夜に煌めく炉は蒼銀で

夜櫻 雅織

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プロローグ

プロローグ【下】 まぁ見てろって

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【前回】夫婦揃って性格が近かった
プロローグ【下】 まぁ見てろって

――一番大事な所だろうに。  

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖


「あ、お帰りなさい、ティア! お風呂はどうだった?」
「……丁度良い湯加減だった。」
「良かったぁ……。元々ここにお風呂なんてなかったのに、気付いたら出来てるからびっくりしちゃった。」

 魔法で作ったんだから、そりゃ急に出来るだろ。

 なんてツッコミを喉まで出しかけて、ぐっと飲み込む。
 この人、シャルはどうにも世話焼き属性が強い。ちょっと距離が縮まったかと思ったら、滑車が掛かったかのように勢いづいてくる。
 管理栄養士やら介護・医療の資格も持っているらしく、履歴書よりも先に体質や持病の申告書を出す羽目になるとは思わなかった。
 そのまま風呂に押し込まれ、出てきたときには見事に食欲が刺激されていた。
 そしてそれを見越したのか、それとも謀ったのか。テーブルの上には本格的なフレンチ系の料理が並んでいる。

 正直言って、これは非常にまずい展開だ。

 俺の職業柄、こうして懐に入り込まれるのは苦手だ。だが、この人は悪意どころか、純粋無垢過ぎて何処か自然の摂理に反してる気さえする。
 濡れた髪は丁寧に拭かれ、ひざ掛けまで掛けられて、気が付けば完全に世話されていた。

 ……あのなぁ、シャル。俺は大量殺戮者なんだ、忘れてないか? あぁいや気にしてなさそうだな、うん。

「おー……。結構ふわふわしてるのね、ティアの髪。」
「……そりゃどうも。」
「あれ、眠い?」
「俺はいつだってローテンションだから別に……。」
「いやでもほんと、色々びっくりしたのよ? てっきりすっごくこわーい目つきの強面の人が来るのかな~って思ってたらすっごい中性的な顔立ちだし、声は男性だから男性なのかな~って思ったら女性だし。そのオッドアイだって初めて見たもん。……オッドアイって伝説上の生き物じゃなかったのね。ティアは自分以外にオッドアイの人って見た事あるの?」
「……まぁ、2、3人は。」
「あら、意外に多い。でも本当に綺麗な色よね、右目が紅色で、左が蒼色で。」
「それには同意しかねる。」
「あれ、何で?」
「片や流血が酸化した色に、片や残酷無慈悲な冬の寒空のような色だ。優しさの欠片も、美しさの欠片もない。……あるのはただの残虐性だけだ。髪も確かに長さはあるが右目よりも濃いワインレッドだ、怖がる人の方が多い。」
「……だからローブを?」
「あぁ。見せないに限る。」
「でも、先生になるなら顔は見せないと。」
「……魔法でどうにかする。短ければそれで」
「三つ編みにしてあげよっか。」
「……何故三つ編みに拘る。」
「可愛いから?」
「左様か……。」
「でも髪の全体量だって多いんだし、三つ編みって解けにくいから結構便利よ?」
「……もう好きにしてくれ。」
「じゃあまた明日、結びに来るから早くに起きてね。」
「早くって……具体的には?」
「んー……じゃあ、7時くらい?」
「なら問題ない。元々ショートスリーパーなんだ、お前達程長くは眠れん。」
「じゃあ睡眠薬の類も処方しとくわね。」
「さらっと増えやがった……。」
「はい、おしまい! ほら、ご飯食べて!」
「……た、食べるには食べるが資料も見て良いか。」
「結構せっかちさんなのだ?」
「シャル、さっきから俺の本職を忘れてないか?」
「軍人さんでしょ? でもティアって全然軍人って感じしないし、何よりディアルが信じるなら私も信じるよ。」
「……はぁ。」
「あ~! 溜息吐いた!!」

 嘆く暇もなく、次の冗談が飛んでくる。かと思えば瞬時に惚気に移行されて呆れない人が居るのなら是非とも会ってみたい。

 あぁいや、目の前に居たか。

 別に嫌と言う訳ではないので自由気ままに。自分勝手に俺の髪を弄り始めるシャルを完全に放置して食事に手を付けるもそれなりに美味しい。
 常日頃から俺と生活を共にしているあいつらの所為で若干は舌が肥えてしまっているのだが、それでも楽しめるぐらいには美味しいのも相まって栄養補給程度にしか考えていなかった食事を楽しめるのはとりあえず安心か。
 遠回しに許可も頂いたのでテーブルの端へと追いやられている資料をぱらぱらと片手で捲りつつ、食事を続けているのだが折角の食事の味が落ちそうな内容ばかりで何とも目が当てられない。

 …………何だ、これは。

「……シャル。」
「うん、何?」
「これ、」

 コンコンコンッ。

「あぁ良かった、まだ起きてたか。明日の事なんだが」
「丁度良い所に来たな、ディアル。お前に聞きたい事がある。」

 するり、と引き抜いた資料を見易いように、分かり易いようにタイミング良くやってきたディアルに差し出せばそれを受け取りはする物の、俺が言いたい事は欠片も分かっていないようで喉の奥から零れ出すような、けらけらとした哂いが。くつくつと地声が低い関係もあって更に不気味な哂い声が零れてしまう。
 されど目の前のおしどり夫婦共は俺が何に呆れて笑っているのかも分かっていないようで、純粋にきょとんとされてしまっている。

 あのさぁ……。

「お前、この学校がどうだっつったっけ?」
「え? 国家基準と言うか、一応は大陸一の成績を例年修めてはいるが……。」
「……ふっ、この程度で? あはははははっ、いやいやいや、これはなかなかに無理があるぞ、お前ら。」
「「えっ?」」
「千歩譲って体術はまぁ良いさ。足りない所もあるけど、まぁ許容範囲だ。でもさぁ、この学園って体術の学校? 魔法って聞いたんだけど、これじゃあ盾にもならねぇっての……!」

 あぁ、本当に。あまりの低レベル加減に笑い過ぎて涙が零れそうだ。

 魔法科学が隆盛を極めるこの時代に、こんなにも滑稽な成績を見るなんて誰が思おうか。

「何で、何で魔法の概念教えてねぇの、お前ら……! そりゃ成長しないっての……あははは!!」
「え、そ、そんなに酷いのか?」
「いやほんと、マジであり得ないレベルで酷い。ふふっ……まぁ見てろ、明日分からせてやるよ。」

 さぁ、それでも這い上がってくる奴が居るのか今から楽しみなもんだ。


❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

――次回「第1話 まずは壇上に上がる所から」

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