夜に煌めく炉は蒼銀で

夜櫻 雅織

文字の大きさ
154 / 192
第二章:一年生二学期 ご無沙汰、我が家

第19話 心の波が鳴り響く証明を求めて

しおりを挟む
【前回】師匠、ミティアラとジルディルが帰ってきた
第19話 心の波が鳴り響く証明を求めて

――もうお前の手は届かない。

❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖


「ねぇティア、やっぱり早く魔女にならない?」
「ならないって何度も言ってんだろ、後何回言わせる気だこの変態師匠が……!!」

 相変わらずどうなってんだよこいつの筋力は……!!

 半ば引き摺られるように、落ち着いて話が出来る場所に期待と言われて連れられてきたいつも俺達が使っている教室。の、教卓の傍にわざわざ魔法で小さくされたソファを展開し、そこに座らされる……と思いきや、押し倒されている。
 何ならこいつお手製、というか魔女界では当たり前のように売買されている特殊な魔力絶縁ブレスレットとかいう魔封石よりも遥かに強力な魔封じのブレスレットを両手首に就けられて。何ならそれを外させない為、半ば恋人繋ぎをするような形で頭よりも上の所にある肘置き近くに抑えつけられて動けない。
 足は膝を立てられた上で特殊なベルトのような物で拘束されている上、こいつが腹の上に乗っている所為で暴れるに暴れられない。せめてもの抵抗で唯一動かせる尻尾を鞭のようにしならせてこの変態婆の背中を叩き倒しても多少揺れるだけ。

 おかしいだろお前……!!

「ジィ”ラ”。」
「無理だって、ミティアラ刀自《とじ》様だよ? 僕ら七漣星の。それこそ、ジルディル長老に言いなよ。」
「そこのおしどり夫婦の片割れが自分の弟子よりも愛妻の意見を最優先する事は試さなくても分かってっからお前に言ってんだよ。」
「って、言われてるけど。ジルディル長老。」
「キャットファイトに口を出すのは野暮じゃろうて。」
「ほら、無理。」
「努力ぐらいしろやァっ!!」
「……あの先生が遊ばれてるんだが。」
「……マジで玩具やん。」
「せ、せんせ……。」
「はぁ………………。」
「あら、もう抵抗辞めちゃうの? 怒る貴方も可愛いのに。」
「茶化すな。……疲れたんだよ。ほら、どうせいつものだろ。さっさとやれ。」
「良い子ね、ティア。」

 ……。

 いつもであれば「思ってもいない癖に」とは言うが、相手がこいつの場合は。……こいつらは、七漣星やネビュレイラハウロ帝国皇家には売り文句に買い言葉でもそんな事は言えない。こいつがそう思っていない事はわざわざ言わなくても分かってるからだ。
 諦めて完全に力を抜き、溜息を吐きながら目を閉じて脱力すれば後はこいつが勝手にする。言動や見た目には全く見合わない、こいつの変な気遣いが。
 軽く弾けるような音と共に手と足の拘束具が解放され、流石に腕を上げっぱなしにするのは嫌なので腹の上で手を重ねて指を組む。その傍にこいつが座っておらず、じっと見てくる視線さえなければ俺は安らかに眠れるはずなのに。
 労わるように、宥めるように、溶けるように髪を撫でる細くて長い両手。しばらく髪を洗うかのように弄った後、そのまま掌で頬を覆って目の下を親指の腹で撫でたり。普段肩に手を置くように手を添えては鎖骨をなぞったり、下顎から首の根元までをマッサージするように触れたり。肘を覆うように手を添えて腕の肉付きを確認し、最後に脇腹に手を添えてしばらく硬直したかと思えば、今度は心臓に手を添えるように右手が重なって動かない。

「……動いてるよ、ちゃんと。」
「駄目。……私が安心するまでこうしてなさい。」
「はぁ……。」
「親愛なる帝国の守り人にご挨拶申し上げます。全ては敬愛なる女王陛下のご慈悲とご慧眼に心からの感謝を以て。」
「し、親愛なる帝国の守り人にご挨拶申し上げます。全ては敬愛なる女王陛下のご慈悲とご慧眼に心からの感謝を以て。」
「親愛なる帝国の血柱にご挨拶申し上げます。全ては敬愛なる女王陛下のご慈悲とご慧眼に心からの感謝を以て。随分と立派になったもんだなぁ、ディレラ嬢もリアナ嬢も。」
「親愛なる帝国の血柱にご挨拶申し上げます。全ては親愛なる愛妹のご慈悲とご慧眼に心からの感謝を以て。貴方達も、ほんっとうに綺麗になったわねぇ……。ふふ、殿方はそろそろ決まった?」
「と、との、とのが、そ、そんな、わ、私にはか、過分です!」
「興味ありませんわ、そんな物。わたくしは師匠と大師匠達のお役に立てればそれで良いので。」
「とは言っても、血を継ぐ事も貴方達の役目でもあるのよ~?」
「……せめて学生を卒業するまでは気にしなくて良いかと。」
「わ、わわ、私もそ、そう思います!」
「……いつまで人の心臓の上に手を添えて話すつもりだ、変態師匠。」
「私が安心出来るまでって言ったでしょ。」
「はぁ……。」

