どうやら我が家は異世界と繋がったらしい

持原 奏真

文字の大きさ
27 / 29

27.団長と副団長

しおりを挟む
 竜騎士団本部の中でもひときわ重厚な扉の前に立ったマティアスさんは、ゴンゴンと鈍い音を響かせながらノックする。

「団長、ガウェインです」
「入れ」

 中から聞こえてきたのは、低音響くバリトンボイス。入室許可を得たマティアスさんが扉を開き、私を中へ促す。

 室内はシックな家具で統一されたシンプルな部屋だ。奥には机と椅子がそれぞれ二つ置かれている。片方の机の上には大量の書類が乱雑に並べられており、もう片方の机の上にも書類が置かれているがそちらは綺麗に整頓されていた。

 そして、入って直ぐの所には、木製のテーブルを挟むようにして、三人掛けのソファが対面するように設置されており、そちらのソファ席に二人の男性が座っていた。

 一人は座っていても分かる程体格が大きな男性。短い髪は燃える炎のように赤く、左目の上で一直線に走る傷跡が特徴的で、体格や顔つきが歴戦の猛者のような風格を漂わせている。

 もう一人は、赤髪の男性とは対照的なほっそりとしたしなやかな肉体を持ち、優雅な笑みを浮かべている美麗な男性だ。髪は透明感のある水色をしており、肩から流れる長髪は三つ編みにして纏められている。

 見た目も色も正反対な二人の男性の内、赤髪の男性がソファから立ち上がる。

 と思えば、いつの間にか私の目の前に立っていた。……ブルーノさん、レオ君に続き、赤髪の男性で三人目。この世界の人達には瞬間移動機能でも搭載されているんだろうか。皆気付いたら一瞬にして距離を縮めているんだけど。

 赤髪の男性は、私の手を取ると、手の甲に額を押し当てた。

「お会いできて光栄だぜ、可愛いお嬢ちゃん」

 顔を上げた赤髪の男性は、口角を上げてニヒルな笑みを浮かべる。

「俺は竜騎士団団長のバルトルトだ。よろしくな、精霊サマ……、いや、トキ嬢ちゃん?」

 え、と驚いた私は、マティアスさんを見る。

「……団長と副団長は貴女のことをご存知ですので、ここでは普通に話して頂いて結構ですよ」

 そう言えば、私の素性は一部の人には伝えていると言っていた。その一部の人間がこの団長さんと副団長さんなんだろう。

 この二人の前では精霊の振りをしなくて良いらしいので、ちゃんと言葉で挨拶を交わさねば。

「初めまして、バルトルト団長。本日は突然訪問してしまい、申し訳ありません」
「いや、どうせカレーの件でブルーノ辺りが強引にことを進めたんだろ? お嬢ちゃんは悪くねぇよ。……にしても、声まで可愛いんだなぁ。その声で囁かれでもしたら、どんな男もイチコロだぜ。……勿論、俺も、な」

 バルトルト団長が握ったままだった私の手をスルリと指で撫でる。出不精が故に白い私の肌と、程よく日に焼けた団長の肌とが重なり合い、撫でる仕草が何だか艶っぽいこともあって、妙に羞恥心を煽られる。その上、体の芯に響くようなバリトンボイスが耳元で蠢き、鋭い眼光で見つめられたのだから、私の体は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

「団長、そこまでです」
「バルトルト、いい加減にしなさい」

 私の体はマティアスさんに引き寄せられ、バルトルト団長の頭部には分厚いファイルが叩きつけられる。団長さんの熱と鋭い視線から逃れられた私は、ホッと肩の力を抜いた。
 見た目が屈強な戦士である団長さんは、どうやらかなり軟派な性格をしているらしい。出会って十秒で、マティアスさんが「性格に難あり」と称した理由が分かってしまった。

「ってぇだろうが、アレクシス!」
「あなたはその見境のない女癖の悪さを自制しなさい。……アキナシさん、この馬鹿が申し訳ありませんでした」

 団長さんの頭を叩いた水色の髪の男性が、私に向かって軽く頭を下げる。

「あ、いえいえ……。えっと……?」
「失礼しました、私はアレクシスと申します。竜騎士団の副団長を務めております」
「ご丁寧にありがとうございます。ご存知のようですが、トキ・アキナシと申します」
「よろしくお願いします。……とりあえずお座りください。今お茶を淹れましょう」

