夜に煌めく炉は蒼銀で

夜櫻 雅織

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第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は

第25話 誰も知らないもう1つの世界の歴史

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【前回】≪其れは永久の安らぎだった≫に煉掟との契約が見抜かれた
第25話 誰も知らないもう1つの世界の歴史

――少しでも情報が欲しい。

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 海底からゆったりと浮上するように、夜を朝日が端から少しずつ照らし出すように、そっと意識を取り戻す。
 未だ寝惚けている影響から薄らとしか確認する事の出来ない視界から分かるのはディアルから貰った間取りの中に居る事。その中でもシャルに怒られ、ちゃんとしたベッドを用意する事になった寝室のベッドで休んでいた事ぐらいの物だ。
 大丈夫だとは思うがなるべく音を立てないように気を付けながらも実際に触れて確認した結果、眠らせた後に首元を緩め、上着を脱がされた上でここに運ばれたらしい。
 流石に好き勝手弄られている訳ではない事には安心した。

 まぁここは仮にも学園。……そうも学のない奴はそう居ないか。

 ただ、この状態で得られる情報はそれぐらいだ。
 全体の情報としてはまだまだ不十分なので体を起こそうかと悩みつつ、試しに少しだけ寝返りを打ってみればこのベッドの上には俺以外にも誰か居るようだ。
 真っ暗な空間で1人、俺の傍に寄り添いながらも読書をしているらしい。
 少なくとも俺の中で該当するのはたった1人だ。

「……れん、てい。」
「む、気が付いたか。っとあぁ、待て待て、起きるな、起きようとするんじゃない。そのまま話せ、私は何処にも行かん。……知りたい事があるのだろう? ただ、私としてもお前に具合を悪くされるのは好ましくもなく、望んでもおらん。だからどうか、そのまま回復に努めてくれ。」
「……分かった。」
「……それで良い。そのまま、そのままだ。」

 するり、と纏わり憑くように、そっと壊れないように硝子細工の類でも扱うかの如く、掬い上げるように夜空を落とし込んだような模様をした、水面の如く脈動する溝のない、筋だけが刻まれたりゅうと言う特殊な種族の生き物の手。
 それがそのまま俺の意思を尊重し、意識を落とさせない為か、より鮮明に俺の体調をモニタリングする為か、そっと俺の左手を取り上げて。
 つきり、と一瞬の鋭利な痛みを感じたのも束の間、そのまま人差し指を食んだ後に傷口を包み込むように蛇のような二又の黒い舌が絡みつく。
 お陰で若干の眩暈がするのだがまぁ、聞きたい事を聞いた後は寝るだけであり、煉掟もそれを望んでいるからこそこうしているはずだ。
 それならもう、今しばらくはこのままこれを受け入れているのも良いだろう。

 ……お前、自分の唾液に睡眠作用があるのを忘れてないだろうな。

「……今日、≪其れは永久の安らぎだった≫と、終命の軌嶺。……盲罪の執行者に、会った。」
「あぁ、本人達から聞いた。何でも、お前の教え子達の契約獣になった際に遭遇し、≪其れは永久の安らぎだった≫がお前と私の関係性に気付いて色々と喋ったと。まぁしかし、それは良いさ。……本当に大した奴だ、あいつは。今も昔もちっとも変わらない。」
「関係性を……。……教えて、くれ。お前とあいつはどんな関係で……。他にも情報を、知る限りの話を……聞かせて、くれ。」
「構わない、あぁ構わないとも。まずは……そうだな、終命の軌嶺から話すとしよう。そもそもな話、私と言う存在は輪廻零界りんねれいかいで過去に起きた巨大な戦争を終わらせる為に作られた。その際に私と言う存在の作成、及び生成に携わった存在の内1体がその終命の軌嶺と言う事だ。」
「確か……輪廻零界、って。お前達の……世界、だったか。」
「あぁそうだ。この世界の知的生命体の全体割合の内、5割を占める人間達が召喚獣と呼ぶ我々が棲む世界の事だ。そこでその世界を壊しかねない大戦争が過去に起こった。……あくまで私は戦争を止める為に生み出された存在だからな、情けない事に戦争の発端や細かい概要、戦況に関しては知りえない。すまないな。まぁとにかく、そんな状況下では使える魔法やまともに動ける者も少なく、そんな中で私を作る為に魔力と遺伝子を提供し、そして知識を与え、技術を与え、力を身に着けさせ、後に戦争を終わらせると共に革命の象徴とする為、それら全てに関わった者達の1体だ。」
「……プライド、高そうに見えたのに。」
「まぁ、それはあながち誤っていない。むしろ、その通りだと言えるだろう。……しかし、必要とあらば奴は幾らで頭を垂れる。奴は元よりそういう奴なのさ。」
「……そう。」
「あぁ。言わば、あやつは私の創造主達の内の1人も呼べるだろう。……私はただ、王も法律も規律もない輪廻零界を統治する為に生み出されたんだ。」
「それまで……終命の軌嶺は、何を?」
「あやつは腐った世界で、終わらない世界を繰り返す者達を殲滅して、世界を調律チューニングするのが役目だった。長きに渡って彼らはその役目を果たし続け、責務を満たし続けた。……しかし、彼らも物言わぬ機械ではない。人が疲れて夜眠るように、我々も数十年に1度は眠らねば身が保たん。ただそれすらも疲れるのだ。……まだお前には分からん世界だが、数十年に1度眠り、数か月の時を経て目を覚ますも次に待っているのはたった数か月の時で、折角減らした終わらない戦争を繰り返す者達が増えたり、元に戻ったりで呆れに呆れてな。もうこれ以上殺さなければならない者を減らす為にも、これ以上誰も殺さなくて良いようにする為にも、根本的な解決の為に私を造るのに協力してくれたと聞く。」
「……どんな、性格なんだ。」
「ふふ。意外かもしれんがあいつは慈悲深く、かなりの寂しがり屋だ。契約者や気を許す相手にはとことん甘くてな。まぁ勿論体調を優先しはするのだが、それでも十分に礼儀正しい部類だ。」
「……なら、お前の独占欲も……あいつか。」
「否定はしないさ、否定はな。では……そうだな。次は盲罪の執行者の話をしよう。あいつも私の創造に携わった者の1人でな、倫理観やら何やらの人間らしい感覚を教えてくれたのも彼だ。」
「あいつも……そう、ぞうしゅ。」
「……本当に無理してないんだろうな。バイタルサインは大分安定しているが……どうする、ティア。もう少しばかり休みたいなら日を改めようか。」
「嫌。……嫌、だ。……今が、良いんだ。」
「ならばそれを尊重しよう。……先程も話した通り、盲罪の執行者も私の創造主の1人だ。彼は腐った世界で終わらない戦争を繰り返す者達の中から、絶対的に殺さねばならない罪人を処刑するのが役目だった。」
「絶対、的……?」
「あぁ。そのまま世界を滅ぼしかねない存在、そのまま全てを滅亡させかねない存在、優先的に殺さなければならない存在。それらの絶対的に最優先で排除しなければならない存在の処刑を行うのが役目だったんだ。」
「……たい、へん……そう。」
「あぁ、大変だっただろうな。それでも彼はその重大な任務を、天命を果たし続けていたんだ。……本当に恐れ入る。」