 安心出来るまで、と言いながら俺の全身の魔力について干渉しようとしているのがよく分かる。そして、その悉くが阻まれている事も。
 別に俺がそれを望んだ訳ではない。俺がそうする為に何らかの魔法を組んだ訳でもなく、ただ師匠の魔力が弾かれている。―――俺の魔力が師匠の魔力よりも多いからだ。
 世の中には魔法耐性という物が存在する。それを高める為には自らの保有する魔力を向上させ、此方に干渉せんとする相手よりも多い魔力量を保有する事で相手はその対象に干渉する事が出来なくなり。逆に、これまで干渉されていた側が相手に干渉し返す事が出来る。
 つまり、師匠が安心出来る時はいつまで経っても訪れないという事。
 仮にも、俺の魔力は龍脈から無尽蔵に流れてまた龍脈に還っていく。循環を繰り返して俺という器に溜められる魔力量を順調に増やしつつ、常に最大量の魔力を俺の意思で自由に行使する事が出来る。

 もうあんたが魔力を介して俺の健康状態やら体の状態を把握出来る時代は終わったんだよ。

「……何となく察してんだろ、ミティアラ師匠。」
「…………貴方も、大きくなったわねぇ。」
「俺は体の成長は止めても心と自分磨きの成長を止めたつもりはないし、これからも絶対にしない。」
「……そう。そっか。なら、もう“あんな事”はしないわね?」
「……………………その必要性がなければ。」
「……。」
「……そう。腑に落ちないけど、今はそれで納得してあげるわ。」

 そっと上から退いてくれたのを良い事に、すっ、と体を起こしてもこいつが俺を逃がすなんてありえない。今度は俺を隣に座らせて人の肩を抱きながら頭を撫でて。近くにずっと立っていたジルディルですらも俺の隣に座り、そっと剣士らしい傷だらけの手で握っては優しく手の甲を撫でてくるのだから本当に調子が狂う。
 それに安らぎを覚えてしまう自分が、本当に嫌だ。

「……お2人は先生のお母様とお父様なんですか?」
「違う。」
「えぇ、残念ならそうではないのよねぇ。改めまして、私はミティアラ・ポラリス。こっちは私の素晴らしい自慢の旦那様、ジルディル・ポラリス。私はジルディルと結婚する為に皇族から除名された身なのよぉ~。」
「じょ、除名って……え、皇族って事!?」
「……旧名ミティアラ・メルギア=シェルティア。た、確か現女王陛下の姉君に当たる人なん、じゃ……?」
「えぇ、よく勉強してるわねぇ。普段は妹のアルディエに国を任せつつ、私はジルディルと共に世界中を旅しては遠征外交補佐を務めているのよねぇ。……どうしても当時、第3貴族だったジルディルと結婚したくて身分を捨てたの。そんな物よりもこの人が欲しくて、でもただ手に入れるだけじゃ気に入らなくて旦那様にしたの。」
「その強欲はしっかり皇族その物だろうが。」
「わしはジルディル・ポラリス。まぁ愛妻が言った通り、元々第3貴族だったんだが……身分を落としてまでわしを愛してくれた愛妻に。そして、わしらの仲を快く受け入れてくださった皇家にこれまで以上の忠誠と服従を近い、七漣星に入り、入籍後も国家に尽くす事でその慈悲深さと寛大さに報いる事にした。」
「入籍まですんなら子供も作っちまえば良かったのに。」
「やぁねぇ、私達七漣星からしてみればティア以上に愛しい愛娘は居ないわよぉ。」
「そうそう。わざわざこさえんでもお前がおるから。」
「……求めてねぇっつ~の。」
「いっつも危なっかしいし、帰ってくる度に大怪我ばっかりしてるこの子がついぞ完全に人を辞めたって聞いた時には肝を冷やしたけど……前より元気そうで安心したのよぉ~?」
「……それは勝手にしてろ。」
「またお前の話をわしらに聞かせてくれ、ティア。」
「最後に会ったのは随分と前だし……。これでもたっくさんのお土産話を持ってきたのよぉ? ティアの地元話も聞かせてちょうだいな。」
「んだよ地元話って。そんな言葉はねぇっての。」

 ……………………………………………………………………………………………………。

「………………俺と話す前に血縁のとこ行ってこい。陛下と、他の七漣星のとこに。」
「じゃあ、終わったらティアと一緒に過ごしても良いって事ねぇ?」
「今日は仲良く酒でも飲みながら朝まで喋らんか?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ちょっとだけだからな。」
〔……見れば見る程親子なんだが。〕
〔あの先生がて、照れてる……! うわ、心臓が……!〕
〔……僕、鼻血出そう。〕
〔はぁ~……。これだから男って。貴方達の所為で空気が台無しよ。〕
〔で、でもでも、師匠……幸せそうで良かったね。〕
〔……そうね。今日ぐらいはゆっくりしてほしいわね。〕
〔うん!〕
「僕がとことん空気なんだよな~……。というか、2人の事散々言ってるけどティアも当事者だからね?」

 俺だって300年ぶりに帰ってきたらそれなりに嬉しいに決まってんだろ、俺を何だと思ってんだ。


❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖

――次回「第20話 注ぐ温もりと寄り添う温もりに溶けて溶かされ息を吐く」

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
もし作品を気に入っていただけましたら、ブックマークやスタンプで応援いただけると嬉しいです。
感想なども励みになります。

今後とも『夜に煌めく炉は蒼銀で』をよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

処理中です...