 アレクシス副団長に促され、ソファ席に腰を掛ける。私の隣にマティアスさんが座り、正面に団長さん。お茶を淹れ終えた副団長さんは、団長さんの隣に座った。

 全員が席に着いた所で、副団長さんがマティアスさんに向かって苦笑する。

「アキナシさんの存在を隠せなくて残念でしたね、マティアス」
「……噂になっているとレオが言っていましたが……」
「『“あの”マティアスが美女を連れている。しかも相手は噂の精霊様らしい』とそれはもう一瞬にして竜騎士団内に広まっていましたよ。残念ながら、この男は女性絡みの噂には人一倍敏感ですからねぇ……」
「おいおい、アレクシス。お前まさか、今日トキ嬢ちゃんがここに来ること知ってたのか? 俺は知らなかったんだが?」
「竜騎士団にお連れするには、私かあなたの許可が必要ですからね。マティアスが私に許可を取りに来たのは当然だと思いますけど。誰だって、大切な恩人をあなたのような躾のなっていない野獣に会わせたくはないでしょう」
「一応、事後報告はするつもりでしたが」
「事後じゃおせぇだろうが!」

 なんだか団長さんぼろくそに言われているぅ……。この中で一番偉い立場の人に対してそんな扱いでいいのかと内心焦ったが、当の団長さんはというと、ブーブー文句は垂れているものの、本気で怒っているという訳ではなさそうだ。
 三人の様子から、この光景は竜騎士団では珍しい物ではないのかもしれない。団長さんの女癖の悪さは有名らしいので、周りのメンバーがそれを窘めているのか。……皆さん、お疲れ様です。

「ったく、お前らは分かってねぇんだよ。目の前に女がいたら口説かねぇと失礼だろうが。しかも今回の相手は一級品の美女だぜ? そりゃあわよくばベッドの中で愛を囁きたくなるのが男の性って………」
「リリリリリ!!!!」

 最早セクハラ一歩手前なことを言い始めた団長さんの言葉を遮るようにして、室内に鈴の音が響き渡った。

 今までじっと姿を消したまま私の肩に座っていた精霊さんが突如姿を現し、団長さんに向かって特攻をかける。

「んぁ⁉ ちょ、おい、やめろ!」

 精霊さんは団長さんの顔面を小さな両手でポコポコ叩く。効果音は可愛いが威力は結構なものだったらしく、団長さんが声を上げながら精霊さんを捕まえようとするも、小柄な体で逃げ回る精霊さんは捕まらない。精霊さんの攻撃、団長さんの腕が空振り、その隙にまた精霊さんの攻撃。精霊さん、ずっと俺のターン状態である。

「……ハッ! せ、精霊さん、ダメだよそんなに叩いちゃ!」

 驚きの余り二人の攻防戦を観察してしまったが、慌てて精霊さんを止める。私が手を伸ばすと素直に捕まってくれたけど、掌の中に納まった精霊さんは「リリリリリ!!!」とめちゃくちゃ不服そうな声を出し続けている。

「……おや、その子は以前マティアスを迎えに来た精霊ですね? ……あぁ、なるほど。その精霊が例の……」
「すみません、今までずっと大人しくしていたんですが……」
「その精霊は、団長があなたに失礼なことを言ったので怒ったのでしょう。悪いのは精霊ではなく、この男ですよ」

 精霊さんは副団長さんの言葉にうんうんと頷き、団長さんに向かって「あっかんべー!」をして見せる。どうやら団長さんの冗談交じりなセクハラ発言は、精霊さん的に完全アウトだったらしい。

「精霊がやらなければ俺がやってました」

 ……マティアスさん的にもアウトだったらしい。




 生憎今はお菓子も何も持っていないため、機嫌を損ねた精霊さんを宥めるのには苦労した。

 結局、副団長さんに言い含められた団長さんが「俺はトキお嬢ちゃんに不埒な真似はシマセン」と宣言したことで(団長さんは非常に不服そうだったけど)、渋々納得した精霊さんにより一旦この場は落ち着いた。

 その後精霊さんは、マティアスさんを横からぐっぐっ!と押し、私とマティアスさんの肩が触れ合うまで近付いた所で満足そうに頷き、大人しく私の肩に戻ってきた。左肩に精霊さん、右肩にマティアスさんの熱を感じながら、私は遠くを見つめる。

 ……精霊さんの推しメンはマティアスさん固定なんだね……。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

三年目の離婚から始まる二度目の人生

あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。 三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。 理由はただ一つ。 “飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。 女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。 店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。 だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。 (あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……) そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。 これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。 今度こそ、自分の人生を選び取るために。 ーーー 不定期更新になります。 全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...