断をしている。つまり精霊さんは只今「触れる透明人間状態」という訳だ。
 こんなことが出来ると知ったのは、私の髪色を変えてくれた時だ。精霊さんもミズガルド行きに同行することになった時、精霊は少し目立つかもしれないとマティアスさんがぽつりと呟いた瞬間、私達の前で消えて見せたのだ。そしてパッと再度目の前に現れた精霊さんは「これでどうだ!」とそれはもう誇らしげな表情を浮かべていた。当然、精霊さんの同行はあっさり許可されたのだった。

「そ、そうだったっス! 団長から隊長を探してこいって言われてたんス!」
「何かあったのか?」
「それが、隊長が精霊様を連れてきたって噂になってたもんスから、団長が俺も会いたいって……」
「……はぁ。あの人は全く……」

 マティアスさんは、頭が痛いと言わんばかりに首を振る。レオ君はちょっぴり苦笑い気味だ。ここで言う精霊様って、私のことだよね……? え、なんで竜騎士団の団長なんて凄い人が私に会いたがってるの……?

 マティアスさんは暫く私をじっと見つめたが、やがて大きなため息をついた。何かを諦めたようだった。

「団長には事後報告で済ませようと思っていたんだが……。仕方ないか。……精霊様、申し訳ありませんが少々お付き合いいただいても?」

 えぇ……。団長ってお偉いさまでしょ? そんな人に私が会っても大丈夫なんだろうか。この世界のマナーも何も知らないんだけど……。

 顔に「不安です!」と書いてあったのか、マティアスさんは私を安心させるような柔らかい笑みを浮かべる。

「大丈夫です。少々性格に難がありますが、悪い人間ではありません」
「隊長、それフォローになってないっス……」

 少々性格に難があるって、それ本当に大丈夫なんでしょうか。レオ君が小さくツッコミを入れるが、マティアスさんはにっこり笑顔を浮かべたままだ。

 どうやら団長との会合は避けられない事態らしい。

 私は諦めてコクリと頷き、マティアスさんに連れられて団長室へと向かった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

三年目の離婚から始まる二度目の人生

あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。 三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。 理由はただ一つ。 “飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。 女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。 店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。 だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。 (あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……) そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。 これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。 今度こそ、自分の人生を選び取るために。 ーーー 不定期更新になります。 全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...