エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

23 思念動力

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(何かが……)
 胸に波紋を立てた小さな違和感に、舷のふちに立ったセーグネルは目の前に広がる海に目を走らせる。
 上空には変わらず敵機が飛び交うものの、海面のほうは一見穏やかに見える。
(左……?)
 セーグネルが違和感を感じたのは前方左側の海であった。
──魚雷か。
 空と海面上に脅威は見られない。あるとしたら、海中だった。
「……」
 セーグネルが精神を集中させる。

(どうしたんだろう……)
 突然、銃座を離れたセーグネルのことが気になったカウルは、彼女のほうに目を遣っていた。
 セーグネルは、舷の手すりの前でなにやら佇んでいるように見えた。
(?)
 すると、セーグネルの体が淡く光り輝き、漏れでた光の粒子がふわりと霧散する。
 ダッ!!
──えっ!
 そして、と勢いよく駆け出したセーグネルは、甲板を蹴り、舷側から

「なっ!」
 カウルが驚きの声を上げる。
 艦から飛び降りたと思われたセーグネルであったが、その体は海面に落下することなく、ふわりと空に浮かび上がった。
 セーグネルの体はそのまま空中を滑るように移動して、『アマネ』から離れて海上を進んでいく。

 「浮いてる……」セーグネルを見ていたカウルがぽかんと口を開ける。
「おい!何してる!」
 カウルの様子にシーナが声を荒げる。
「いやっ、准尉が……」
「ああっ?」シーナがセーグネルのほうを見た。
 空中を浮遊するセーグネルは、どんどん艦から離れていく。
 しかし、それを見たシーナに驚いた様子はなく、セーグネルから視線を戻すと、
「あれがどうした!集中しろ!」
と、カウルに怒鳴られてしまった。
(ええ……)
 戸惑うカウル。
 シーナは、大したことでもないと言うようにセーグネルを一瞥しただけであった。
 シーナは変わらず、空を飛び交う敵の戦闘機を注視しては、それに向かって発砲している。
 あれも『鼓動』の力だろうか……?というか、セーグネルは何をしているのだろう……?──セーグネルの意図も動向も全くわからないカウルであったが、この場でシーナに尋ねることは出来ないので、カウルはとにかく自分のすべきことに意識を戻した。


(もっと向こう──)
 セーグネルは、空中を浮遊しながら、海上を進んでいく。

 これは『鼓動』の術のうちの一つ──『思念動力』と呼ばれる、『心』が可能にする技の一つであった。
 
 『心』の粒子は、その『心』の持ち主の思念を宿す。そして、その『心』が込められた物体は、能力者の思念を反映させる。
 『鼓動』がまだこの世界で普及していなかったころ、『超能力者』と称されたある一部の人間がいた。
 彼らは『思念動力』という特殊な能力で、物体に触れずしてそれを動かしたり、宙に浮かせたりしてみせた。
 当時の人々はこの超人的な所業の仕組みを理解することができなかったが、これは実は『鼓動』──『心』の粒子を駆使したものであった。

 つまり、対象の物体に、『動け』あるいは『宙に浮け』という思念を宿した『心』の粒子を込め、能力者の思念をその物体に反映させることで、『超能力者』と呼ばれた人々は、この一見物理学的にあり得ない現象を実現していたのである。

 『心』が込められた物体は、能力の思念に従い、内側から『力』──物理的な運動を生じさせる。
 それにより、物体を浮かせたり、動かしたりすることができるのである。
 

 セーグネルの体が宙に浮いたのは、この『心』の粒子の性質を利用したものである。
 『鼓動』の能力を操る者は、その体に、質の高い『心』の粒子を大量に備えている。
 つまり、思念を抱けば、『心』を内に含むんだ能力者の体は、その思念によって、重力に逆らい宙に浮くことも、外的な力を受けることなく動くことも可能なのである。

(どこだ──)
 海上を浮遊しながら移動するセーグネルは、のもとを探し、海面に目を凝らす。
 そして、『アマネ』から百メートルほど離れたところであった。
「──!」
 セーグネルが見つけたのは、海中を進む黒い影であった。



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