 煉掟も煉掟で、多少なりとも俺の体調を心配してくれているんだろう。
 またつきり、と痛みが走ったかと思うと血を吸うように咥えられて更に睡魔が酷くなる。
 それでも手が離される事はなく、ずっと大きくひんやりとした手に包み込まれ、支えられ。受け入れられたままだ。
 俺の意識が更に朦朧とし始めた事も悟ってくれているらしく、肩の辺りまでそっと毛布を掛けてくれる。
 ただまぁ、個人的には話が終わるまで眠らせないでほしい物だ。

「彼は常に忠実で。常に冷静で、慈悲に溢れているが過去に友を……。本当に、心の底から信頼していた友を失った事で堕天使になったんだ。だから、彼の心の傷の深さを容易に図り知る事は不可能だ。」
「後から……堕天使、に?」
「あぁ。その友は盲罪の執行者と共に務めを全うしていた所を、世界を滅ぼしかねない存在に目の前で殺されたそうだ。」
「……酷い、話だな。」
「あぁ、そうだな。……本当に、酷い話だ。……まぁ、盲罪の執行者について私から出せる情報はその程度だな。最後に≪其れは永久の安らぎだった≫だが……彼はな、私の先生なんだ。」
「せん、せい……?」
「あぁ。私の誕生後、私を教育してくれた存在の1人。私の創造主の中にも勿論色々と私に知恵を与えてくれた者も多いが、彼以上に私に何かを教えてくれたのはそう居ない。そもそもとして彼の存在その物がかなり特殊でな、彼は生命体と言うよりも事象や自然の化身的な存在でな? 本来であれば自我を持たないはずの存在が自我を持ち、最も最優先すべき物が数千年単位で変わらない。ただ……そうだな。その関係もあり、彼は常に中立的であり、彼自身が特に気に入った対象には “苦しむくらいなら眠ってしまえ” と言わんばかりに普通の睡眠や永久の眠りに誘う癖がある。」
「……喰らった、所だよ。」
「ふふ、そのようだな。……まぁしかし、時々不眠症を患う事のある君には丁度良いやもいれんな。」
「……出来れば、事前に一言欲しいもんだがな。」
「まぁそれもそうだな。……彼は特殊な存在故に生命の心を見透かしたり、過去を見通したりする事も出来、恐らく≪其れは永久の安らぎだった≫から護らなければならない存在。もしくは、安らかにしてやりたいと思われる程には深く、強く気に入られてしまったと言う事だろう。だから強引な手を使ってでもお前を休ませた。……きっと、これからもその機会は増えるだろうな。」
「余計な……お世話、だ。」
「そうすれば逃げるだろう?」
「……うるさい。」
「だがまぁ、あいつはお人好しだからな。緊急性を伴わない場合はしかと君の話も、君の声も、君の意見も聞くだろう。元は話せばわかる人格者だからな。……その代わり、体調が回復するか、気が済むまで昏々と心地良過ぎる程の、深海のように深い揺り籠に溺れさせられて、好き勝手に愛でられるだろうがな。」

 ……そっ、か。ならもう、警戒しなくて……良い、だろうな。

 少なくともこれで彼らを変に警戒しなければならない事は避けられそうだ。
 聞いている限りでもそれなりにしっかりと言葉が通じ、此方が求める意思疎通も行える上に背中や命を任せる事も、ルシウス達を任せる事も問題ないだろう。
 ただ人体と言うのは非常に厄介な事に、気が緩むと一気に力が抜ける。
 大方緊張状態が反強制的に解除される事から生じる条件反射の類なのだろうが意識が、突如として頭が今までの比にならない程に朦朧とし、ずり落ちれば逃がさないと言わんばかりに抱き込まれ、図らずしも煉掟の心臓の音が伝わってくる。

 死なない、ってば。

「……なぁ、に。」
「そう焦らずともまた話をしよう。私はいつまでも君の傍に居るし、断じて君を1人にしない。……だが、今回はこれぐらいにしなさい。これ以上体に負担を掛けるのは良くない。」
「で、も」

 ずきり。
 とうとう、指ではなく腕に牙を突き立てられ、急速に意識が途絶えた。


❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

――次回「第26話 真似てはいけない所まで真似ないでくれ」

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