エバーラスティング・ネバーエンド──第三人類史

悠木サキ

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第一章

29 赤国のベルニカ

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 赤国あかのくに国防軍、第六艦隊第十六掃海隊旗艦、軽巡洋艦『シュラート』の甲板上──
 艦上攻撃隊隊員のグレン=グランツは、その燃えるように鮮やかな赤い髪を風になびかせた。
  
 赤国の支配的多数民族である『炎の民』はみな、紅色の髪に琥珀色の瞳をしている──まだ年の若い青年兵士であるグレンは、その精悍な顔を左右に向けて辺りを見渡し、甲板を歩いていく。
──いた。
 そしてグレンはすぐに、艦尾側のハンドレールのそばで、海の方に向けて佇む細い人影を見つけた。
「おい」
 グレンは後ろから、ぶっきらぼうな声をその人物に掛ける。
「……」
 グレンの前に立っていた人物──華奢な体をした、ショートヘアの少女がゆっくり振り返り、無言でグレンの方を見た。
「……」
 右側の前髪は耳に掛けており、白い肌のつるりとした額が覗く。残る前髪は長く伸ばされ、その左目のほとんどを隠している。
 その異様に見開かれた右の眼がグレンをじっと見つめた。
 銀色の髪に青の瞳、その外見的特徴は、敵国である『青国あおのくに』の『水の民』のものだった。

「明日、敵への攻撃を行う」
 グレンは、作戦会議で決まった事項を、何も言わずただ佇むだけの目の前の少女へ伝達する。
 なぜ俺が──と、グレンは納得がいかなかったが、いつの間にか自分の役として定着してしまった彼女への説明を淡々と続ける。
「本艦以下、駆逐艦四隻での近接水雷戦闘になる。護衛空母は安全圏まで下がらせた」
 少女は、彼女にだけ与えられた特別な任務のために、時折この艦を離れる。彼女が本来属する艦上攻撃隊の作戦会議に間に合わなかったのはこのためだった。
 この艦に戻ってきたばかりの彼女は、それまで、この掃海部隊に随伴する護衛空母に乗っており、前日の偵察任務に同行していたのだった。

「……」
 なおも無言の少女。
 彼女には特別な能力があった。
 それは、異常に感度の高い『鼓動』の能力──
 大きく距離が離れていても、人の存在を感じとることのできる彼女は、この掃海部隊の要といっても過言ではない存在だった。
 どうしてそんなことができるのか、グレンも一人の戦闘員としては驚くばかりだが、彼女はこれまで、潜航する敵の潜水艦の存在をいくつも探知し、その撃沈に貢献してきた。
 また、前日の偵察任務においても、彼女は護衛空母の偵察機に同乗し、この広大な海のなかから敵艦隊を、敵がこちらを見つけるよりはやく発見した。
 これにより味方の航空部隊は先制攻撃をすることができた──報告によると、さほど戦果は挙がらなかったようだが。

「明日は、我々攻撃隊も出る。出撃準備をしておけ」
「……」
 グレンは彼女に伝えるが、反応はない。
 どんな感情を抱いているか一切不明の無機質な表情。
 見開かれた右眼は、こちらに何を投じているのか──ただ気味が悪い。
 心を失ったかのように思える──いや、もしかしたら本当にそうなのかも知れない、とグレンは思う──他人と言葉を交わさず、作戦行動にのみ従事するこの少女は『殺人人形』と、周りの兵士や上の将官に揶揄されていた。
「──以上だ」
 そう言って、グレンは彼女に背を向けた。
 甲板に独り、彼女が残される。


 彼女には『ベルニカ』という名前があるらしかったが、グレンがそう呼ぶことは今日もなかった。

 
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